討伐クエスト
戦闘の要となるレイナが居なくなったのでパーティーは解散となった。
報酬が手に入ったので俺とカオルは食堂に行くがどこも大混雑で並ばずに食べることは出来ず、結局露店でサンドイッチと紅茶を買い広場のベンチで食べることにした。
「こんなとこでカオルと一緒にベンチに座って仲良く食べてるとまるで恋人みたいだな」
「やめろよ!」
「冗談冗談。男同士で恋人は無いから。それにしても食堂は滅茶苦茶混んでたな」
「このゲームは料理が美味いのが売りなんだよ」
「そうなのか?」
「リアルで食べたら5,000円はするような豪華な食事が500ゴールドぐらいで食べれるからな。そりゃ食堂も混むよ」
「でもこのサンドイッチも悪くはないね」
「このサンドイッチもレストランの監修で作ってるんだぜ。200ゴールドで買ったけど大きなエビとローストビーフも挟まってるから、リアルに食べたら2,000円ぐらいは間違いなくするんじゃないかな?」
「このサンドイッチはそんなにも価値が有るのか!」
「一口食ってみろよ。美味いだろ?」
カオルはそう言うとサンドイッチを食べるように促す。
俺は一口頬張ると口の中にローストビーフとエビのジューシーな肉汁が溢れ、それをドレッシングが包み込む。
思わず声が漏れた。
「うん、うんまい!」
「あまりにもこのゲームの中の食事が美味しいから、リアルに戻りたくなる奴も居るらしいしぞ」
「マジか!」
「そう言えば、さっきのクエストの時に見たんだけど、お前の妹のレイナは神聖騎士でなくてアサシンだったな」
「そうだったな。俺も確認したよ、アサシンレベル5だった。あの白い鎧は神聖騎士用の装備じゃなかったのか。どうりでおかしいと思ったんだよ。俺とログイン時間がほとんど変わらないのにジョブを取るのが大変な神聖騎士だったっていうのが……」
「そうとも言えないぞ」
「ん? どういう事だ?」
「アサシンも上級職だから、武闘家と盗賊をレベル30まで上げないと取れないから結構取るのが大変なジョブなんだ」
「アサシンも取るのに100時間ぐらいかかるのか?」
「たぶんな。それに近い時間が掛かると思う」
「ログイン時間がほとんど変わってないのにそんなにプレイ時間に差が出るかな? たった10分の差でそこまでレベル差広がる物なのか?」
「俺には解らない。本人に聞いてみた方が早いんじゃね?」
「そうだな。後で聞いてみるよ」
食事を食べ終えると、また冒険者ギルドでクエストを受ける事にした。
やはりクエストをプレイした方が、フィールドでレベル上げをするよりも報酬も貰えるので効率が良さそうだ。
「よし、これを受けよう」
「殲滅クエストか」
「ワームケーブ殲滅。レベル5の6人パーティー推奨の殲滅クエストさ」
「殲滅クエスト?」
「ダンジョンの中の雑魚敵を倒すだけのクエストさ。報酬は今一つだけど雑魚敵をかなり倒すので経験値的にはかなり美味しいクエストなんだ」
「レベルを上げたいからうってつけのクエストだな」
「これならばさっきの転移石クエストみたいに強いボスが出て来ないので楽にクリアできるはずだ。大抵のプレイヤーはきついフィールド狩りなんてしないで、この殲滅クエストを受けてレベル上げしてるんだぜ」
どうりで村の外にあんまり人がいなかったはずだ。
「フィールド狩りより楽なのか?」
「そりゃな。クエストだから敵のHPは半分だし、クエストをクリアすれば討伐報酬の経験値が貰えるから、フィールドで雑魚を狩った時の三倍位美味い」
「マジかよ! なんで昨日クエストに連れてってくれなかったんだよ?」
「昨日はレイジの戦闘訓練が目的だったし、それにお前と一緒にプレイしてるとなんか楽しくてさ、クエストの事すっかり忘れてたんだよ」
「そうか……。俺もカオルとプレイ出来て楽しかったぜ」
冒険者ギルドでパーティーの募集を掛けるとすぐにメンバーが集まった。
二人は先ほどのパーティーを組んだ時のメンバーで二人が新規だった。
「またよろしくな、盗賊のコトリだ!」
「僧侶のウミです。またよろしくです」
「サトです。よろしくー」
「武闘家のカツヤだ! 攻撃は俺に任せろ!」
自信有り気なカツヤはカオルと同じβプレイヤーだそうだ。
パーティーメンバーを見るとこんな感じになっていた。
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レイジ 戦士 LV5
カオル 魔戦 LV5
コトリ 盗賊 LV5
カツヤ 武闘 LV5
サト 魔法 LV5
ウミ 僧侶 LV5
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回復が一人しか居ないのが少し不安だったが、このレベルでは僧侶を二人も確保出来るのはまれな事らしく、雑魚敵が主なクエストの場合、攻撃職を増やした方が火力が上がり殲滅速度が上がって被ダメージが少なくなり結果的に楽なんだそうだ。
念のために回復薬を買い込みダンジョンへ向かう。
ダンジョンの入り口は毎度の如く大混雑していて、クエストを失敗したプレイヤーたちで死体の山を築いていた。
「ああはなりたくないぜ」
カツヤは嫌悪感丸出しの目でそう言い放った。
「サービスイン直後だから無茶するプレイヤーが多いんだろうな」
「俺たちはレベル5でまだまだ弱いんで慎重に行こうぜ!」
「そうだな。確実に進めてクリアしよう」
俺たちはダンジョンの魔法陣の中に入った。
ダンジョンは毎度の如く薄暗い。
マップを見ると転移石クエストの時よりも多くの小部屋が有りその小部屋の中に赤い鬼のターゲットマークが有る。
「この鬼のマークを全部殲滅すればいいのかな?」
「そうだ。数が多いから端から倒していこう。俺に着いて来てくれ!」
カオルの先導でダンジョンを進む。
小部屋には二足歩行のオオカミのコボルトが一匹だけいた。
強さは『強い』だ。
「俺がまた最初に攻撃して敵の注意をひきつければいいのかな?」
「そんなの要らねぇ! 奴はゴブリンよりずっとHPが少ない。一撃必殺だ!」
そう言うとカツヤは小部屋に全速力で突っ込んで行った。
いきなりの乱入者に驚き身動きが取れないコボルト。
そのコボルトの顔面にいきなり重い拳を叩き込み、殴り飛ばし、敵を壁に叩き付けるカツヤ。
「よし! 今だ! 全員で攻撃だ!」
壁に叩き付けられて伸びている敵に剣撃と魔法を浴びせ一瞬で戦闘不能にさせる。
「ゴブリンと違って一瞬だな」
「雑魚だから弱いんだよ」
「僧侶の私の出番なさそう……」
「ウミさん。僧侶の出番は最後に有るから大丈夫。最後の大部屋は雑魚が沢山出てくるから大乱戦になる。そうなったら僧侶の回復魔法の出番さ。レイジ、その時は僧侶のウミさんを最優先で守るんだぞ。僧侶が死んだら終わるからな」
「わかった! 守りきってやるぜ!」
順調に進み全員がレベル6になった頃に最後の大部屋に辿り着いた。
部屋の中には五匹のコボルトと一匹のゴブリンが居た。
「ここか」
「今度は俺が突っ込んで行く作戦は使えないから、さっきみたいにはいかないぞ。俺がこの通路に一匹づつ誘い込むから、お前たちはそれを攻撃するんだ」
「解った」
「武闘家の俺が敵を釣り、レイジが盾になり、敵がレイジを攻撃した所を盾でパリィして攻撃を弾き、体勢が崩れた所をみんなで総攻撃と回復だ。それを六匹連続でこなす。いいな?」
「はい!」
「じゃ、いくぞ!」
「おー!」
カツヤは一番近くに居たコボルトに小石を投げつける。
するとカツヤの存在に気が付いたコボルトとゴブリンが全員大部屋前の通路に押し寄せて来た。
やばい!
全部の敵が来てるじゃないか!
マジでやばい!
それを見てカオルが怒った。
「おい! カツヤ! なに思いっきり釣り失敗してるんだよ! 何やってるんだ!」
「わりーわりー! でもこれぐらい余裕さ」
「死ぬ気で戦って挽回しろ!」
「言われなくてもそうするさ!」
同時に六匹の敵が襲ってきたものの、洞窟の通路が狭いお陰で同時には2匹しか侵入してこなかった。
それをカオルの指示通り処理する。
俺が敵の前に出て進行を阻む!
敵の攻撃を盾で弾く!
体勢を崩した敵に皆で総攻撃!
一匹、二匹と敵を処理していく。
三匹、四匹、五匹とコボルトを処理!
どうにか窮地は脱した。
カオルは安堵の声を上げた。
「よし! 最後のゴブリンだ! 行くぞ!」
「おう!」
カツヤの重い一撃で通路から広場の中央までゴブリンを弾き飛ばす。
「よし、これで動き易くなったな!」
地面に倒れているゴブリンに俺が切りかかる。
ゴブリンは俺の剣撃をギリギリの所で避けた。
何度も飛び跳ねながら「ギーギー」と怒り叫ぶゴブリン。
どうやらこいつには知性の欠片もなく、話す言葉も持っていない様だ。
その泣き叫ぶゴブリンの首に背後からコトリの短剣が滑り込んだ。
ゴブリンは「ぐぎゃー!」と泣き叫び息絶えた。
「ナイス! コトリ」
「さっきから弱点の首を狙える隙を狙ってたんですよ。レイナさんにゴブリンは首が弱点て教えてもらったので」
「なかなか良かったぞ」
「ありがとう」
「それじゃ、敵も殲滅したことだし帰るか」
カオルが何やら考え込んでる。
「どうした? カオル?」
「おかしい。敵を殲滅したはずなのに脱出用の魔法陣が出ない」
「え?」
マップを見ると確かに敵を殲滅していたが出口を示す魔法陣のアイコンはマップ上に存在しなかった。
「もしかしてバグか?」
「いや違う! 上だ!」
そこには巨大なモンスターが居た!
天井にマップでは表示されていない大蜘蛛が張り付いていた。