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大規模狩り

 イノシシの獣人拠点は雑魚の多い前宮と幹部以上のボスクラスの強敵が居る後宮とに分かれている。

 今回はレベル上げなので敵の数の多い、前宮でレベル上げをする事になったようだ。

 前宮の最奥の大広間では赤獅子団の精鋭が既にキャンプを設営して待っていた。

 その精鋭たちに赤獅子騎士団サイトウ団長が労を労う。


「お前ら、助かったぜ! ありがとうな」

「「「どういたしまして!」」」


 赤獅子騎士団のメンバーたちから沸き起こる歓声。

 サイトウ団長はかなり信奉が熱いようだ。

 サイトウ団長は今回の大規模狩りの主催者の神聖騎士団ワタナベ団長に声を掛ける。


「ワタナベ団長、この広場でいいかな? この部屋は敵が沸かないみたいなので安全に狩りが出来そうだと思う」

「最高ですね」

「ここなら隣接する小部屋中部屋から多くのイノシシを連れてくることが出来るぜ」


 大部屋に百人を軽く超える猛者たちが詰め掛け、それぞれ戦闘準備を始める。

 大きな斧や盾を持った物理戦闘職の者達が陣の外周を固め、魔法職がその内側に、さらに内側に生産職がキャンプを設営する。

 余程の強敵が来ない限りこの鉄壁の陣を破る事は出来ないのは素人の俺にも解る。

 第三部隊のメンバーは生産職近くの陣の中央で大人しくキャンプを設営した。


「俺たちは出番無さそうだな」


 不満げに愚痴をこぼすアツシ。

 俺と同じぐらいの年齢の男だ。

 たぶん15~16歳と言った感じ。

 すこし頭の悪そうな感じだが、体力にはかなり自信のありそうなヤンキータイプの男だ。


「ねぇアツシ! 私たちも前の方いかない?」


 エミリはたぶん11歳か12歳位の女の子だ。

 とにかく元気いっぱいの女の子。

 そのエミリがとんでもない提案をするとアツシも同調する。


「そうだな、どうせ死んでも僧侶が蘇生してくれるし思いっきり前に出て敵をぶん殴ってやるか!」


 とんでもない事を言い出した二人にキョウヤが釘を刺す。

 キョウヤは冷静な感じの20代前半の眼鏡が似合うインテリ風の青年だ。

 その冷静なキョウヤさんが声を荒げて怒っていた。


「死んだら蘇生しませんよ」

「これだけ僧侶居るから、キョウヤがしてくれなくても他の僧侶がしてくれるさ!」

「アツシ君! 今日は集団行動してるんですから周りに迷惑を掛けないでください」

「でもよ。俺たちヒマヒマになるのが目に見えてるし。なあエミリもそう思うだろ?」

「キョウヤがまたキレそうだからやめとこうよ」

「マジか! うは! こめかみに血管浮き出ててマジでキレそうじゃねーか! 止めとくわ」

「キョウヤがキレたら根に持って怖いもんね」

「この前もちょっということを聞かずにキレたら一週間も回復してくれなかったしな」


 アツシとエミリが子供みたいな身勝手な行動を起こそうとしていたが、キョウヤに釘を刺されて大人しくなった。

 こいつら子供だな。

 そんな馬鹿な芝居か漫才みたいなのを見せられていると、猛者たちの準備が整ったのか狩りが始まった。


「では狩りを始めましょう」


 団長の号令を聞いた神聖騎士団の第二部隊長ニカイドウが周りを一瞥いちべつして大声で周りに指示を出す。


「釣りは神聖騎士団第二部隊所属の盗賊が行う。各班アライアンスを組んだな? 準備はいいか?」

「はい!」

「了解!」


 その言葉と同時に第三部隊員だけの六人パーティーから36人のパーティーへとメンバーが一瞬で増える。


「なんだこりゃ! 画面の右端にずらっと名前が縦一列に並んだんだが? どうなってるんだよ? カオル?」

「アライアンスを組んだようだな」

「アライアンス?」

「6人パーティー6つで同盟を組んだのさ」

「同盟?」

「まあ、細かい事は気にせず、6人パーティーが6つ集まって36人パーティーになったと思って貰えばいい」


 36人て多すぎだろうと思ったら、さらにとんでもないことになっていた。


「画面には表示されてないけど、この36人のアライアンスが3つ同盟を組んでるから全体で百人ちょっとのパーティーになってる」

「うは! それは凄いな。でもそんなに多くの人数でパーティーを組んだら一人当たりが貰える経験値が減って、ろくに経験値が貰えないんじゃないのか?」

「大丈夫。敵一匹の経験値は少なくなるけど、延々狩り続ける事で連戦ボーナスが貰えるから。大規模狩りはこの連戦ボーナス狙いのレベル上げパーティーなんだ」

「へー」


 ゲームのシステムには色々とあるんだな。


「戦闘開始!」


 第二部隊長ニカイドウの号令が掛かる!

 六人の盗賊が隣接する部屋に蜘蛛の子を散らすように駆け足で散っていった。

 釣りって何やるんだろうな……、さすがに『魚釣り』する訳じゃないだろうし。

 さっぱり解らないのでカオルに聞いてみた。


「釣りって何やるんだ?」

「大規模パーティーの釣りって言うのは釣り役が自分を餌にしてキャンプに敵を連れてくる事さ。これから起こる事を見とけばすぐわかる」


 数秒後、一人目の盗賊がイノシシの獣人をキャンプ場に連れてきた。

 物凄い大群のイノシシを……少なく見積もっても15匹は超えている。


 イノシシたちは口々に「ぶっ殺してやる!」だの「待ちやがれ! ネズミ!」だの罵声を発している。

 言葉こそ発してるが知性の欠片も無い感じの敵だ。


「うは、大群が来たぞ。大丈夫なのか?」

「まぁ、見とけ」


 盗賊がナイトの集団を横切ると同時にナイトは大盾を構えて追ってくる15匹のイノシシを盾で受け止め足止めする。

 ナイトの集団の中にはレイナの華奢な姿も見える。


 イノシシの巨体と盾が激しくぶつかる!

 盾役のナイトたちは突進してくる盾に渾身の力を込めイノシシの集団を足止め、そのイノシシに魔法使いが『昏睡』の呪文を掛け眠らせると、今度は眠らせたイノシシを一匹ずつ確実に前衛アタッカーが集団で順に集中攻撃をして殴り倒す。


 流れるような作業だった。


 イノシシは飢えた軍隊蟻のようなアタッカーたちの正確な集中攻撃を受け、まるで紅茶に入れた角砂糖が解けるが如く一瞬で崩れ倒れていった。


 そのような流れ作業が東西南北の四か所で行われている。

 敵を倒すと同時に経験値が入るが、四か所で同時に進行してるので凄まじい速度で経験値が増えまくる。

 カットインメッセージの戦闘ログを見ると見るととんでもない事に気が付いた。


──カイトの三連撃! オオキバウリボウは3024のダメージ!

──オオキバウリボウは倒れた。

──レイジは512の経験値と42Gを手に入れた。

──ケインの渾身割り! オオキバウリボウはの2304ダメージ!

──オオキバウリボウは倒れた。

──レイジは512の経験値と42Gを手に入れた。

──レイジは224の経験値と36Gを手に入れた。

──レイジは144の経験値と12Gを手に入れた。

──レイジは224の経験値と36Gを手に入れた。

──レイジは512の経験値と42Gを手に入れた。

──レイジは196の経験値と16Gを手に入れた。

──レイジは144の経験値と12Gを手に入れた。

──レイジは224の経験値と36Gを手に入れた。


 ログが表示できないほどのスピードで流れる。

 経験値所得のログはまるで滝のようにスクロールして流れていた。

 機械仕掛けの経験値取得マシン。


 そんな印象だった。


「凄いな」


 ログを見た俺は驚いて思わずつぶやくとカオルも同じような顔をしていた。


「アライアンスでパーティー同盟を組んでいるので俺たちのパーティーが倒した敵だけじゃなくこの部屋で倒した全ての敵の経験値が流れ込んできて、とんでもない速さでレベルが上がる。俺たちも主力の邪魔にならない程度に攻撃に参加しようぜ」

「おう!」


 俺たち第三部隊は西の集団に合流する。

 俺は敵を殴り始めた。

 一生懸命敵に切りかかったものの敵のレベルが高過ぎるのか殆どがからぶりでミス。

 たまにまぐれで当たったとしても1~2ダメージ程度の殆ど無意味なダメージ。

 ほとんど役に立ってねー。

 お荷物、いや経験値泥棒するだけの金魚の糞の俺。


 それでも経験値は全開にした水道の蛇口からバケツに流れ込むように入ってくる。

 カオルと二人で初期村の近くでレベル上げしてた時は一時間ぐらい必死に戦ってやっとレベルが一つ上がる感じだったのに、大規模狩りではレベルアップまでの時間がたったの5分で済むことに驚いた。



「物凄いペースでレベルが上がりまくってるな」

「あっという間だな。話では聞いていたけど、クランの大規模狩りはここまで凄いとは思わなかったぜ」


 経験値の上がり方がすご過ぎで頭おかしくなりそうなレベル。


「今日の終わりにはレベル50に到達できるかもな」

「ああ。頑張れば絶対にいける」


 俺は頑張って頑張りまくった。

 最初はかすりもしなかった攻撃が10レベルも上がる頃には少しずつ当たるようになってきて、少しは狩りの役に立ってきた感じがする。


 昼ぐらいにはかなりいい感じで攻撃が当たるようになってきた。

 昼の休憩はパーティーの中で一人ずつ順番でとって、狩りは中断しない様に続けられる。

 連戦ボーナスが途切れなくする為だ。

 休憩中にも他のメンバーが狩るので座ってるだけで経験値が入ってきてウマイ。

 俺の休憩の番が回って来た。


 生産職で参加しているメンバーから貰った食事と回復ドリンクを取りながら辺りを眺めていると狩りの前線部は第一部隊が担当してるようだった。


 レイナはナイト軍団の一角として敵の激しい攻撃を勇猛に盾で受け止めていた。

 その顔はBBBを始めるときに見せたブラコン妹の甘えた顔ではなく、戦乙女と言って間違いない精悍な表情である。

 妹のレイナはこの世界で、俺よりもはるかに先のステージに進んでる様だ。

 俺には既に手の届かない存在になってしまった気がする。


 第三部隊のカオルを見ると、これまた魔法戦士として理想的とも思える素晴らしい動きをしていた。

 敵に妨害魔法を入れつつ、他のパーティーメンバーの強化魔法が切れない様に順番に補助魔法を配っていた。


「俺も頑張らないとな……」


 休憩を終えて狩りに復帰すると今まで以上に気合いが入ってやる気が起こる。

 俺に出来ること『ただひたすらに敵を切りまくる!』事に集中した。


 *


 それから何時間レベル上げをしただろうか……。

 あまりに集中してたので時間の感覚がよく解らなかったが、時刻は夕方6時を回っていた。


「そろそろ引きあげますか」


 ワタナベ団長の落ち着いていながら通る声が大広間にこだまする。

 釣り役が釣るのを止め、戦闘がまばらとなり、そして狩りは終わった。

 俺のレベルは56にまで上がった。

 すぐ近くにいたクリハラ部隊長が辺りを見回し、第三部隊のメンバーの安否を確認している。


「全員いるな。それじゃ、外に出たら転移石を使って帰るぞ」

「ういっす!」

「はーい」

「はい!」


 部隊メンバーの元気な声が聞こえてくる。

 カオルが俺に声を掛けてきた。


「ずいぶんレベル上がったな」

「ああ、56まで上がったよ。すごいな」

「俺も56だ。もう少しで全部位のアーティファクト取れるな」

「アーティファクトか……レイナと同じ神聖騎士のアーティファクトが欲しいけどジョブを取って無いから無理だな」

「神聖騎士もクランのレベル上げに何度か参加出来たら夢じゃないな」

「とりあえず戦士のアーティファクトが欲しいぜ」

「今度取りに行こうぜ」

「おお! よろしく頼む」

「俺たち皆んなで取りに行こうぜ!」


 俺とカオルがアーティファクトの話してたのを聞いて、武闘家のアツシが話してきた。


「ああ、もちろん。みんなで行こうぜ」

「やった~!」


 第三部隊のメンバーのエミリからも歓喜の声が上がる。

 なんだかんだ言って今日の大規模狩りでレベルが上がりまくったので皆ハイテンションだ。

 俺たちは第三部隊のメンバーと共に出口へと続く階段を降りた。


 外に出ようと階段を降りていると、階段の先に今まで狩っていたイノシシとは明らかに異なる見慣れないイノシシが居ることに気が付いた。

 大イノシシは背丈が3メートル近く重厚な真っ黒い金属の鎧に細かい金の装飾。

 そして持ってる槍は突撃槍のような形状をし大人二人分の背丈を超えるほどの異常なほどの長さで淡く光り輝いている。


 今までのイノシシは皮鎧を着ていたので、パッと見で明らかに違いが分かる姿をしていた。

 敵を見つめ調べたカオルが悲鳴のような大声をあげる!


「覚醒モンスター! しかも側近!」


 俺たちの前に禍々しい姿のモンスターが現れた。

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