勇者の責務
根角桜は二代目勇者である。勇者にされてしまった、というのが正しいだろうか。
何れにしても、彼女はなぜか勇者に選ばれてしまっただけの、どこにでもいる一般的な女子高生だった。人より優れているところは特になく、強いて挙げるとすれば、ちょっと顔が整っていることと、少しばかり正義感が強いぐらい。しかし、強いのは正義感のみ。虐められている人間を庇える勇気はなかった。
もちろん、アニメや漫画の勇者のように、剣や魔法などが使えるということもない。彼女にしか見えないステータス欄でも、比較対象がないので一概には言えないが、あまり良い数値には見えなかった。ついでに言うならば、何らかの知識面において、そこらの天才や秀才達を凌駕しているわけでもない。
「誰か、誰か呼ばなきゃ」
少女は生まれつき平凡だった。あらゆる面において平均値ということはなかったが、凡庸と言っても差し支えないぐらいの少女。それが親を含む周囲からの、彼女に対する評価である。
小学校ではスポーツのできるちょっと格好良い男子を好きになり、消しゴムのカバーで見えない部分に名前を書いたり、バレンタインデーにはちょっとしたチョコを送ってみたり。しかし、小学生の頃の想いなど、それなりの確率で気の迷いである。途中からは友人達と遊ぶ方が楽しくなった。
当然、中学校でもごく普通。小学校の体育で楽しかったからという、何とも適当な理由でバスケ部を選び、小学校の頃より強くなった先輩後輩という上下関係に悩まされた。虐められることはなくとも、使いっ走りにされたのは数知れず。
定期試験では赤点こそ取らなかったものの、小学校より格段に難しくなった内容にかなり苦しめられた。英語のアルファベットぐらいならともかく、文法となると首を捻る回数が途端に増えたし、南アメリカ大陸の国の位置は未だに良く分かっていない。
あっという間に中学生という三年間を駆け抜け、受験したのは毎年微妙に定員割れをしている、県内でも中堅ぐらいの公立高校。そこでも普通に過ごすのかと思っていた矢先のことだった。
「アルバートさん?あのお医者さん?他、他の知り合いは」
本当に極めて普通の少女だったにも関わらず、彼女はある日の下校中に車に撥ね飛ばされた。あまりにも衝撃的で、あまりにも突然のこと。当然、両親や友人達に別れを告げる時間はなかった。
だが、寂しさや悲しさは抱いても、いつまでもクヨクヨしている場合ではないのも分かっていた。勇者に指名されてしまった以上、ラスボスを倒す責務は彼女にある。そういう契約の下、新しい人生を始めさせてもらったのだから。
「急がなきゃ、皆が」
そんな責務を丸投げしても良いのではないか。そんな風に思える面々と出会えた矢先、彼女は絶望の淵に立たされた。
「はっ、はっ」
息を切らしながら、路地裏から飛び出す。未だに顔色は悪く、足元も覚束ないぐらいには酷い体調だった。生まれて初めて見た、人間の死体。白骨ならば良かったが、最悪なことに殺される瞬間も目撃してしまったのだから、途端に体調を崩しても仕方がない。
「ピノ君……」
最初に投げ飛ばされた赤毛の少年。桜との付き合い自体はかなり短いが、両者が打ち解けるのに時間はあまり必要なかった。両者がキキに多少なりとも信頼されていたのが、仲良くなれた理由の一つだろう。
もし桜が信頼されていなかったとすれば、彼女は依然としてピノに睨みつけられていたはずだ。下手をすれば、剣で切られていた可能性もある。それぐらいに少年達の信頼関係は深かった。
「ティナちゃん……」
男によって強く殴打され、重症を負ってしまった少女。昨晩の戦いで多少打ち解けた結果、桜はそこそこの仲になったのではないかと勝手に思っている。
嵐のような風の魔術と、天才的な弓の腕。そんな能力を持った彼女であっても、バケモノのような動きをする、気味の悪いヒョロ長の男には勝てなかった。勝手に勝てると安堵し切っていた桜からすれば、その時点でかなり絶望的だったのは言うまでもない。
「キリレンコ君も……」
そしてキール・キリレンコ。桜が異世界が初めて出会った少年。
魔術で子供が笑える世界が理想。魔術で人を傷つけたくないという思想。それらはきっと、小学生の頃に伝記で読んだどこかの科学者に近いのだろうと、彼女は解釈していた。使う魔術もその言葉通り、周囲の色を変化させたり、光を放ったり。最後に彼女が彼の姿を目にした時は、応急処置の為に水を用意していたが、基本的には規模や威力を間違えなければ、全くもって無害そうに見える魔術しか使っていない。
そんな少年が、男に一人で立ち向かっているのだ。
「助け、助けを……呼ぶ……」
駆けて、駆けて。段々と桜の足は速度を落としていき、徒歩に変化し、最終的には停止した。
「勇者なのに、真っ先に逃げて。命の恩人残して」
無知な自分を見捨てることなく、呆れながらもキチンと面倒を見てくれている、異世界での初めての友人。ダチョウに恐怖を憶えてしまい、死にそうになっていた自分を助けてくれた、ポニーテールの少女。バカにするようなことを度々言いながらも、何だかんだ助けてくれた赤毛の少年。
「ウチ、何してんだろ」
走っている間に止まりかけていた涙が、立ち止まったことで再びボロボロと溢れ出した。
「でも」
戻ったところで何になるのか。キキの負担を増やすだけなのではないか。勇者なのに助けるべき人間を見捨てるのか。
様々な感情がせめぎ合い、行き場をなくし、更なる涙に変換されていく。立ち止まっている場合ではないのは理解しながらも、足はガクガクと震えて動かなかった。仕方なく、次々と溢れてくる水滴を、垂れてきた鼻水も一緒にセーラー服の裾で拭う。
「皆を、助けなきゃ」
震える足を一歩前に出し、グッと涙を堪える。笑いが止まらない膝を殴りつけ、大福の一件の感覚を思い出す。魔術を使うのに必要なのは、集中力と想像力。キキが言っていた言葉も同時に思い出しながら、少女は地面を蹴ろうとした瞬間。
「な、何だぁ!?」
桜の後方。つまりキキ達が未だ戦っているはずの場所から、光が溢れていた。太陽がほぼ真上にある時間であるにも関わらず、表の道で露店に並んでいた面々や、その店主達が指を差し、声を上げるぐらいの光量。
そんなことができる人物は、少なくとも桜の交友関係の中では、一人しかいない。
「……どうして」
逃げれば良いのに。そんな一言が喉から出そうになり、グッと飲み込む。二人を残して逃げることはできないと、彼はそう言ったのだ。その決意をバカにするようなことは、決して口には出せない。
「とにかく、まずはオムスケのとこに」
足に力を込めた矢先、また男の声が少女の耳に入ってきた。それは先ほどよりも明確に、少女に向けた声。
「嬢ちゃん、あの奥で何やってんだ?」
「あんなこと街中でやるのなんざ、『色彩』ぐらいしかいないだろうけどよ」
物珍しそうに桜の方へ寄ってきたのは、顔も知らないし、当然名前も分からない男二人。汗だくの身体と布を巻いた頭、そして片手には肉が刺さった串。どこでしているのかは分からないが、何らかの作業の休憩中らしい。膝の下ぐらいまでの靴に覆われた足は、乾いた黒っぽい泥で汚れている。
そんなあまりにも日常的な二人のせいで、彼女の顔を滝のように流れていたはずの涙は、蛇口を閉めたかのように止まってしまっていた。助けを呼ぶには、明瞭で大きな声が必要だろう。故にそうなったことは、むしろ好都合であるはずなのだが。
「キリレンコ君達が、戦ってるんです!あの路地の奥の方で!」
それ以外にどう言えば良いのか、桜には分からなかった。単に男と戦っていると言っても、きっと疑問符を浮かべられるだけ。バケモノと形容したところで、笑われるのが関の山。言うだけ言ってみようとは思っても、目の前の男達に言ってどうにかなるのか、というのもあった。
「こんな街中で戦うって、野犬か?」
「場所見ろよ。路地裏だぜ?どうせあそこに住んでる奴らが、調子乗って喧嘩売ったんだろ」
どちらも違う。後者は少しだけ掠っているが、もはや男は住んでいた男の姿を取っているだけで、本質的には別の何か。それを立証する何かしらの証拠があるわけではないが、桜は何となくそう思っていた。
「喧嘩とか、そういうのじゃなくて」
そもそも喧嘩という次元ではない。ろくに喧嘩も見たことはないし、拳を本気で振るったこともない桜にとっては、もはや一種の戦争である。
よくある年輪のような的を射るのならともかく、何か獲物を見据えて撃ち込む類の矢など、彼女は昨晩まで見たことがなかった。本当に刃として機能している剣も、今日この日まで見たことはなかった。包丁は確かに刃物だが、あくまでも調理器具。刑事ドラマなどでは凶器として扱われていたが、それは特殊な例である上、結局のところは刀ですらない。刀も剣も創作物で見るだけで、剣道やフェンシングなどの競技をしたことのない彼女にとっては、どうしても縁遠い代物である。
そんな殺傷能力が十分過ぎる武器を用いたにも関わらず、二人が一方的にやられる様を、桜は目にしているのだ。
「なら本気でやり合ってんのか?だとしたら『色彩』様に勝ち目ないんじゃねえの?」
「あのガキ、二つ名持ちの魔術師なのに、変なところで優しいからな。この前も何か、魔術の実験とか言って子供と遊んでたろ?」
「ああ、やってたやってた。あれ本当に実験だったのか?」
肉を齧りながら、呑気に少女の前の二人組は会話を続ける。同級生の男子達のように、何がおかしいのかゲラゲラと笑うその姿は、桜にとっては不快そのもの。しかし、それを指摘するのもお門違い。色々と考えてしまった結果、少女は黙り込むしかなくなった。
「でも本当に『色彩』なら、ノラレスのとこの倅と森人の女の子も連れてるだろ」
「そりゃそうだ。滅多なことがなきゃ負けねえや」
そんなことはない。ピノは戦いが始まる前に既に戦線離脱させられ、ティナも粘りはしたが、ほんの数十秒前にやられたのだから。
桜には分かる。ダチョウをほぼ単独で仕留めたというティナの技量も、それとほぼ同格だと思われるピノの凄さも。そしてその二人の友人であり、纏め役にもなっているキキの優秀さも。その全員の凄さが分かるからこそ、恐ろしかった。
「……なんで」
どうして助けに行こうという発想に至らないのか。
今も戦っているキール・キリレンコを救いたいと思わないのか。
どうしてそんなに笑っていられるのか。
様々な疑問が湧き上がってきたが、やはりそれを口にすることはできない。真っ先に逃げようと言い出して、助けを呼ぶように言われて逃がされたのに、やはり戻るべきかどうかウジウジと悩んでしまっているのは、他の誰でもない桜自身だ。
「どうした?」
不思議そうな顔をした片方の男に声を掛けられ、彼女は静かに首を横に振った。色々と言いたいことはあったが、自分が言えるような立場にいないことは、深く考えないでも分かったから。
グッと喉元まで来ていた言葉を唾と共に飲み込み、口を閉じて俯く。情けないという感情に支配され、流したくもない涙が再び顔を濡らし始めた。ポツポツと雨粒のように地面を湿らせ、その面積を広げていく。
「……何でもないです」
そして最後に、涙を堪えながらボソリと呟く。
それでも彼女の言いたいことは何となく察したようで、男達はやや高圧的な態度を取り始めた。桜がもし貴族であれば、即座に何らかの処罰が下されていてもおかしくないが、彼らもそこまで間抜けではない。態度やら付き人の有無やらもそうだが、それ以前に黒髪黒目の人間自体が少ないのだから、貴族ならば既に周知されているはずだという考えが、判断の根底には存在していた。
「そんなに心配なら、嬢ちゃんが行けば良いじゃねえか。そんな上等な服着てんだから、俺らとは違って魔術とかも普通に使えるんだろ?」
言葉は荒々しいが、言っていることは間違っていない。だがしかし、そもそも桜が魔術を使えるのであれば、こんな事態に陥ることはなかっただろう。似たような状況にはなっていたかもしれないが、彼女はきっと戦うという選択肢を選べていたはずである。
「そもそも俺らが行ったところで何になるんだよ。二つ名持ちの魔術師なんかに手なんざ貸す必要ねえだろ」
「そうそう、アイツらバケモンばっかなんだぜ?」
彼らが助けに行かず、助けを呼びもしない理由。その大部分はコレらが占めていた。『きっと誰かが行くだろう』という思考に至る前に、『行く必要などないだろう』という壁が存在しているのだ。
桜にはそれが分からなかった。三人全員が凄い人間なのは百も承知で、二人以上に世間から認められているのはキキであることも、一応は把握している。それでも、最初から助けないという残酷な選択肢は、彼女の脳内には存在していないのだ。
「違う!キリレンコ君は確かに二つ名もあるし」
『色彩』という二つ名。オーデマリに来てすぐは分からなかったが、今の桜にはキチンと理解できている。色の魔術を扱うから『色彩』と呼ばれているのであり、王都ではその単語が本来の意味を表すよりも、一人の人間を指すことの方が多いのだということを。
「凄いイケメンだし、カッコ良い夢も持ってるけど」
偏見もあるのかもしれない。顔が格好良いから、語る夢も格好良く見えているのかもしれない。そんな夢見がちな少女のような感性があるとは、桜自身は思っていないが、心のどこかにそういう部分がないとは断言できなかった。
「ちょっとウチのことバカにしたり、ティナちゃんの気持ち全然分かってなかったりする……何て言うか、ちょっとバカで」
非常識なのは自分で理解していても、やはり無知を揶揄われるのは、桜といえど思うところが多少はある。
ティナからの見え見えの好意に関しても、それを単なる友愛として捉えている可能性すらあるだろう。それならまだマシだが、単純に優しいだけだと考えている可能性も捨て切れない。何れにしても、女子からしてみればバカである。
「お肉よりも魚が好きな」
路地裏で二人を追い払った後、キキと桜は二人で露店に寄った。その時の彼女はかなり気分が落ち込んでいたせいで、どの辺りを歩いたのかすらあまり覚えていないものの、路端に座ってからの記憶は鮮明に残っている。
二人で串に刺さった肉を齧りながら、最初は肉と魚の話をした。肉屋の息子ということが無関係なのかはともかく、魚をそんなに食べる機会がなかったという理由で、少年は魚の方が好きだと語っていた。それは桜も良く覚えているし、実際に朝の焼き魚を食べている時のことを思い出せば、その言葉が真実だったのは間違いない。
「ウチと変わらない、普通の……」
魔術師としてはかなりの凄腕。二つ名を持っていることで扱いは貴族と同等。アルバートという騎士の家の長男にも怯えることなく、面と向かって腹の探り合いをする精神力。
それらは決して、普通には身につかないモノだ。それなりの濃い人生を経験して、そこらの同年代とは比べ物にならない能力を持って、漸く身につくかどうかというモノ。それを彼は有している。
「そうだ、キリレンコ君も」
有しているが、どこか庶民的。借りた金がもったいないからという理由で、出会ったばかりの桜を半ば無理矢理ダチョウに乗せたり、汚れるのも大して気にせずに道端に座ったり。
少し都会に慣れた田舎者、もしくは庶民。そういう評価が妥当だろうか。桜もあまり人のことは言えないが、それ故に良く分かった。
「本当は、普通の男の子なんだ」
戻るのは最適解ではない。桜一人で行くのではなく、助けを呼んだ方が確実なのは分かっていた。それでも、もし三人が男の相方のような姿で発見されたとすれば、少女は一生後悔する。
勇者としての責務が魔王や魔神の討伐だったとしても、今の桜にとって大事なモノは別だ。少し魔術の才能があるだけで、基本的には普通の少年が戦っているのに、どうして勇者として見定められただけの、基本的には普通の少女が逃げることができようか。
「おい!嬢ちゃん!?」
後ろから掛けられる声は気にも止めず、少女は一歩一歩全力で来た道を戻り始めた。いつの間にか体は軽くなっており、全身に妙な力が湧き上がっているのが感じ取れる。それが魔力と呼ばれるものなのか、それとも気持ちの問題なのか。桜には全く判別がつかなかったが、これ幸いとばかりに更に足を強く踏み込む。
「速く、速く!」
石材で舗装されている地面が砕けそうな勢いで踏み込んでいると、突如桜の体を重りがのしかかるような感覚が襲った。衝撃はない。ただ、背負っていた空の鞄の中に突然教科書が数十冊自然発生したような、何とも表現し難い重みが生じたのだ。
「何これ、重たっ!?」
思わず口から出してしまったが、それも仕方のないことだろう。
少女の背にいつの間にか現れていたのは、彼女の身の丈と同等か少し長いぐらいの大剣。
ピノが持っていたような無骨なものではなく、かなり派手に飾りつけられている、本当に戦う為の道具なのか疑わしくなるような、妙に機械っぽい剣。日曜朝の男児向け番組のヒーロー達が持っていそうな、色々と変形でもしそうな大剣が存在していた。
「やっと覚悟を決めてくれたようだからね。部分的な解放さ」
突如頭の中に響いた聞き覚えのある女の声に、少女は足を止める。右左の壁を確認し、ついでに空も見上げた。しかし、その声の持ち主であるはずの、特徴的な女の姿はどこにもない。
「私のあげた聖剣、正式名称は対魔特化型聖剣二型。堅苦し過ぎだとは分かるけど、私はネーミングセンスがないからね。気に入らなかったら適当に名づけ直しておくれ」
ネーミングセンスについて、桜に言うべきではないだろう。彼女も色鮮やかな巨鳥に対し、そもそも自分が飼っているわけではないにも関わらず、オムスケという他の鳥の種族名から取ってきた名前をつける人種なのだ。
例えるならば、黄土色のプードルにシバ太郎と名づけるようなモノだ。悪くはないが、一部の人間は首を傾げそうな感性だと言える。
「えっと、どこにいるんですか?あ、もしかしてヒントが貰えたり?」
背中の剣に体のバランスを持っていかれながら、少女はキョロキョロと周囲に目を向ける。けれども、印象に残っている真っ赤な髪だけでなく、そもそも生き物自体が何一つとして近くには見当たらなかった。
「今回は特にヒントはなし。その剣と彼がいれば、十分に勝てる相手だからね。それと今回は姿は見せないよ。お空の上から声だけ状態さ」
「バラエティ番組的なヤツだ!」
「うーん、まあそれで良いや」
半ば諦めるような声が少女の頭の中に響いた後、パンパンと手を鳴らす音が続く。特に何らかの指導をされていたわけではないが、少女はその音を耳にすることで、気の抜けていた顔を元の緊張感の溢れるモノに戻した。
「ほら、早く行っておいで。勇者としての君を待ってる人がいるだろう?」
「はい、ありがとうございます!」
良く分からないまま空に手を振り、桜は再び駆け出す。やはり剣のせいで若干走り方は危なっかしくはなっているが、それで心配するほど女神は過保護ではない。いつもしているようにカラカラと笑い声を上げ、少女に見えない手を振って背中を見送った。
「思っていたのとは違ったけど、まあこれはこれで良し。最初から全解放はまずいしね」
もう一度カラカラと笑い声が路地裏に響き、それに合わせるようにヒュウと風が鳴く。
「そろそろプロローグも終わるだろうし、後は世界の流れに任せるとしようか」




