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伯爵令嬢と辺境伯爵 1

始めに、これは『私の秘密を婚約者に見られたときの対処法を誰か教えてください』よりも先に書いていたものの、書くのを止めたものになります。

そして、この話は時々出てくる魔導式自動車を作ったマルメリア伯爵令嬢と21話22話で出てきたグラナード辺境伯爵の物語です。


「ヴァイオレット。悪いけど君との婚約は解消させてもらうよ。元々はアズオール侯爵家とマルメリア伯爵家の婚姻だ。だから、君の変わりにエルノーラを私の婚約者にするよ」


 金髪碧眼のキラキラオーラを全面に押し出して、理不尽な事を突然言い出したのは、アズオール侯爵家の次男であらせられるロメルド様です。まるで自分は悪くないオーラをまとっております。


「お姉様、ごめんなさい。私が悪いの。でも、ロメルド様を愛してしまったのですもの」


 金髪碧眼の私の婚約者だった青年の腕にくっついているのは、明るい栗色の髪に新緑を思わせる緑色の瞳をうるうると潤ませている、妹のエルノーラです。


「何を言っているんだい?愛想のないヴァイオレットよりもエルノーラの方が私の婚約者にふさわしいに決まっている。それにヴァイオレットが何て噂をされてるか知っているかい?悪徳令嬢だよ」

「ロメルドさま。そうですよね。お姉様はいじわるですもの」


 何やら二人の世界が出来上がっているようです。確かに私は黒い髪に琥珀色の瞳で表情をあまり表にはだしません。ああ、貴族の嗜みとしてアルカイックスマイルを見せるぐらいですか。

 私に色々な噂が飛び交っているのは存じております。ですが、それもまた致し方ないこと。私は甘んじて受け入れましょう。


 しかし、妹のエルノーラは表情が豊かで思っていることが、直に顔に出てしまうのです。そう、今のように私の困惑している姿を見て嘲笑っているのが、まるわかりです。


 困惑……今日は国王陛下主催の建国記念のパーティーがあるのです。そう、今日なのです。私のパートナーは勿論、婚約者のロメルド様だった(・・・)のです。

 今の今までそのつもりで準備をしてきたというのに、ロメルド様が迎えに来てくださり、玄関ホールに向かえばこの有様です。


 ロメルド様がパートナーをしてくだされなければ、私は伯爵家の娘としてお父様とお母様と共に入場しなければなりません。パートナーなんて急遽用意することなんてできませんもの。しかし、お父様とお母様は既に屋敷を出られており、私はまさに困った状態になっているのです。

 国王陛下主催のパーティーになんの理由もなく欠席するとはありえません。


 私は出来得る限りの最善策を模索します。


 ……これは1つ賭けをするしかなさそうです。間に合えばよろしいのですが。


「婚約解消の件はアズオール侯爵様とマルメリア伯爵である父が了承しているのであれば、私はそれに従います。時間も押し迫っていることですから、失礼させていただきます」


 私は二人に背を向けて玄関ホールから去ります。あまり時間をかけてはいられません。婚約者であったロメルド様からいただいたアクセサリーを歩きながら外していきます。

 こんなこれみよがしにエメラルドの宝石のアクセサリーなんて付けて行けません。


「カリン。ドレスを変えるわ。先日出来上がったばかりの濃紺のドレス。あと、金剛石のネックレスとイヤリングを用意して」

「かしこまりました」


 早歩きの私に付いてきてくれている私付きの侍女に今着ているドレスを着替えることを伝えます。長年私に仕えてくれているカリンであれば直に対応してくます。そして、別の者に他の指示を出します。


「クルス。私専用の馬車の用意と、王都本店に早馬を出して、辺境伯を捕獲……足止めしておくように指示を出しておいて」

「かしこまりました。辺境伯を脅してパートナーになってもらうということですね」


 私の護衛兼侍従がとんでも無いことを口にしていますが、そうではありません。辺境伯爵である方を、たかが伯爵令嬢でしかない私が脅すなんて恐ろしいことができるはずもないのです。


「クルス。交渉です。脅すなんて恐ろしいことはできませんわ」

「了解いたしました。辺境伯に例のブツが欲しければ、言うことを聞けというのですね。流石、お嬢様です」


 全く了解していないではないですか。これは一度、クルスから見た私がどのように見えているのか確認しなければなりません。

 私が再度訂正する前にクルスの姿は消えていました。いつもながら逃げ足は早いわね。


 私の部屋に戻り、長椅子にアクセサリーを投げ捨て、カリンの手で素早く淡い黄色のドレスが脱がされ、まるで元から用意でもしてあったかのように濃紺のドレスを着せてくれます。

 流石カリンと言えばいいのか、恐ろしいと言えばいいのかわかりませんが、ものの数分で整えてくれました。


 時間が惜しいので軽く姿鏡の前で確認をして、部屋を出ていきます。玄関ホールに向かいますと既に元婚約者と妹の姿はなく、侍従兼護衛のクルスがいるだけです。


「お嬢様。急ぎという事ですので、お車の方を用意しました」

「クルス、車での王城の登城は禁止されているのを知っていて、そのようなことを言っているのかしら?」


 魔工技術が発展してきた近年において馬車の代わりとして魔動式自動車が出てきたのはほんの5年前のこと、古い考え方を多く持つ貴族の方々には受け入れがたく、新興貴族の象徴のような扱いをされているため、王城に車で行くことを禁止されているのです。


「勿論存じております。しかし、本店までならかまわないでしょう。それに店長のコートドランに最新式の馬車を用意するように申し付けております」


 言われてみれば、理に適っていますわね。


「優秀な侍従をもって私は幸せ者ね」

「優秀なのはお嬢様であって、我々は置いていかれないように必死ですよ。では、辺境伯を脅しに参りましょう」


 だから、脅しにいくわけじゃありません!


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