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側近

 クリハラ部隊長の怒号が飛ぶ!


「側近が沸いたぞ! お前らすぐに下がれ!」


 側近は俺たちを見て言葉を吐き捨てる。


「騒がしいから来てみたら、ネズミどもの大量発生か」


 それを聞いた血気盛んなアツシが怒りをぶち撒ける。


「俺たちのことをネズミだと? 許せねぇ! ぶん殴ってやる!」


 クリハラ部隊長は飛び掛かろうとするアツシの腕を掴み後ろへと下がらせた。


「下がれ! お前たちにかなう相手ではない。下がって他の部隊に任せておけ」


 クリハラ部隊長は階段を駆け上りながらそう叫ぶ。

 俺は理由わけも解らず第三部隊のメンバーと共に階段を駆け上った。

 見ると俺のすぐ横でカオルも必死に階段を駆け上っていた。


「側近とか覚醒モンスターって何のことだ?」

「あのモンスターを良く見てみろ」


 振り向いてのっしのっしと踏みしめるように階段を登って来ているモンスターを、逃げながら見つめるとやたら長い名前が付いていた。


 ステータス情報には『覚醒:王に仕えし鋼の角のジャック』と名前が書いてある。

 この名前に覚醒と書いてあるから、覚醒モンスターと言うらしい。


「覚醒モンスターって言うのはレアモンスターの上位版、側近て言うのはイノシシの王に仕える四匹のモンスターの内の一匹」

「て、事は?」

「一言で言えばものすごく強い」


 クリハラ部隊長は必死に逃げながら、怯えた様な表情をして吐き捨てる様に愚痴をこぼす。

 

「なんで雑魚しか居ない筈の前宮に覚醒モンスターが沸くんだよ!」


 俺たちの駆けあがった階段の先には第二部隊が来て戦闘準備態勢に入っていた。

 第二部隊員の間を縫って階段を登りきると「第二部隊突撃!」の声と共に雄叫び、なだれ落ちるが如く階段を駆け下り敵に接敵する第二部隊。


 神聖騎士が盾となり階段に大盾の壁を作りあげ、そのあとにアタッカーが配置、そのさらに後ろでは魔法使いの呪文や盗賊の弓での遠隔攻撃が始まり、魔法戦士や僧侶の補助や回復のサポートが行われる。

 まさに理想の陣形。

 バランス型の極みの陣形だ。

 誰も指示していないのに防御陣形が一瞬で組まれ総勢30名の陣形が狭い階段に築かれた。

 ジャックは腹の底まで響くような低い声で吠える。


「後ろから奇襲を掛けようとしたのに気づきやがったか! ネズミどもめ、お前ら皆殺しだ!」


 ジャックの大槍の攻撃が始まった。

 それは凄まじい攻撃だった。

 電柱並みに太く長い大槍を片手で軽々と振り回し突きまくるジャック!

 

「重い、攻撃が重すぎる!」


 神聖騎士は必死に異常な破壊力の大槍の攻撃を大盾で受け止める。

 単発の通常攻撃自体が存在しておらずすべての攻撃が三連撃で、攻撃のあとの硬直もない。

 つまり隙がほとんど無いのだ。

 神聖騎士が激しい攻撃を盾で受け止めるが、通常攻撃と違いバリバリと体力が削られる。

 おかしいと思った神聖騎士が聞き耳を立てると通常攻撃の後に魔法属性攻撃特有の『スッシュ!』と言う効果音が聞こえる。


 ジャックの大槍には魔法属性が付いていて、攻撃の一部が盾のガードを貫通しているようだ。

 常時三連撃に魔法属性とは凶悪な組み合わせであった。


『ガゴゴンン!! スッシュ!』

『ガゴゴンン!! スッシュ!』


 一瞬で体力を四分の一にまで削られて視界が真っ赤になる神聖騎士。

 明らかにジャックに有利な展開と思われた。

 しかし神聖騎士の後ろには分厚いサポート軍団が控えていた。

 削られた体力は複数の僧侶の呪文で一瞬に回復し、魔法戦士の強化呪文で攻撃力、防御力、魔法防御力は一瞬で倍増した。

 ジャック自身にも麻痺、遅延、盲目、防御ダウン、攻撃力ダウン、毒などありとあらゆる妨害魔法が掛けられまともに動けない状態であった。

 一瞬で攻守が反転し、戦いの流れはジャック不利の展開に変わった。


小賢こざかしい!」と、ジャックは悔しそうに一吠えした。


 通常のイノシシの2~30倍ものHPと非常に高い防御力を持つジャックであったが30人の精鋭の絶え間ない猛攻を受けてHPを徐々に減らす。

 5分もするとHPを9割以上を削り減らし残りHPはごく僅かになった。

 ジャックを貫く武器から発せられる金属音が階段に響き渡る。

 命のともしびが尽きようとしているのか、ジャックは突如光輝き始める。


 カオルが「伏せろ!」と怒鳴る!

 俺が呆然としていると、カオルにタックルを喰らわされて後ろに跳ね飛ばされ俺は石畳の床に尻餅をついた。

 間髪開けず、カオルは長い髪を振り乱しながら俺に覆いかぶさってきて床に押し倒される。


 その刹那、ジャックは「爆砕!」とつぶやく。

 ジャックは己の命と引き換えに激しい光と共に己の身体を炸裂させ、辺り一面を爆風で薙ぎ払った。


 第二部隊は離れていた一部の僧侶を除き、全員死亡。

 そして隊は壊滅。


 生き残った僧侶も瀕死の重傷。

 辺りはジャックの死体を先頭に第二部隊の隊員の屍の山が築かれた。


「やったな。被害も大きかったが倒せたな」


 俺はほっと胸をなで下ろす。

「いや、まだだ」とカオルがつぶやく。

 その言葉通り、ジャックはまぶしい光と共に起き上った。


「さてと、次の獲物に取り掛かるか」


 不敵な笑顔を浮かべるジャック。

 HPが全回復したジャックは第二部隊の屍の山を踏みしめながら、階段をゆっくりと登り始めた。

 漆黒の鎧をまとった死の使いジャックは鎧に施された金色の装飾を松明たいまつで光らせながら階段を踏みしめる様に登っている。


 俺たち第三部隊はその容姿に気圧けおされて思わず後ずさりをしてしまった。

 階段を登りつめたジャックは広場を一瞥いちべつし腹の底まで響く声で叫ぶ。


「殺されたい奴はかかって来い! 殺されたくない奴は自ら命を絶て!」


 俺は恐怖で身がすくみ身動きが出来なかった。


「なめたマネすんじゃねー!」その声の主は赤獅子騎士団団長サイトウであった。


 彼が携えるのは、幅広でやたら長く分厚い刀身を持った超重量級の片刃の両手剣だった。


『カオスブリンガー』


 破壊力がずば抜けた逸品であるが、あまりの重量で扱いにくく誰も扱えないと言われた両手剣。

 それをサイトウ団長は軽々と使いこなしていた。

 漆黒のオーラを放つ暗黒騎士のアーティファクトに身をつつんだサイトウ団長は号令を出す。


「赤獅子騎士団! かかれ!」


 その号令が発せられると、雄叫びと共に一瞬でジャックを囲む総勢30名の陣形が作られ攻撃が始まった。


 バランス型の神聖騎士団第二部隊と違い、火力前衛を中心とした火力重視の赤獅子騎士団は桁違いの速度でジャックのHPを削り始める。


「お前の技は既に見切った!」


 サイトウ赤獅子騎士団団長がカオスブリンガーで空を切り裂きながらジャックに言い放つ。


「なんだと?」

「お前の技は死の間際に発動するタイプで、おまけに技の発動に10秒ほどかかる。俺たちの桁違いの火力で技の発動前にHPを削りきってやるぜ!」

「ブハハハハ! 何を言うかと思えばそんなことか」

「何がおかしい。俺たちの火力に掛かればお前のHPなど一分で削りきってやるわ!」


 辺りに響き渡る、赤獅子騎士団の猛攻から発せられる刃からの金属音。

 事実、赤獅子団の猛攻でジャックのHPは半ば過ぎまで削られていたが、そこまで30秒も掛かっていなかった。


小賢こざかしい」そうジャックが言うとHPが半分ちょっと減った程度なのに突如光り輝き始めた。


「な、なんだと!!? なぜHPが尽きても無いのに光り出す!?」

「この技が死の間際にしか使えないと誰が決めた!」

「なんだと!?」


 予想外の状況に狼狽うろたえる赤獅子騎士団団長。

 だが武闘派で知られる赤獅子騎士団のおさは逃げる事は無かった。


「者ども! こいつを削り落とせ!」

「「「おう!」」」


 死を覚悟しての攻撃だった。

 一方、神聖騎士団団長ワタナベの判断は冷静だった。


「戦闘中の者以外は全員退避! なるべく距離を取って伏せろ!」


 神聖騎士団団長ワタナベの指示が部屋にこだまする。

 俺たちは爆風に巻き込まれない様に、蜘蛛の子を散らすように部屋の隅に駆け足で退避した。


 赤獅子騎士団は16連撃や8連撃等のウエポンスキルを発動し一気にジャックのHPを削り畳みかけにかかる。

 しかしジャックのHPは半端ない多さで火力重視の赤獅子団でも削りきることは出来なかった。

 ジャックの残りHPが五分の一に達したところで非情な言葉が発せられた。


「散りな! 爆砕!」


 ジャックは己の体を激しい光と主に炸裂させ、辺り一面を爆風で薙ぎ払った。

 爆風が去った後には後衛を除くとわずか数名の赤獅子騎士団の前衛が数名立っているのみで、殆どの前衛が地に崩れ落ちている。

 赤獅子騎士団は事実上崩壊したのだった!

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