第二十三話 見せかけの誠実
ミニエーラ家と合同の作戦会議をして決まった作戦を実行する為に、同日の夜に私は酒場の外に待機をして、窓から店を覗いていた。別の場所には、ミニエーラ家の方々も待機している。
「うまくいくかな……」
「きっといくさ。エリカを信じよう」
私達の視線の先――酒場に置かれた一席で、お父さんが一人でお酒を飲んでいた。
本当はミナ様と一緒に来る予定だったのを、事前の作戦会議で決めた通り、ミナ様にキャンセルしてもらった。もちろん、その理由はある。
「あ、行ったね」
お父さんの元に、一人の女性が近づいていった。私のような真っ白な髪で、少し肌が黒い美人さんだ。
「……あれがエリカさんだなんて、いまだに信じられない……」
「ふふ、エリカの化粧技術は凄いからね」
「あそこまでいくと、お化粧っていう次元を超えている気もしますよ」
私の目に映っている女性と、エリカさんの見た目は全然違う。別人と言われても、何も違和感がないくらいだ。
なんていうか、あれだとお化粧というより、変装という方がしっくりくる。
「さすがにここだと、話している内容は聞こえてこないね……」
「ですね……あ、お父さんがエリカさんの肩に手を回した……」
「随分とだらしない顔をしているね。あまりこういう事は言いたくないけど、かなり女性に弱いお方のようだ」
お父さんって、前はもっと真面目で良い人だったのに、いつからこんな風になってしまったんだろう? それとも、元からこうで、私もお母さんも知らなかっただけなのかもしれない。
「それにしても、彼には君のお母さんやミナ様がいるというのに、まだ他の女性に手を出そうするなんてね」
「元から許せないって思ってましたけど……本当に酷いですね……」
お父さんの変わり果てた姿を見てると、怒りと同時に、悲しさや情けなさが湧きあがってくるよ……。
「むっ、どうやら話し終わったみたいだね。エリカと合流しようか」
しばらくエリカさんの様子を監視していると、少し疲れた表情のエリカさんと、別の所から見ていたミナ様達と合流した。
「お疲れ様、エリカ」
「はぁ……こんな気持ち悪い接待をさせられたのは、初めての経験でした……彼、少しでも隙を見せようなら、すぐに卑猥な事をしようとしておりましたわ」
うっ……なんか本当に疲れてる……私のお父さんの事でこんなに疲れさせてしまうなんて、本当に申し訳ない。
「その、ごめんなさい……」
「セーラ様が謝る必要はございませんわ。あなたは何も悪くないのですから」
……そう言ってくれるのは嬉しいけど、それでもやっぱり申し訳なく思ってしまう……。
「レイジさん……私の時は、そんな事しなかったのに……」
「僕の推測ですが、この町を仕切る方のご息女にそのような事をして、自分の立場が危うくなるのを避けたのかもしれませんね。それでエリカ、約束は取りつけたのかい?」
「はい、滞りなく。事前にミナ様からお聞きしていた通り、明日は仕事が休みという事で、一緒に出掛ける予定を組みました」
「ありがとう。さあ、後は彼の醜態を晒させてしまえば、こっちのものだ」
ここまでは、事前に話し合った通りだ。後は当日の流れ通りに行けば、うまくいくはず。無事に全部が終わると良いんだけど……。
****
翌日、私はヴォルフ様とミナ様、ミニエーラ家の当主様に加えて、炭鉱で働く数人の方にも来てもらった。
彼らは今回の件には関係ない人達だけど、お父さんの本当の姿を見てもらう為に、証人として来てもらったの。
「あの……今回は私のお父さんの事で来てくれて……ありがとうございます」
「いや、気にするな。しっかし、あのクソ真面目に働くレイジさんに限って、そんな事するんかねぇ?」
事前にお父さんの事を話したとはいえ、彼らはまだお父さんの裏の顔を知らないからか、怪訝そうな表情を浮かべている。
「それは、ついてきていただければわかるかと。では行きましょうか」
ヴォルフ様を先頭に、私達は事前に打ち合わせで決めていた、町の広場が見える物陰に隠れた。すると、広場に既に変装して待機している、エリカさんの姿を見る事が出来た。
「あ、お父さんが来た……」
「まさか本当に来るなんて思ってませんでしたわ……あの人、私がいるのに他の女性と……本当に最低ですわ」
隣で悔しそうに唇を噛むミナ様をなだめながら、私達は二人の後を尾行し始める。
この後、エリカさんにはお父さんを人気のいない場所に連れていってもらう。確か、町が一望できる丘にある公園に行く予定だ。
「おいおい、ミナさんがいるのに、これじゃ浮気じゃねーかよ……話は本当だったんだな」
「ええ、その通りです。是非今日の事は、沢山の人に伝えていただけると幸いです」
「ぐぬぬ……大切な娘を裏切るなど……許せん!」
「お気持ちはわかりますが、今は抑えてください」
ミナ様に続いて、来てくれた炭鉱の人も、ミニエーラ家の当主様も苛立ちを隠せずにいた。
かくいう私も……胸の奥で何かが燃えるような、不思議な感覚を感じつつも、目的地である丘に移動する二人を追いかけた。
「…………」
お父さんに見つからないように、息を潜めて追いかけ続け、無事に目的地の丘の公園にたどり着いた。あまり人が来ないのか、ちゃんと整備されてないけど、一応ベンチとかは置いてある。
「ここなら誰も来ないわね」
「ああ、そうだな」
ベンチに腰を掛けた二人の話が聞こえるように、茂みを使ってできる限り近づく。そのおかげで、ちょっと聞きにくいけど、一応声が聞こえるようになった。
「まさか、君のような美人に誘ってもらえるとは思ってもなかった」
「ふふ、口が上手ね。でも本当にいいの? 確か奥さんがいるんでしょ?」
「ミナの事か? 別に気にしなくていい。バレなければいいんだよ」
バレなければって……あまりにも酷い。悪い事は、たとえバレなくなってやってはいけない事だというのに。
「もう、あなたってもっと真面目だと思ってたのに。悪いあなたも嫌いじゃないけど」
「ははっ、そう見せてるからな。案外みんな簡単に騙されるんだよ。それに、真面目に振舞うのは疲れるんだ」
……そっか。お母さんも私も、お父さんの見た目だけの真面目さをずっと信じ込んでたのか……。
なんなの。本当に……ふざけないでよ! お父さんがそんなだったってお母さんが知ったら、どれだけ悲しむと思っているの!?
「そうなのね。でも、家族の事はちゃんと大事にしないと駄目よ?」
「家族? 別に、ミナなんて男爵の娘だから結婚しただけだ。それに、俺は今の優遇された環境と金、あとは女がいればどうでもいい」
家族なんてどうでもいい。その言葉で、私の中で……何かがプツンと音を立てて切れた。
それと同時に、私は大粒の涙を流しながら、お父さんの前に飛び出した。
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