表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

9/23

ログアウト対策会議

「お兄ちゃん! おー!きー!てー!」

「レイジ! 起きろ!」

「会議始まっちゃうよ!」

「いつまで寝てるんだよ! 早く起きろ!」


 レイナとカオルのけたたましいカットインメッセージの連投で目が覚めた。

 どうやら俺はベットの上で横になってたら寝てしまったらしい。

 俺が慌てて部屋を出ると、部屋のすぐ前でレイナとカオルが俺が出てくるのを待ち構えていた。


「いつまで寝てるんだよ!」

「さあ、お兄ちゃん行くよー!」


 寝起きで意識がハッキリせず足もおぼつかなかったが、レイナに無理やり引っ張られて神聖騎士団のクラン会館に連れて来られた。


 クラン会館はちょっとした城と言ってもいい位のサイズの建物だ。

 大きく分厚い正面ドアを開け中へと入る。

 ロビーの中に入るとレイナが「こっち!こっち!」と言い俺の手を元気よく引っ張る。

 向かったのはクランのロビーに入ってすぐの大扉を抜けた部屋だ。

 その部屋は天井がやたら高く、広さは高校の体育館ほどの大きさの非常に広い部屋だった。

 その中にコの字型に机が配置されて百人近い人が座っていた。

 明らかに俺とは違うレベルの装備の人々。

 間違いなく高レベルのプレイヤーたちだ。


「レイジ君来てくれたか。こっちらの席に掛けてください」


 部屋の奥の方から声が聞こえる。

 声の主が指さしたたのは裁判所の証言台の如く部屋の中央にポツンと一つだけ置かれた机であった。

 声の主はその正面に座っていた。

 裁判所でいうなら裁判官が座っている場所だ。

 歳は40代前半の落ち着いた喋り方をする恰幅のいい男性だった。

 俺はその証言台に座った。


「すまんな。この街に来たばっかりというのに」

「いえいえ」

「私はこのクラン神聖騎士団のクラン長をやっているワタナベと言うものです。キミの名前はレイジ君で間違いないかな?」

「はい、レイジです」

「妹さんのレイナ君から大体の話は聞いているんだが、確認の意味も込めて君自身の言葉でログインした時の状況を話してもらえないかな?」

「解りました」

「出来るだけ詳しくお願いしますよ」

「はい」


 どうやら俺は証人としてこの場に召喚された様だ。

 俺はログインした時の状況を出来るだけ詳しく思い出しながら話し始める。


「確か土曜日の午後二時ぐらいに、いや正確に言うと2時10分だったかな? 妹のレイナと居間のソファーに座って同時にログインしました」

「少し妹さんよりログインが遅れたと聞いてるんですが……」

「そうです、すいません。同時にスタートしたんですが僕の本体が新品だったのでゲームの起動と同時にアップデートが始まってしまい、少しログインが遅れてしまいました」

「どのぐらい遅れたか覚えているかな?」


 優しい口調でクラン長に聞かれる。


「たしかアップデート開始時の残り時間の表示が10分ちょっとでした」

「君の妹さんは既にログインしてたんだよね?」

「アップデートが入ってすぐに僕がゴーグルを外してレイナを見てみたらもうログインしていたみたいで声を掛けても聞こえて無かったのを覚えています」

「レイジ君はアップデートが終わったら、すぐにログインしたのかな?」

「はい。アップデートの終了と共にログインしました」

「レイジ君ありがとう。レイナ君から受けた報告どうりだったね」


 クラン長は少しだけ考え込んだ後、さらに続ける。


「次にレイナ君いいかな?」

「はい」と俺のすぐ後ろに立っていたレイナが答える。

「レイジ君とこのゲームの中で出会った時、君のプレイ時間は何時間目だったか覚えていますか?」

「時間では覚えてないんですが、日数でちょうど70日目だったと思います」

「70日?」

 

 俺はそれを聞き思わずつぶやいてしまった。

 なんでレイナのプレイ時間はそんなに日数経ってるんだ?

 クラン長は少し考え込み、「ふうむ」とつぶやき再び話し始めた。


「今の話から導き出された事実は二つ」


 クラン長は俺とレイナの話を黒板に纏める。


 ・二人のログイン時間はリアルで10分差であった。

 ・一方、ゲーム内の時間は70日経過していた。


「こういう事だな」


 クラン長の横に来ていた側近と思われる人がクラン長に代わり話し始める。


「神聖騎士団 技術本部長ササキです」


 側近の男は頭を軽く下げると、話を続けた。


「二つの事実を合わせると、導き出されるのは『リアル時間10分間 = ゲーム内時間70日間』と言う等式が成り立ちます」

「もっと簡単に言うとどうなるんだ?」


 クラン長は技術本部長ササキに問う。


「この世界には10倍の加速ではなく10,000倍の加速がかかっています」


 部屋の外周の机に座ってた人々がざわめく。

 クラン長が「ふうむ」と言い口を開く。


「前々から10倍では済まない時間加速が掛かっているのは薄々感じていたが、まさか10,000倍とは……」

「加速が10倍程度ならば脳への影響は少ないでしょうが、10,000倍ともなると長時間プレイで確実に脳に悪い影響が出るでしょう。例えば脳を休息させる為にやたら眠気が襲って来たり、脳に過負荷が掛かり性格が粗暴になったり、精神に異常をきたす等の影響が懸念されます」

「なるべく早めにログアウトするに越した事はないな」


 側近が一呼吸したのち話し始める。


「今現在ログアウトが出来ない状態ですが、運営が不具合に気づいてくれてサーバーリセットを実行してくれればこの世界から抜け出すことが出来るでしょう。ただしこのゲーム内ではリアル一時間当たりゲーム内ではおよそ一年の年月が過ぎるので不具合の発見が翌朝まで遅れた場合20年近く、もし月曜日まで発見されなければ50年近くもの時をこのゲーム内で過ごさないといけないことになります」


 ざわめきと、嗚咽おえつが部屋を支配する。

 クラン長はざわめきが収まるのを待って切り出す。


「では我々はどうすればいいんだ?」


 技術本部長は胸を張って話を続ける。


わたくしにはこの状況を抜け出す案が幾つか有ります。お手元の資料をご覧下さい」


 技術本部長は机の上に置いてある資料を手に取る。


「いま、私が今現在考えてる案は3つ程有りますがどれも確実とはいい難い対策です」


 資料を見た会議室の参加者からざわめきが聞こえる。

 技術本部長は咳払いをして続ける。


「対策はこれらになります。


1.偶発的なログアウト者に通報してもらう。

 ネット回線の安定で近年はオンラインゲームで回線落ちすることがまず無くなりました。

 でも、回線落ちの確率は皆無ではありません。

 落ちる確率が「0%」で無くて、「0.000001%」でも有るならそれに賭けたいと思います。


 またゲーム外の何者かが物理的にプレイヤーのゴーグルを外す事をすれば強制的にログアウト出来ることになります。

 わかりにくいと思いますので具体的に例を示すとすれば『ゲームをし過ぎてる子供に怒った母親がゴーグルを外して説教を始める』等です。


 このようにしてログアウトしたプレイヤーに警察や運営に連絡を取ってもらってサーバーダウンさせてもらう、このような事を考えています。

 その為には全プレイヤーに今起こってる事を有りのままに公表することが必要です。

 そしてログアウトしたらちゃんと運営に連絡を入れてもらう様に全プレイヤーにお願いするのです。


 発生までは一番不確実な方法ですが、いったん発生すれば一番確実な方法です。



2.レアユニークスキル『デス』の保有者を探す。


 レアユニークスキルの「デス」はご存知の通り、敵に使えば一瞬で戦闘不能にするスキルですが、プレイヤーに対して使えば強制的にログアウトさせる凶悪なスキルです。

 そこで「デス」スキル持ちのプレイヤーを探して、デスでプレイヤーを強制ログアウトさせ運営に連絡を取ってもらうのです。

 これも「デス」持ちのプレイヤーを見つけさえすれば確実に実行できる方法です。



3.アンチチートを起動する。

 ゲーム内で異常な状態を引き起こしゲームに実装されたチート発見用の不正監視プログラム、通称『アンチチート』を発動させシステム側から強制ログアウトを引き起こさせる方法です。

 具体的な方法を示すと「サービス初日の内にラスボスの魔王を倒す」、「激レアアイテムを多数のプレイヤーが手に入れる」、「ゴールドをカンストまで貯め込む」等の異常状態を引き起こせばサーバー内のアンチチートプログラムが異常状態をチートと検出してプレイヤーを強制ログアウトさせるはずです。

 チート判定さえ出ればサーバーを監視しているGMが異常状態に気付き緊急修正メンテナンスを入れてくれるはずです。

 こちらは、過程まではプレイヤーが介入できるので比較的発生は簡単ですが、そこからログアウトの発生までにアンチチートが絡む為かなり不確実になります。


 今私が考えている対策は以上の三点なのですが、他に妙案は無いでしょうか? 皆さんで話しあってみてください」


 そう議論をうながされると、会議に参加していたクランメンバーたちは周りのメンバーと議論を始めた。

 会場は白熱した議論と喧噪で包まれた。

 20分ほど経っても話しは纏まらず、これと言う妙案は出てこなかったようなので技術本部長は議論を閉めることにした。


 大きな咳払いをした後「クラン長、ご判断をお願いします」と議事の進行をクラン長に渡し後ろに下がった。

 クラン長は落ち着いた声で話し始めた。


「当面は皆で役割を分担して、三案の対策を進めしょう。非戦闘職の人は偶発的なログアウト者への告知と、ユニークスキル「デス」保持者の探索を頼みます」


 会議に出席していた生産クラン同盟の長が「うむ」とうなずく。


「戦闘職の者は皆でラスボスの討伐に当たりましょう」

「はい!」とクランの幹部が了解の返事をする。


「詳細は担当のおさが仕切って行う事。いいですね?」

「はい!」

「はい!」

「了解!」と辺りから明瞭ではきはきとした返事が聞こえる。


 後ろに下がっていた技術本部長が前に出て来てクラン長と代わる。


「手段は色々とありますが、どれも不確実です。しかし、やれる事はすべてやりましょう。すべて実行すれば、必ずどれかの対策で抜け出せるはずです」


 会場からは喝采の声が上がった。


 俺は気がついた。

 レイナにクランのレベル上げに参加していいと言われたときは『なんでこの低レベルの俺が?』と思ったが魔王を倒す為の人材育成だったわけだ。

 クランのレベル上げで促成栽培的にレベルを上げる。

 もちろん俺の装備では魔王戦への参加は無いだろうが、補助作業とか他にも仕事が色々有ってそれに駆り出されるに違いない。

 別にそれに協力する義理は無いが、協力しない理由も全く無い。

 むしろログアウトする為には協力すべきだと思う。

 俺が考え込んでいるとカオルから話して来た。


「俺たちも頑張ろうな」

「ああ。頑張るさ!」


 俺は戦闘職としてこのクランの作戦に参加することとなった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ