死の棺
疲れが溜まってたせいか翌朝少し寝過ごしてしまった。
宿屋の外に出てみると、既にカオルとレイナが待っていた。
「おはよう。お兄ちゃん」
「レイジ、今日も遅かったな」
「わりー、今日も寝過ごした」
二人は昨日と違ってなんとなく打ち解けてる様だった。
俺が来るまでに時間が有った事で、二人で話し合ったせいか少し仲良くなったようだった。
「クラン会館でみんな待ってるよ」
「早くいこうぜ! もう集合時間ギリギリだ!」
カオルも俺を急かす。
「いくよ~!」
レイナとカオルはこの街に不慣れな俺を幼稚園の引率の先生の如く連れて行く。
「お兄ちゃん、ここが教会だからここで転移石登録しておいてね」
「レイジ! そこの橋、柵が無いから落ちないように気をつけろよ」
「お兄ちゃん、そこの通り走ってる人が多いから気を付けて」
「お兄ちゃん、ここの預り所でお金全部預けておいてね。あといらないアイテムも全部預けておいた方がいいよ」
言われるままに転移石を登録し、使いそうもないアイテムとお金を預けておいた。
親切心で言ってるんだとは思うが、妹やカオルに子ども扱いされてるようで我ながら情けなくなる。
体育館ほどの広さが有るクラン会館の会議室に着くと、昨日の会議の時とは比べ物にならない人数が集まっていた。
斧や大盾を持った屈強な前衛系ジョブ。
短剣や弓を持った軽装の支援系ジョブ。
杖を持った後衛系ジョブ。
さまざまなジョブがクランの会議室に集まっていた。
俺とカオルみたいな低レベルには、思いっきり場違いな雰囲気が漂っている。
どうやら昨日と違いクラン外の猛者と思えるプレイヤーも混じっているようだ。
驚いたことに生産系のジョブもちらほら見られた。
そんな猛者たちが浮かれて会話をしているのが耳に飛び込んでくる。
「大規模狩りってベータ以来だぜ!」
「成長した俺の剣技を見せてやるわ!」
「我が爆裂魔法の威力にひれ伏すがいい!」
「腕がなるぜ!」
大規模狩りのレベル上げに期待する声があちらこちらから聞こえる。
彼らは雑談しつつ、自慢の武器の手入れと確認を行ってる様だった。
そんな中、明らかに戦闘系じゃない調理師っぽい人や鍛冶屋みたいなのが混じってるのが気になった。
「あの生産系の人たちはなんで参加してるんだ?」
「お兄ちゃん、あの人たちは本当の意味で支援してくれる人なんだよ」
「支援? 魔法戦士じゃないのに支援てどういうこと?」
「ご飯作ってくれたり、武器直してくれたり、あとMP回復の薬作ってくれたりするんだ」
レイナの解説にカオルが続ける。
「大規模な狩りだとそういった非戦闘系の人も参加するみたいだな。彼らにもレベルが上がる以外のメリットが有って材料費はギルド持ちだから材料費を出さないで生産スキル上げが出来たり、市場にまだ出廻ってない素材を直接仕入れられるチャンスだから生産職にとっても大規模狩りはかなり人気あるみたいだ」
「なるほどね~」
俺は生産職が参加している事を納得した。
ワタナベ団長が俺たちが来ているのに気が付いて、話の輪から抜けてこちらにやって来た。
「おはよう。レイジ君ずいぶんと立派な装備揃えたなー」
「おかげさまで。ありがとうございます」
「ところでそちらの方は?」
「昨日あいさつしました、カオルと申します」
「カオル君か! 見違えたな。ずいぶんと綺麗になったもんだ」
団長も間違いなくカオルの事を男と思ってたな。
団長が鼻の下を長くしてるとこを見ると、なんか笑えてくる。
俺が笑いを堪えてるのに気が付いて、カオルが俺の脇腹を思いっきりぶん殴って来た。
脇腹マジいてぇ!
魔法の鎧を着てても貫通する攻撃って……カオルさん、マジこえーです。
団長がここに来た用件を切り出す。
「君たちに紹介したい人がいるんだ。第三部隊長のクリハラ君だ」
「第三部隊長のクリハラだ。よろしくな!」
クリハラと呼ばれた青年は20代中盤って感じ。
ちょっとだけマッチョでチャラい感じの部隊長が軽くお辞儀をしながら挨拶する。
俺たちもお辞儀で返した。
「レイジです。よろしくお願いします」
「カオルです、よろしくお願いします」
「君たちは、彼の下について行動してください。それじゃ失礼します」
それだけ言うと、ワタナベ団長は忙しいのか元の話の輪に戻っていった。
「私も部隊の方に顔出してくるから、またねー」
レイナも部屋の奥へと消えていった。
「君たちは戦士と魔法戦士でいいのかな?」
クリハラ部隊長が人懐っこさそうに俺達に聞いてくる。
「はい。戦士と魔法戦士です」
「おっ、やっぱそうか。第三部隊ってぶっちゃけた話、第一と第二部隊で余った団員が所属してる程度なんでいつも慢性人手不足なんだよ! 誰でも歓迎するぞ」
クリハラ部隊長は胸を踏んぞり返しながら笑っている。
「おまけによ、部隊員は武闘家ばっかりで盾や魔法系の隊員が居なくて困っていたんだよ」
「そうなんですか」
ギルドで俺たちみたいな初心者歓迎っておかしいとは思ってたんだけど、話を聞くとよくある『ですよね~』状態だった。
クリハラ部隊長は部隊員を呼び集めると俺達の紹介を始めた。
「こっちが今日から参加する戦士の『レイジ』と、魔法戦士の『カオル』な。みんな仲良くしてくれ!」
「よろしく!」
「よろしくです!」
「で、ここに居るのが武闘家の『アツシ』」
「よろしく!」
「こっちが同じく武闘家の『エミリ』」
「よろぴこ!」
「そしてこっちが魔法使いの『サキ』」
「よろしくお願いします」
「で、最後がサブリーダーで僧侶の『キョウヤ』だ」
「みんな、よろしく!」
キョウヤさんと呼ばれた人には見覚えが有った。
ジェネシス近くで大鳥に襲われた時、俺を助けてくれた眼鏡を掛けた青年だ。
「以上!」
「すくなっ!」
俺は思わず声を漏らした。
「ん? どうした?」
「さっきの話だと武闘家が多いって話してたから10人ぐらい武闘家いると思ったら、全員で四人だけですか?」
「まぁ、細かいことは気になさんな」
笑って誤魔化すクリハラ部隊長。
「ところでお前たち、イノシシの獣人拠点の転移石持ってるか?」
「ないです」
「近くの町の石もないよな?」
「持ってないです」
「だろうな~。そうだと思ったぜ。第三部隊は部隊長の俺以外全員持ってないと」
「歩きで移動です?」
「いや、歩きじゃないんだけど……」
「だけど?」
「目つぶってりゃ大丈夫さ。目つぶって乗り物に乗ってればすぐ着くから大丈夫」
「それって……電車の貨物室に勝手に乗り込んだりとかの、ものすごい怪しい手段なんじゃないですか?」
「ハハハハッ! ま、そんなとこだな~」
怪しいのは否定しないのかよ!
俺たちはクリハラ隊長に連れられてギルドから少し離れた街の端の広場に連れて来られた。
エアポートと言う施設だ。
エアポートと言えば飛行場の事だが飛行機なんてどこにもなかった。
「どれに乗るんです?」
「あれさ」
クリハラ部隊長が指さしたのは工場の煙突みたいな建物だった。
その煙突の根元に連れて来られた。
「さ、ここの球に乗って、乗ったら目をつぶって大人しくしてろよ」
見ると扉付きの、直径2メートルぐらいの大きさの鉄製の球が有った。
中は空洞になっていて球の内壁にクッションが敷き詰められ、あとシートベルトみたいなのが設置してあるだけで、それ以外には埋め込み式の小さい照明が一つあるだけのシンプルな構造。
6人が乗るには少し狭い球に第三部隊のメンバー全員が乗り込む。
「これやなんだよな」
「すげー痛いし」
「やだやだ」
そんな事を口々にする隊員たち。
「何が起こるんだ?」とカオルに聞くと「知らない方がいい」とカオルらしくない少し青ざめた表情をする。
ガチャ!っと言う金属音と共に、俺たちの乗り込んだ球の入り口が閉じられた。
球の外で黒板をひっかく様な音を大げさにした怪しげな金属音系の機械音がする。
「何が起こってるんだろう?」
「そりゃー、大砲に込められてるんだよ」
武闘家のアツシが先輩ぶって得意げに言った。
「え?」
「人間大砲に込められてる」
「はぁ?」
「大砲って知ってるか?」
「バカにすんなよ。大砲ぐらい知ってるさ」
「あれの弾がこの乗り物」
「マジ?」
「大砲で打ち出して、向こうの獣人拠点に打ち込む」
「そんな事して大丈夫なのかよ?」
「大丈夫なわけないだろ」
「え?」
何言ってるのかよく解らない……。
「乗員は撃ち出したときに大抵は死ぬんだ」
処刑器具かよ!
死にたくねーよ!
マジ死にたくねー!
なんでこいつらこんなに落ち着いてるんだよ?
ありえねーよ!
「マジかよ! 出せよ! 出してくれよ!」
俺は必死にドアを開けようとするがビクともしない。
出口から出ようとするが、既にロックが掛かってて出れない。
ロックされた扉を叩いても蹴ってもびくともしない。
でも叩き続ける俺。
「もうねじ止めされてるから、もう開かないさ!」
「マジかよ! 死んじまうんだよ! 俺たち! よくお前ら冷静でいられるな!」
「向こうで蘇生してくれるから大丈夫」
暴れている俺を見て、魔法使いのサキが俺をなだめるように言う。
それ全然死ぬことへの解決になってねーよ!
マジ何考えてるの?
この人ら!
「それ、全然問題の解決になってないんだけど……」
「蘇生は球の中で大人しくしてて、弾道がずれずに変なところに落ちなければの話ですよ。暴れたら水深100メートルの海の中とかで二度と救出されないなんて事にも……」
それを聞いた俺はドアを叩くのをやめて、おとなしく座った。
「さ、始まるぞ。みんなシートベルトはちゃんと締めてるかな?」
今まで無言だった僧侶のキョウヤが皆に確認した。
球の中にある照明が白から赤に変わった。
危険ゾーンに入ったって事だろうが、そんな精神を削り落とす演出は要らねーよ!
そして外からは導火線の火薬が燃える臭いと導火線が燃える音が聞こえてくる。
マジ!
マジ止めてくれ!
俺は心の中で叫び続けた。
数秒後、凄まじい爆発音と、全身を貫く鋭く重く巨大な衝撃に襲われて、俺の意識は事切れた。
どのぐらい経ったかは解らないが、意識が戻った。
球の中は激しい振動と、物凄い勢いで回ってるのが遠心力で感じられる。
遠心力で壁に張り付いて身動きが取れない。
乗り物酔いに弱い人なら即胃の中の物を全て吐いてしまうレベルだ。
目が覚めると赤い照明の中のカオルから声を掛けられた。
「目が覚めたか」
遠心力で体の身動きが取れないので首だけを声の方に向けるとこちらを向いているカオルと目が合った。
「あぁ」
「レベル30近いと発射の衝撃位じゃ死ねなかったな」
カオルが小声で呟く。
周りを見ると気絶しているのか死んでいるのか解らないが、他の四人は動けない状態だった。
「この乗り物、実は着地の方が衝撃がデカいんだ」
「マジか!?」
「マジだ。たぶん俺たちも着地の時に衝撃で死ぬと思う」
物騒な事を言うカオル。
「こんな事で死にたくなかったぜ。レイジ」
「なんか俺、死刑で死ぬのを待つ犯罪者の気持ちが解ったよ。こんな気持ちを二度と味わいたく無いから一生悪い事はしないって心に決めたぜ!」
「俺も!」
室内のランプが緑になった。
もうすぐ目的地に着くらしい。
「じゃ、生き返ったらまたな!」
指先だけでガッツポーズをとるカオル。
「それなんか、洒落になってないが……またな」
俺も親指を上げてガッツポーズで返した。
俺は歯をくいしばって着地の激しい衝撃を待った。
突如軽い衝撃が起こり球の回転が止まった。
「どうなってるんだ? 殆ど衝撃が無かったな」カオルが不思議がる。
「着いたのかな?」
「着地の衝撃が来なかったんだけど、着いたんだろうか?」
錆び付いた金属を引き離すような音が扉から聞こえる。
発射の衝撃で扉が歪み、扉を開けるのが重くなったようだ。
開いた扉には、妹のレイナの笑顔が見えた。
「お兄ちゃん、おつかれ~」
そのすぐ横にはクリハラ部隊長が立って声を掛けてきた。
「旅行、お疲れ様」
「旅行じゃねーよ! 最上級の絶叫マシンに乗せやがって!」
「楽しかったろ?」
「楽しー訳ねーだろ!」
俺は一人憤慨した。
転移石で先に飛んできたんだろうか?
外にはクラン会館で集まっていた猛者たちが草原に居た。
俺とカオルはふらつく足を引きずりながら球から出た。
目の前には草原が広がっていた。
そこは俺がこのゲームで初めて降り立ったあの草原だった。
遠くには散々な目に遭ったあの大木が小さく見える。
俺とカオルが球から降りると同時に入れ違いで二人の僧侶が乗り込む。
クリハラ部隊長が僧侶に「どうだ?」と問う。
球の中から「全員気絶しているだけです。治癒開始します」とハキハキした声が帰って来た。
俺たちが球から降りてすぐのところで座り込んでると、レイナが「これ飲んで」と回復薬の飲み物を持ってきた。
「ありがとう」と礼をいい飲むと、すーっと嘘の様に疲れが取れた。
球の中からアツシとエミリを両脇に抱えた部隊長がやってきた。
二人を降ろすと介抱しながら俺に話しかけてきた。
「これな、滅茶苦茶早く移動できるんだけど、ベータの時は死の棺とか鉄砲玉って言われてて、行ったっきり乗員が帰ってこれないので有名な乗り物だったんだぜ」
「でしょうね」
カオルが気になっていた事が有る様で部隊長に問いかけた。
「乗員が全員死ななかったんですが、何か手を加えたんでしょうか?」
「お! いいとこに気がついたな。実はこの玉自体は変わってないんだけど、撃つ前に防御呪文を球に掛けるようにしたんだ」
「なるほど、それで死ななかったんですか」
カオルが納得したという表情をした。
「どういうこと?」
サッパリ解らなかった俺がカオルに聞くと部隊長に代わりカオルすぐに答えてくれた。
「防御呪文で、撃ち出したときの衝撃を吸収させたから俺たち死ななかったんだよ」
「ああ、なるほどな~」
その言葉を聞いてやっと俺にも解った。
「着地時も衝撃が少なかったですね」
「何人かで受け止めてもらったからなー」
誇らしげにクリハラ部隊長が胸を張っていった。
「うはっ! マジですか?」
「武闘家3人で地上で網を持ってもらって、飛行スキル持ちの2人に上空で網張ってもらって受け止めた。上空の一人はお前の妹のレイナだ」
レイナを見ると俺に微笑んだ。
「ま、これは今日みたいな急ぎの時じゃないとまず使う事は無いかな」
急ぎでも二度と使って欲しくないんですが……。
遠くで声が聞こえる。
「それでは全員集まったみたいですね。レベル上げを始めましょうか」
「お前ら、俺に恥じかかせない様に気を抜かずに頑張れよ!」
そして聞こえる「おおおお!」と言う参加者からの雄叫び。
俺たちは他のメンバーと共に、イノシシの獣人拠点へと向かった。




