戦闘準備
会議が終わり他のギルドメンバーが帰ると会議室には40人ほどが残った。
「神聖騎士団と赤獅子団のメンバーの会議参加者以外は帰ったかな?」
40代前半に見える落ち着いた感じの恰幅のいい男『クラン神聖騎士団』団長ワタナベが周りを見ながら問いかけると、かなりガッシリとした男『クラン赤獅子騎士団』団長サイトウが落ち着き払って答える。
「帰ったようだな」
「私たちの事を知らない人も居ると思うので改めて自己紹介をしたいと思います」
ワタナベ団長はこちらを向き会釈をしたので俺はお辞儀で返した。
「私は神聖騎士団で団長をしているワタナベと言います。そしてこちらは赤獅子騎士団を束ねている団長のサイトウさんです」
無骨な20代後半から30歳前半と思われる男が軽くお辞儀をした。
「私たちはベータのイベントで戦った仲でしてね。その頃からの付き合いなんです」
二人は目配せをして微笑む。
それを聞いたカオルがソワソワしてる。
「どうしたんだよ? カオル」
「さっきから気になってたんだけど、この人たちってベータテストの時のトッププレイヤーのブロントさんとデスナイトさんじゃないか?」
「誰だよ、それ? 俺ベータをプレイして無いから知らないよ」
「知らないのかよ! ベータの時のトッププレイヤーだぞ! このゲームをプレイしててあの有名なブロントさんとデスナイトさん知らないなんて有り得ない!」
知らないんだから仕方ない。
カオルが憤慨して周りの状況も考えずに大声を出したので、その声が団長達の耳に入った。
「ブロントですか……その名前で呼ばれるのも随分久しぶりですね」
「俺がデスナイトと呼ばれてたのも遠い昔の様だ」
遠い目をする二人の団長。
話はβテスト最終日、リアル時間で一週間前、ゲーム内時間で70日前のβテストの最終イベントの終戦祭に遡る。
*
漆黒の闇の中で声が響く。
『こんにちは、みなさん!』
若干エコーの掛かったマイクを通した、とても通る男の声だ。
『皆様、本日は『BBB』ことブラッディー・バーニング・ブレードのクローズド・ベータ・テスト・ファイナル・イベントの『終戦祭』に参加して頂きましてまことにありがとうございます』
『とは言っても、ここコロシアムに居るのは私を含め3人しか居ないのですがね』
一人ほくそ笑む男。
漆黒の闇の中、かすかに見える位の赤い光が浮かび上がる。
その光はどうやら人の形をかたどっているようだ。
そしてその光にスポットライトの強烈な光が当たる!
その赤い光はタキシードを着てマイクを持った司会者へと変わった。
『参加者は審判を務めるこのわたくしシニアGMの『Hiroxx』と、みなさんご存じのこのお二人!』
BGMとしてアフリカの先住民族の音楽の様な野太い太鼓の音が一定間隔で流れ始める。
その音と同時に会場からどよめきが起こる。
それを押しのけGMのアナウンスが始まる。
『武器としては最高峰の性能を持つ完全攻撃貫通の剣』
『魔剣『ラグナロック』をベーターテスト中に竜王Shadowを討伐して手に入れたーー!』
GMが大声で煽った!
『漆黒の爆砕暗黒騎士、デーーッスッナァイットォォォー』
ソレノイドリレーの風の機械的で重い効果音と共に暗黒騎士デスナイトにスポットライトが当たる。
男は漆黒の鎧の中に幾重にも張り巡らされた赤く光るラインが映える鎧を着ていた。
体型はかなり無骨でマッチョである。
今まで何もなかったデスナイトの上空の空間にステータス情報が映し出される。
そして効果音として弦をかき鳴らすリードギターの音。
──────────
Desunaito
HP 2480
MP 562
ATK 1712
DEF 101
Weapon Ragnarock
──────────
会場のどよめきが歓声に変わる。
マッチョな男達の声援が津波の様に押し寄せる!
「ウォォォォ!」
「世紀末破壊神!」
「スゲェーー!!」
「アニキィィー!!」
「アニキ! アニキ! アニキ!」
歓声は鳴りやまない。
GMは歓声に押される様に調子に乗りプロレスのリングアナウンサーの様な口調で煽る。
『清々しいほどの完全攻撃重視のステ振りぃー』
『ネームの綴りがぁぁーローマ字読みで英語の『DeathKnight』じゃない所がぁー、少しおちゃめなセールスゥーポイントゥゥ!』
GMは大声を出して切れそうになったこめかみを押さえつつ一息入れて続ける。
『対するは、防具として完全防御の最高峰の性能を持つ盾!』
『聖盾『イージス』をベーターテスト中に自らが主宰する神聖騎士団を率いて神龍Goddesを討伐して手に入れたー!』
『神聖騎士、ブゥロンットゥー!』
対戦相手の神聖騎士ブロントにスポットライトが当たる。
純白の鎧の中に金色のラインが映える鎧。
体型は痩身長身でかなりクールな感じだ。
神聖騎士の上空の空間にもステータス情報が映し出される。
そしてまたもや弦をかき鳴らすベースギターの効果音。
──────────
Bront
HP 6120
MP 5980
ATK 98
DEF 1682
Shield Aegis
──────────
会場の歓声がますます大きくなる。
割れんばかりの歓声とはこの事だ!
「ウォォォォ!」
「ブロントさん! クール!」
「さすが知的派!」
「カッコィィ!!」
「旅団長ー!」
女子を含む黄色い歓声が鳴りやまない。
『防御重視で鉄壁の盾』
『ベータテストでは最大規模のチーム『神聖旅団』を率いる頭脳派リーダァァー!』
『知力と防御力が両方そなわり最強に見える男だ!』
GMは続いて会場の外を向いて叫ぶ。
『そして、この歴史的瞬間を見届けるギャラリーはーッ!』
『ベータテストに参加してくれたァァー!』
『遠く離れたバーチャルスタジアムから、この会場を観戦する四万五千人のベータテスタァァー達だ!』
すると今まで漆黒の闇だった天空にギラギラと輝く太陽が昇り空は雲一つない青空に、漆黒の大地は礫岩の大地へと変わり、その周りにはローマ時代の白亜の大理石のコロシアムが現れる。
今まで見えていなかったギャラリー達が可視化されスタジアム外周にある観客席で波打つ。
『本日はこの二人に製品版に引き継がれるこちらのレアアイテム、レッド・ゴールド・プラチナ・アーマーを賭けて戦ってもらいます!』
『このアイテムはBBB内で最強の装備となっていて、なんとステータスは』
『全ステータスMAX!』
『完全ガード!』
『完全回避!』
『完全カウンター!』
『移動速度3倍!』
『通常攻撃:16回攻撃』
『アイテムドロップ8倍』
『正に神装備!』
ギャラリーの歓声が怒号に変わる。
「ウォォォォ!」
「スゲェェー!!」
「カッコィィ!!」
「欲しいィィ!!」
「よこせェェ!!!」
『完全に運営がやっちまった感がある性能の神が着るべき超ド級の装備性能です!!』
『なおVRMMOと言うゲームの性質上、長時間の対人戦は精神に重い負担が掛かる為、二分で勝負がつかない場合は参加者でダイス勝負をして勝者を決定させていただきます』
会場にミュートの音声効果が掛かる。
辺りには静寂が訪れる。
GMは空に向かい剣を掲げた。
『それでは両者位置について!』
そして剣を振り下ろして叫んだ!
──ファイ!
歓声ミュートの音声効果が切られ、辺りは再び歓声で埋め尽くされる。
BGMはBBBのメイン戦闘BGM『聖戦の譜系』。
激しいオーケストラサウンドBGMが辺りを覆う。
最初に仕掛けたのは暗黒騎士のデスナイトであった。
「死ねーーーーーぃ! 俺の研ぎ澄まされた刃を喰らいやがれ!」
デスナイトはダッシュと共に、最も隙の少ないウェポンスキルの三連撃を仕掛けた。
鈍い金属音が三度放たれる。
大地ごと切り裂くと思えるほどの凄まじい剣圧の攻撃が三度繰り出される。
神聖騎士のブロントは腰を少し落とし盾を構えその攻撃を防ぐ。
盾と剣からは尋常ではない程の火花がほとばしる。
GMの熱い実況が入る。
『剣と盾がぶつかり合い激しい火花をあげております!』
『デスナイトは最も隙の少ない三連撃のウェポンスキルでの攻撃を選んだ!』
『何の変哲もない三連撃だが、これだけの攻撃力を持った者が使うと凶悪極まりない!』
『おお!』
『これは!!』
『なんと、イージスの盾を持ったブロントのHPが減っている!』
『ラグナロックの完全攻撃貫通の性能が、イージスの盾の完全防御の性能を上回っている!』
ブロントの頭上のステータス情報のHPを見ると攻撃が当たる度にHPが500ずつ減っていた。
『ブロントのHPは合計1500減ってHP4620!』
『現代の最強の矛と盾の戦いは、矛に軍配が下るのかー!』
デスナイトの激しい攻撃を盾に受けた衝撃で腕に張り裂けんばかりの衝撃が走り、ブロントの顔が歪む。
『このまま削りきるのか! 削りきられてしまうのかー!』
ギャラリーから発せられた歓声と悲鳴が会場を異常な音圧をもって会場を包む。
デスナイトはブロントの盾ガードをお構いなしになおも猛攻を続ける。
「塵になれ! 砕けろ!」
口角を釣り上げ叫ぶデスナイト。
重戦車並みの凄まじい剣圧の三連撃の攻撃がデスナイトから放たれた!
三連撃の攻撃は、一連撃目の素早い攻撃で敵に防御態勢を取らせ、重い二連撃目で敵の防御を崩し、さらに重い三連撃目の攻撃で崩れた防御の上からダメージを与える技だ。
通常の武器なら盾持ちの相手には一~二撃目はノーダメージ、三撃目だけ通常ダメージより少ない通常攻撃比0.5倍の防御ダメージが発生するだけの技だが、完全攻撃貫通のラグナロックでの攻撃なら話は変わる。
一連撃目から0.5倍撃の防御ダメージを与え、二連撃目で通常ダメージと変わらないダメージ、三連撃目で防御が崩れた状態で三倍撃のダメージを与えるのだ。
つまり通常攻撃の4.5倍ものダメージを与える凶悪な攻撃に豹変する。
しかも完全に攻撃向けにステータスを極振りした暗黒騎士の攻撃である。
限度を超えた重い攻撃であった。
「ぐっ!」
一般プレイヤーならガードしただけで消え去りそうになるほどの剣圧を必死に盾でガードして耐えるブロント。
ガードする度に衝撃で1メートルずつジリジリと後ろに追いやられる。
盾からアーク溶接の様な真っ白な火花が激しくあがり目が眩む。
『ブロントのHPが目に見えて減ってきた~!!』
『HPは3120』
「潰れろ!! その盾ごと鉄塊にしてくれるわ!」
叫ぶデスナイト。
暴力的な剣圧は全く衰えることが無い。
「がっ!」と、口から吐く様な呼吸を漏らしながら必死に耐えるブロント。
顔には苦痛の表情が滲み出す。
『これはこのまま一方的展開で終わってしまうのか!?』
『HPは1620』
『後がもうないー!!』
「消えろ、削り落としてやる! トドメだ!! オフェンス!」
攻撃力倍加の呪文『オフェンス』を唱え、トドメの三連撃を放つ暗黒騎士。
その時、ブロントの碧眼が怪しく光った。
「バカめ、罠に掛かったな!」
そう叫ぶブロントにデスナイトの顔が引き攣った。
その攻撃力を上げた三連撃の最後の攻撃が当たる刹那、ブロントはシールドバッシュを繰り出した。
シールドバッシュとは相手の攻撃を100%の威力で弾き返す技だ。
非常にタイミングがシビアで使えこなせる者が少ない大技である。
ブロントはデスナイトの凄まじい剣圧の攻撃を盾で弾き返したのだ!
しかも最も威力の有る三連撃目だけを!
まるで10トントラックが一瞬でプレス機に踏みつぶされた様な、今までとは全く異なる重い金属音が鳴り響く。
デスナイトは己自身の暴力的すぎるほどの攻撃のカウンターを喰らい、体を弾かれ、200メートルほど弾き飛ばされ、コロシアムの壁に叩きつけられた!
デスナイトは、壁にのめり込み身動きが出来ないようだ。
コロシアムの壁からは衝撃で白煙が立ち上た。
「やったな」
そう静かにつぶやくブロント。
GMの実況アナウンスが入る。
『さすが頭脳派リーダー!』
『最大規模のチームを率いるリーダーだけあって頭がキレる!』
『あの猛攻の二撃目までを盾で受けて一番威力の有る三撃目のみを弾き返す頭脳プレイ!』
デスナイトの頭上のステータス情報のHPが穴の空いた桶からこぼれる水の如く一気に減る。
HP2000
HP1500
さらに減るHP。
HP1000
HP500
ガンガン減るHP。
HP100
HP90
HP80
HP70
HP60
HP50
だが神、われわれが言う悪魔は暗黒騎士に味方した。
HP42
そこで暗黒騎士のHPの減りが止まった。
『おーっと! ギリギリのところで耐えたデスナイト!』
『残りHP42、僅かに42』
「ちっ! 仕留めそこなったか」
ブロントは吐き捨てるように悔しそうにつぶやく。
デスナイトは、ガラガラと鈍い金属音を鎧から出しながらふらついた足で起き上る。
『神聖騎士ブロントHP120、暗黒騎士デスナイト42 どちらも一度攻撃を受けたら終わりだー!』
ブロントとデスナイトのにらみ合いが始まった。
ブロントが攻撃を受ければ攻撃貫通でHPが全て削りきられてしまう。
デスナイトが攻撃をすればシールドバッシュでHPを全て削りきられてしまう。
もちろん他の攻撃を出すことも出来るが技のモーション中に相手の通常攻撃でかたが付く。
どちらかが先に攻撃を出したら負ける。
そんな状況になってしまった。
隙を見せたら負ける。
すり足でさえ動けない。
神聖騎士と暗黒騎士の静止したにらみ合いが始まった。
動くものは呼吸をする胸と額を流れる汗のみ。
睨み合いが永遠に続くかと思われた時、試合終了を告げる鋭い金属音のゴングが鳴り響く!
『ガン! ガン! ガン! ガン! ガン!』
試合時間の2分が経過していた。
──DRAW
競技場に立つ2人の頭上に非情な4文字が表示された。
突然の幕切れだが、この戦闘での精神の負担を考えれば妥当な時間だっただろう。
『なーんと! 引き分けだーー!!』
『故事と同じく現代の最強の矛と盾の戦いは引き分けに終わったー!!』
うなだれる二人。
『それでは二人の健闘を祈り握手でしめてもらいたいと思います』
コロシアムの中央で握手をする二人。
「次は製品版で叩きのめしてやる」再戦の挑戦状を叩きつける暗黒騎士 デスナイト。
「製品版で楽しみにしてるよ」クールに挑戦状を受け取る神聖騎士 ブロント。
『それでは、参加者の皆さん、ダイスをお願いします』
「ダイス!」、暗黒騎士は693を出した。
「ダイス!」、神聖騎士は702を出した。
「うぉぉぉぉ! や!っ!た!ぜ!」いつもはクールな神聖騎士が叫ぶ。
試合は終わった。
神聖騎士の勝利で試合が幕を閉じた……と思った瞬間とんでもないことが起こった。
「ダイス!」、Hiroxxは999を出した。
──Hiroxxはレッド・ゴールド・プラチナ・アーマーを手に入れた。
「え!?」
「え!?」
呆然とする二人。
『いやー、わたくしもこの会場の参加者なのでダイスしないとこの試合終わらないですしー』
そう言いつつ賞品のレッド・ゴールド・プラチナ・アーマーを、そそくさと着だすHiroxx。
「くたばりやがれ!」
「死ねや!」
Hiroxxに飛びかかる二人。
だがGMは攻撃が届く前にレッド・ゴールド・プラチナ・アーマーを着こんでいたので付加スキルの『完全カウンター』ですべての攻撃は弾かれて、元々虫の息の二人は全てのHPを削りきられ地に倒れ込んだ。
『GMのこのわたくしに歯向かうなんて10年早いんですよ!』
『フハハハハ!』
これが『BBB』ことブラッディ―・バーニング・ブレードに君臨する魔王いや糞GMが誕生した瞬間であった。
* * * * *
「あれからの付き合いですね。デスナイトさんとは」
「ブロントとはいつか決着をつけたいぜ」
二人は再び握手を固く交わす。
「あのGMはどうしてるんだろうな? あいつがサーバリセットを掛けてくれればここから抜け出せると言うのに。俺、店を放っぽりだしてゲームしてたから、早く戻らねーとかあちゃんにどやされるんだよな」
元デスナイトサイトウがおどけた様に言うと周りから笑い声が上がった。
「サービス初日ですから間違いなくサーバーを監視しているとは思うんですがね。いつ気がついてくれるか問題ですな」
「あいつの事だから仕事さぼって飯でも食いに行ってるんじゃねーかな?」
「仕事さぼってるのはサイトウさんでしょ」
「こりゃまいった!」
またまた笑い声が上がる。
なかなか仲の良さそうな二人である。
談笑が済むとクラン神聖騎士団団長のワタナベが襟を正し話し始めた。
「それでは本題に入りたいと思います」
ワタナベ団長が神妙な面持ちで言う。
「我々は魔王討伐に乗り出す事になりましたが、今の我々の実力でラスボスの魔王を倒せるでしょうか?」
神聖騎士団の第二部隊隊長のニカイドウが悔しそうな表情をしながらそれに答える。
「今の実力では正直無理かと思います。レベル60の時に6人で魔王城に挑みましたが、ラスボスどころか中ボスらしき存在にもたどり着けませんでした」
先ほどの会議で熱弁を奮っていた技術本部長が口を挟む。
「やはりラスボスはベータの時のレベル50推奨では無くレベル99で調整されてるんでしょうな」
「ふうむ……。少し遠回りになりますが、皆がレベル99に到達する迄レベル上げしてから挑みましょうか」
ワタナベギルド長が周りに言い聞かせるようにつぶやいた。
サイトウ赤獅子騎士団団長もそれに同意する。
「了解したぜ」
「明朝からイノシシの獣人拠点でレベル上げで……いいですかな?」
ワタナベ団長が技術本部長に目配せをすると彼もうなずいた。
それを確認した団長はもう一度繰り返す。
「では明日の朝からアライアンスを組んでしばらくレベル上げする事にします」
「ではまた明日」
赤獅子騎士団団長のサイトウは10人ほどのクラン幹部を連れて自分のクランに帰っていった。
「君達もレベル上げ参加でいいですかな?」
君達とは俺とカオルの事である。
突然話を振られて少し驚いたが、動揺していることを見せない様にハキハキとした声で答えた。
「はい、お願いします」
「ぜひ、お願いします!」
カオルも俺に負けじと元気よく答えた。
「それでは街で装備を新調して準備しておいてくださいね」
団長はゴールド入りの皮小袋を俺達に手渡して来た。
このお金で装備を揃えろと言う事なんだろう。
俺たちは礼を言うと、神聖騎士団クラン会館を後にした。
*
カオルとクラン会館を出るとレイナが俺に駆け寄ってきて飛びついて来た。
「さ、装備買いに行こうよ! 装備! 冒険者は武器や防具がなくちゃ始まらないっ! 買いに行くよ!」
街を見ると今までの初期村とは桁違いに多いプレイヤーを見かける。
多くのプレイヤーが雑談や買い物飲食に酔いしれてる。
町ではなく明らかに街だ。
「このジェネシスって街は大きい街だな」
「このゲームの中で一番大きい街だからね。大抵の冒険者はここに集まるんだ」
「装備も結構いろいろ売ってそうだな」
「レベル50ぐらいまでの装備なら大体この街で買い揃える事が出来るんだよ」
俺達はレイナに連れられて街で一番大きい白いモルタル仕上げの装備屋にたどり着いた。
入り口こそ小さかったが、建物自体は結構大きくリアルの街の中に有る平屋のスパーマーケットぐらいの大きさがあった。
その大きな店の小さな入り口に多くの買い物客が出入りしている。
「じゃあ、お兄ちゃん私も準備でアクセ屋覗いてくるから、また後でね!」
レイナは人混みの中に消えていった。
入口の中に入ると店の中は横一列のカウンターで仕切られていてそこに店員が立つ対面販売方式を取っていた。
スーパーみたいな客が勝手に触れる商品は置いてなかったが、店のカウンターの奥に様々な商品が置いてあって、大勢いる店員に声を掛けると装備を持ってきてくれて実際に手に取って見れるシステムになってるらしい。
団長に貰った小袋の中を覗いたカオルが目を丸くして驚いている。
「団長から貰った小袋見てみたけど凄いな。50万ゴルダも入ってたぞ。まるでクラン加入の契約金だな」
「50万がどれぐらいの価値があるのかわからないけど、クランの方は加入しては無いけど既に入った扱いになってるのかもな」
「50万ゴルダも有ったらレベル50の装備を一式揃えてもお釣りが来るぞ」
「50万ゴルダってそんなに大金なのか?」
「当たり前だろー。ハイレベルのプレイヤーが丸一日かけて敵を倒して一日に20万ゴルダを稼ぐのがやっとなんだぞ。俺達なら二週間掛かっても稼げるかどうか怪しい額だぜ」
「そんなに価値が有るのか」
カオルが店員に声を掛けて品定めを始めたので、俺も店員に声を掛けてみた。
「装備一式欲しいんだけど、レベル28の戦士が装備できる装備ってどんなのが有ります?」
「レベル28の戦士ですとビークハーネスか、少しお高くなりますが魔法防御力もついた魔法の鎧がお勧めです」
若い女の店員が仕様表らしき物を見ながらそう勧めて来た。
「値段はどのぐらいしますか?」
「ビークハーネス装備が……一式5万ゴルダで、魔法の鎧装備が一式15万ゴルダとなっております。実際にお目に掛かりますか?」
「うん、頼む」
「少々お待ちください」
そう言うと店員は店の奥に行き、車輪付きのカートで装備一式の箱を2つ積んで戻って来た。
「こちらがビークハーネス装備です」
厚めの皮の鎧に金属パーツを追加した感じの鎧で、かなり防御を上げた感じの動きやすそうな軽鎧だった。
店員は装備を箱から出しながら説明を始める。
「防御力は低めですが、かなり軽いので素早さと攻撃力が上がります。主に敵に殴られることが少ない武闘家や盗賊向きのおすすめ装備となっています。アタッカー志向の戦士や魔法戦士にもおすすめです」
「なるほど」
店員はもう一つの箱から魔法の鎧を取り出す。
「こちらは魔法の鎧装備です」
コバルトに似たとても綺麗な青色の金属で出来た鎧で、見た目からしてかなり頑丈そうだった。
「お値段が高い分、防御力がこのレベルにしてはかなり高めで、攻撃呪文ダメージ減の特性が付いてるので前線に出て盾役をする戦士や神聖騎士におすすめです」
「いいねこれ」思わず俺はつぶやいた。
性能なんかよりも、鎧の青い色の美しさが気に入った。
一目惚れってやつだ。
俺は15万ゴルダを払い、魔法の鎧一式を買った。
「あと武器も欲しいんだけど、おすすめをお願いします」
「魔法の鎧を選ばれたって事は盾役志向ですよね?」
「はい」
「それならば盾が必要ですから魔法の盾と、武器はガーディアンソード辺りがおすすめです。ガーディアンソードは盾役向きの片手剣で切れ味もさることながら防御力も上がる盾役向きの厚刃の剣です」
「それを下さい」
「盾が15,000ゴルダで片手剣が12,000ゴルダとなります」
俺は総額177,000ゴルダを支払い装備一式を買い揃えた。
「お着替えになるなら、あちらにある着用室でお願いします」
さすがにRPGでもオンラインゲームだと人目の有るカウンター前では店員が着替えをさせてはくれないらしい。
俺が買い物を終えると後ろでカオルが待っていた。
カオルが嬉しそうに買った装備の入った箱を眺めていた。
俺が戻って来た事に気がついたカオルが手を振る。
「よ! 買って来たか?」
「おお、魔法の鎧買って来たぜ。レベル25の頑丈そうな装備だし何よりこの色が気に入った」
「魔法の鎧かよ。すげーの買ったな」
「おまえは何買ったんだ?」
「まどうしのころもかな。ちょっとかわいい系で恥ずかしいんだけど、攻撃魔力が上がるのがこれしか無かったからこれに決めた」
「さすがにかわいい系は似合わないだろ。お前が来たら相当キモイ魔法少女が出来上がるぞ」と俺は大笑いをした。
「うるせー! 黙れー!」とカオルも大笑いしながら怒ってる。
「カオルも武器買ったのか。片手剣じゃなく杖買ったんだな」
「クランのレベル上げだから魔法戦士が殴らせてもらう事は殆ど無いと思うから思い切って後衛装備で揃えたんだぜ」
「それで杖なのか。その杖綺麗だな」
「いいだろー、この銀の杖の彫刻の中に輝く大きな青い宝石に一目惚れして買ったんだ」
「ほほー」
「ところでお前は何の武器買ったんだ?」
「今まで通り片手剣。ガーディアンソードってやつと魔法の盾だな」
「もっと安いのでも揃えられたのに、結構いい物揃えたんだな」
「武器は解んないから全部店員さんのお任せさ。鎧は俺の趣味だけどな。そんじゃ着替えてくるから、ちょっと待っててくれ」
「俺も着替えてくるよ」
カオルも俺に続く。
着用室は個室で、入り口や壁が木製な以外はスーパーなんかで見かける衣料品売り場の試着室とほとんど変わらなかった。
始めて鎧を着るので着かたが解らずに結構手間取ったが、15分ぐらい格闘したらどうにか様になった。
鏡の中を見るとそこには立派な姿をした戦士が立っていた。
「俺、カッコイイ!」
思わずにやけ独り言が出る。
この姿を見たらレイナが更にベタ惚れするな。
試着室を出ると、美人の魔法使いに呼び止められた。
その魔法使いは黒髪ロングヘアにいかにも魔女っぽい帽子をかぶっていた。
見た事の無い女の人だった。
その女の人は俺に馴れ馴れしく話しかけて来た。
「おお、着替えてきたな。結構様になってるじゃないか」
「えっと……、どちら様です?」
俺の記憶の中ではこんな美人の女の人とつるんだ記憶は無い。
でも相手は馴れ馴れしそうに話を続ける。
「おいおい悪い冗談はやめろよ」
「人違いじゃないですか?」
「俺だよ、カ・オ・ル」
「えええ?」
「止めろよ、悪い冗談は」
「お前、優男じゃなかったの?」
なにがなんだか訳が解らん。
「誰が優男だ! 本気でなぐんぞ!」
下品に笑う美人魔女。
どうやらこいつは本当にカオルらしい。
「マジで女だったの? 男でカオルって名前は確かに変と言うか珍しいとは思ったんだけど、自分の事を俺って言ってるし、レトロなアニメの登場人物から取った名前だと思ってたんだよ」
「変な名前で悪かったな。本名なんだよ。本名。それにアニメのカオルはカオルじゃなくてカヲルだろ。このゲームってベータの時ネカマが猛威を振るったから、製品版から実名制実容姿制になったんだぜ」
「そうなのか」
「ま、俺もベータの時は男キャラ使ってたからあんまり大きいことは言えないけど。今日会ったクラン長たちもベーターの時の有名人だったんだけど、名前も容姿も今とは違ってたんだぜ」
「そっか、すまんかった。悪い! 俺、今までカオルの事を男としてしか思ってなかったんで、失礼な事ばかり言っててすまなかった」
俺は誠心誠意土下座をした。
「気にすんなよ。そこまで謝るなって。俺としては今までどうり接してくれた方が嬉しい」
「そうか」
「装備も新調できたことだし、明日からレベル上げ頑張ろうぜ」
「ああ、頑張ろう!」
そこにレイナが戻って来た。
女の姿をしたカオルが俺の横に居るのに気づくとレイナの表情が突然曇り、俺の腕を抱き抱える。
「この人だれ?」
「俺の彼女」
俺が冗談で彼女と言うとカオルもそれに合わた。
「レイジ君の彼女です。よろしくね」
「だ、誰よ! 彼女って! お兄ちゃんは、レイナのものなんだからあげないよ」
レイナは俺の腕を更にギュッと抱える。
それを見たカオルが面白がってさらに悪乗りする。
「ぐひひひ、おにちゃん食べちゃおうかなー?」
「ダメダメダメダメ! お兄ちゃんはレイナのものなんだから!」
ぷるぷる震えながら必死に抗議するレイナ。
かわいい。
「こいつ面白いな」
大笑いするカオル。
「こいつって言うなよ。俺の妹だぞ」
「レイナちゃんか。レイジの彼女のカオルだ。よろしくな」
「彼女なんてダメダメ~!!!」
顔を真っ赤にして猛抗議するレイナ。
「安心しろ。『彼女』の部分は嘘だからな」
俺がなだめる様に言うと、レイナが落ち着いてきた。
まだ少し怒ってたみたいだが、俺がレイナの頭をなぜてやったらレイナがの震えが止まる。
「本当にこの綺麗な人カオルさんなの?」
「カオルだよ」
「カオルさん、お兄ちゃんに手を出したらダメだよ」
「どうしよっかなー?」
「うわーーん!」
「うそうそ」
気がつくと俺たちの周りには人だかりが出来ていた。
*
その後3人で食事に行くとカオルは見た目が変わっても俺の親友のカオルと言う事が解ってきたみたいで、レイナも敵対心を剥き出す事は無くなくなりいつも通りの3人となった。
宿に戻りベッドに潜り込むと、朝からの疲れが一気に出てきたのか俺はそのまま朝まで寝てしまった。




