第四十四話 憤怒と断罪
■マルク視点■
「くそっ、ここから出せ!!」
俺様のした事が父上にバレてしまったせいで、あの愚か者達が入っていた牢屋の中で、俺様は声を荒げ続けていた。
こんな屈辱、許されてたまるものか。俺様はこの国の王となるべき存在なのに、何故こんなゴミがぶち込まれるような所にいなければならない!
「やれやれ、騒々しいですね」
「フェラート……! 何をしに来た!」
「少々お話をしに。実は、先程父上ともお話をしてきましてね。兄上の処罰が決定しました。勘当、だそうですよ」
「勘当だと!?」
ふざけるな、勘当なんてされたら、俺様は王になる事が出来なくなる……愚かな民達を俺様の支配下に置けなくなる!
「近いうちに、プロスペリ国が所有する小さな無人島に連れていかれるそうですよ? そこで一人で生活しろとの事です」
「無人島? そんな所で生きていけというのか!」
「何故そんなお怒りなのですか? あなたは島の王となれるのですよ。泣いて喜ぶところでしょう。ああ、それと……兄上の奥様ですが、犯罪者と一緒にいるのは嫌だから、別れてほしいとおっしゃっておりましたよ。まあ当然ですよね、あははっ」
にこやかに笑うフェラートが気に食わなくて、俺様は思い切り鉄格子を掴むと、何度も揺らし続けていた。
「兄上の喜び方は独特ですね……ああ、それと……一つ確認したい事が」
「確認だと……!?」
「ええ。今回の件、兄上は彼らを投獄した後、父上に知られないように、ライル家からの手紙を読み、そして燃やしておりましたね」
……待て、どうしてそれをフェラートが知っている? 手紙を燃やしたのを知っているのは、俺様が一番信頼している兵士しか知らないはずだ。
「ですが、その件を父上は知っていた。不思議な事もあるものです。それに、あなたの部下が、あなたを捕まえたのも不思議だ」
「……お前、何が言いたい?」
「実はあれ、ボクが父上に伝えていたんですよ」
「何を寝ぼけた事を……お前が知っているわけがないだろう!」
「いえ、知っているんですよ。彼のおかげで……ね」
フェラートがそう言うと、丁度俺様の死角になっていた場所から、一人の男が出てきた。それは、俺様が信頼している兵士で、俺様を拘束した張本人だ。
「何故お前がここに……?」
「彼が全てボクに教えてくれましたよ」
「ふざけるな! お前、俺様を裏切ったのか!?」
「…………」
鉄格子を揺らしながら声を荒げるが、一切の動揺を見せない。まるで、俺様の声など最初から耳に入っていないかのように。
「無駄ですよ。彼は僕の忠実な僕ですから」
「は……?」
「まだわからないんですか? 彼は兄上の元に送り込んだ、スパイです。あの時に兄上に見せた証拠も、彼から渡されたものです」
薄暗い地下牢の中に、フェラートのくぐもった笑い声が響き渡る。
スパイ……だと? 意味がわからない。どうしてフェラートが俺様にスパイなど送り込む必要がある?
「何故そんなふざけた事を……!」
「ふざけた? ふふっ……あはははは! それは……こっちの台詞ですよ!」
いつも冷静で大人しいフェラートが、突然笑い出したと思ったら、珍しく声を荒げながら、鉄格子に思い切り拳をぶつけてきた。
「ボクはね、兄上が大嫌いなんですよ! 反吐が出るくらいに! だから、ボクは兄上の元に、彼を送り込んだ! 兄上が悪事を行った時に、全てを明るみにし、表舞台から消し去るためにね!」
一度では物足りないと言わんばかりに、何度も鉄格子を叩くフェラート。その表情は、薄暗い状態でも、怒りに満ちているのがわかる。
「僕は王族として、毎日寝る間も惜しんで勉強に明け暮れた! 王族としての責務も果たしていた! 全ては国を発展させ、民を守る為に! なのに……兄上はいつも身勝手な事をした! 粗暴な行いした! すると、どうなると思います? ボクまで同類と見られるんですよ! ボクは何もしていないのに!!」
……そんな理由で? そんなのフェラートが我慢すれば良いだけだろう! そんなくだらない理由の為に、俺様は嵌められて勘当されたというのか!?
「そんなの俺様の知った事か! 弟の分際で、俺様にたてついてどうなるかわかっているのか!?」
「どうなるか? そんなの一目瞭然じゃないですか! 兄上は本当に馬鹿ですね!」
「このっ……!!」
怒りに身を任せた俺様は、鉄格子の隙間から何とか手を伸ばしてフェラートを殴ろうとした。
その瞬間――ボキッっと何かが折れる音と共に、俺様の指に激痛が走った。
「ぎゃああああ!?」
「おや失礼! 近くに虫が飛んできたと思って握ったら、兄上の手でしたか。汚すぎてわかりませんでしたよ!」
「こ、この野郎……!」
「ふふっ……良いですねその顔! ボクの気も少しだけ晴れましたし、そろそろ失礼します」
「待て……! お前だけは……いや、俺様を貶めた奴ら、全員許さねえ! 必ず殺してやる!!」
振り返りもせずに去っていくフェラートは、とても愉快な笑い声をあげて消えていった。
それが……本当に腹立たしくて、今すぐにでも殺してやりたいくらいだ。
いや、それはあいつだけじゃない。俺様を裏切った兵士も、俺様のクソオヤジも、良い子ぶってるクソ弟も、ライル家のジジイも、格好つけたがりの男も、すかしたメイド女も、そして……汚妃のなりそこねも。
揃いも揃って俺様の邪魔をして。絶対に許さねえ! 俺様は――地獄から舞い戻って、お前ら全員に復讐してやるからな……!!
「くそったれ!!」
俺様は転がっていた手ごろな石を鉄格子に叩きつけて、脱出を試みる。しかし、跳ね返されるだけで、有効打にはなっていない。
だが諦めるものか! 俺様は国の王に……神になるんだ! そして、下賤な民達を、全て俺様の支配下に置いて、俺の思い通りに出来る国にしてやる!
「くっ!」
ガンッ――ガンッ――
「このっ!!」
ガンッ! ガンッ!!
「開けやがれ!!」
ガンッ! ガンッ!!
「絶対諦めんからな!」
ガンッ! ガンッ!! ガンッ!! ガンッ!!!!
「必ず全員、皆殺しにしてやる……!! そして俺様が国王――いや、神になって裁いてくれる……!!」
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