逆転
赤獅子騎士団の前衛は殆どが爆風で倒れてしまったが、サイトウ団長含む数名はギリギリのところで生き残っていた。
生き残った前衛に回復呪文が飛び交い一瞬でHP満タンになり復活した。
だが生き残った前衛は7名、もう部隊としてはほとんど機能してなかった。
神聖騎士団ワタナベ団長から号令が掛かる。
「神聖騎士団第一部隊突撃!」
しかしその号令を遮る男が居た。
「まってくれ!」
手を振りかざし静止をする、赤獅子騎士団のサイトウ団長だ。
「俺にも意地がある。やられっぱなしじゃ引けねー!」
「わかった。神聖騎士団下がれ!」
神聖騎士団団長ワタナベの号令が再び大広間に響く。
「ブロント、すまぬ」
ジャックが再び起き上った。
こいつは何度でも生き返るのか……。
ジャックのHPは4割ほど回復していた。
ジャックは下卑た笑みを浮かべる。
「無念。また仕留めそこなったか」
「それはこっちのセリフだ」
デスブリンガーの剣先をジャックに突き付け啖呵を切る。
「てめーの技の発動するまでの10秒間でHPを必ず削り切ってやる」
ジャックが雄弁に語りだす。
「お前は本当にバカだな。『爆砕』の発動に10秒掛かるとは誰が決めたんだ?」
ブハハハハ!と大笑いするジャック
「なんだと?」
確かに勝手に思い込んでただけかもしれない。
俺もサイトウ団長も。
「爆砕は、喰らったダメージ分の範囲攻撃を反撃する技だからダメージを貯めていただけだ。『爆砕』はいつでも発動できる。今でもな」
また光り輝きだすジャック。
爆砕を放つ気だ。
「赤獅子の中で他に『ブレイク』の呪文を持っている奴はいないか!? こいつの攻撃を止めてくれ!」
三人の魔法使いが名乗りを上げた。
「ブレイクってなんだ?」俺が隣にいるカオルに聞く。
「ブレイクって言うのは、敵の行動を停止/中断させる魔法。詠唱中の魔法もスキルも大抵のものは止められる」
魔法使いはブレイクの呪文を使う。
マッチを擦った時に似た様な音を立て、ジャックの周りを青白い光のドームが覆う。
ジャックの輝きが止まり光が消えた。
どうやら爆砕を止めたようだ。
「クソが!」悔しがるジャック。
「お前の技は既に封じた! 覚悟しろ!」怒鳴りつける赤獅子騎士団団長。
「それはどうかな?」
ジャックはまたしても光り輝いた。
『ブレイク!』
2人目の魔法使いが爆砕を止める。
「ぐぬぬぬ……。」歯が折れそうなぐらい噛みしめて悔しがるジャック。
「爆砕は封じた。何度やっても無駄だ!」
その間にも赤獅子団の攻撃でジャックのHPが残り2割まで減った。
これなら勝てると俺はそう思った。
「この勝負、負けるな」カオルが呟く。
「こちらの圧倒的有利だろ?」
「いや、このブレイクの呪文はリキャストまでの時間が2分とやたら長い」
「どういう事だ?」
「見ていればわかる。すぐに……」
ジャックは再び光った。
「ブレイク!」
3人目の魔法使いが爆砕を止める。
「無駄だ、諦めろ」サイトウ団長が切りかかりながらジャックに叫ぶ。
ジャックのHPは残り1割にまで減った。
更にジャックは光った。
すると、どの魔法使いからもブレイクの呪文が発動されない。
「どうした?」
「ブレイクのリキャストが間に合いません!」魔法使いたちが叫ぶ。
「お前ら逃げろ!」
後衛は逃げたが、距離的に逃げるのが無理と判断した前衛はひたすらジャックに切りかかる。
最後の削りでジャックのHPが5分にまで減った。
「攻略のヒントは見つけた。後は頼んだぞ! ブロント!」
サイトウ団長がワタナベ団長に向けて最後の言葉を送る。
ジャックから非情な言葉が発せられる。
「爆砕!」
ジャックは爆ぜ、爆風で赤獅子の前衛は完全に地に沈んだ。
「デスナイト……お前の意地は俺が受け取った」
新生騎士団ワタナベ団長はそう呟やき剣にかけた拳を硬く握りしめた。
赤獅子騎士団完全崩壊!
残るは神聖騎士団の第一部隊と第三部隊のみ!
起き上ったジャックが残忍な表情を浮かべ呟く。
「次は、どいつを殺すかな? ブハハハハ!」
下品な笑いするジャック。
辺りを見回したジャックの視線が止まった。
俺とジャックの目が遭った。
「やばい! やられる!」
ジャックは、俺に向かってゆっくりと床を踏みしめながら向かってくる。
俺雑魚なんですけど……、なんで俺を襲うんだ!?
俺は足がすくみ身動き一つ取れずにいた。
不意にカオルに腕を思いっきり引っ張られよろける。
「そこにいるとやられるぞ!」
見ると俺の後ろには第一部隊隊長が居た。
ですよね~。
いくらなんでも最弱クラスの俺が狙われるわけがない。
「第一部隊、掛かれ!」
第一部隊長が号令を発すると一瞬でジャックの周りに40名の陣形が組まれる。
神聖騎士の大盾で壁を作り攻撃を受ける作戦。
その神聖騎士の壁の中にきゃしゃな体のレイナも混じっていた。
そんな神聖騎士団に対し、ジャックはあきれた表情をする。
「お前らバカだろ。全く進歩無しでさっきとやってることが全く変わってないな」
さっきと言うのは階段で散った第二部隊の事だろう。
事前に取り決められたことしか出来ないAIに言われたくない。
「もっと楽しませろよ」そう言うとジャックは光り輝き始めた。
「ブレイクを頼む」
第一部隊長は落ち着いた声で指示を発する。
第一部隊でブレイクを使えるのは魔法使い6人と魔法戦士6人の計12人。
「いいか、お前ら。『爆砕』の発動ギリギリまで待って順番に『ブレイク』するんだ。それならキャンセルの二分のリキャストに十分間に合うはずだ」
一人目の魔法使いは『爆砕』が発動するであろうギリギリの時間まで待ってキャンセルを行う。
詠唱と共にジャックの辺りを青白い光のドームが覆う。
ジャックの輝きが止まり光が消えた。
爆砕を止めたようだ。
「ぐぬぬぬ」
悔しがるジャック。
ジャックが光る度に魔法使い軍団は連携して『爆砕』の発動を止める。
二人目、三人目、四人目と順調に作戦どうり成功。
ジャックはただ立ち尽くしたままHPを削られるだけであった。
「いけるな」
第一部隊長はそうつぶやく。
「小賢しい」
そう悔しそうに言うと、自分に勝ちが無いと見たのだろうか?
ジャックは神聖騎士団への攻撃を止め、背を向け階段に向けて逃走を始めた。
「逃がすな!」
階段を降りる歩みは鈍足なので容易に追いつくことが出来た。
その歩みを完全に止めたのはレイナであった。
レイナはジャックの頭上を飛び越え階段途中で大盾で壁を作り出した。
大盾が進行を妨害して逃走経路を絶った。
他の神聖騎士もジャックを取り囲む。
大盾で四方八方から取り囲み身動きが取れない状態に持って行った。
魔導士軍団もいつジャックが『爆砕』してもいいように階段を降り呪文詠唱の準備をする。
完全にジャックは詰んだと思われる状況であった。
後は弓でジャックのHPを削りさえすれば倒せる状況。
ジャックは残りのHPを削りきられる運命。
誰もがそう思った時ジャックは不敵な笑みを見せた。
「バカめ! 掛かったな」
ジャックは手に持っている淡く光る大槍を追撃してきた階段上方に居る魔導士軍団に投げつけた。
大槍は神聖騎士の大盾の上を越えて魔法使い軍団に襲い掛かる。
空気を切り裂いて大槍が飛んでいく音が階段にこだました。
大槍は唸りをあげて魔法使い軍団を貫いた。
「ギャー!」
「ぐはー!」
「キャー!」
魔導士達の悲鳴が辺りにこだまする。
大槍は階段下から放たれ、魔法使い軍団を貫き階段踊り場の天井に突き刺さった。
大槍にはまるで串焼きの串の如く、息絶えた10人以上の魔法使い、魔法戦士、僧侶が突き刺さったまま天井にぶら下がっていた。
「俺の武器が爆砕だけだといつから思った? 俺の逆転勝ちだな!」
ジャックは不敵な笑みを見せた。
魔法使い軍団を貫き階段踊り場の天井に突き刺さった大槍の下には死体から流れ出た血で大きな血だまりが出来、辺りには鉄の錆びたような臭いが充満していた。
「被害状況は?『ブレイク』は何人使える?」
第一部隊長はあまりの被害にうろたえながらも必死に指揮をとっていた。
「生存、魔法使い2名魔法戦士1名、ただしリキャスト中1名」
生き残った魔法使いから報告が上がる。
「くそ!」
第一部隊の圧倒的優位の状況から圧倒的不利な状況に一瞬で逆転してしまった。
「そろそろ決めさせて貰うぞ」
ジャックが光り輝き始めた。
「『ブレイク』を頼む!」
魔法の発動と共にジャックの周りを青白い光のドームが覆い爆砕を止めた。
「何処までもつかな」
ブハハハハ!と笑い、すぐにジャックが光り輝き始めた。
「『ブレイク』!」
再びジャックの輝きが止まった。
「そろそろ終わりか? ブハハハハ!」
ジャックがまた光り輝き始めた。
だが魔法を詠唱するものは誰も居なかった。
「早く! ブレイクを!」
「ムリです!もう居ません!」
「他に! 他にキャンセルが使える奴はもう居ないのか?」
第一部隊長は半狂乱の一歩手前であった。
俺の脇から誰かが歩み出た。
カオルだ。
「私が行きます」
カオルはすぐにブレイクを唱える。
「ブレイク!」
カオルが長い髪を振り乱して呪文を唱える。
ジャックを青白い光のドームが覆う。
だがジャックの輝きはそのままだった。
──ミス!
「レジスト?」辺りが騒めく。
レベルが第一部隊の隊員より低いせいか、ブレイクの呪文が効かなかった。
「終わった……」
誰もがそう思った瞬間、カオルは意外な行動に出た。
「ブレイク!」
カオルは続けざまにブレイクを唱えた。
ジャックを青白い光のドームが覆う。
今度はジャックの輝きが止まり光が消え爆砕を止めた。
辺りが騒めく。
「どういう事だ?」
「ムムム!」
ジャックも納得のいってない様子だった。
思わず俺はカオルに問い質した。
「カオル、リキャストは?」
「俺のユニークスキルは『詠唱時間0』って事を忘れたのか?」
なにそれ、どういう事?
「簡単に言えば、リキャストや詠唱時間関係なしにMPが尽きるまでいくらでも呪文が撃てる」
「なんだってー!」
辺りのざわめきが歓声に変わった。
「かてる!」
「いける!」
「うおおおお!」
「全員でかかれ!」その号令と共に総攻撃が始まった。
カオルはブレイクを詠唱し続ける。
「ブレイク!ブレイク!ブレイク!ブレイク!ブレイク!……」
第一部隊の猛攻を受け、ジャックは一度も爆砕を放つどころか身動き一つ出来ずに地に沈んだ。
カオルのユニークスキルで勝てた!
「レイジ、やったぞ!」
「おう! カオルのお陰だ!」
俺とカオルとレイナ、そして第三部隊のメンバーで抱き合って喜んだ。
「カオル凄かったぞ」
「ありがとう」
「スゲーなこいつ」
「第三部隊がやりやがったぜ!」
気が付くと俺たちの周りには人垣が出来ていた。
広場や階段に横たわっていた戦死者は僧侶の手によって次々に蘇生され、蘇生された者には回復薬と食事が振る舞われすぐに復帰。
全ての戦死者を蘇生復帰させたところで、ワタナベ神聖騎士団団長の「今日は撤収しましょう」との指示でイノシシの獣人拠点から撤収することに。
俺たちは獣人拠点を出たところで転移石を使い街に戻った。
俺の初の大規模狩りは終わった。
とにかく疲れたの一言以外の感想は無い。
宿屋に戻ると同時に俺は深い眠りに落ちた。




