第二十八話 どうしてあなたがここに!?
■マルク視点■
「はぁ~~~~……」
広々とした自室にあるベッドで寝転びながら、俺様は深く溜息を吐いた。その隣には、俺様の愛しき妻が心配そうな顔で俺様を見つめている。
「最近溜息ばかりしてますけど、どうかされたのですか?」
「いや……」
俺様の溜息の理由は、至極簡単だ。毎日が退屈……この一点だけだ。
俺様はあの貧乏人を捨ててから、無事に結婚したわけだが、最近になって急に王子としての仕事が多くなり、人生が面白く感じない。
あの時、貧乏人を捨てないで、何かしらの方法で手元に取っておいても良かったかもしれない。そうすれば、退屈しのぎとして、ある程度は遊べただろう。
パーティーでの一件は面白かったが……その後にこうして退屈になっては、元も子もない。
「たまには息抜きも必要かと。例えばお酒を飲むとか」
「酒か……最近飲んでないが……」
酒自体は好きだが、俺様の酒へのこだわりは中々に強い。ここ数年で満足できた酒は、とある酒場が提供しているエールだ。
確か、城で大きなパーティーをした時に、城に招待した料理人の中の一人が経営している酒場だったはず。
たかがエールと思っていたが、あれは俺様の舌でも満足できる一杯だった。今思い出しても、また飲みたいと思える。
……待て。そういえば……その料理人の手伝いをていたのが、あの貧乏人だった。それで、容姿がそれなりに好みだったのと、あの根暗な性格を見て、遊べると思って声をかけた……。
「……これだ!!」
「急にどうしたのですか?」
「良いアドバイス、感謝する。さすがはこの偉大な俺様の妻だ」
「よくわかりませんが、お役に立てたなら幸いですわ」
「ああ、とてもたった。くくくっ……」
長期間遊べるわけじゃないが、今のこの退屈を晴らすのには丁度良い娯楽だ。あの貧乏人で遊ぶついでに、最高の酒を堪能しようじゃないか――
****
「おはようございますっ」
「ああ、おはよう」
ヴォルフ様達とお出かけをしてから、初めての出勤日。あのお出かけのおかげでだいぶ元気になった私は、元気よくマスターに挨拶をした。
「随分と元気になったな。何か良い事でもあったか?」
「その……一緒に生活してる人が、外に連れ出してくれたんです」
「そうか。それは良かったな」
「はいっ。私には勿体ない人です。優しいし、料理も上手だし、カッコいいし……はっ、私ったら何を……!」
「……そ、そうか。とりあえず……いつもの様にオープンに準備を……しておいで。ごほんっ……してこい」
「わ、わかりました!」
私は逃げるようにホールに出て、机拭きから始める。地味な仕事かもしれないけど、これも大切な事だ。
そういえば、さっきのマスターの様子が、少し違っていたような。私がカッコいいと言ったら、顔が赤くなっていた気がする。
「……マスターはまさか……! 恋バナに弱い!? って……そんな事考えてないで開店の準備を……よしっ」
全て準備が終わり、後はお客さんを待つだけ。いつも来る男性は、オープンと同時に来るけど、今日はどうかな……あっ来た。
「いらっしゃいませ~。いつものでよろしいですか?」
「ええ、いつもので。今日は元気ですね」
「はい、おかげさまで」
「それななによりです。今日も頑張って下さいね」
常連のお客さんを席に通すと、続けて店のドアが開かれた。
最近は、あの新メニューと、一時的な値引きのおかげでお客さんが増えたから、こうして立て続けに来る事は、珍しくなくなっている。
「いらっしゃい……ま、せ……?」
「ここがあの料理人の居城化? 小さすぎて犬小屋かと思ったぞ」
「ま、マルク様!?」
「久しいな、汚妃のなりそこない」
そこに立っていたのは、この国の第一王子であり、私を騙していた張本人のマルク様だった。後ろには、護衛の兵士が立っている。
「ど……どうしてここに……?」
「飲みに来た。俺様が来てはいけないのか?」
「お店に……飲みに……」
明らかに怪しさが満点だ。だって、お酒を飲みたければお城で飲めるし、仮に外で飲むにしても、店は他にもたくさんあるのだから。
「おい、この俺様は静かに酒を飲みに来たんだ。他の客はさっさと追い出せ」
「ひぃ……!? あ、あの……」
「なんだ、俺様に口答えをするつもりか?」
ギロリと睨まれた私は、怖くて怖くて体が震えてしまった。
でも……ここで帰してしまったら、せっかく常連になってくれた方に嫌な気分にさせてしまうし、もう来てくれなくなったら、マスターにも迷惑がかかってしまう。
咄嗟にそう考えた私は、震える唇を少しだけ動かした。
「で……できません……」
「出来ないだと? ほう、随分と偉くなったものじゃないか。貧乏人風情が」
「そこまでにしろ」
面白そうに笑いながら、ゆっくりと私に近づいてくるマルク様から守るように、マスターが私達の間に割って入ってきてくれた。
「マルク王子、来店してくれた事には感謝するが、ここでは王子も一人の客だ」
「くくくっ……揃いも揃って馬鹿しかいないのか? だが面白い。俺様を笑わせた事に免じて、その無礼を見逃してやろう」
マルク様はそう言いながら、ドスンっと椅子に座った。
と、とりあえずなんとかなった……のだろうか? まだその判断をするのは早すぎる?
「ご、ご注文が決まったらお呼びください……」
「言われなくてもわかっている。さっさと消えろ」
マルク様に頭を下げてから厨房に向かうと、そこには常連の人がいつも頼むセットが、既に用意されていた。
「セーラ、大丈夫か」
「だ、大丈夫です」
「全く、まさかマルク王子が来るとは思ってなかったな……俺も注意しておくから、なにかあったらすぐに呼べ」
「わかりました。その、ご迷惑をおかけして――」
「それ以上は言うな。お前は何も悪くない。良いからさっさと持っていけ」
もうこれ以上は言う事は無い。そう言いたげに、マスターは私に背中を向けた。
本当にありがとうございます。そして、ごめんなさい。私はそんな気持ちを込めて深々と頭を下げてから、用意された品を持っていった。
「お待たせしました。その……ご、ごめんなさい……」
「いえ、お気になさらず。気弱なあなたが自分の意思を伝えられたのを見れて、感動しましたよ」
マルク様に聞こえないくらいの小声で謝罪をすると、彼はニッコリと笑いながら、私を励ましてくれた。
この人も、マスターに負けず劣らず良い人だ。私の事をこうして見守ってくれるし、応援もしてくれるもの。
「おい、何をこそこそ話をしている。注文が決まった。さっさと聞きに来いグズ」
「た、ただいま伺います!」
パタパタと音を立ててマルク様の元に向かうと、マルク様はフンッと息を吐いた。
「ご注文は……?」
「エール一つ。それとこの極ペッパーステーキを一つ」
極ペッパーステーキ? それって、この店で一番辛いと評判の料理だ。その料理が前にあるだけで、目がちょっと痛くなるくらいだ。
こんな料理を頼んで大丈夫なのだろうか? 辛い物が苦手な私からしたら、不安に思ってしまう。
「あの……それ、すっごく辛いお肉なんですけど、大丈夫でしょうか……?」
「そんなの見ればわかる。俺様を馬鹿にしてるのか?」
「そ、そんな事は! 極ペッパーステーキとエールですね、すぐに準備いたしますので!」
急いで厨房へと向かうと、マスターはいつもの様に、既に料理に取り掛かっていた。
別に私は、マルク様を馬鹿にして言ったわけではない。このメニューは本当に辛くて、食べた人は皆半分涙目になりながら食べているのを、私は見ている。
「……出来たぞ。持っていけ」
「わかりました。あれ……?」
今日もとても素早い手際で、ステーキとエールが用意された。
出来上がったステーキをトレイに乗せてみて、私は違和感に気づいた。だって、あの目に来る刺激が、なぜか全然来ないのだから。
あまり注文されない料理だけど、インパクト自体はかなりあったから、忘れようがないのに……どうして?
考えていても仕方ないか。あのマスターが間違えるとは思えないし……きっと私が知らないうちに、目に刺激が来ないように改良されたのだろう。とにかく、早く持っていかなくちゃ。
「お待たせしました。極ペッパーステーキとエールになります」
「ご苦労。それじゃあセーラ、そのステーキを食え」
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