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別れ

「君たちに少し話が有るので、宿に帰る前にクラン会館に寄ってください」


 大規模狩りの帰りにワタナベ神聖騎士団団長に誘われて、俺とカオルはクラン会館に向かっている。


 歩きながらワタナベ団長が話しかけてきた。


「どうですか? 君たちはこの世界に慣れてきましたか?」


「ええ、だいぶ慣れてきました」


「はい、なんとか」


「君たちがこの世界に閉じ込められたのはまだ十日ぐらいですよね? わたしなんか、もう百二十日ぐらいこの世界にいるから、こっちがリアルの世界なんじゃないかと錯覚するぐらいですよ」


「結構ながいんですね」


「ああ、ながいですよね。笑えることにログアウト出来ないと気が付いたのはこっちの世界入って20日過ぎた辺りなんですよね」


「20日ですか? どれだけやり込むつもりでいたんですか」


「ネトゲはスタートダッシュが命です」


「ゲームに命張っちゃダメです」


「あはははは」


「ふふふ」


 カオルの一言で俺たちは不意に笑ってしまった。


「レベル上げしたりクラン立ち上げたりで忙しくて全然気が付かなかったんですよ。間が抜けてますよね」


「いやいや」


 カオルが懐かしげに言う。


「団長のベータテスト最後の戦い見せてもらいましたよ。凄くかっこよかったです」


「あー、あれですね。あれはくやしかったなー」


「まさか最後であんな事になるなんて誰も思ってなかったですよね」


「何かあったんですか?」


「思い出したくもない」


 ワタナベ団長が悔しそうに笑う。


「その気持ちわかります」


 カオルも慰めるように同意する。


 そんな話をしながら歩いてるとクラン会館に着いた。


 いつも通ってる玄関ロビー正面入ってすぐの会議室ではなく、そのわきに有る階段から二階にある部屋に案内された。


 20畳ぐらいある割と広めの部屋だ。


 その部屋の窓からの眺めは非常によく街の広場の噴水がそこから見えた。

 

「そこにかけてください」


 俺たちは部屋の中央に有るソファーに座るように勧められた。


 団長は奥の机から何やら書類のようなものを持ってくると対面のソファーに座り話を切り出した。


「君たちの力を貸してほしい。ギルドに入ってくれませんか?」


 あれ、俺たちギルドに入ってなかったのか?


「はい! 喜んで」


 カオルは二つ返事で快諾した。


 俺ももちろん了解だ。


「はい。と、言うか支度金をもらった時点で俺はもうとっくに入ってると思ってました」


「そうか、そうか」


 そう言うとワタナベ団長は俺たちに一枚ずつ辞令書を渡した。


 ──魔法戦士カオルを第一部隊所属とする


 ──戦士レイジを第三部隊所属とする


 ですよね~。


 カオルは第一部隊で俺第三部隊。


 欲しいのはカオルだけで俺はおまけだもんなー。


 思わず俺はにやけてしまった。


「カオル君はそのユニークスキルを使い、第一部隊の要として活躍して欲しい。レイジ君には第三部隊がこれからの主力部隊となるよう尽力してほしい」


 そうワタナベ団長は言った。


 正直、俺の部分は取ってつけたような感じだったが気にしたら負けだ。


「はい!」


「がんばります!」


 俺、全然期待されてないけど。


 ギルドから宿屋に戻ろうとした時、いつものカオルらしくないハッキリしない態度で俺に話しかけてきた。


「あのさ、レイジ」


「どうした?」


「俺、明日から部隊変わってレイジとあんまり会えなくなるじゃないか……」


「いや、お前が第一部隊行って部隊が違っても普通に会えると思うぞ」


「いや、そう言う事じゃなくて……」


「なんだよ?」


「俺と二人で……お別れ会しないか?」


「お別れ会? いや、べつに別れないからそんなもん要らないだろ」


「あ~、もーっ! なんて鈍感な奴なんだ、こいつ。せっかく誘ってやってるのに……」


 カオルがすごく怒ってるぞ……俺なんかヤバイこと言っちゃったか……?


「第一部隊への昇進のお別れ会か。第三部隊のみんなも集めてにぎやかやるか」


「そう言う事じゃない。俺はお前と二人だけでしたいんだ!」


「寂しい昇進祝いだな」


「い、いいから今すぐ俺の昇進祝いしろ!」


「わかった。しようしよう」


 俺はキレかけてるカオルをなだめるように言った。


 俺はカオルに連れられて、カオルの昇進祝いをする為にレストランに来た。


 このバーチャル世界では食事は必須ではないが、カオルによると雰囲気を楽しむためにこのような施設が有るそうだ。


 俺たちは壁際の静かな席に座りながら二人だけの昇進祝いの会を始めた。


「第一部隊所属おめでとう!」


「第三部隊残留おめでとう!」


「うるせー」


 カオルさん、その挨拶は無いと思うぞ……。


 飲み物を飲みながらカオルは話を始める。


「今日で俺たちお別れだな」


 いつものカオルらしくないしんみりとした態度だ。


「ああ、なんか寂しいな」


「出会ってから10日ぐらいしか経ってないけど別れるとなると結構寂しいもんだな」


「初めてカオルと出会った時、その喋り方だからお前の事を本当に男だと思ってたんだ」


「俺もゲームの中じゃ女の子ぶるつもりはないけどな」


「初めて会った時、うぜー奴に絡まれたと思ってたんだぜ」


「俺もな、町の外みてたらいきなりレベルの高いダンゴムシに向かって行く命知らずの初心者がいて大笑いさせてもらったぜ」


「それを言うな。あははは」


「あははは」


 静かなレストランなのに思わず大笑いして辺りの注目を集めてしまう二人。


「すいません。すいません」


 俺たちは辺りの人に頭を下げて平謝りだ。


 カオルがつぶやく。


「俺、レイジに感謝してるんだ」


「俺、何にもできないへっぽこだぜ」


「いや、そう言う事じゃない」


「どういう事さ」


 またバカにする気なのか?


「お前とだと、ものすごく気楽に話せる」


「俺もだ。女っ気が全くないから女だと思えないぐらい気楽に話せる」


「うるせーよ」


 その言葉と共に思いっきり足を踏まれた。


 カオルが少しうつむいて少し考えた後、ポツリポツリと話し出す。


「俺、昔別のMMOをやってたんだ」


「そうなのか」


「ああ、結構遊びこんだんだけどな。辞めた」


「どうして?」


「その頃女キャラ使ってたから、結構男にまとわりつかれたんだよ。『俺と付き合え』とか、『俺の嫁になれ』とか。ただゲームで遊びたかっただけなのに、殆ど面識のない大して親しくない奴からそう言う事ばっかり言われて鬱陶しくなってやめたんだ」


「それは災難だったな」


 リアル容姿系のこのゲームでカオルのキャラ見ると結構可愛いもんな。


 ただし喋らなければと言う条件が付くんだが。


「BBBもベータの時は男キャラ使ってたから楽しく遊べたけど、正式サービスからリアル容姿制になったから、また男にまとわりつかれるのかなーなんて事を考えると本気で辞めようかと、すごく悩んだ」


「そうだったのか」


 カオルの意外な告白で、俺はただ相槌を入れることしかできなかった。


「そんな時に男女の関係無しに友達として接してくれるお前に出会って本当に感謝している」


「こちらこそ。俺も楽しかったぞ」


「礼を言わせてくれ。ありがとう。そしてこれがプレゼントだ」


「なになに?」


 カオルはいきなり俺のくちびるにキスをしてきた。


 俺の唇に柔らかくて暖かいカオルの唇の感触が伝わる。


「えっ? えっ? え~~~っ!」


 思わず大声で叫んでしまった。


 俺のファーストキスだった。


 いつもイチャイチャしているレイナとさえした事が無かったキスだ。


 我に返ると、俺は余りの事にバランスを崩して椅子から転がり落ちてしまった。


 床から起き上がるとカオルが心配そうに俺を見ていた。


「ご、ごめん」


「いや、こちらこそ取り乱してごめん。いきなりなんでビックリしただけだ」


「すまなかった。でも気が付いたら、お前の事がキスしたいぐらい本気で好きだったんだよ」


「俺もお前の事が好きだぜ」


 たぶんその好きは英語で言うと愛を伴う”LOVE”ではなく”LIKE”的な好きだと思う。


「お前が俺を大槍から守ってくれて死んだ時、お前が本気で好きだって事に気が付いたんだ」


 俺は今の今までカオルがそんな感情を俺に抱いてるなんて知らなかった。


「お前が俺をかばって死んでしまった時、本当に悲しくて胸が張り裂けそうだった」


 カオルが改まった表情で言う。


「頼みがあるんだがいいか?」


「なんだ?」


「この世界を出れたら、一度会ってほしい」


「もちろん」


「そして、よかったらリアルでも付き合って欲しい」


「わかった」


「ありがとう」


 カオルは俺の手をギュッと握った後、俺に抱きついてきた。


 いつもレイナが俺に抱きついてくるがそれとは少し違う感じの感触だった。


 カオルの吐息と脈拍までが感じられる気がする。


 そしてカオルは再び俺にキスをしてきた。

 

 そのキスで俺のカオルに対する好きは”LIKE”から”LOVE”に変わったような気がする。


 いつもと違うしおらしいカオルは可愛かったし好きだった。

 

 このカオルとの関係を続けたい。


 俺がこの世界を脱出する為の理由がこの時出来たのだ。

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