第十九話 炭鉱の町
船に揺られ続け、夕方になりかけた頃に、ようやく別大陸の港へと到着した。
お父さんの手紙によれば、既に見えている大きな山に向かっていけば、目的地である炭鉱の町があるはずだ。
「他の大陸って初めて来ましたけど……町並みとか、住んでる人の洋服とか、私達の大陸と変わらないんですね」
「そうだね。でも場所によって、全然違う文化もあるよ。いつか機会があれば、一緒に行こうか」
「はい、是非」
海に行く約束に続いて、他の大陸に行く話まで出るとは思ってもなかった。いつになるかはわからないし、そもそもただの社交辞令で、本当は行けないかもしれないけど……正直楽しみかな。
「事前の情報では、この港町から目的地まで、定期的に馬車が出ているという情報を得ています。場所を伺ってきますので、少々お待ちを」
「何から何まですみません……」
「いえ、お気になさらず」
エリカさんは深々とお辞儀をしてから、港で仕事をしている人から、連絡便について聞いて来てくれた。
どうやらあと十分程で出発するらしい。乗り場も近くにあるとの事だそうだ。
「これは運が良かったね。恐らく夜には到着できるだろう。着いたら宿を確保して、明日お父上を探しに行こう」
「わかりました。では連絡便の所に行きましょう」
本当は三人でこの港町を周りたかったけど、そんなワガママを言うわけにはいかないよね。
「む、どうやらあの馬車のようだね。失礼、炭鉱の町に行きたいのですが、この馬車に乗ればよろしいのでしょうか?」
「おう、俺の自慢の馬車で安全快適に送り届けてやるぜ!」
「それは心強いですね」
とても豪快な御者と話をしてから、私達は馬車に乗りこんだ。どうやらお客さんは私達だけのようで、中には誰もいない。
念の為、お金を多めに持ってきておいてよかった。そうじゃなかったら、偉そうに自分で何とかしたいとか言っておきながら、ヴォルフ様に払ってもらうところだったよ。
「ふわぁ~……」
「眠いのなら、少し休んだ方がいいよ」
「そうですね……ちょっと眠いので、仮眠を取ります……」
気が緩んだ瞬間に、一気に睡魔が襲い掛かってきた。
駄目だ、頭がボーっとして何も考えられない。睡魔がここまで凄いものだったなんて、全然知らな、かった……すやぁ。
****
「セーラ様、起きてくださいませ」
「ええ……まだ眠いよぉ……」
「着きましたよ」
「え、着いた!?」
完全に寝ぼけていた頭が覚醒した私は、馬車の窓の外を見ると、そこには確かに別の町が広がっていた。
炭鉱の町だからなのか、周りを歩いている人は屈強な人が多い。きっと彼らが炭鉱で働いているのだろう。石で作られている建物は、少し古いものが多い印象だ。
「まずは宿屋でしたよね。どこなんでしょうか……」
「お、よその人間なんて珍しいな。宿を探してるのかい?」
周りをキョロキョロと見ていると、凄く大柄で強面の男性が声をかけてきた。怖さで言えば、マスターと良い勝負かもしれない……。
「ええ。なにぶんここに来たのは初めてで、右も左もわからくて」
「それならこの道を真っ直ぐ行った所にあるぜ。岩宿って看板もあるから、行きゃわかるだろうよ」
「そうですか。ご親切にありがとうございます」
「良いって事よ!」
怖そうな見た目だったけど、良い人っているんだなぁ……怖い見た目で優しい人は、マスターだけだと思ってたよ。
「あ、ヴォルフ様! エリカさん! あそこじゃないですか! 岩宿って書いてあります!」
「ああ。そこのようだ。入ってみようか……ごめんください」
「いらっしゃいませ。お客様なんて珍しい。三名様ですか?」
「ええ。部屋は空いてるでしょうか?」
「ええ、すぐにご用意できます」
「では二人部屋と一人部屋を、一つずつお願いします」
「かしこまりました」
無事に部屋を二つ確保出来た後、私は何気なく、ヴォルフ様と同じ部屋に荷物を置きに来た。
「……気持ちは嬉しいけどね」
「え?」
「さすがにまだ正式に結婚もしてないからさ。さすがに早いと思うよ」
「……っ!?」
やや苦笑気味ではあるが、諭すように教えてくれた。
言われてみれば、男女は同じ部屋で寝るなんてありえない! しかも、ここって一人部屋だ! こんな所で寝たら、ヴォルフ様と同じベッドで……うにゃぁぁぁぁぁぁ!!?!??!
「ごめんなさーい!!」
ダッシュで部屋を出た私は、もう一つの部屋の方に入ると、そこではエリカさんが沢山のぬいぐるみを、ベッドの枕元に並べていました。
「あの、エリカさん……そのぬいぐるみ達は?」
「この子達がいないと、ぐっすり眠れないものでして」
「そうなんですね。凄く可愛いですね」
「はい、とても愛らしいんです」
とてもたくさん荷物を持っていたから、何が入っているのかと思ったら、まさか着替えとぬいぐるみとは思ってなかったよ……。
「あ、そのウサギさんのぬいぐるみ……」
「はい、セーラ様にプレゼントしていただいた子です」
「えへへ、大事にしてくれて嬉しいです」
「良ければ今度、私の部屋においでくださいませんか? この他にも、たくさん可愛い子がいるので紹介させてください」
「そうなんですね! 是非!」
誰かの部屋に遊びに行くなんて、生まれてこの方一度も経験がない。もう今から心が躍ってしまって仕方が無いよ。
「さて、一度ヴォルフ様と合流をして、食事にでも行きましょうか。長旅でお腹が空いているでしょう?」
「はい、実はもうペコペコで……炭鉱の町の料理ってどんなものなんでしょう?」
「私もそこまでは調べておりませんので、お楽しみという事に致しましょう。では、簡単な身支度をさせていただきます」
私はエリカさんに身支度をしてもらった後、一緒に宿屋のエントランスに向かうと、ヴォルフ様がのんびりと読書をしていた。
あ、あの本……私がプレゼントしたものだ。読んでくれてて嬉しいなぁ。
「お待たせしました。とりあえず食事に行きましょう」
「待ってないから大丈夫だよ。どうやら近くに大きな酒場があるらしい」
「酒場……周りが屈強な人ばかり町にある酒場って、危ないんじゃ……」
「ここの人は親切だし、大丈夫だろう。それに、なにかあったら僕とエリカが守る」
なんて頼もしいんだろう。二人と一緒なら、私はきっと大丈夫だ。
でも、守ってばかりというのはよくない。どこかで私に出来る事を見つけて、二人に返してあげないと。
「えーっと、あの店だ」
「すでに良い香りがしておりますわね。肉でも焼いているのでしょうか?」
「行ってみましょう!」
良い匂いにつられて酒場の中に入ると、沢山の屈強な人達が、楽しそうにお酒を飲んでいた。
ちょっと怖そうだけど、うちの酒場とそんなに変わらない感じがする。だってほら、お客さんがあんなに楽しそうにしてるのは、うちの店だって……おな、じ……。
「どこかに空いてる席は無いでしょうか?」
「うーん、あそこはどうだい。セーラもどうって……何を見ているんだい?」
見間違えるはずもない。少し老けてしまって頭が寂しくなってたり、体格ががっしりになってても、あの髭と笑った顔……見間違えるはずもない。あの人は……お父さんだ……!
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