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イノシシの王

 翌朝起きると宿屋の外のベンチにレイナとカオルが座って待っていた。

 二人は談笑しているようで昨日以上に仲が良くなっている感じだ。

 俺が近くまで寄ると気が付いた二人が俺に声を掛けてきた。


「よ! レイジおはよう」

「おにいちゃん、おはよー」

「おはよう。二人とも早いな」

「お前が重役出勤だけなだけだろ」


 カオルに嫌味を言われるが寝坊した身なのでなにも言えず。


「すまん。結構待たせたな」

「五分ぐらいかな~」

「なんだ、たいして変わらないじゃないか」

「遅刻に五分も一時間も変わりねえ。少しは反省するんだ、レイジ」

「すいません、カオル様」

「お兄ちゃんを責めないで……」

「冗談冗談。レイナちゃんともっと話ししたいし、明日からも遅刻していいぞ」


 眠い目を擦りながら歩いてクランに着くと昨日と同じく大勢の人が集まっていた。

 クランに到着した俺たちを待ち構えていたのか、会議室に入ると同時にクリハラ部隊長が声を掛けてきた。


「おはよう! 重役出勤さん」


 部隊長……。

 遅刻して朝からカオルに怒られた俺に、そのギャグは少しこたえるんだが。


「これで第三部隊全員集まったな。行くぞ」

「今日もあの球で行くんですか?」

「レイジだけ乗れよ、俺たち転移石で行くから」


 部隊の皆が笑う。

 第三部隊のメンバー全員に笑われた。

 そう言えば転移石使えるようになったんだな。


 ギルドの外に出て転移石を使うと、ポワンと言う不思議な効果音と共に青白い光が俺を包み込む。

 ギルド前の景色が一変してイノシシの獣人拠点前の平原に変わった。

 これは楽だ。

 あの球の厄介には二度となりたくないもんだ。

 第三部隊の隊員が全員、平原の中にひと塊になって集まっていた。


「こりゃ、楽だ! マジ楽過ぎる!」

「らくらく、らくちーん」


 武闘家2人組が朝っぱらからはしゃいでる。

 元気な奴らだ。

 参加メンバー全員が平原に集まるとギルド長の号令で獣人拠点の中に乗り込む事に。

 昨日激しい戦闘が行われた広間へと続く長い階段を登るが血の跡一つなく、昨日ここでジャックとの死闘が繰り広げられたとは思えないほど綺麗になってた。

 やっぱりこの世界は現実じゃなくゲームなんだなと再認識する。

 俺は感慨深げに階段を見ながら登った。

 階段を上りつめて広間に着くと、なんとそこにはジャックが待ち構えていた。


「昨日のようにはいかせん!」


 ジャックはいきなり襲い掛かって来た!

 もちろん狙いはカオルだ!

 ジャックは昨日の敗因の元凶のカオルに向け大槍を投げてきた。


 カオルを貫かんと、大槍が空気を切り裂きながら激しく唸りをあげて飛んでくる。

 防御陣形を全く組んでなかったのでカオルは全くの無防備。

 大槍がカオルを貫かんとした時、俺は咄嗟に前へ飛び出し大槍を魔法の盾でガードした。

 俺が盾でガードしたことで軌道が変わりカオルへの直撃だけは免れた。

 が、しかし、非情にも大槍は盾を紙を突き破るが如く貫通し、俺の左胸も貫いた。


「ぐああああ!」


 痛みが衝撃となって俺の身体中に駆け巡った。

 すげー痛い!

 痛い、痛い!

 あまりの痛みでそのまま意識が飛びそうになるぐらいだ。


 大槍は盾を貫通して俺を槍の返しの部分に残したまま、階段横の壁に突き刺さった。

 壁に突き刺さると同時に俺は返しの部分から外れて槍の先端まで移動し、激しく壁に叩きつけられた。


「ぐはあぁぁ!」


 側近相手には大枚叩いて買った魔法の盾はなんの役に立たなかった。

 どうせ防げないのならばもっと安いのにしとけばよかったなと今更ながらに後悔をしたが既に後の祭りだ。

 そんな事はどうでもいい、カオル、カオルは無事か?


 顔を上げると「レイジ!」と叫んで俺に駆け寄ってくるカオルが見えた。泣きじゃくったカオルが俺に駆け寄ってきているのを閉じゆくまぶたの中に見たとこで俺の意識は途絶えた。

 薄れゆく意識の中でカオルが無事だったこと確認でしただけでも俺の命を賭けたかいが有る。


 *


どのぐらい経っただろうか。


「おい! 起きろ!」と言う男の声で俺は目がさめた。


 目の前にはクリハラ部隊長と第三部隊のメンバーの顔が見えた。

 僧侶のキョウヤの回復呪文でどうやら俺は一命を取りとめたようだった。

 俺は取り戻したぼんやりとした意識の中でカオルがジャック相手に魔法を使って戦ってるのを壁に寄りかかりながら座り込んでボーっと眺めていた。


 ジャックはかなり気合いが入っていた。

 しかし、カオルと言う最終兵器を手に入れた俺たちにとってはジャックは経験値の大きい雑魚でしかなかった。

 既に導き出された攻略法。


 ── ジャックが発光したらカオルの『ブレイク』の連発で止める。


 ただ、それだけの繰り返しで楽々に倒せた。

 ジャックを倒すとカオルは俺に駆け寄って来た。

 俺に物凄い力で抱きつき、泣きじゃくっている。


「レイジ! 大丈夫か? 起きろ! 死ぬな! 死ぬな! 死なないでくれ!」


 泣きじゃくりながら俺に必死に声を掛ける姿は、カオルが初めて見せた女の子っぽい表情だった。


「大丈夫」

「だ、だいじょぶなのか?」

「ああ、カオルが戦ってる間に治療してもらった。それよりそんなにきつく抱きついてくるなよ。息が出来なくて苦しい」

「お前が死んだかと思ったよ!」


 俺も死んだかと思ったぜ。

 カオルは気が動転しているのか、俺の言葉が耳に入らないのか、カオルは抱きつく力を全くゆるめてくれないので息が出来ず苦しい。

 それを見ていたエミリがとんでもないことをいう。


「キョウヤが蘇生する前は本当に死んでたし」

「こら、エミリ!」


 エミリはキョウヤに怒られていた。

 今とんでもないことを聞いたんだけど、俺って死んでたの?

 記憶が途切れていてよくわからないけど、これが臨死体験なのか?

 生きてこうしてカオルと再び会えたことを感謝するしかない。


「もう大丈夫。息出来ないからその手ちょっと緩めてくれ。今度は窒息死しそうだ」

「す、すまん。ごめん」


 慌てて抱きついた手をほどくカオル。

 急に泣き止み、カオルは自分のした事を思い出したのか恥ずかしくなってその場で座り込みうつむきながら赤面してる様だ。


 気が付くと俺たちの周りに人垣が出来て、皆が笑っている。


「ありがとう。助かったよ」


 俯きながら礼を言ってるカオルの姿が可愛かった。


「いえいえ、どういたしまして」


 その日はジャックが出て来ずに順調にレベル上げが終わった。

 どうやらジャックはリポップ時間の関係で一日一回しか現れないようだ。


 *


 翌日、大広間のキャンプ地に行くと、またもやジャックが待ち構えていた。

 今日は魔法使い系の側近を連れてきているようだ。

 魔法使いの側近は鮮やかな赤のローブに金色の装飾が施されていた。

 どうやら、この金の装飾が側近の証らしい。


「槍と魔法のコラボを受けてみよ!」


 自信満々でジャックはそう言いカオルに大槍を投げてくるが、カオルを守る神聖騎士の大盾に弾かれてその攻撃は不発に終わる。

 神聖騎士の大盾に守られたカオルのブレイクでジャックたちは何も手を出せずに難なく倒せた。

 それにしてもカオルは凄いな。

 一人で3匹の側近をブレイクで無力化してるよ。

 攻略法が割れた敵は既に雑魚でしかない。


 *


 さらに翌日、カオルの周りに神聖騎士で円陣を組みつつ大広間のキャンプ地に行くと、今度はジャックが三人の側近を引き連れて待ち構えていた。


「我ら四天王のチームワークを見てみよ!」


 そう言うと何やら怪しいダンスとのようなパフォーマンスを始めた。

 動きにキレが無く明らかに練習不足な感じの即興の踊り。

 踊ってる方も辛そうだが見てる方はもっと辛い。


「ブレイク!」


 踊りを見るのがめんどくさくなったカオルが踊り途中でジャックにブレイクを掛け始めたので総攻撃で倒してしまった。


「せっかく練習してきたのに……」四天王は倒れた。


 *


 その翌日、大広間のキャンプ地に行くとジャックがイノシシの王を連れて来ていた。


 デカい!

 まるで山が目の前に有るようだ。


 王はけっして低くはない広間の天井に頭を擦り付けるほどの大きさだった。

 高さ15メートルか20メートルぐらいは有るのかもしれない。

 身体の幅もそれに負けず劣らずで、ジャックが可愛く見えるほど。

 王に踏みつぶされたら普通のプレイヤーならペッチャンコののしイカのようになりそうだ。


「この小生意気な小娘を倒してください」ジャックは王に懇願した。

「任せろ」


 王は落ち着きはらった声でそう一言言うと、何やら呪文のようなものの詠唱を始めた。


「我が混沌から生まれし剣と魔術の……」


 そこまで唱えたところでカオルはブレイクを唱え始めた。


「ブレイク!」

「オイ! 最後までちゃんと聞け!」


 それが王の時世の句で有った。


 カオルさんぱねーっす、半端ないっす。

 さすがレアのユニークスキルはチートクラスの強さだ。

 その日の狩りの終わり、ワタナベ団長から話が有った。


「このレベル上げは一週間続けるつもりでしたが、赤獅子騎士団のサイトウ団長と協議の結果、レベル99キャップの到達者が続出のため本日をもって終了とし、翌日の準備期間を一日設けた後、明後日からボス攻略を始めます」


 低レベルだった俺でさえレベル92に到達だもんな…。

 レベル上がりすぎだろ。

 辺りから雄叫びと歓声がうなりとなって湧き上がった。


「うおおお!」

「いくぜーー!!」

「うひょー!」

「明後日には帰るぞ!」

「俺、家帰ったらゲーム機捨てるんだ!」


 そんな歓声が聞こえるなかカオルが俺に話しかけてきた。


「明後日にはラスボスを倒してリアル帰還か……」

「ああ、結構長かったな~」

「なんかカオルと別れると思うと寂しいな」

「また、ゲームの中で会えるって」


 俺たちは獣人拠点を出ると、転移石を使い街に戻った。

 静かな草原の風景が見慣れた首都ジェネシスの喧騒に満ちた景色に変わった。


「おつかれ~」

「おつかれ~」

「じゃ、また明日クランでな!」


 第三部隊のメンバーと別れの挨拶をしていると街に戻った俺とカオルにワタナベ団長が声を掛けてきた。


「お疲れ様。君たちに少し話が有るので、宿に帰る前にクランに寄ってください」


 そうワタナベ団長は言った。

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