第十五話 お礼の品を求めて
ライル家の好意に甘えた私は、馬車に乗って城下町へとやってきた。
他にも街は国内にいくつもあるけど、城下町が一番規模が大きいから、本屋さんの数も多いだろうしね。
「えっと、本屋さんとぬいぐるみ屋さんはどこかな……」
「本屋はこっちですよ~。あそこに一軒、少し歩いたところに二軒ございます~。ぬいぐるみ屋はありませんが、ぬいぐるみを扱っている玩具屋なら、逆方向にございますよ~」
今日の為にわざわざ一緒に来てくれた、ほんわかしたメイドの指差す先には、確かに一件の本屋さんがあった。
彼女は、ライル家に使える人の中で一番本に詳しいらしく、わざわざ私の為に来てくれたんだ。
……ヴォルフ様ばかりに目が行っていたけど、エリカさんをはじめとしたライル家の方々にも、お世話になりっぱなしだ。彼らにも、いつか別の形でお返しをしなきゃ。
「いらっしゃいませ。何をお探しで?」
「れ、恋愛小説を……」
「かしこまりました。こちらにご用意してあります」
「ありがとうございます」
店員さんの案内のおかげで、私は難なく恋愛小説がある棚の前に来れたのは良かったけど、その数が多すぎて、どれを選べばいいか全然わからない。
……困った……ヴォルフ様の好みがホラー小説だったら、いくらでも探せるのに……もしもの事を考えても仕方ないんだけどね。
「セーラ様~、よければおススメの本を紹介してさし上げましょうか~?」
「いいんですか? 凄く助かります……私、恋愛小説は全然読めないので、どれが良いのか……」
「そうですね~……これとかどうですか? 結構面白かったんですよ~」
「ありがとうございます……ふむふむ……っ!? ひゃわぁぁぁぁぁ!?」
メイドの方から一冊の本を手に取って読んでみたら、まさか冒頭から濡れ場で始まっていた事に驚いた私は、思わず大声を出しながら本を閉じた。
いきなり大声を出した事も恥ずかしいけど、この本の内容も恥ずかしすぎる……こんなジャンルの本を平然と読めるヴォルフ様……凄すぎる!
「ありゃ、セーラ様には刺激が強すぎましたか~」
「は、はひぃ……」
「お顔が真っ赤ですよ~? うふふ、セーラ様は可愛いですね~」
クスクスと楽しそうに笑う彼女は置いておくとして、早く本を探さなきゃ……でも、どれが良いのかさっぱりわからない。
「はぁ、ホラー小説なら良かったのに……」
「ホラー小説、好きなんですか~?」
「はい。ヴォルフ様は、ホラー小説は読まれないんですか?」
「全然ですね~。ヴォルフ様って、大のホラー嫌いなんですよ~。怖い話を聞くと、お手洗いに行くのも躊躇うくらいです。うふふ、可愛いですよね~」
そうだったんだ……ギャップが可愛いというべきか、私が好きなジャンルが苦手で悲しいというべきか……ちょっと複雑な気持ちだ。
でも、その情報を聞けてよかった。おかげでホラー小説をプレゼントしてしまう事故も防げるし、今後もヴォルフ様にホラー小説の話をして、怖がらせてしまうのも防げるよ。
「あ、店長~あの本は入荷しましたか~? あの新作恋愛小説なんですけど~」
「申し訳ない、入荷自体はしてるんだが……すぐに売れてしまってね」
「そうですか~……さすがに人気ですねぇ。久しぶりに本屋に来れたから買いたかったけど、残念……」
そんなすぐに売り切れてしまうほど、人気の作品があるんだ……それをヴォルフ様にプレゼント出来れば喜んで、喜んでもらえそう!
「あの、まだ他の所を回るのって出来ますか?」
「ええ、大丈夫かと~」
「でしたら、その人気の本を探しに行きたいんです。きっとそれなら、ヴォルフ様も喜んでくれると思って」
「喜んでくれると思いますが……凄まじい人気の本ですから、どこも売り切れかもしれませんよ~?」
「うっ……そ、それでも探したいんです!」
確かに見つからないかもしれない。それでも、探す前から諦めたくない。そう思って彼女を見つめると、観念するように笑った。
「わかりました~。でも、あんまり遅くなるようなら、屋敷に帰りますからね~」
「あ、ありがとうございます! では、本屋さんの前に玩具屋さんに行ってからでもいいでしょうか?」
「かしこまりました~」
お礼を伝えてから、本屋さんを後にして玩具屋さんに向かった私は、そこでとても可愛らしいウサギさんのぬいぐるみを購入した。
さて、これでエリカさんへのお礼の品は用意できた。この調子で、ヴォルフ様の本を見つけてしまおう。
そう思っていたのだが……一軒、二軒、三軒と、近くにある場所から片っ端に案内してもらったが、どの本屋さんでも売り切れだった。
その後、城下町を後にして別の街に連れていってもらい、そこでも本屋さんを巡ってみたが……結局見つからず、気が付いたら日が暮れていた。
「……見つからない……本当に人気の本なんですね……」
「ですねぇ……」
「そろそろ……帰らないとですね。ごめんなさい、ずっと付き合ってもらっちゃって……」
「いえいえ~。こちらこそ、お力になれなくて申し訳ないです」
……彼女は何も悪くないのに、私が余計な事を考えたせいで、嫌な気持ちにさせてしまった。本当に……私は駄目な人間だ……。
「残念ですが、そろそろ帰りましょう~」
「はい……」
意気消沈したまま、私を乗せた馬車は屋敷に向かって進んでいく。その道中、私は馬車の窓の外から、小規模な街があるのを発見した。
「あんな所にも、街があるんですね」
「とても小さな街ですけどね~。街というよりも、村と表現した方が正しいかと~」
「あそこに本屋さんは無いんでしょうか?」
「……どうでしょう? あそこに行った事自体が無いのでなんとも~……最後に行ってみますか?」
「もしよければ……行ってみたいです」
これで無かったら、今日は諦めてまた別の日に、別の本を探しに行こう。そう決めた私は、小さな街の中で馬車から降りた。
この街はあまり人がいないのか、人通りが少ないけど、城下町と比べて自然がとても豊かで、住みやすそうな雰囲気だった。
「静かで良い所ですね……本屋さんはどこだろう?」
「ん~……あちらにありますね~」
「え、どうしてわかるんですか?」
「本特有の、紙の匂いがプンプンしますからね~」
ふ、普通はそんなものはわからないと思うんだけど……ワンちゃん並みの嗅覚を持っているんだろうか?
なんにせよ、私にはその謎の嗅覚に頼るしか道はない。時間が無いから、闇雲に探す余裕もないからね。
「わ、本当にあった……」
彼女の指示通りの方向に行くと、ボロボロではあったけど、確かにそこには本屋さんがあった。
ここまで来ても、本の匂いは私にはわからないけど、見つかったんだから別にいいよね?
「うふふ、私の鼻も中々の物でしょう~?」
「本当に凄いです! 時間もあまり無いので、急いで見て来ますね!」
駆け足で本屋さんの中に飛び込んだ私は、中の隅っこにあった恋愛小説の棚を確認する。
慌てないで、私。こういう時に慌てるから、いつもドジをするんだ……慌てるな、でも急ぐ……マスターに教わったんだから、ちゃんとその教えを活かさなきゃ。
「……っ!! あった!! これください!!」
「あらまあ、元気なお嬢さんだ事。ありがとねぇ」
目的の本を見つけた私は、他にお客さんがいないのにも関わらず、横取りされてしまわないように、急いで目的の本を持って、店主のお婆さんの元へと向かった。
「ああ、よかった……無駄にならなくて済んだ……」
ホクホク顔で馬車に戻ると、彼女が私の事を笑顔で出迎えてくれた。
「おかえりなさ~い。その様子だと、手に入ったみたいですね~」
「はいっ。あ、あの……付き合ってくれてありがとうございました! それで、その……これはお礼といいますか……」
「まあ、そんなわざわざご丁寧に、ありがとうございます~。あら、これは……」
ここまで付き合ってくれた彼女の手に、先程私が購入した恋愛小説を手渡した。
実は、探していた恋愛小説が、あの本屋さんには三冊売られていた。だから、三冊全部を購入して、その一冊を今日のお礼として購入したの。
「すみません、よければ受け取ってもらえませんか……?」
「おや、私にもですか? ありがとうございます。休日の楽しみが増えました」
彼女に渡した後、ここまで馬車を動かしてくれた御者にも、買った本を手渡した。本が好きかどうかも知らなかったけど、喜んでもらえてよかった……。
さあ、後は屋敷に帰ってこの本をヴォルフ様にプレゼントするだけだ。喜んでくれるといいなぁ……。
ここまで読んでいただきありがとうございました。
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