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大蜘蛛

 天井には蜘蛛の巣が張り巡らされていてその中心に体長3メートル程も有る大蜘蛛が張り付いていた。


 不気味な声を上げながら大蜘蛛が笑う。


「けけけけけ! 美味そうな餌じゃ!」


「げ! なんでこんなレベルのクエストに大蜘蛛のアラクネがいるんだ!」


 叫んだのはカツヤだった。


「あの大蜘蛛を知ってるのか?」


「あれはレベル30の盗賊のジョブクエストに出てくるボスだ! なんで低レベル向けのクエストにこんな強い敵が乱入してくるんだよ!?」


「マジかよ! そんなに強い敵なのかよ! なんでそんなものがここにいるんだよ!」


「だからわからねーって言ってるだろ!」


「レベル30のボスなんて俺たちに倒せるのかよ!」


「レベル30のボスと言ってもソロのレベル30だからあいつ自体はレベル15のパーティー向けの敵だ。弱点の首を突けばレベル6の俺達でも何とかなる!」


 俺が大蜘蛛を注視して強さを見てみると『かなり強い』だった。


 「かなり強い」がどのぐらいの強さかは解らないが、強いの上のランクなのは間違いない。


 βプレイヤーだったカツヤは弱点を突けば倒せると言ってるが本当なんだろうか?


「本当になんとかなるのかよ!」


「ならなくても目の前にいるんだからどうにかするしかないだろ!」


 言い争いを聞いてか聞かずか大蜘蛛があざけるように話し出す。


「くくくく! ワラワは織姫アラクネ。腹が空いたのでここに弱くて生きがいい人間が沢山おると聞いたので食いに来てみたのじゃが、本当に生きが良さそうな人間が沢山おるんじゃのう」


 大蜘蛛は尻から糸を伸ばしながら天井からスルスルと降りてきた。


「俺たちを食いに来たのか?」


「そうじゃ。人間は美味いからのう。くくくく!」


「悪趣味な奴め!」


「食う為でもないのに遊びでコボルトやゴブリンを殺しまくってたお主らがなにを言い出すんじゃ」


「俺たちは遊びで殺してたんじゃない」


「くくくく! じゃあなんの為じゃ? 言ってみるがいい!」


「レベル上げの為だ!」


「くくくく! やはり腹が減って食うために仕方なく殺してたんじゃ無いじゃないか!」


「ここはゲームの世界だ。レベル上げの為に敵を殺して何が悪い!」


「お前たちの都合で命有る者をあやめるならワラワも同じように人間を殺めるだけじゃ。ワラワもお主らの命を弄んでから屠ればいいだけの事。くくくく! 素直にワラワに食われるがいい!」


「そうはいくか!」


 大蜘蛛が地面に足を着けると同時に尻から糸を出し攻撃を仕掛けてくる!


「避けろ! 蜘蛛の糸に絡め取られるぞ!」


 そう叫んだ武闘家のカツヤが蜘蛛の糸に足を絡め取られ捕まった。


「ぐわぁ! しくじった! 動けねぇ!」


「なに捕まってるんだよ!」


「攻撃が速えぇから避けられねー。狙われたら終わりだ! 狙われない様に逃げまくれ! うぐぐぐ!」


 カツヤの蜘蛛の糸は最初こそロープで足と腕を軽く巻かれた感じだったが、一瞬で蜘蛛の糸で出来た繭の中に閉じ込められ身動き取れなくなった。


「くくくく! まずは一人!」


「今助けるから!」


 コトリがカツヤの繭を短剣で切り裂き始める。


 するとアラクネは再び蜘蛛の糸を尻から吐く!


 今度は盗賊のコトリがターゲットだ!


「きゃぁぁ!」


 今度はコトリが繭の中に閉じ込められた。


 繭の中に閉じ込められたカツヤとコトリは天井へと釣り上げられる。


「これで二人じゃ。これでもう攻撃する奴はいなくなったから、あとはじっくりいたぶって食事を楽しめばいいだけじゃ。くくくく!」


 くう!


 いきなりの大ピンチかよ!


 攻撃の要のアタッカーを失った俺たちに勝機は有るのか?


 とりあえずあの二人をどうにかしないといけないのは解る。


 でも天井に吊るし上げられて手が届かないんだがどうすればいいんだ?


「あの吊るし上げられた繭をどうにかならないのか? カオル!」


「炎系の攻撃呪文『ファイヤ』で繭を焼き切れる筈だ」


「サト! 繭を魔法で攻撃してくれ! 頼む!」


「うん! 解ったよ!」


 魔法使いのサトが呪文を詠唱し繭を攻撃し始める。


 火球が繭へと向かって突進する!


 火球が着弾し蜘蛛の糸の繭の表面を焦がす。


 何回か攻撃すれば繭を焼き切れるはずだが、何回攻撃が必要なんだ?


 だがそれをアラクネが見逃すはずは無かった。


「小賢しい真似を! ならばその魔法使いから血祭りにあげてやろうぞ!」


 アラクネは蜘蛛の糸を尻から吐きサトを絡めとろうとする。


「そうはさせるか!」


 俺はサトとアラクネの間に割って入り、蜘蛛の糸を盾で受ける。


 当然俺は蜘蛛の糸で絡まれ身動きが出来なくなった。


「くそ! 動けねぇ!」


「レイジ! そのまま蜘蛛の糸を受け続けろ!」


 カオルは剣で俺の蜘蛛の糸を片手剣で断ち切る!


 俺の体の自由が取り戻せた。


「助かったぜ!」


「油断するな!」


 サトがファイアで繭を燃やすが繭は強靭でレベル6の魔法使いのファイアの一発ぐらいではビクともしなかった。


 これはダメだ。


 別の方法を探さないと。


「効いてねえな、別の方法を……」


「そのまま続けて繭を攻撃するんだ!」


「はい!」


 サトは続けてファイアを唱え続ける。


 アラクネは三度ほど蜘蛛の糸を吐き俺を繭の中に閉じ込めようとするがカオルが即座に断ち切って特に被害は無かった。


「蜘蛛の糸は効かぬか。ならばこれはどうだ!」


 蜘蛛は毒液を吐いてきた!


 とっさの事で避けられなかった俺。


 いや避けたら僧侶や魔法使いに毒液が掛かるから避けなくて正解だ!


 でも、これは……酸!?


 毒液が掛かった皮の鎧から煙を出している。


 もちろん体にもかかっていた。


 体中が刺すように痛い。


 痛みに苦しんでいると俺の背後から可愛らしい声が掛かった。


 僧侶のウミだ。


 ウミは『キュア』を唱え、俺の状態異常『毒』を解除する。


 すると痛みが嘘のように消えて楽になった。


「助かったぜ!」


「油断しちゃダメですよ」


 どこかで聞いたような言葉だか、野郎のカオルが言うのとは違いかなりマイルドで嫌味が無い。


「くくくく! これも効かぬのか! ならば直接攻撃で一気に叩き潰してやる!」


 大蜘蛛アラクネは前足を上げ、鋭い爪で攻撃を始めた。


 俺はその攻撃を必死に木の盾で受け止める。


 ガツンガツン!と木の盾を削る攻撃!


 重い!


 重すぎる攻撃!


 一発一発の攻撃が重すぎる!


 俺は盾を何度も弾き飛ばされそうになるが必死に耐えていた。


 見るとカオルも攻撃を受けていてくれる。


「この攻撃は激し過ぎる!」


「このままでは時間の問題か。俺たちを回復している僧侶のMPが尽きたら終わるな」


 それを聞いたアラクネが下卑た笑みを浮かべながら煽る!


「さあ! さあ! 早く死ぬのじゃ! 今なら楽に死なせてやるぞよ! 残った方は手足を一本づつもいでジワジワとなぶり殺しじゃ。ひゃっひゃっひゃっ!」


「せめて強化呪文を掛ける時間さえあればどうにかなるんだが……攻撃が強すぎて掛けてる暇がない」


「攻撃を受けるのはわたしに任せてください!」


 そう言ったのはウミだった。


「でも僧侶なので長くは持たないですからなるべく早く済ませてくださいね」


 カオルとウミが盾役を入れ替わる。


 ウミは盾を構えて攻撃を受ける体勢に入った。


 カオルが呪文を唱える。


「オフェンス!」


 攻撃力上昇の呪文が放たれる。


 だがそれは俺を外れて見当違いの方向に飛んでいった。


「肝心な時に何やってるんだよ!」


「いいんだ、これで」


「!?」


 アラクネが何かに気が付いた!


 だが気が付くのが遅過ぎた。


 ファイアの呪文で焼かれた繭からコトリが飛び出し、弱点のアラクネの首にカオルが掛けた強化呪文を載せた短剣を深々と潜り込ませていた。


「ぐああああ!!!」


 地面をのた打ち回る大蜘蛛アラクネ!


「今だ! 今しかチャンスは無い! 弱点の首と尻を攻撃しろ!」


「はい!」


 カオルの指示で一気に弱点を攻め込む!


 サトの魔法は尻に放たれて身を焦がす!


 カオルは強化魔法!


 ウミは回復!


 俺はコトリと首を攻撃した!


 俺はアラクネの首にしがみ付くと二連撃を三度放ち首を切り落とす。


 一気に攻め込んだと事で攻撃力は高いがHPがそれほど多くないアラクネは屍と化した。


「や、やった!!!」


「おおーー!」


「倒せたね」


 喜び合うパーティーメンバーたち。


 天井ではカツヤが繭から出ようと必死にもがいていた。


「おーい! 俺を出してくれー!」


「わるいわるい! すっかり忘れてたわ」


「なんだとー! てめー! ぶん殴ってやる!」


「殴られるのも嫌だからこのままにして、助けないで帰るか」


「ちょい! まて! うそだ! うそ! た、助けてくれー!」


 それを聞いて皆で大笑いする。


 アラクネを倒した事で出口の魔法陣が出現し、俺達はギルドへと帰還した。


 *


 冒険者ギルドではカウンターのハーフエルフの受付嬢がクエストの完了を確認してくれた。


「おめでとうございます。乱入モンスターのアラクネを倒したので特別褒章が出ています」


 俺はクエストの報酬として20,000ゴルダと特別褒章を手に入れた。


「特別褒章?」


 カオルが耳打ちする様に教えてくれた。


「簡単に言えば経験値が山のように貰える貴重なアイテムさ」


「沢山ってどのぐらい貰えるんだ?」


「レベル30に到達するぐらいは間違いなく貰える」


「マジか! ジョブクエ出来るじゃないか!」


「それよりもいい物があるぞ」


「なに?」


「ユニークスキルさ。プレイヤーがレベル25になった時に自動的に貰えるスキル。どれも強力なスキルなんだ」


「ほー」


「64種類の中から一つだけ貰える」


「一つだけかよ」


 けち臭い。


 そう思ったけど、一個しかもらえない理由があったみたい。


「製品版はどうなってるか解らないけど、βでは強力過ぎるスキルだったから貰えるのは一個だけだったな。特に当たりのスキルは半端ない性能だった」


「具体的には当たりスキルはどんなスキルだったんだよ?」


「STRとかINTとかのステータス一つを500上げるスキルとかHPやMPを普通のプレイヤーの3倍に上げる感じかな?」


「ああ、確かに無茶苦茶強そうだから何個も貰ったらダメな系なスキルだな」


「でも、ユニークスキルはレアで特別な効果を持ったスキルがもらえる事が有るんだよ」


「更に強いのが有るのか?」


「半端なく強かった。製品版に実装されてるかは解らないけど、最強アイテムの効果を抜き出した感じのスキルだったんだぜ」


「姿消すとかか?」


「さすがにそういうのは無かったが、64種類のスキル中レアスキルは12個有って解ってるのだと前衛向が16連撃、二刀流、完全ガード、物理完全回避、魔法完全回避。後衛向きが攻撃魔力16倍、MP消費なし、詠唱速度0、デス。特殊系が完全アイテムドロップ、移動速度3倍、飛行」


「なんか聞いてるだけですごいな」


「特にすごいのが16連撃と完全ガード、完全回避、デスかな」


「デスって敵を一瞬で殺すの?」


「そうだ。呪文さえ入ればボスでも一撃。PCに使った場合は強制ログアウトさせるらしい」


「それヤバくね?」


「もちろんヤバくてβの時に大炎上したさ。トッププレイヤー百人ぐらいで倒すようなラスボスクラスのボスをデス持ちが一人で倒すんだからな」


「そりゃ炎上するね」


「β終盤のアップデートでラスボスクラスのボス全部にデス耐性が付くまで延々炎上してたぐらいさ」


「レアユニークスキルなのに弱体化されたらデス貰った人は涙目だな」


「まあね。アプデで弱体化はネトゲの宿命みたいなとこもあるから仕方なし」


「ネットって結局は声が大きい奴が勝つんだよな」


「だよな。βの時は強力なレアのユニークスキルが出るまでレベルを上げて、キャラ削除を延々繰り返す『リセマラ』してたプレイヤーもいた位なんだぜ」


「わざわざキャラを作り直すのかよ!」


「作り直しの労力考えてでも、レアのユーニークスキルって魅力的なんだぜ」


「確かに……。レアのユニークスキルは凄そうだからな」


「今はログアウト出来ないから、キャラ削除自体出来ないからそういう事をしてる奴は居なさそうだけどな。メンテでログアウト不具合が解消したらそう言う奴らで溢れ返るんだろう」


「俺、レアスキル当たらないかな?」


「大丈夫。レイジはきっとノーマルのユニークスキルだから心配しなくていい」


「なんだとー!」


「あははは! 冗談だよ! 冗談!」


 その笑い声につられて笑うレイジ。


 二人で肩を抱き合って笑った。

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