3.持ち物検査だ
体操着が盗まれた次の日。
「おはよう」
「おう!おはよう幸里!」
友達に挨拶をしながら教室へ向かう。途中に階段があり、数名の女子のものが目に入ったけどどれも昨日のものとは違った。
くっ!いつもは見ないように目をそらしているけど、今日は確認作業でがっつり見てるから罪悪感が凄い!
「お?ついに幸里も女子に興味を持ちだしたか?」
「ハハッ。そうじゃないよ。皆見てるから、そんな良いモノなのかと思ってね」
友達に笑われたから適当に誤魔化しておいた。疑う感じでニヤニヤ見られてるけど、実際その辺にいる女子のパンツを覗きたいと思ってるわけじゃないから微妙な気持ち。俺は、女なら誰でも良いって言っちゃう女子に嫌われがちな男子高生とは違うんだよ。
「おはよう」
「あっ!幸里ぃ~。おっはぁ~」
教室に到着。友人に挨拶しつつ、周囲を確認。チラチラ意識した感じで見てくる子がいたら怪しく思うけど………いないね。男子も馬鹿にした感じで見てくる子はいない。他クラスの子がやったのかな?
何てことを考えながら準備をする。そして何も収穫はないまま時は流れ、
「着席しろぉ」
先生がやってきた。皆席に座り、朝礼が始まる。
先生の名前は鈴原正美。鈴をベルと読んで、クラスメイトからベルバラ先生と呼ばれている。髪はポニーテールで、目は鋭い。普段はけだるそうにしており、よく机に突っ伏している。ただあまり知らない子が多いけど、実際には勝ち気で正義感が強い性格だ。特にイジメを強く嫌う傾向にある。なんでそんなことを知ってるのかは、今回は省略だ。
「さて、出欠をとるぞ。休んでるヤツは手を上げろぉ」
これは先生の恒例のネタだ。ただ、毎日のようにやってるので誰ももう受けない。こんな受けないのが何日も続くのに毎日やれる先生をある意味俺は尊敬してる。ある意味、な。絶対マネしようとは思わないけど。
「それじゃあ次に、体調悪い奴は手を上げろぉ。精神的にきついヤツも手を上げて良いぞぉ。……とりあえず先生は休みたい」
チラッ。
一瞬、先生が俺を見た気がした。これは俺に笑えと言っているのだろうか?わざわざ俺を見る理由は分からんが無視しておこう。ここで1人だけ笑っても、絶対変なヤツだと思われる。視線を合わせないことが大切だな。うん。
こうして、朝礼中極力先生の顔を見ないようにしながら過ごした。それから授業が始まり、休憩時間になってまた授業になって。それを幾度か繰り返した後、昼休憩に入った。
「…………」
「ん?幸里?どうした?」
黙っている俺に、友人が不思議そうな視線を向けてくる。だが、事情を言うわけにもいかない。
ということで、ここで叫ばせてもらおう。
………全然手がかりが掴めぇぇぇん!パンツの持ち主が分からないですぅぅぅぅ!!!!!!!
まあ、当然と言えば当然だよな。女子のパンツとか気にしたこともなかったし、確認する手段もほとんどない。そして、その確認手段を使えば確実に俺は変態の仲間入りをするだろう。まあ、俺にパンツを渡してきた奴らも変態ではあるんだけどな。
「ちょっと悩み事だ。気にすんな」
「お、おお。そうか。何かあったら俺たちに相談してくれてもいいぞ」
「ああ。ありがと。無理そうだったら相談するかも」
よは言うが、絶対に相談することはないだろう。俺が女子のパンツを持っていることがまずバレたくないし、変態女子達の名誉にも関わる。これは当事者だけで解決するのがベストだ。
その後も何も手がかりが掴めないまま時間は過ぎていく。体育の時に望みをかけて男子の下着を見たが、誰も同じパンツは入ってなかった。もうほぼ女子で確定だな。
そして、帰る前のホームルームをするときだった。
「お前らぁ。持ち物チェックするぞぉ」
急に荷物チェックが行われることが告げられた。俺、変なもの入れてないよな?女子のパンツと入れ替えられてなければたぶん大丈………大丈夫じゃない!盗まないでって書いておいた付箋を入れてるんだった!あれだけ抜いとこう!
体操着の袋を掴み取り、素速く中から付箋を抜く。ハァ~。これで安心し、
「黒川。今、何隠した?」
【???】
突然だが、私は黒川幸里に恋している。それはもう好きすぎて、盗んだ体操着をスハスハするだけで幸せ(意味深)になれるくらいだ。
どこが好き勝手?それはもう優しいところとかちょっと幼さの残る中性的案声だとか。料理が美味いところだとか………え?聞いてないって?………分かった。では、別のことを話そう。
私のこの恋にはきっかけがある。あれはある日のこと、
バシャ!
ある女子生徒が水を被った。しかも、ぞうきんを洗ったばかりの濁った汚水を。
「ご、ごめんね!」
「……いや。気にしなくて良いわ」
水をかけてしまった子が謝り、かけられた子は許していた。だから、その時は事故だったのだろうと見逃した。
でも、
ガンッ!
「ご、ごめんね!」
「……気にしないで良いわよ」
バサッ!
「うぇ!?ご、ごめん……」
「………ううん。大丈夫よ」
運んでいたものをぶつけたり、ゴミ袋の中身をかけたり。毎回被害を欠ける方も被害を受ける方も同じ人だ。毎回謝っていて被害を受けた方も許しているが、それでも相当ひどいことになっている。それを見て私は理解した。イジメが起きているのだと。
いじめている方がそういう性格だとは思えなかった。だが、いじめられてる方は過去にいじめられた経験があるって聞いていた。だから、いじめられても声が上げられないのではないかと判断した。そのため、私は2人を呼び出し、
「なんでイジメなんてしてるんだ!」
「い、いじめなんてしてないですっ!」
いじめてる方に問いただした。いじめてる方は頑なに否定したため、私は強く、高圧的に話した。
「あれだけのことをしておいて、いじめていないなんて言い訳が通じると思うな!」
「ひっ!ほ、本当に違うんです!私、そんなつもりじゃなくて………ひぐっ!えぐっ」
私の高圧的な態度が怖かったのか、ついに彼女は泣き出した。それでも、彼女はイジメの事実を認めない。そんな時だった。
「失礼しまぁ~、すうぇ!?……ど、どういう状況ですか?」
黒川君、いや。幸里君がやってきた。やってきたのは偶然らしく、忘れ物を取りに来ただけだったらしい。でも、そのついでという風に彼はあっさりと、
「ん?本当にイジメじゃないんじゃないですか?左目が悪いだけでしょ?」
「……え?」
「左目が見えにくいから、左に入った人によくぶつかっちゃうんだよね?」
「え?あ、……うん」
一瞬彼が何を言っているのか分からなかった。だが彼女の事情を聞いていくと、すぐに私の予想が間違っていて、全ては本当に事故だったと分かった。
その後やったことは単純。ひたすら私は彼女に謝り倒した。勝手にイジメだと決めつけ、私が泣かせてしまった彼女に。彼女は許してくれて、今では一緒に彼の体操着を吸う仲となっている。もちろん、いじめられていたと勘違いしていた彼女も一緒だ。私たち3人に加え、同じく彼に助けてもらった3人と一緒に変態活動をしている。
私たちの関係悪化を防いでくれて、優しくて頭の良い幸里君。もう彼への気持ちを私は止めることが出来ない。
「………はぁ~。幸里君、いつこの気持ちに気付いてくれるんだろうか」