AI
「ログアウト出来ないぞ??」
ログアウトボタンを何度押しても反応しない。
「どうなってるんだ? これ!?」
結局、何をやってもログアウトは出来なかった。
隣にいるカオルを見ると同じようにログアウトできずに呆然としている。
「俺、ログアウト出来ないみたいなんだけど、なにか操作間違えてるのかな?」
「俺も何度もログアウトしようとしたけど出来無いんだ。たぶんシステム側の問題だと思う」
「ログアウト出来ないのは二人ともか。サーバー側のバグかな?」
「サービス開始初日だもんな。きっとバグさ。すぐに運営が気が付いてくれるよ」
「メンテ入って落とされるの待つか」
「そうだな。一応GMコールしてみる」
「俺もしておくよ」
メニューのサポートからGMコール>不具合報告で『ログアウトボタンが効かずにログアウト出来ません』とメッセージを送っておいた。
これでGMが気が付いて数時間後にはメンテナンスに入りサーバー再起動でログアウト出来ることになるだろう。
でもそれは、はかない希望だったことを後々思い知らされることになるレイジとカオルであった。
*
翌朝、レイナが戻って来た。
「お兄ちゃん、ごめん。昨日は忙しくて丸一日戻って来れなかった。本当にごめんね。一人で大丈夫だった?」
「ああ気にすんな。そのお陰で友達も出来たしな」
「友達? もしかして女友達じゃないわよね?」
「男だよ、男。男だから安心しろ」
「それならいいや。許す、許します」
ゲームの中でもレイナのブラコンは健在らしい。
「でもさ兄貴が男ばっかりと遊んでて男好きと噂が立ったらそれはそれで嫌じゃね?」
「別にいいもん! 男は彼女じゃないから許すし!」
「いいのかよ!」
「お兄ちゃんと結婚するのは私なんだからねっ!」
「はいはいはいはい。でも兄妹じゃ結婚できないだろ」
「出来るもん!」
そんな事を話しながらじゃれ合っていたらカオルが宿屋から出て来た。
「よう! お二人さん、こんな朝っぱらから宿屋の前で痴話喧嘩か?」
「ち、痴話喧嘩じゃねーよ! ただの兄妹喧嘩」
「そうか? なんか結婚がどうのこうの聞こえたんだが?」
「ちがうちがう! 兄妹で結婚なんてしないって!」
気が付くとレイナが敵意剥き出しでカオルの事を睨んでいた。
「だ誰? この人? 彼女じゃないわよね?」
「ちがうよ。さっき言った昨日友達になった奴だよ」
「そっか」
「俺はカオル! よろしくな!」
「わたしはお兄ちゃんの妹で嫁もしてます、レイナです」
「嫁は違うだろ!」
「てへへ」
舌をペロッと出して反省してる。
*
レイナの提案で転移石を貰えるクエストを受ける事になった。
転移石っていうのは何処にでもワープ出来る石らしい。
それを聞いたカオルもかなり乗り気だった。
「転移石か! いいなそれ! レベル20ぐらいになるまで取れないと諦めてたんだよ」
「そんなに高いレベルじゃないとダメなのか?」
「ソロだとね。パーティーだともっと低いレベルで取れるよ。3人パーティーならレベル10もあれば取れるんじゃないかな?」
「レベル10か。俺はレベル5だから全然足りないじゃないか。本当に取れるの?」
俺はレイナに向かって尋ねるように聞いた。
「元々3人で倒すつもりなんて無いよ。最大メンバーの6人パーティーで取るつもり。冒険者ギルドで残りのパーティーメンバーを募集するから大丈夫だよ」
「その手が有ったか! お前の妹は賢いな!」
「えへへへ。今のパーティーメンバーだと回復役が居ないからクエストやるなら回復役を募集するつもりでいたんだよ」
「あれ? カオルは魔法戦士だから魔法使えるんじゃないの?」
「いや、俺の使える魔法は強化魔法と妨害魔法がメインだから回復はまだ出来ないんだ」
「そうなのかよ! 防具もショボいみたいだし、魔法戦士は使い物にならないじゃねーか!」
「そ、そんなことは無いぞ! す、少しは役に立つ……」
俯いていじけるカオル。
なんか触れちゃまずい事言ってしまったみたいだ。
それを見たレイナが慌てて取り繕う。
「お兄ちゃん、魔法戦士はソロでは微妙だけど高レベルではパーティーの強化の要で大人気な職業なんだよ」
「良かったな! モテモテだとよ」
「モテるのはちょっと……」
「これだからイケメンは困るぜ」
「い、イケメンじゃないし……」
ローブのフードから覗かせるカオルの目が照れくさそうにしていた。
冒険者ギルドに着くと、クエスト掲示板から転移石の貰えるクエを受けた。
受諾レベルはレベル5以上、推奨レベルはレベル10の3人パーティーらしい。
クエスト内容はダンジョンの奥に住むゴブリンのボスの討伐という事だ。
「さてと募集掛けるよ!」
冒険者ギルドに併設された酒場で募集を掛けるとすぐにメンバー集まった。
「僧侶のウミです! よろしくねっ!」
「盗賊のコトリです! よろしくお願いします」
「僧侶のトモユキです。よろしく!」
パーティーメンバーを見るとこんな感じになっていた。
────────────
レイジ 戦士 LV5
レイナ アサシン LV5
カオル 魔戦 LV5
コトリ 盗賊 LV5
ウミ 僧侶 LV4
トモユキ 僧侶 LV6
────────────
だった。
レイナに言わせると結構いい編成だと言う。
このレベルで僧侶を二人も確保出来たのはかなりラッキーだと言う事だ。
レイナは経験者としてパーティーの初心者たちを引っ張る。
「じゃあ、みんな転移石クエストは受けたかな?」
「受けました!」
「はい!」
「じゃあ、いくよー」
俺たちはクエストに旅立つ。
*
レイナに連れて来られたのは村から少し離れた森の中の広場。
そこは野営地の様になっていて冒険者たちでごった返していた。
「なんだよここ? 冒険者ギルド並みに混雑してるし一体どうなってるんだ?」
「ここはクエストを実際にプレイするインスタンスダンジョンが有るの」
「インスタンスダンジョン?」
「えーとね……、うーん、なんて説明すればいいのかな?」
レイナが答えに困ってるとカオルが俺に教えてくれた。
「βの時はクエストもすべてフィールドで行われてたんだけど、一ヶ所に人が集まるからものすごく混雑してね。それなのにクエストのターゲットになる敵は一匹だろ? それはそれは物凄い取り合いになって、物凄いトラブルになったんだ」
そのトラブルは殴り合いなんだろうけど詳しく聞きたくない。
「そこで比較的難易度の低いクエストはインスタンスダンジョンになったんだ」
「カオル、それインスタンスダンジョンの説明になってない」
俺が突っ込むと、みんなで笑う。
「あそこに見える魔法陣の掛かった門が有るだろ? あそこからパーティー専用のダンジョンのインスタンスダンジョンにアクセスして行われるようになったんだ」
「インスタンスダンジョンていうのはクエスト毎に生成されるパーティー専用のエリアの事だよ。取り合いが起こらないので殺伐になりにくいの」
インスタンスダンジョンとはパーティー専用のダンジョンの事なのか。
なるほどね。
「自分たちでダンジョンを占有出来るので落ち着いて遊べるけど、逆に言うと敵に圧されてキツイ状況になっても誰も助けに来てくれないから慎重にプレイしないといけないんだ。ほらあそこを見てくれ。門の前に死体がいっぱい転がっているだろ?」
門の前を見ると、全滅してインスタンスダンジョンから追い出されたのか死体の山が積みあがっていて、僧侶が必死に蘇生呪文を掛けているのが所々で見えた。
「あれはクエストを失敗したプレイヤーの末路さ」
「なるほど。ああならない様に気を付けるよ」
みんなもカオルの説明を聞いて勉強になったという顔をしてる。
「さ、みんな準備が出来たかな?」
「おう!」
「今回のクエストはリーダーだけがクリアになるから、パーティーメンバーの人数分クリアしないといけないんだよ。リーダーを順に廻すね。まずはお兄ちゃんから!」
俺の視界の端にパーティーリーダーのマークが付く。
「じゃあ、いくよ!」
俺がギルドカードを門に掲げると、魔法陣が光り出し門が開いた。
俺たちはダンジョンの前に設置された鋼鉄製の門の中へと進む。
ダンジョンの中は真っ暗ではなく、光るコケやどこから差し込んでいるのか解らない謎の照明で薄暗いものの普通に歩ける明るさであった。
リアル世界の洞窟だと中は真っ暗になるのが普通だが、ここはゲームの中の世界なのを実感させる。
「ボスは何処にいるんだ?」
「メニューからマップを見てみてー」
レイナに促されてマップを見る。
すると地図の中に、ボスらしい赤い鬼マークみたいな物と黄色い鍵マークが光っていた。
「この赤いのがボスだよな? この黄色い鍵マークは何だ?」
「それはボスの部屋に入るカギだよ」
「ボスの部屋に入るのにわざわざ鍵が要るのかよ」
「ゲームだからね」
パーティーメンバーはそれを聞いて大笑いした。
『ゲームだから』と言われたら何にも言えなくなった。
このゲームはリアルだからファンタジー世界に居るんじゃないかと時々錯覚するけど、ここはファンタジーの世界では無くてあくまでもゲームの世界だと言う事を俺は再認識する。
「はぐれない様にまとまっていくよ。もしはぐれたら大声で助けを呼ぶんだよ」
「うん」
「わかった」
俺たちは慎重に鍵のある部屋を目指す。
途中の通路でどうしても避けられない敵と出くわした。
ゴブリンだ。
俺は敵のステータスを確認する。
強さは
──強い相手だ。
これはマズイ!
明らかに手を出したらまずい敵だ。
こんなのに手を出したらパーティーが全滅しかねない。
「コイツはつよさ『強い』だから、他の道を探そう」
俺が回避して別ルートを取ることを提案するとカオルは却下した。
「何言ってるんだよ! レイジ! 余裕だろ?」
「いや、敵のつよさは『強い』だぞ? さすがにヤバいだろ? 『強い』は避けろと昨日お前が散々言ったことだぞ!」
「俺は言った筈だぞ。『ソロ』では避けろと! 今は何人だよ?」
「六人だ」
「じゃあ余裕だ」
「いけるのか?」
「余裕!」
「じゃあ行こう!」
「おう!」
「援護は任せた!」
俺は敵に向かって飛び込み、切りかかった!
銅の剣を渾身の力で振り下ろす!
避けられる事は無かったものの敵の傷は浅い。
やはり強い敵だけはある。
ゴブリンの反撃だ!
大ぶりの薙ぎ払うようなこん棒攻撃だ。
これは扇状の攻撃!
敵の後ろに回り込もうとするが、通路が狭くて回り込めない。
俺はその攻撃を盾で受ける。
重い棍棒の攻撃を木の盾で受けると衝撃で手が大きく痺れ痛みも走る。
「いたたた! コイツにはダメージが入らないし、攻撃が物凄く重いから倒すのは無理じゃね?」
「だいじょぶさ、攻撃するのはお前だけじゃない。お前の妹がもう動いてるぞ」
何かがレイジの横を風の様に駆け抜けた。
レイナだ。
レイナは猛ダッシュで壁から天井に駆け上がり、ゴブリンの後ろに着地すると同時に首から背中迄を短剣で切り裂いた。
「ぐぉぉぉ!」と悲鳴を上げるゴブリン。
痛みで動けなくなったゴブリンに盗賊のコトリと魔法戦士のカオルが止めを刺す!
ゴブリンは一瞬で絶命し霧の様に消えた。
「勝てたね!」
「おう! 勝てた、勝てた。俺は何にもしてないけどな」
「いや、レイジはしっかりと敵を足止めする盾役として活躍したさ」
「うん、活躍してたよ!」
「そうなのか?」
「これがパーティーでの連携だよ。お兄ちゃん!」
「お、おう」
なんか先生的な二人から褒められるとすごく嬉しい。
「さ、レイジ! どんどん先に進むぞ!」
「お、おう!」
僧侶の呪文で攻撃を受けた時の怪我を軽く治すと先に進む。
その後三回の戦闘を経て、鍵の入った宝箱の有る部屋はすぐに見つかった。
鍵は二体の石像の間にご神体の様に宝箱が祭られている。
俺が宝箱を開けようとするとコトリに止められた。
「罠が掛かってますね。盗賊の私が開けます」
そう言うとコトリはピッキングツールを使って慎重に解錠を行う。
20秒ぐらい鍵と格闘するとカチャリと音がして錠前が落ちた。
「開けました。どうぞ」
宝箱を開けるとその中には金色をした鍵が入っていた。
俺はそれを手に取る。
「よし、手に入れたぞ!」
「じゃあ、次は待望のボスの部屋だね」
「コトリ。ちなみにさっきの宝箱の罠はどんな罠だったんだ? 毒とかなのかな?」
「毒じゃないです。あの石像二体が襲ってくる罠でした」
「マジかよ! あれ動くのか? あれ動いたらめちゃくちゃ強いだろ?」
「盗賊を入れておいて正解だったね!」
「正解! 正解! 大正解だよ」
「お兄ちゃんレイナをもっと褒めてー!」
「おう! お前は賢い! 天才だ!」
「まあ、実際に鍵を開けたのはレイナさんじゃなく、コトリさんなんだけどな」
「あはははは!」
「むう!」
カオルに突っ込まれて少しムッとしたレイナ。
そんな事をしていると、ボスの部屋に辿り着いた。
「よし開けるぞ!」
鍵でドアを開けると重い音を立てて扉の鍵が開いた。
中には身長3メートル位の今までのゴブリンの二倍は有る大きさのゴブリンが待ち構えていた。
「でか!」
「今まで通りの作戦で行くよ!」
「おう!」
ゴブリンは巨大な棍棒を手に取り構えた。
「我がアジトに土足で踏み込むとは、死の覚悟は出来ているんだろうな!? 死ねい!」
俺は棍棒を盾で受け止める!
「ぐっ!」
攻撃を受けると衝撃で後ろに2メートル程弾かれる!
すごく重い攻撃だ!
でも耐えられる。
僧侶のウミとトモユキが俺の減った体力を回復してくれている!
魔法戦士のカオルが俺に防御力強化を掛けてくれている!
俺は一人じゃない!
「うしろは任せたぞ! カオル! トモユキ! ウミ!」
「任せてください!」
既にレイナは無言で動いていた。
床を蹴る!
飛び上がる!
天井に張り付く!
急降下!
そして!
首から背中にかけて切り裂く!!!
「ぐおおおおおおお!!!」
巨大なゴブリンは床の上に倒れ込む!
「トドメ行くわよ!」
コトリが心臓を突いてゴブリンは動かなくなった。
ゴブリンは小皿の様な物を残し、霧のように消えた。
「よし! 倒したぞ!」
「楽勝だったな」
「この小さな深皿みたいな物はどうすればいいんだ?」
「これは聖杯ね。これを冒険者ギルドに持って行くと転移石に変えてくれるの。それでクエストクリアよ」
「なるほど。じゃあリーダーを変えてもう一度行こう! 次はレイナかな?」
「あ、わたしはもうクリアしてるから、カオルさんどぞ」
「ありがとう」
俺はカオルにリーダーを渡す。
「カオルさんにリーダー渡してくれたかな?」
「渡したぞ」
「じゃあ、あそこに光ってる脱出用の魔法陣有るでしょ? あそこにギルドカードを掲げてみて。そうしたらここの部屋に入った所から再戦出来るから」
「βの時と違って最初からクエストやらなくていいのか。すごく便利になったんだな。じゃ行くよ!」
「さっきみたいにサクッとクリアしちゃお!」
二戦目は開幕直後の攻撃で俺の防御が崩れて少し手間取ったもののクリア。
コトリの番の三戦目も俺の攻撃が崩れ、そしてレイナの攻撃で敵が倒れず、倒すのに苦労した。
「はぁはぁ、やっと倒せたな」
「うん、すごく大変だったね」
「また防御が崩れちゃってすまない」
カオルが何か考え込んでる。
ローブを頭から被っていてフードの暗がりでよく見えない表情でも明らかに何か悩んでいることはすぐに解った。
「どうした? カオル?」
「俺の気のせいかもしれないんだけど……なんか敵が強くなってないか?」
「そうなのか?」
「一戦目はレイジの盾で最初の攻撃を余裕で防げたけど、二戦目三戦目は防げなかっただろ?」
「すまん」
「いや、あれはお前のせいじゃないよ。明らかにゴブリンの棍棒が大きくなってた気がする」
「マジかよ!」
「それにあの巨大なゴブリンの動きも三戦目で変わってた」
「どう変わったんだ?」
「レイナの上空からの攻撃を明らかに避けようとしてた」
「そうなのか? レイナ?」
「うん。確かにそんな感じだったかも。落下し始めたら前に進んで避けようとしたから攻撃の入りが浅かったんだ」
「もしかして、ゴブリンは俺たちの攻撃を学習して予測してるのか?」
「βの最終バージョンでも敵AIにそんな機能は無かったんだよな。それで気になったんだ」
「あと二戦有るから、本当にAIが学習してるのかやってみれば解るな」
「そうだね。じゃあいつも通りにやってみよう!」
「おー!」
四戦目も苦戦したが巨大なゴブリンを倒すことが出来た。
だが五戦目を始めた瞬間、全員が愕然とした。
武器が今までの木の棍棒では無く鉄製の棍棒『メイス』に変わってた。
「どう言う事なんだよ! 明らかに武器が違うじゃないか!」
「やはり学習していたのか!」
下卑た表情をしながら巨大なゴブリンが言った。
「お前達に何度も負ける訳にはいかないのでね。とっておきの武器を持ってきたぜ!」
「何度もって……なんでNPCが記憶を持っているんだ? βの時はそんなこと無かったぞ!」
「β? 何それ美味しいの? ぶははははは!」
そう言うと鉄の棍棒をいきなり振り下ろして来た!
カオルが叫んだ!
「避けろ!」
俺はその声を聞いた瞬間、盾の防御態勢を解いて後ろに飛び退く様に避けた。
すると今まで俺が立っていた場所の石畳に大穴が開いた。
さっきと攻撃の威力が全く違う!
馬鹿正直に攻撃を盾で受けていたら大けがをしていただろう。
「避けたか! 惜しかったな。でも次は無いぞ!」
今度はゴブリンが薙ぎ払う様に棍棒を水平に振り回す。
突風の様な風と共に巨大なメイスが辺りを薙いだ。
それをみたレイナが天井に張り付き急降下攻撃を仕掛ける!
筈だった……。
レイナが天井に向かって飛び上がると同時に巨大なゴブリンは天井に向けてメイスを投げつける!
レイナが張り付く地点に向けて!
「何度もその手は喰わねーよ! ぐふふふ!」
「レイナ!」
俺は思わず叫んだ!
激しい音とともに天井が崩れ大穴が開いた。
レイナは!?
いた!
レイナは大穴から少し離れた天井に張り付いていた。
「直前で避けたのか! 忌々しい! 次は確実に仕留めてやる! 死ね!」
ゴブリンが床の上に転がったメイスを拾いあげ投げようとしたときレイナが動いていた。
「!」
レイナは急降下攻撃でゴブリンの首を撥ねていた。
「屈み込んで弱点のうなじを見せちゃダメだよ!」
ゴブリンの撥ねられた首がレイナを恨めしそうに睨んでいた。
「やったな!」
「ああ! やった!」
「殆どレイナさんの活躍だったけどね」
「てへへへ」
「ありがとう!」
「ありがとうレイナさん!」
皆に感謝され満更でもないレイナだった。
俺達はダンジョンを出ると冒険者ギルドに向かう。
もちろん転移石クエストのクリアを報告するためだ。
ギルドカウンターの受付嬢に聖杯を渡しギルドカードを見せると、カードを見つめ何度か頷いた後に言った。
「おめでとうございます、レイジ様。クエストの完了を確認しました。こちらが報酬の転移石とお金です」
俺達は転移石とお金10000ゴールドを受け取った。
「やったな! レイジ転移石だぞ!」
「やったな!」
「おめでとう! お兄ちゃん! わたしちょっとクランの方に顔出してくるからまたねっ!」
そう言うとレイナは転移石を使い光の中に消えた。
*
──首都ジェネシス 神聖騎士団 クラン会館 団長室
レイナが団長室に入ると、既に団長と幹部が集まっていた。
「どうでしたか? レイナ君。NPC調査の方は?」
「転移石クエストのボスを調べて来たんですが、明らかに戦う度に強くなっていましたね」
「やはり噂は本当でしたか」
「本来は1メートルに足らないぐらいの大きさのボスゴブリンが数戦繰り返すだけで3メートル程のサイズに強化されていました」
「それは……事実なのか?」
「はい、私がこの目で見て来たので間違い有りません。既にゲームバランスは崩れクリアできないプレイヤーも数多く存在しているようで、ダンジョンの入口には戦闘不能となっているプレイヤーが山積みになっていました」
「なんと! そこまでゲームバランスが崩れていたのですか。これは早急な調査と対策が必要ですね」
「レイナ君。調査の協力、ありがとうございました」
「あの……これは杞憂かもしれないのですが……」
「なんです? 言ってみて下さい」
「どうやらNPCが知性と記憶を持ち始めているようなのです」
ざわつく幹部たち。
「NPCが知性と記憶を持ち始めてるって……それは本当か?」
「今回のボスに関しては間違いないかと思います。いつもの定型的なセリフではなく独自のセリフを話していましたし、そのセリフは会話としてちゃんと成立していました。それに過去のプレイヤーとの戦闘の記憶を参考にして、再戦時はプレイヤーの攻撃予想に対しての対策を入れていました」
「敵AIがアルゴリズムを超える知性を持ち始めましたか……」
「とんでもない事が起こり始めているみたいですね……。あの土曜日の午後二時を境にこの世界に異変が起こり始めているのは間違いないようです」
「ですな……まるでこのゲームをクリアさせないようにしているとしか思えないことが起きていますね」
会議室では沈痛な面持ちをした幹部たちが異変の対策を話し合っていた。