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23/23

発売中止

 ――今から約一ヶ月ほど前……


 ――『BBB』こと『ブラッディ―・バーニング・ブレード』開発室

 

「どうだい? 俺のリングアナっぷりは」


 BBBのヴァーチャル世界から戻って来たHiroxxことオンラインゲーム運営管理課第二係長のシニアGM 澤田さわだ浩史ひろしは得意げな顔で開発係長に話す。


「ちょっとやり過ぎだったんじゃなかったですかね?」


 苦笑いしながら答える開発部第一係長 服部はっとり


「いや~、お前らがパラメーター設定間違えてサービスイン前からゲームバランスを崩壊するようなレアユニークスキルを付けまくったバグアイテムを誤実装したのを俺が無いことにして尻拭いしたんじゃないか……」


「対処ありがとうございます。これで社長に怒られなくて済みそうですよ」


「戦いで勝負がつかない様にダメージ調整して自然な感じで時間切れにするのが結構大変だったんだぜ。どっちかが勝ったらあの鎧を渡さないといけなかったしな……イベント告知前にアイテムデータベースをハックして性能解析するバカユーザーさえ居なけりゃこんな騒ぎにならなくて済んだのによ」


「でも、その鎧の性能がリークされたおかげで、最終イベントにあれだけの数の人集まったんですけどね」


「まぁ、そのおかげでオープンβ最終イベント参加権付の製品版の予約数もすごい伸びたみたいだったんだよな」


「ハッカー様々ですね」


「あははは。そんな奴らに感謝するなよ」


「そうですね。あははは」


 二人は誰も居ない静まり返った開発室で大笑いした。


「それにしても、あのダイスも露骨過ぎましたね……。普通のダイスは最大値が998までなのにマスター収集の999じゃないですか」


「解る奴には解るからそれでいいんだよ。俺たち運営はバランスブレーカーは放置しないって意思表示になるからな」


「でも、今回のイベント全てが仕組まれたって事がバレたらネットで大炎上しませんか?」


「あいつらにはそれなりの物を渡しておいたからだいじょぶだろ」


「なにを代わりに渡したんですか?」


「二人には豪勢なクラン本部の建物の権利書を渡しておいたよ。首都クラスの都市にある王宮クラスのクラン本部だから、クランの長をしている二人には鎧より価値のあるもののはずだ」


「結構思い切った事しましたね」


「これぐらいの事をしないと向こうも納得しないだろうからね」


 澤田は座っていたコンソール卓の椅子で一伸びをした後、立ち上がり開発係長と共に開発室脇にあるドリンクコーナーにある席に移動しコーヒーを飲む。


「ところで、あのおばさんの件どうするんだ?」


 澤田は開発係長に伺う様に聞いた。


「おばさんて、あの市民団体のポリコレおばさんのことか?」


「そそ、あのおばさん、発売日直前の今更になって『風呂屋で服が脱げるのは幼児ポルノ法に抵触するから発売中止しろ!』だもんな……」


「風呂屋で服を脱げるのは当たり前だと思うんだが……。俺も開発の端くれで詳しくは知らないが、波風立てたくない社長や経営陣は発売延期して半年ほど掛けて全面改訂を入れる方向で進んでるらしいぞ」


「それだと一ヶ月後の発売はどう考えても無理そうだな。発売日も決まって予約販売してるのにどうするんだよ……」


「とりあえず、開発としては公衆浴場削除と宿屋以外では下着迄しか脱げない様に応急処置をしているけどデーター的には全裸のスキンデーターがそのまま残ってるから、それだけじゃあのギャーギャー騒ぐおばさんが納得しそうもないんだよな~」


「困ったもんだな……」


 二人は椅子に座ったまま天井の照明を見つめてため息をついた。


 *


 ――発売日前日


 ――『BBB』こと『ブラッディ―・バーニング・ブレード』開発室


 開発室脇にある殆どの社員が帰宅して人気がなくなったドリンクコーナーにある席で澤田と服部は休憩がてらコーヒーを飲みながら雑談をしていた。


「どうです? 明日のサービスインの方は?」


 服部が心配そうに聞く。


「この前問題になってた裸関係の修正パッチの確認自体は順調に終わったから問題ないかな……」


 澤田は怪訝けげんそうな顔をして答える。


「自体はって、何か気になる事が有るんですか?」


「まぁな……」


「どんな事です? 場合によっては徹夜で修正しないといけないので……」


「お前の部署は関係ない話だから安心してくれ。俺は明日のサービスインの準備が有るから除外されたんだけど、今朝になって会社の上層部の指示でGM全員が研修という名目で富士北麓のサポートセンターに缶詰めになってるんだよ」


「会社側がサポートの研修を抜かりなくやってるって事は、いい事なんじゃないですか?」


「俺も研修自体はいいことだと思うんだけど、その時期がな~。発売前日のこの時期にそんなことやるか?」


「確かに……」


 普通ならサポートスタッフはサービスインに備えて待機しているはずである。


 それが今更研修とかあり得ない。


「明日のシフトの引き継ぎの確認で缶詰めになってる俺の部下に連絡入れたんだけど、今日は徹夜になりそうだから今缶詰になってるメンバーは明日のシフトには入れないって言うんだよな~」


「サービスインの前日なのに徹夜なんですか?」


「サービスインの前日に研修で徹夜して、サービスインの当日にサポートに入れないなんて事、常識じゃ有りえないだろ?」


「なにか問題起きたら対処できないですよね」


「俺もな~、サービスイン当日にサポートスタッフが俺一人ってのはさすがにマズいだろうと思って課長に直談判したけど、社長からの直接の指示だから変更出来ないって言うんだよ」


「サービス開始初日にサポートへのコールが殺到するのが目に見えてるのに……会社の上層部はオンラインゲームの事よく解ってないんでしょうね」


「で、さすがにこれはまずいって事で必死に課長に交渉した結果、どうにか一人だけ俺の後の時間のシフトをする担当者を付けてもらったんだけど、夜10時からなんだよな~」


「それってサービスインが明日の正午だから10時間ぶっ通しで勤務って事です?」


「10時間の訳ないだろ……。俺、今日も泊まりで朝方に2時間ぐらいしか仮眠取れないから実質70時間はぶっ続けだよ」


 呆れた表情で乾いた笑いをする澤田。


「さすがに、それはキツイですね…」


「まぁ、それは大したことじゃないからいいんだ」


「まだ他にも何か気がかりな事が有るんですか?」


「まぁな。缶詰めにされてる俺の部下たちは何してるか知ってるか?」


「やっぱりサポート対応の研修か何かでしょうか?」


「いや、そんな事はしていなくて、なにやらバグチェックしてるだけみたいなんだ」


「バグチェックって……、オープンベーター終了の時点で既にプログラムのFIXフィックスしましたよね?」


「なんだよなー。このタイミングでわざわざバグチェックする事なんてもう何もないのに」


「さすがにこのタイミングでバグ報告されても開発も困りますね」


 困惑の表情をしながら軽く笑う服部。


「でさ、明らかにやってる事がおかしいんで明日俺の後にシフトに入る奴に、確認ついでに聞いてみたら何やらバグチェックと称して実際にゲームをプレイしてるみたいで今は魔王城を探索してるらしいんだよ」


「ゲーム内から調べなくてもプログラムのマップデータから調べればすぐなんですけどね……。必要ない事してるような気がします」


「魔王城でなにかバグの原因になる物とか有ったっけ?」


「んー、特に変なことしてない普通のMAPですし……。有るとすれば僕が会社に隠しで実装してある特権コントロールルームぐらいかなー」


「なんだっけ? バグった時の緊急停止用のコンソールだよな?」


「そうです。このゲーム内から外のコンソールと同じく再起動やら設定変更の指示を出せるんです」


「そんなものゲーム内に実装してて大丈夫なのか? プレイヤーが勝手に弄って大騒ぎにならないか?」


「大丈夫ですよ。そう簡単にはアクセスできない様にセキュリティー対策してありますし。ただファームウェアレベルでの実装なので慎重に扱わないとゲームがクラッシュしますね」


「よく解らないけど触るなって事かな?」


「せっかく実装したので後で説明書送りますから使ってくださいよ。結構便利だし緊急時に役に立ちます」


「時間あったら弄ってみる」


 服部がコーヒーを飲み干した後、声を潜めて話しだす。


「ところで、先輩、あの噂聞きました?」


「何の話だ?」


「ちょっと前に市民団体のおばさんがクレーム付けてきたって話有ったじゃないですか」


「あ~、あれな。あのクレームってどうやって処理したんだ?」


「なんでも、あのおばさん、他の企業相手に恐喝してたって疑いで今拘置所に収容されてるそうですよ」


「そうなのか……それで何事もなく発売に漕ぎ着けたんだな」


「それに、こんな噂聞いたことあります?」


「まだ何かあるのか?」


「うちの会社、身売りしたそうなんですよ」


「マジか?」


「登記上はまだ何も表沙汰にはなっていないんですが、既に実質的な経営陣が入れ替わってるらしいです。次の株主総会辺りで発表有るって噂されてます」


「そうなのか……GMなんて職歴にならないから今クビになったら再就職先見つかるか心配だな」


「最近は何処も再就職厳しいですからね~。僕も開発に携わっているけど、今のゲーム業界は何処も人があぶれてるからクビになったら次の仕事見つかるか心配ですよ」


「無職になるのだけは嫌だな」


「嫌ですね」

 

 二人は椅子に座ったまま天井の照明を見つめてため息をついた。

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