表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/23

ログイン

 俺は妹から新作オンラインゲームに誘われた。


 そのゲームは『BBB』こと『ブラッディー・バーニング・ブレード』。


 とある石油王の莫大な資金と、史上最強のプログラマーがタッグを組んでリリースしたVRゲームと噂されていて、現実と区別のつかないリアルさは今までのVRゲームとは一線を隔していた。


 ベータテストの時はあまりの人気で本来無料であるベータテストの参加権が300万円で取引されていたとも噂されている人気ゲームだ。


「おにいちゃんー、始めようか」 


 妹の名前は嶺奈≪レイナ≫。


 公立の中の上程度の普通科に通う高校一年生だ。


 今のところ恋人は居ないらしい。


 容姿は兄である俺のひいき目補正を入れて上の下、補正が無くても中の上は確実に超えているのになんで彼氏がいないのか謎である。


 美人と言うよりもどちらかと言えば可愛い系で、髪は高校推奨のセミロングでごく淡く栗色に染めてるだけで派手さは無く、いかにも年相応の高校生って感じ。


 ちなみに俺は嶺史≪レイジ≫。


 レイナと同じ高校に通う高校二年生。


 なぜ妹と同じ高校に通ってるかと言うと、レイナはもっと偏差値の高い高校に入れる学力を持っていたのにそれを蹴って、わざわざ俺の通ってる高校を受験してこの春に入って来たのだ。


 もっと上の高校に行ける学力があるのになんでわざわざ俺と同じ高校に来たのかと聞くと『高校生活ぐらい自分の好きな夢を追わないとねっ! ちなみに私の夢はお兄ちゃんとラブラブになって結婚することだよっ!』と訳が解らないことを言ってたのを思い出す。


 血がつながった妹とはどう頑張っても結婚できるわけが無いだろが。


 いわゆる『ブラコンな妹』でバカな妹と言う奴も居るが、俺を慕ってくるレイナが好きであり可愛かった。


 俺たちは居間のソファーに対面で座り、今さっき宅配便で届いたVRゴーグルを目の前にプレイしようとしている。


 ちなみにオヤジとおふくろは今日と明日の二日間、旅行で出掛けていていないので二人で思う存分徹夜でこの新作ゲームをプレイするつもりだ。


 俺は普段VRゲームなんてものはやらないので本体も一緒に購入。


 先ほど宅配便でソフトと一緒に届いたばかりだ。


 セットアップをする為にゲーム機を箱から取り出して電源コンセントにつなぎ、ネットの設定も済ます。


 ネットの設定は無線親機とゲーム機の無線登録ボタンを同時に押すだけで設定が済む非常に簡単なものだった。


 ま、俺がやったんじゃなくベータテスト経験者のレイナがやってるのを後ろで見てただけなんだがな。


 BBBにログインするキャラクター名は、実名しか使えないので住基カード情報から『レイジ』と自動的に決められる。


 ゲーム内で使うアバターは写真撮影で顔と全体像の写真を何枚か撮ればあとはAIが自動生成してくれるのでキャラメイクという作業は無く簡単だった。


「おにいちゃん、こっちむいてー」


「今度は後ろ向いてー」


「はい、そこでガッツボーズ!」


「『好きです』って言ってみてー」


「好きです」


「『結婚してください、レイナ』と言ってみて」


「なんでだよ」


 本当にそんなことを言うのが必要なのか問い詰めるとそれはレイナの嘘で、本当は音声データ作成用に『あいうえお』と言うだけでよかった。


 レイナに言われるままに動いていると写真撮影が終わり、俺とそっくりのアバターが作成された。


 そこには乙女ゲームに出てくる容姿端麗のイケメン……すまん嘘です、至って普通の冴えない顔をした貧弱な17歳高校生のアバターがそこに有った。


 顔は自分補正で並、身長も170センチメートルにちょっと足りない如何にも日本の平均的な高校生のモブアバターの姿がそこにあった。


 レイナは俺のキャラクター作成も手伝ってくれる。


「おにいちゃん、ジョブは何にする?」


「選べるジョブにはどんなものが有るんだ?」


「えーとね、最初に選べるのは戦士、武闘家、盗賊、魔法戦士、魔法使い、僧侶の基本職だよ」


「そう言われても普段この手のゲームをしたことがないから解んないなー」


「解んないなら、前衛の戦士、武闘家、魔法戦士あたりがいいかな?」


「どれでもおんなじ?」


「最初は殆ど同じだけど、成長するとちょと違うかな」


「詳しく頼む」


「戦士は剣で殴って、武闘家はパンチ、魔法戦士は戦士のちょっと弱い版だけど魔法の使えない戦士と違ってすこし魔法使えるよ。戦士は割といい防具と武器を使えて、武闘家は攻撃力と速度が高いけどその分ちょっと防御が弱めの皮鎧系、魔法戦士は魔法を載せた剣で戦うから攻撃力はまあまあだけど基本的に防具は鎧を使えなくて後衛系の布の服かな。剣で敵をなぎ倒すような前衛プレイを楽しみたいなら戦士がお勧めと思う」


 ゲーム用語が多くてレイナがなにを言ってるか良くわかんないから、おすすめそのままでいいか……。


「それじゃ、戦士でよろしく」


「わかった、じゃあ戦士でジョブ選んどくね」


「ほい」


「これを、こうしてと……よしと、キャラ作成終わりっ!」


「ありがと」


 レイナはこのゲームに慣れてるだけあって、かなり手馴れた感じだった。


 俺はゴーグルを掛けるが、使うのが初めてなので勝手がよくわからない。


 真っ暗い背景画面の中、1~2m先にシステムメニューが浮かんで見える。


 システムメニューの中には今回購入したVRゲームのアイコンがあった。


 コントローラーは無いんだけど、どうやって操作するのかなと思ってたら画面内にFPSみたいに腕が表示されている。


 面白いことに俺の腕を動かすと画面内の腕も同じように動く。


 きっとこれでアイコンのパネルを押せばいいんだな。


「このアイコンを押せばいいのかな?」


「ま、待ってー! まだ押さないでー!」


「ん? どした?」


「このゲームのゲーム内の時間は現実世界の時間と比べて10倍の速度で進むから一緒に始めないと待ちぼうけする事になるからダメだよー。お兄ちゃんが先にログインしたらせっかく一緒に始める意味ないじゃん」


「そうだったな」


 俺の掛けたゴーグルの先のソファーでレイナがゴーグルを掛けてるのか、ガサゴソ音をたてている。


「いいよ、始めるよ。いっせいのせでね。一緒に手を繋いでゲームの世界に降り立つんだよ」


「了解」


「「いっせいのせ!」」


 俺とレイナは一緒にアイコンを押した。


 だが俺はゲームを始められなかった。


 俺の画面には、


───────────────────────────

 VRMMO:BBBをお楽しみいただくには最新ファームウェアが

 必要です。


 ファームウェアアップデートを始めます。


 しばらくお待ちください。

 

 アップデート中は絶対に電源を抜かないでください。


 残り時間 00:10:15

 03% ■□□□□ □□□□□

───────────────────────────


 と表示されている。


 ゲーム機本体のアップデートが始まったらしい。


「ちょっと待てよ! いきなりアップデートかよ。しかも10分も掛かるのかよ」


 俺はゴーグルを外し向かいのソファーに座るレイナに謝る。


「ごめん、本体アップデートで少しログイン遅れる」


 と言ったが、レイナの反応は既に無かった。


 レイナはソファーに座ったまま腕を太ももにあずけ小刻みに体全体を震わしてる。


 既にヴァーチャル世界に突入しているようだった。


「聞こえてる?」


 俺はレイナの肩を軽く揺すってみたが、なにも反応は無い。


 今の壁掛け時計を見ると時刻は2時10分過ぎ。


 10分もアップデートに掛かるとするとゲーム内時間では100分か。


 ゲームの中ではだいぶ待つことになって絶対に怒られる。


 でも、レイナはプレイ中だからさすがにゴーグルを外したら怒るよな……。


 戦闘中にゴーグルを外したらゲームの中のキャラがフリーズして死んじゃうもんな。


 外すのはやめとこう。


 俺はゲームの中でレイナに謝ることとし、ログインを急いだ。


 俺はゴーグルの中で表示されるアップデートのプログレスバーを凝視していた。


 ――94% ■■■■■ ■■■■□


 ――95% ■■■■■ ■■■■□


 ――96% ■■■■■ ■■■■□


 バーの進行が遅くてイライラする。


 きっとレイナは向こうの世界で俺がログインしないので待たされている事だろう。


 リアルの時間1分でゲームの中の時間の10分。


 10分間遅れてログインしたんだから100分の遅れ。


 つまり1時間半ほど待ちぼうけさせている事になる。


 とりあえずログインしたらすぐに謝らないとな。


 俺はプログレスバーの進行をかなりじれったく凝視していた。


――97% ■■■■■ ■■■■□


――98% ■■■■■ ■■■■□


 もうちょい!


――99% ■■■■■ ■■■■□


 あと少し!


 ――100% ■■■■■ ■■■■■


 ――アップデートが完了しました。


 やった!


 プログレスバーが100%になるのと同時に今まで1~2m先に表示されていたアイコンの画面が消えて、視界の全周を覆うVR世界に突入した。


 そこは遥か彼方に水平線のみが見える草原で、空には雲一つない青い空、まぶしく輝く太陽、地には収穫時期になった腰ぐらいの高さまで有る小麦の様な草が見渡す限りに生えている。


 歩くと足の裏から感じとれる草を踏みしめた感触やら土の匂いまでするのには驚いた。


「すげーな、これ」


 なんでゴーグルしか掛けてないのに匂いや音までするのかが不思議でならない。


 それにしても、なんで平原スタートなんだ?


 レイナの話だと、冒険者の街の入り口を訪れるところから始まると聞いていたんだけど。


 やっぱりベータテストの時とは少し違うのかな?


 リアルさ重視でこんなとこから始まるんだろうか?


 普通、ロールプレイングゲームっていえば初心者向けの街の目の前とか、街の中とか、チュートリアルの戦闘から始まるのが8ビット時代のRPGからの伝統だろ?


 俺はしばらく辺りを歩いてみたが大木を一本見つけただけで、あとは街なんてどこにも見当たりもしない。


 ログインして20分ほどすると妹のレイナからカットインメッセージで連絡が入った。


 カットインメッセージからは心配そうなレイナの声が聞こえる。


「お兄ちゃん待ってたよ。なんでこんなに遅かったの?」


「ごめん、ゲーム機本体のファームアップデートでログインに手間取ってゲームに入るのに時間かかったんだ。本当にごめん!」


「じゃあ罰としてログアウトしたらコンビニでアイスおごりね」


 俺と会えたことで喜んでるのか妙に明るいレイナの声。


「ところで、草原の中に降り立ったんだけど、ここからどうやって町に行けばいいんだ?」


「えっ? 街の中から始まらなかった?」


「いや草原からスタートだった」


「ちょっと待って。お兄ちゃんの位置を調べてみる」


 数秒の沈黙の後に上がる声。


「嘘でしょ? なんでそんなエリアに居るの?」


「どうした?」


「そこ、上級者の冒険者がレベル上げやミッションで行くエリアだよ」


「マジか?」


 どうやら俺はバグでとんでもないエリアからゲームスタートになってしまったようだ。


「おにいちゃん、すぐに迎えに行くからパーティー組むよ」


 レイナからパーティー申請のカットインメッセージが来たので『はい』を押しパーティーに加入する。


「パーティーに入った。よろしく」


「何処にいるのかな? えっ!? そこって中ボスの城の目の前でしょ? なんでそんなとこに!」


 レイナが本当に驚いてるのがカットインメッセージの表情から解る。


「そんなこと言われてもなー。今ログインしたばっかりだし」


「今すぐ隠れて。声も出しちゃダメ! そこは結構強い敵がうじゃうじゃいるから、気を付けて!」


「なんでそんなとこからゲームが始まるんだよ」


「見つかったら即死だよ」


 冗談だろ?


 いきなり中ボス前の城?


 俺はレイナの指示通り、この辺りで唯一ある物陰の大木の根元に座り込み隠れた。


 3時間待ってもレイナは現れなかった。


 辺りは感動するほどの真っ赤な夕焼けから、月明かりのみが頼りの漆黒の闇に変わっている。


 月と星だけが見える上空から、バッサバッサと大きな鳥の羽根音がだけが聞こえた。


 空を見上げるとモンスターなのか巨大な鳥のようなもの影が飛んでいる。


 それは獲物を狙う鷹のように上空を旋回していた。


 一匹ではない。


 それは4-5匹の群れである。


 見つかったら襲われて面倒なことになりそう。


 地上でも槍を持った大柄な兵士のようなものがひと塊となり何人も歩いていた。


 兵士の話す声が聞こえる。


「この辺りに侵入者が居るって聞いたんだが見つからんな……」


「また誤報じゃないですか?」


「誤報ならいいんだが……本当に侵入者が居たら俺たちの首が飛ぶぞ」


「ですよね。もう少し探しましょう」


 その時、妹から連絡が入った。


「あと少しで着くから、もう少し待ってね」


「まだなのか! 周りには敵みたいなのがウロウロしてるんだぞ! 早く来てくれ! たのむ!」


 俺はレイナがちっとも来てくれないのでついイラついて大声を出してしまった。


「なるべく急ぐね……」


 俺に怒られて悲しそうにつぶやくレイナ。


 不意に兵士のハッキリとした声が聞こえた。


「こっちで声が聞こえたぞ!」


 俺の声を聞きつけたのか、兵士が大木の方にやってくる。


 俺は身をかがめて大木の陰に隠れていると兵士が索敵しているのか俺の目の前を通る。


 なにやら鼻を使い臭いを嗅いで探してる様だ。

 

 目の前の兵士は人ではなかった。


 身長は2メートル近くもあり、かなりマッチョな感じの大柄な体躯。


 顔面の上唇の端がある辺りから上向きの大きなキバを生やした二足歩行をするイノシシであった。


 手にはかなり頑丈そうな槍を持ち、体の動きの邪魔にならないようなシンプルなデザインながらかなりしっかりとした感じの皮鎧を着こんでいる。


 俺はその大柄な身体を見ると恐怖で思わずのけぞってしまい小枝を踏み、足元で『ポキッ』と小枝の折れる音が響いた。


 イノシシがこっちを向く。


 そして視線が合ってしまった!


「みーつけた!」


 顔を寄せてくるイノシシ。


 俺は引きつった笑顔を浮かべながら軽く手を上げて挨拶をする。


「や、やあ」


 イノシシは俺に挨拶を返さずに辺りに聞こえるように声を張り上げた。


「ここに居たぞ!」


「捕まえろ!」


 やばい!


 見つかった!


 俺は慌てて大木から走り去り、草原の中へと逃げ込んだ。


 イノシシなのにこいつらは人間の言葉を話すぞ!


 俺は逃げ回るがこのなにもない草原では隠れる場所なんてものは無く、野獣のような体力を持った敵にすぐに追い詰められてしまった。


 上空には大鳥に見えた鳥人間が、俺が逃げ出さないようにドローンで監視するかのごとく多数旋回している。


「こんなところに一人で潜り込んで来たから勇者かと思ってビビったら、ただのドブネズミじゃないか」


 イノシシのボスみたいなのが下品に笑う。


「ちょっと遊んでやってから、殺しましょうか?」


 物騒な事を言う大鳥。


「そうだな、それがいいかもな」


 イノシシもそれに同意。


 とんでもない事を言う奴らだ。


 俺、ゲームの開始早々に完全に詰んだ感じ。


 いきなりゲームオーバーだな。


 コンティニューしてやり直すか。


 大鳥が俺に聞かせるように話す。


「じゃ、ちょっくら2~3回お空のお散歩にでも行きましょうかね?」


 そんな散歩要らないって!


「いきなり殺すなよ。楽しみがなくなる」と、下品に笑うイノシシ。


「了解!」


 ――ギケーッ!


 という鳴き声と共に大鳥が上空から急降下で襲ってきた。


 大鳥は明らかに遊んでるらしくて、すぐには俺を捕まえず地面に近づく度に逃げ惑う俺の背中を何度も爪で切り裂く。

 

 ──ジャキッ!


 俺の服と背中の肉が裂ける音が辺りに響く。


 そして背中に激痛が走った。


「ぐあああぁぁっ!」


 思わず俺は叫んだ。


 痛い!


 物凄く痛い!


 背中の肉が思いっきり裂けた。


 ゲームなのに背中に激痛が走る。


 なんでゲームなのにこんなに痛いんだよ!


 こんなところまでリアルにする必要なんてないだろ!

 

 大鳥が爪で俺の背中をもてあそぶ度に、背中に更なる激痛を感じ悲鳴をあげる。


 背中でねっとりと血が服に染み込んでいる感覚がする。


 服が血で濡れて明らかに重く感じる。


 必死で逃げたが、俺は疲労と背中の激痛で歩くのさえやっとの状態で逃げていた。

 

「なんか、こいつもう弱ってきたな。こいつ、あんまり活きが良くないぞ」


「地面に叩きつけて動かなくしてから、部隊長に渡すか」

 

 大鳥が物騒な事を話してる。


 俺の肩に激痛が走る!


 少し油断をしている間に、大鳥に肩を捕まえられてしまったようだ。

 

 俺は左右の肩を大鳥二匹の鉤爪かぎつめで掴まれ『バッサ! バッサ!』と言う羽音と共に空へ空へと持ち上げられた。


 羽音が立つと共に爪が肩に食い込み更に激痛が走る。


 結構な速度で宙に舞い上がったのか地面がかなり遠く見える。


 地上の大イノシシが豆粒のように見えて、大木がこぶりなブロッコリー位の大きさに見える。


 ここから落とされたら足を折るどころじゃなく即死だろう。


「この辺りでいいか?」


「もうちょいだ」


「そうか。なら、もう少し上がろう」


「もう少し高いとこから落として、確実に足をもいでやろうぜ」


 バッサ! バッサ!


 大鳥はさらに高いところに俺を持ち上げる。


「こんな高さでいいか?」


「そうだな。こんなもんでいいだろう」


 地上を見ると大イノシシがゴマ粒のように見える。


 こんな所から落とされたら即死通り越して、ぐちゃぐちゃになって何にも残らないぞ……。


 死にたくねー!


 俺は死の恐怖で必死に大鳥の足にしがみついた。


「ふへへへ、こいつ最後の悪あがきしてやがるぜ」


「楽しいね」


「楽しいなー」


「もう少し高いとこまで飛んでやるか」


「だな。もっと高いとこまで上がってやろう」


 ヒャッヒャッヒャ!と下品に笑う二匹。


 だめ、もう、無理!


 大鳥の足にしがみついた手が痺れる。


 あまりの高さで目がくらみ手に力が入らない。


「ここいらでいいかな」


「ここでいいな」


 上昇するのを止めた大鳥は俺の肩を持つのを止め、今度は左右に分かれて飛び始める。


 まるで俺の腕を引きちぎるかのように。


「ほら、もっとしっかり持ってないと落っこちて地面に真っ逆さまだぞ!」


「がんばれ、がんばれ、死ぬまでがんばれ」


「ぎゃはははは!」


 俺を墜落死させようと楽しんでいる。


 体重と左右への引っ張りで腕が引きちぎれそうに痛い。


 おまけに大鳥の足はツルツルしていて手が滑る。


 俺は必死に握っていたが、1分もせずに限界が来た。


「あっ!」


 俺は手を滑らして大鳥の足から離れた。


「ぎゃああああ!」


 うわあああ!!


 しまった!!!


 地面に真っ逆さまで急降下。


 俺は頭を下にして凄まじい勢いで落下し始める。


 はるか上空で大鳥たちの下品に爆笑する声が聞こえる。


「落ちたぞ。ギャハハ」


「逃げたな。ギャハハ」


 俺は刻一刻と速度を増し地面に近づき激突しようとしていた。


 眼前に地面が物凄いスピードで迫る。


「死ぬ!!!」


 何とかしないと!


 必死にもがくが息が切れるだけでどうにもならなかった。


 今まで見えなかった地上の草木がハッキリと形を見てとれる。


「じ、地面に激突する!」

 

 と諦めかけたその時、空中で何者かに抱え上げられた。


「お待たせ! お兄ちゃん!」


 それは淡く光る純白の鎧を着て夜空を颯爽と飛ぶ妹レイナの姿であった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ