レッドレイク
早馬車がレッドレイクに着くと午前10時を過ぎていた。
「やっと着いたかー」
「やっと着いたね」
武闘家アツシとエミリの二人組は、さっきまでのボロ雑巾のような状態から、もう復活して元気に馬車を降りた。
馬車の中で俺に肩を抱きかかえられていたサキは「レイジ君、ありがとう」と小さな声で俺に礼を言いふらつく足取りで馬車を降りていく。
そして、馬車から降りた俺の目の前には深い緑の森林と大きな湖の脇にそびえ立つ城塞都市があった。
その城はヨーロッパの古城のような感じで、首都ジェネシスの荒野にそびえ立つ無骨な城塞都市とは違い、辺りの大自然の綺麗な風景と相まって芸術的な美しささえも感じられる程だった。
先に転移石で移動してたキョウヤさんが俺たちを出迎えてくれる。
「到着しましたか、お疲れ様」
俺が城を眺めているとキョウヤさんが話しかけてきた。
「このお城、物凄く綺麗でしょう。湖畔にたたずむ城って感じで綺麗ですよね」
「ええ。凄く綺麗で思わず見入ってしまいましたよ」
「なんで、このお城がレッドレイクと言うか知ってます?」
「さー? 戦いで血塗られた城とかですか?」
「ははは。そんな訳ないですよ。ここのお城の横に湖が有るのが見えるでしょ?」
「はい。湖も綺麗ですね」
「秋になると、湖の周りに生えてる紅葉が一斉に紅葉して、湖が真っ赤に染まるんですよ。その湖が真っ赤に染まる事からレッドレイクの城と名付けられたんです。すごく綺麗なんですよ」
「なるほどー。秋になったらぜひ見に来てみたいです」
「あ、着きましたね。さ、こちらへ」
俺たちはキョウヤさんに連れられて城門から街の中に進んだ。
街は大きく中世の城下町のような作りで、洗練されたローマ風都市のジェネシスとは明らかに違った。
この大陸で始めたプレイヤーたちの中央都市のジェネシスに相当する街らしい。
そのせいか街の中には首都ジェネシスを超える程の人がいた。
これだけ綺麗な街並みなら多くの人が集まるのもなんとなく解る。
「この街の人気は街並みだけじゃないんですよ。鍛冶が盛んで前衛用の武器防具や後衛用のアクセサリが容易にしかも安く入手できるって言うのも人気の秘密なんです」
俺の横を歩いていたサキがポツりと言う。
「ここでしか買えない物も多いです」
「そういえば、俺の武器はレベル28になった時に買い揃えたものだから、そろそろ買い替えないとなー」
おまけに盾は砕け散ってもうない。
俺は武器防具屋で一番強い78,000ゴルダのレベル50の片手剣と、53,000ゴルダのレベル50の盾を買った。
盾には特殊効果は一切付いていなかったが、分厚くしっかりした作りで防御力だけは申し分無さそうだ。
この盾ならジャックの大槍の攻撃を喰らっても貫通なんて事は無いだろう。
キョウヤさんは氷結回廊へ入る許可を貰ってくると言って赤獅子騎士団のギルドと城へ行き、サキは武器防具屋の隣のアクセサリー屋にアクセサリーを買いに行った。
アツシとエミリは装備も買わずに、露店で鉄の串に肉と玉ねぎとピーマンが刺さった長さ50センチ程もある大きなバーベキューみたいな串焼きをひたすら貪り食っていた。
「これ、うめ~! すげー、ジューシーだわ! 20本はいけるぜ!」
「やっぱ、レッドレイクって言ったら串焼きだよねっ! わたし30本はいける!」
「じゃ、俺は40本行くぜ!」
馬車の中で大リバース大会を開いた二人とは思えないほどの食いっぷり。
相変わらずおバカな二人であった。
俺も串焼きを食べてみたら確かに美味かった。
表面がこんがりと焼けているのに、バーべーキューにありがちな肉の固さも無い。
肉はジューシーなのに中までちゃんと火が通ってるので臭みがない。
野菜も火が通っていて甘さが感じられる。
まさに絶品だ。
カオルが前に、このゲームの食事はレストランなんかの監修が入っていると言ってたが、きっとこの串焼きもレストランの監修が入ってるから美味しいんだろう。
でも、このボリュームじゃ一本食べきる前におなかいっぱいだ。
サキが物欲しそうに俺を見ている。
「サキも食べたいのか?」と俺が聞くと。
「食べたいけど、ここのは大きすぎてね……」ボソッと言われる。
「俺の食べかけだけど、まだ手を付けて無いとこが残ってるから食べるか?」
「いいの? ありがとう」
サキに最後のお肉の残った串を渡す。
サキは両手で串を持つと、ムシャムシャとハムスターがひまわりを食べるみたいな感じで可愛らしく食べている。
「かわいい」
思わず声に出そうになるのを慌てて抑える俺。
そんな事をしてるとキョウヤさんが戻って来た。
「お待たせしました、それでは行きましょう」
「串焼きで腹もエネルギー満タンだ! 行くぞー!」
「おー!」
小学校の遠足だと間違うようなほど浮かれている武闘家二人を先頭にレスティア氷河への移動が始まった。
街の外に出ると白樺の木が生える綺麗な林の中で、多くの冒険者が野生動物みたいなモンスターを倒していた。
「ここの街って首都なのにクエストしないで、フィールド狩りなんてしているプレイヤーが居るんだな」
「バッカだなー、レイジ」
「バッカだねー」
「なんだよ! いきなりバカバカ言うなよ」
「あれがレベル上げに見えるのかよ?」
「レベル上げじゃないのか?」
冒険者が狩ってるのは、ウサギだの、甲虫だの、イノシシだの、狼だの、中には豚みたいな獣人を狩ってるパーティーも居た。
物凄くプレイヤーが密集していて敵が足りないような感じで、ウロウロと走り回って敵を探してる人さえいるような感じ。
どう見てもレベル上げである。
ここでレベル上げしなくて良かったなとつくづく思った。
「どう見てもレベル上げだけど?」
「これは素材狩りさ。レッドレイクには生産系のギルドが多いだろ? だから戦ってるんじゃなくて生産に必要な素材を集めてるのさ」
「クエストをやるのよりも美味いのか?」
「なんか最近、クエストの難易度がやたら上がっててまともにクリア出来ないからな。たぶんそれでフィールド狩りして素材集めてるんだと思うぜ」
「なるほどねー」
たしか最初の町のビレジのクエストも結構きつかったから、素材集めならフィールドでした方がいいんだろう。
道沿いに30分ほど歩くと洞窟を見つけた。
洞窟の入口には大きな石門を構え侵入者を拒んでいる。
「氷結回廊への入口はここですね」
「これが氷結回廊か」
「この門の先にはレベル40を超える敵がいます。間違えて新米冒険者が入り込まない様に封印が施されているので解除しますね」
そう言うとキョウヤさんは城で貰ってきたお札の様なものを右手で門に掲げ何やら呪文のようなものを唱え始める。
お札が光り輝く。
するとドアが砂煙をあげながらゴゴゴゴと低い音を立て石門の扉が開いた。
「では行きましょう」
洞窟の中に入るとそこは神殿や教会の様な作りの大きな部屋になっていた。
壁にはたいまつの様なものが燃えていてそれが照明代わりになっている。
パチパチとたいまつが燃えて時より小さく爆ぜる音が大きな部屋に響く。
「さ、こちらへ」
キョウヤさんの案内で神殿の奥に進むと、奥にある祭壇の横から氷の洞窟に進む道が続いていた。
急に空気がひんやりと冷たくなり、肌にまとわりついてきた。
辺りは一切の照明が無いのに壁や床、天井自体が発光しているのか十分に歩けるほど明るくなっている。
現実ではありえない情景でゲームと言う事を意識させられる一瞬であった。
洞窟を進むと寒さは段々と厳しくなり、その為か壁がびっしりと分厚い氷で覆われる。
「この氷でカキ氷作って売ったら儲かりそうだねー」
「おおー! これで一儲けして町一つ買うか!」
「いいねー! そうしたらバーベキュー屋は私の物ねっ!」
「それは俺のだ。それだけは譲れん!」
「じゃ、あたしはアイス屋でいいや」
「交渉成立だな。ウハハハ!」
「だねっ! アハハハ!」
ハイテンションな二人についていけない……。
「レイジ君、今日は大人しいですね」
「いや、そんな事ないですよ」
おバカな二人に呆れてるだけなんだが。
「いつも一緒に居たカオルさんが今日は居ないから寂しいのかな?」
「ウハハハ! ふられたー! ざまあ!」
「アハハハ! ふられたー! ざんねんー!」
「うるせー!」
「ふられて落ち込んでる人を、からかうのは良くない」
ボソッとサキさんに言われる。
サキさん、やめて。
本当にカオルに振られた気がしてきて悲しくなってくるぞ。
そんなバカ話をして洞窟を進んでいる俺たちの前に何者かが獣の咆哮と共に襲ってきた!
大きな熊ほども有ろうかというサイズの獣!
まんまるな球の様な白い毛むくじゃらの雪男、イエティが襲い掛かって来た!
「こんな奴、レベルの上がった俺たちには雑魚だ」
「そうだ! そうだー!」
「よし、エミリ、お前が倒せ!」
「めんどいから、いや。言い出しっぺのアツシ倒して!」
「おれもめんどいなー。じゃあ、真ん中とってレイジが倒せ」
「なんで真ん中が俺なんだよ!」
わけわからん。
でも、ゴネてても先には進めない。
「俺かよ……。しょうがないなー」
仕方なく俺は雪男を倒す事にした。
俺はしぶしぶ剣を抜き盾を構え、敵を詳しく見たみた。
──イエティ レベル152 凄まじい強さ
えっ?
レベル152?
敵のレベルってレベル99までじゃなかったのか?
俺は大声で警告をする。
「逃げろ! こいつはレベル152だ! レベル99を超えてる!」
「マジか!?」
「えー? マジ?」
見た目はかわいいけど筋肉ムキムキの雪男は吠えるように俺たちを睨む。
「ここで待ち構えていたら雑魚が迷い込んで来たわ! お前らを魔王城の有る氷河には行かせん! 死ねい!」
魔獣の大きな腕がレイジに振り降ろされた!
*
俺が早めに警告した事で、俺たちを狙ったイエティの強烈な右パンチ。
だが俺はさっと身を引いたので空振り。
目標を失った拳は壁に当たる。
氷の壁が大きく崩れた。
イエティの破壊力は凄まじい。
素手の拳の攻撃なのに、氷の洞窟の壁を大きく抉り取っていた。
こんなのが当たったらひとたまりも無い!
「殺られる!」
俺たちは脱兎の如く逃げ出した。
「みなさん、出口まで逃げられれば、封印の扉が有るから追ってこない筈です! そこまで逃げましょう!」
「そこまで逃げられるのか?」
「逃げられるじゃねーんだよ! 逃げねーと殺されるんだ!」
「おい! レイジ、お前が餌になって俺たちを逃がせよ!」
「そんなのハイって言う奴いねーよ! アツシ、お前こそ餌になれよ!」
「嫌に決まってんだろ」
「自分が嫌な事、他人に押し付けるなよ!」
「じゃあ、コケた奴が餌な!」
アツシはとんでもない提案をしてきやがった。
仲間意識とか無いのかよ?
大ぶりな攻撃でバランスを崩して転んでいたイエティが物凄いスピードで追いついて来た。
「逃げ足の速いネズミ共め! 全員食い殺してやるわ!」
追いつかれたら、確実に訪れる死。
俺たちは必死に逃げた。
逃げている途中、足場の悪い下り坂の通路で、サキが地面の小さな突起に足を取られる。
つまずいて、凍った地面で足を滑らせ転んで倒れ込んでしまう。
その事を見逃さなかったイエティ。
「いただきー!」
イエティは雄叫びの後、地面に倒れ込んだサキに向かい走りだす。
そして大木の様な太い右腕に渾身の力を籠め振り下ろした。
巨大な腕で巻き起こされた風切り音が響く。
転んだサキにイエティの強烈なパンチが迫る!
サキは自分の死を予感したのか一瞬で顔面が蒼白だ。
「きゃぁぁぁ!」
「サキー!」
俺はそれを見た途端、身体が勝手に動いていた。
凄まじいスピードでサキとパンチの間に割込む!
ギリギリのところで俺は盾で攻撃を受け止める。
凄まじい衝撃だった。
強烈な衝撃が俺を襲う。
盾から腕、腕から肩、肩から身体へと衝撃波が伝わる。
俺の身体が張り裂けそうになる衝撃に襲われた。
脳天に伝わった衝撃は俺の意識を吹き飛ばしそうになる。
だが、その後に伝わって来た痛みですぐに意識は戻った。
「ぐははぁ~!」
俺は強烈な痛みで飛びそうになる意識を抑えつけながら、倒れているサキを引き起こした。
「俺が食い止めるから、逃げろ!」
サキは起き上がると心配そうな表情を一俺に一瞬見た後、走り去っていった。
「かっこいい事言っちゃったけど、俺も一緒に逃げれば良かったかな」と少し後悔する。
「ゲームでも死ぬのは痛いんだろうな~」なんて事も考えていた。
イエティはサキを追う事無く、獲物をサキから俺へと変えたようだ。
新たに見つけた獲物に強烈なパンチを繰り出してきた。
俺の腕に新たな衝撃が走る!
幸いパンチに魔法属性は付いてないようで盾防御の貫通はない。
ただ、レベル差のせいかガードの度にHPをガンガン削り取られた。
これでは盾貫通の攻撃と変わらない。
このまま攻撃を受け続けていたら時期に死ぬのは間違いない。
ここは逃げないと身が持たない!
だが俺には攻撃を受ける度に崩れる体勢を持ち直すことだけがやっとだ。
逃げるなんて無理。
第三部隊のメンバーはちゃんと逃げられただろうか……。
そんな事を考えながら必死に攻撃を受け止めていた。
イエティの激しい攻撃を10回ぐらい受けた時にHPが半分を切った。
死ぬのもそんなに遠い事じゃないな、と激しい攻撃を盾で受けながらおぼろげに考える。
不意に脳裏にレイナやカオルの微笑む顔が浮かんだ。
レイナやカオルとのこのゲームでの出会いのシーンがふいに思い出される。
これが走馬灯ってものなのか……。
助けに来るわけ……、無いよな……。
突如、俺の周りが緑色の光で覆われ、HPが回復した。
回復呪文だ!
キョウヤさんが俺に回復呪文を掛けてくれた。
後ろからアツシとエミリも駆け付ける。
「なにレベルがバグってる敵相手に一人でカッコイイ真似してるんだよ!」
「おっそーい! いつまで待っても来ないんだもん」
「おめー、自分で逃げろって言っといてこんなとこでなにしてるんだよ。バカかよ」
第三部隊のメンバーが戻って来た。
「うるせー」俺は盾で攻撃を防ぎながら減らず口を叩く。
『せっかく犠牲になってやったのに、逃げてりゃいいものを』という感情と、わざわざ『戻って助けに来てくれたのか』という感謝の感情が複雑に入り混じって奇妙な気分になった。
「お前が攻撃を受け止めろ! 俺たちが攻撃する!」
「こうげきはまかせて~!」
武闘家たちは自信満々だ。
「ああ、防御は俺に任せろ!」
攻撃を耐えられる全然自信は無かったが、かっこつけてやった。
アツシとエミリは攻撃を始める。
だが、イエティは全く攻撃が堪えて無い様だ。
「こいつ強いから、全然ダメージ入らねーな」
「あたしも全然ダメ。一桁ダメ連発~」
サキはアクセサリーを出掛けに街で買ってきたせいか、敵に安定して魔法攻撃のダメージが入っていた。
そう言えばこいつら、新しい武器買ってなかったな。
「お前ら、武器が悪いんじゃないのか?」
「あー、それか。すっかり忘れてたぜ!」
「あたし、レベル16の武器」
「俺なんてレベル10だ」
「お前ら……」
武器を買わないで食い物に全部所持金を注ぎ込むからこういう事になるんだよ!
「街まで戻って武器買ってくるまで、レイジお前耐えられるか?」
「無理に決まってんだろ!」
「どうしましょうか……」
今まで黙ってたキョウヤさんがつぶやく。
その時、イエティの強烈な一撃が放たれた。
──イエティのクリティカル。レイジの体勢が崩れた!
「やばい!」
イエティの強烈な一撃で盾を弾き飛ばされた。
「うあああ!」
「やべ~~!」
「逃げろ~!」
イエティの更なる強烈な一撃が襲い掛かって来る!
俺は咄嗟に剣の刀身で攻撃を受け止めるが、さすがにこれで防御を続けるのは無理がある。
一撃目は何とか耐えたものの二撃目で防御した剣も遥か後方に弾き飛ばされ、尻餅までついてしまった。
イエティは強烈な一撃で俺に止めを刺しに来た。
俺の手にはもう何も攻撃を受けるものは無い。
俺は何も持たない手を上げて身を守ると言う巨象に対峙した蟻程度の些細な抵抗しか出来なかった。
「や、やめろー!」
すると俺の手から光が放たれて……。
その時、辺りに静寂が訪れた。
崩れかかった洞窟。
拳を振り下ろしたイエティ。
そして凍った地面に倒れた戦士。
静寂が辺りを支配していた。
「レイジくん!」
その静寂を壊したのはサキの叫び声だった。
身長150センチに足りるか足りないかといった小柄な少女はその身に宿す力を全て出し切ってレイジに駆け寄った。
「やめろー!」
それを止めたのはキョウヤさんだった。
キョウヤは走り向かうサキを抱きかかえて止めた。
「レイジ君が、レイジ君が、わたしを守って死んじゃった!」
「きみが行ってもどうにもならない。ここは逃げるんだ」
「でも、でも……」
「後で蘇生すればいい。ここはとにかく逃げるんだ! いいな!」
キョウヤさんは俺にかけ寄ろうとするサキの手を無理やり引いて逃げようとしてたが……。
「いたたたたた。死ぬかと思ったぜ」
そんな青春ドラマのワンシーンの様な雰囲気の中で、マヌケな声をあげる空気読めないおバカさんがいた。
俺だよ!
俺、レイジだ!
「レイジくん!」
俺が痛む頭を押さえながら立ち上がると、サキは歓喜の声をあげた。
「一体どうなってんだ?」
アツシが不思議そうに声掛けてくる。
「解んねーけど、俺の掌から光が出たと思ったら、コイツが固まった」
イエティは拳を振り下ろした状態で固まって動かなくなっていた。
「お前の手から光? そんな事でこいつが固まるか? こいつはレベルがバグってるぐらいだったから、動きがおかしくなって固まったんだろ」
「みんな! 早く逃げましょう!」
俺は弾き飛ばされた剣と盾を手に取るとサキの手を取り出口へと向かった。
しばらく走ると、遠くからイエティの咆哮が聞こえる。
「また生き返ったのか? このままじゃ追いつかれるな」
「武闘家のお前らがもっとまともな武器持ってればどうにかなったんじゃないのか? せめてイエティがパンチの空振りで壁を壊した時みたいに、この洞窟を落盤でもさせて道を塞げば追ってくることも無くなるのに。アツシとエミリの武器じゃダメだな」
「ふっふっふ、レイジ。お前は、俺たちを本気で怒らせてしまったようだな」
「ようだなー」
ドヤ顔のアツシとエミリ。
「俺たちの本気を見るがいい!」
「見るがいい!」
「いくぞ、エミリ! コンパニオン!」
「いくよ、アツシ! コンパニオン!」
「うりゃあああ!」
「おりゃあああ!」
気合い貯めの声がやたらうるさくて長い。
これ、目の前に敵が居たら真っ先にやられるぞ。
「うあお!」
「うああっ!」
最後の掛け声と同時に、二人は金色のオーラを纏った。
なんかすげー。
二人は左右に並んで立ち、構える。
「いくぞ!」
「おお!」
「七・天・掌 爆・心・拳!」
「しちてんしょう ばくしんけん!」
二人の声がハモった。
二人の攻撃は完全にシンクロする。
二人は壁を殴り始めた。
すると氷で埋め尽くされた固い洞窟の岩盤が柔らかい石膏ボードの様にヒビが入り削れる。
一瞬で洞窟が崩壊して通行止めになった。
さすがに落盤が起こった通路をイエティが追ってくることは無かった。
「どうだ? すごいだろ」
「すごいだろ」
「見直したか?」
「見なおしたか?」
したり顔をしている二人を見るとすごくムカついた。
でも、確かにすごかったし見直しもした。
「なんだよ! この『コンパニオン』ていう技は! すげーな!」
「これはな、親しい友とのみ使える親友の証の必殺の一撃! カオルに振られたばかりのお前には一生使えない必殺技さ!」
「必殺技よ! 振られたレイジには無理!」
「振られた振られたいうなよ。こんな必殺技あるなら最初っから、これ使えよ」
「バッカだな~。ヒーローってもんはな、ピンチになるまで必殺技使わねーんだよ。それにな、この技使うとスゲー腹減るんだ」
「あたしたちがんばったんだから、レイジのおごりで晩ごはんね」
「レイジ、帰ったらお前の金で晩飯な」
「えー、マジかよ!」
「マジだ!」
「マジだよっ!」
俺は無理やり変な約束をさせられてしまった。
バーベキューやお菓子の食いっぷりを思い出すと、夕飯をおごるのが怖い。
気がつくとサキが俺の腕をツンツンと引っ張っている。
「あたしも、連れてって」
「いいよ」
「じゃ、ぼくもお願いしようかな」
キョウヤさんも空気読んで軽いジョークを言ってきた。
「どぞどぞ」
もう、どうにでもなれ。
今日は俺のおごりでパーティーだ。
サキが改まって俺の目を見つめて話しかけてくる。
「レイジ君、さっき助けてくれてありがとう。あの時助けに来てくれてすごく嬉しかった」
サキは俺の胸に飛び込んできた。
「いえいえ」
俺はそう言い、俺は片手でサキを抱きもう一方の片手でサキの頭を撫ぜてやった。
なんか妹がもう一人出来た気分だ。
その後、洞窟の入口に戻った俺達はレッドレイクへ転移石で戻った。
*
レッドレイクに戻った僕たち。
キョウヤさんは洞窟での出来事を思い返す。
「あの敵は僕らの手に余る存在です。ここは素直に赤獅子騎士団の手を借りましょう」
キョウヤさんの提案で、俺達は赤獅子騎士団の救援を求める事にした。
赤獅子騎士団のクラン会館は商店やギルドの立ち並ぶ繁華街からかなり離れた所に有った。
まるで中世の城を思わせる建物、それが赤獅子騎士団のクラン会館だった。
キョウヤさんの案内でクラン会館の中に入ると、赤獅子騎士団のクランメンバーによって、ロビー横の応接間に通される。
その人は以前大規模狩りで見た事のある女剣士の人だった。
「ここでお待ちください」
そう言うと女剣士はクラン会館の奥へと消えて行った。
すぐに血相を変えた赤獅子騎士団の団長サイトウさんがやって来た。
「キョウヤ! レベルがおかしい魔物がいたんだって!?」
「はい、レベル152のイエティが居ました」
「噂は本当だったか」
「ご存じだったんですか?」
「いや、あくまでも噂だったんだがな、レベル99を超える敵を見たって噂を何度か聞いたことが有るんだよ。このゲームのレベルはプレイヤーも敵もレベル99までだと思ってたんだけどな」
「おかしいですよね。敵のレベルキャップを上げるなら当然我々プレイヤーのレベルも上がって当然だと思うんですが」
「最近の敵の出現範囲もおかしな事になってるし、何か有るのかもな」
「かもしれませんね」
「で、要件はなんだ?」
「今言ったレベル152のイエティなんですが、赤獅子騎士団の皆さんで倒して貰えないでしょうか? 明日の魔王討伐の為にあの洞窟を通って氷河に抜けて砦で転移石の登録をしたいんです」
「おう! 任せとけ! 俺もレベル99を超えるイエティにお目に掛かりたかったんで、今から行こうと思ってた所だ」
「ありがとうございます」
「ちょっと出発まで時間掛かるから……そうだな、一時間、いや30分だけ待ってくれ。それまでに、クランメンバーかき集めるからな。それまで街で遊んでてくれよ」
「ありがとうございます。では30分後に」
俺たちはクラン会館を後にした。
「よう! レイジ、さっきの食事の約束忘れてねーだろうな?」
「わすれてないだろうなー?」
「さっき食べたばっかりなのに、また食事を食うのか? まだ腹が膨れてるだろ? 俺はそんなに食えねーよ」
「甘いな! レイジ! 冒険者という者は常にハングリーでなければならん! なので飯はいつでもオールウェルカムだ!」
「わたしもオールウェルカムだ!」
「いや、飯食いに行く前にやらないとダメなことあるだろ?」
「飯の前にやること? そんなものねーよ」
「お前もう忘れたのか? 武器だよ武器! お前達の武器ショボすぎるだろ!」
「はっ! すっかり忘れてたわ! 武器買わねーと!」
「私もわすれてた!」
「忘れるなよ。早く買って来いよ」
「そうだな、買ってくるぜ!」
街の中に消えていく二人。
キョウヤさんは二人で買い物をさせるのが心配なのか『心配なのでちょっと見てきます』と言って二人に着いていった。
「俺たちどうしようか?」
「私、疲れちゃったので、少し休憩したいです」
サキが休みたいと言うのでクラン会館のすぐ近くにある噴水横のベンチに座って休憩することにした。
ベンチに座るとサキが俺に寄り掛かって来た。
「どうした? 疲れてるのか?」
「うん。ちょっと」
「そうか、じゃあ俺に寄り掛かって休むといいよ」
「ありがとう。わたしすぐ疲れちゃって……迷惑ばっかり掛けてごめんね」
「そんなこと気にするなよ。仲間じゃないか」
「ありがとう。そんな事言ってくれるのキョウヤさんとレイジ君だけだよ。わたし病気ですぐに疲れちゃうんだ」
「回復薬飲むか?」
俺はアイテムボックスの中から、回復薬を取り出す。
それを渡そうとするとサキは首を横に振った。
「私が病気なのはゲーム内の事じゃないんだ。リアルで入院してるの」
「入院してるのにゲームなんてしてるの?」
「どうしてもこのゲームをしたかったから、一時退院させて貰ってるんだ」
「そうなんだ。でも無理してゲームなんかして、あんまり無茶しない方がいいぞ」
「でも、もうログアウト出来ないし」
「そうだったな……頑張って早くログアウト出来るようにしないとな」
「でも、ログアウト出来なかったからこうしてレイジ君にも会えた」
俺の腕をぎゅっと抱えるサキ。
可愛くて二人目の妹みたいに思える。
俺がサキの頭を撫ぜていると、サキはそのまま寝てしまった。
しばらくするとアツシたちが戻ってきた。
「おう! お前らデートか?」
「カオルに振られたから今度はサキが彼女か?」
「ちげーよ!」
「そうか、まあいい。これ見てくれよこれ! 新しい装備一式だ!」
「キョウヤが全部出してくれたんだよ! いいでしょー? これ」
二人は今までのレベル10位の貧弱な装備では無くて、かなりしっかりとした装備を着ていた。
武器のナックルも貧弱な物からかなりゴツくて強そうなものに。
「キョウヤさんも大変ですね」
「うん、まあ、大変かな? ははは」
「全部で結構な額いったんじゃないですか?」
「武器も防具も使える物が一つも無かったので、全部更新で二人分で80万ゴルダ位かかりました」
「うは! それは……」
「これ、キョウヤのおごりなんだぜ。いいだろ?」
「稼いだお金、全部食べ物に注ぎ込んでたから武器買うお金足りなくて、帰ろうとしたらキョウヤが全部買ってくれたの」
「おまえら、エンゲル係数高すぎだろ」
「エンゲル? 銀が5枚で金が1枚のやつのこと?」
「ちげーよ! それはエンゼル! ちゃんと後でキョウヤさんにお金返しなよ」
「嫌だ! これはキョウヤがおごりで買ってくれたんだから、その善意を無にする事は俺には出来ない!」
「むーにーすることはできない!」
「お前ら単に金返すのが惜しいだけだろ?」
「うぐっ!」
「どうせ稼いだお金全部で食い物食べる気だろ?」
「ぐはっ!」
俺の指摘が当たったので何も言えなくなる二人。
二人とも目が泳いでる。
「レイジ君、その位で止めてあげて下さい。装備買ったのは僕ですし」
「でも……」
「装備が良くなれば僕の回復も楽になるから買ったんです。さ、時間ですからクラン会館に行きますよ」
キョウヤさんを先頭にしてレイジたちは再び赤獅子騎士団のクラン会館へと戻った。
クラン会館に入ると、既に団長によって招集を掛けられた猛者達が30人程集まっていた。
赤獅子騎士団団長がキョウヤさんに声を掛けてくる。
「おう! キョウヤ戻ったか! こっちの準備は出来てるぞ! さ、ひと狩り行こうぜ!」
「よろしくお願いします」
「水くせー挨拶は抜きだ! 俺とお前の仲だろ」
「は、はい」
氷結回廊に向けて集団の移動が始まった。
「キョウヤさん、団長と仲がいいみたいなんですがお知合いですか?」
「ベータの時は同じパーティーにいたんですよ。彼がクラン立ち上げて神ボス倒した位の時までは一緒だったかな?」
「と言う事は、赤獅子騎士団所属だったんですか?」
キョウヤさんが答える前にサイトウ団長の声が掛かる。
「俺が散々赤獅子に残れって言ったのに抜けやがって、気がついたら神聖騎士団に入ってたんだぜ。冷めてーよな。お陰で安心して背中任せられる僧侶が居なくなったからあの後大変だったんだぜ」
「それは申し訳なかったです」
「まだちゃんと聞いて無かったんだけど、なんで俺のとこ辞めたんだ?」
「何でしょう? 気の迷いと言うか……」
「じゃあ戻って来いよ」
「いやいやいや、今のは冗談ですよ」
「じゃあ何でやめたんだよ?」
「そうですね……この子たちと遊びたかったから辞めたんです」
キョウヤさんの視線の先にはアツシ、エミリ、サキが居た。




