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第二十五話 私は大丈夫だよ

 お父さんと決着がついた翌日。今日で炭鉱の町とさよならをし、ライル家に帰る日だ。


「皆様、今回は色々とお世話になりました。そして、ご迷惑をおかけして申し訳ございませんでした」

「いえ、我々こそ突然伺ったうえに、昨夜は泊めていただきてしまい、申し訳ございませんでした」


 お見送りに来てくれたミナ様と、ミニエーラ家の当主様が深々と頭を下げると、私達も応えるように頭を下げた。


 ヴォルフ様の言う通り、昨日は今回の事で迷惑をかけたお詫びにと、屋敷に泊めてくれたの。しかも美味しいご飯と温かい寝床まで用意してくれて、至れり尽くせりだった。


 でも、私としては素直に喜べない。だって、私の家族の事で迷惑をかけてしまったのに、ミナ様達が謝るなんて、やっぱり変だもん。


「あなた達のおかげで、ミナがあの男と結婚せずに済みました」

「それで、あの男はその後どうなったのでしょうか?」

「先日、本人に言ったように、仕事を解雇させ、ミナと別れさせたのに加えて、住んでいた家も無理やり追い出しました。話も広がってますし、もうここにはいられないでしょう」


 家まで追い出すなんて、ちょっとやり過ぎなような気もするけど、同情の余地はない、かな。


「ライル殿。このお礼は、必ずさせてくださいませ」

「でしたら、今度茶会でも開いて、のんびり語り合いましょう」


 ヴォルフ様とミニエーラ家の当主様が固い握手を交わしてから、私達は炭鉱の町を後にした。


 たった数日しかいなかったのに、なんだか凄く疲れた。それに……来る時は軽かった足が、今では物凄く重く感じる。


「あの……ヴォルフ様、エリカさん。今回は、その……」

「そこから先は言わなくていいよ。君は何も悪くないのだから。エリカもそう思うだろう?」

「はい。お辛いでしょうが、いつかは知らなければならなかった事でしょうし」

「…………」


 確かにそうだけど、やっぱり辛いものは辛い……さっきから、ずっと溜息が出っぱなしだ。


 そんな私の事を心配してくれたのか、ヴォルフ様は歩きながら私の手を握ってくれた。


「え、ヴォルフ様……?」

「この方が、安心するかと思って。嫌だったかな?」

「いえ、凄く嬉しいです……」


 悲しみで冷え切った心と体に、ヴォルフ様の体温と、優しさという名の熱が、私の体にじんわりと広がっていく。それが嬉しくて、目頭に涙が溜まった。


「ヴォルフ様、成長されましたね。エリカは嬉しゅうございます。これで何もしない臆病者だったら、どうしてやろうかと思っておりましたわ」

「相変わらず辛辣だね!?」

「……えへへ」


 ヴォルフ様の優しさと、二人のいつも通りの会話で少しだけ心が軽くなった私は、思わず控えめな笑顔を零すと、ヴォルフ様とエリカさんも、一緒に笑ってくれた。


 ……お母さん、私……お父さんの真実を知って、凄く辛かったけど……今は大切な人と一緒だから大丈夫。偽物の婚約者だから、いつかはこの関係も終わってしまうけど、それでも……この絆は大切にしようと思う。


 だからね、お母さん。これからも心配をかけちゃうと思うけど……空から私を見守っててね。



 ****



■ヴォルフ視点■


 無事に屋敷に帰ってきた僕は、セーラを寝かしつけるまでずっと一緒にいたあと、自室に戻ってエリカと共にワインを飲んでいた。


「はぁ……僕のした事は、本当に良かったんだろうか」

「ヴォルフ様、その言葉は十二回目ですわ」

「わざわざ数えてるのかい!?」


 しっかり数えて僕に伝えるのも凄いけど、同じ事を何度も言う僕も大概だな。でも、それくらい僕は自分のした事に迷いがある。


 彼を許す事は出来なかったし、セーラの代わりに復讐してやろうと思ったのは確かだ。しかし、冷静になった状態で考えると、セーラともっとちゃんと話し合ってから、どうするか決めればよかったんじゃないかと思うんだ。


「あまり飲むと、明日に響いてしまいますわよ。明日からまた激務の日々なのですから」

「それはわかってるが、飲まずにはいられないんだ」

「気持ちはわからなくもないですが……」

「エリカはどう思う? 僕のした事は、間違っていたかな」


 僕の前に座るエリカに質問を投げかけると、グラスに入っていたワインを一気に飲み干してから、その小さな口を開いた。


「私としては、良かったんじゃないかと。決着がついた事で、未来に目を向けられると考えます。それに……」

「それに?」

「あの外道に、のうのうと幸せに生きられたら、それこそ毎日腹が立って仕方がありませんもの」

「エリカ、それはさすがに言い過ぎなんじゃないかと思うよ」


 冷静に返しつつも、内心では僕も同意なんだけどね。あそこでセーラが許していたら、それこそ僕の方が、怒りでどうにかなってしまっていただろうね。


「でも、傷つけてしまったのは確かだ。なにか元気になれる事があればいいのだが」

「それなら、あの時の約束を果たすのはいかがでしょうか?」

「約束?」

「はい。港で船に乗る前に、セーラ様と交わしたでしょう?」


 セーラと……あれか、一緒に海に行こうという約束か! 確かに気晴らしになっていいかもしれない!


「そうと決まれば、出かけられる時間を作らなくてはいけないな! エリカ、またすまないが、スケジュールの調整を頼む!」

「大丈夫なのですか? 今回の旅の為に、相当無茶をしたというのに」

「大丈夫さ。これも愛しいセーラの為だからね!」

「全くヴォルフ様は……わかりました。すぐには不可能ですが、なるべく早くデートに行けるように調整しますわ」


 で、デートって……まあ確かにその通りではあるんだけど、改めて言われると、やはり恥ずかしい。


「それと、しばらくセーラ様をお一人にするのはよろしくないでしょうから、私が傍にいます。なので、しばらくはご同行は出来ないと思われます」

「わかった。本当に色々と手を焼かせてすまない。今度また知り合いの職人に頼んで、新作のぬいぐるみをプレゼントさせてくれ」

「まあ、それは楽しみですわ。でしたら、キツネのぬいぐるみを所望いたします」


 ずっと淡々とした話し方だったのが、ぬいぐるみという単語が出てきた途端に声が弾みだした。目も先程よりも輝きを増している。


 エリカは本当に可愛い物が好きだな。好きな物があるというのは、生活に彩りが出て素晴らしい事だ。


「ああ、わかったよ。さあ、また明日から忙しくなるな!」

「あっ……そんな一気に飲んだら……!」


 気合いを入れる為に、グラスに入っているワインを飲み干すと、なんだか不思議なくらいに頭がフラフラしてきた。


 それだけじゃなく、目の前にいるエリカが三人いるように見えるぞ……?


「うー……あ、頭がフラフラする……エリカ、いつのまに増える事が出来るように……?」

「私は一人ですわ。いいから今日は休んでくださいませ」

「ああ……おやすみ……」


 エリカがどうして増えたのかはわからないけど、フラフラするし眠いのも確かだ。明日に備えて、今日はさっさと寝る事にしよう……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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