表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/45

第十五話 お礼の品を求めて

 ライル家の好意に甘えた私は、馬車に乗って城下町へとやってきた。


 他にも街は国内にいくつもあるけど、城下町が一番規模が大きいから、本屋さんの数も多いだろうしね。


「えっと、本屋さんとぬいぐるみ屋さんはどこかな……」

「本屋はこっちですよ~。あそこに一軒、少し歩いたところに二軒ございます~。ぬいぐるみ屋はありませんが、ぬいぐるみを扱っている玩具屋なら、逆方向にございますよ~」


 今日の為にわざわざ一緒に来てくれた、ほんわかしたメイドの指差す先には、確かに一件の本屋さんがあった。


 彼女は、ライル家に使える人の中で一番本に詳しいらしく、わざわざ私の為に来てくれたんだ。


 ……ヴォルフ様ばかりに目が行っていたけど、エリカさんをはじめとしたライル家の方々にも、お世話になりっぱなしだ。彼らにも、いつか別の形でお返しをしなきゃ。


「いらっしゃいませ。何をお探しで?」

「れ、恋愛小説を……」

「かしこまりました。こちらにご用意してあります」

「ありがとうございます」


 店員さんの案内のおかげで、私は難なく恋愛小説がある棚の前に来れたのは良かったけど、その数が多すぎて、どれを選べばいいか全然わからない。


 ……困った……ヴォルフ様の好みがホラー小説だったら、いくらでも探せるのに……もしもの事を考えても仕方ないんだけどね。


「セーラ様~、よければおススメの本を紹介してさし上げましょうか~?」

「いいんですか? 凄く助かります……私、恋愛小説は全然読めないので、どれが良いのか……」

「そうですね~……これとかどうですか? 結構面白かったんですよ~」

「ありがとうございます……ふむふむ……っ!? ひゃわぁぁぁぁぁ!?」


 メイドの方から一冊の本を手に取って読んでみたら、まさか冒頭から濡れ場で始まっていた事に驚いた私は、思わず大声を出しながら本を閉じた。


 いきなり大声を出した事も恥ずかしいけど、この本の内容も恥ずかしすぎる……こんなジャンルの本を平然と読めるヴォルフ様……凄すぎる!


「ありゃ、セーラ様には刺激が強すぎましたか~」

「は、はひぃ……」

「お顔が真っ赤ですよ~? うふふ、セーラ様は可愛いですね~」


 クスクスと楽しそうに笑う彼女は置いておくとして、早く本を探さなきゃ……でも、どれが良いのかさっぱりわからない。


「はぁ、ホラー小説なら良かったのに……」

「ホラー小説、好きなんですか~?」

「はい。ヴォルフ様は、ホラー小説は読まれないんですか?」

「全然ですね~。ヴォルフ様って、大のホラー嫌いなんですよ~。怖い話を聞くと、お手洗いに行くのも躊躇うくらいです。うふふ、可愛いですよね~」


 そうだったんだ……ギャップが可愛いというべきか、私が好きなジャンルが苦手で悲しいというべきか……ちょっと複雑な気持ちだ。


 でも、その情報を聞けてよかった。おかげでホラー小説をプレゼントしてしまう事故も防げるし、今後もヴォルフ様にホラー小説の話をして、怖がらせてしまうのも防げるよ。


「あ、店長~あの本は入荷しましたか~? あの新作恋愛小説なんですけど~」

「申し訳ない、入荷自体はしてるんだが……すぐに売れてしまってね」

「そうですか~……さすがに人気ですねぇ。久しぶりに本屋に来れたから買いたかったけど、残念……」


 そんなすぐに売り切れてしまうほど、人気の作品があるんだ……それをヴォルフ様にプレゼント出来れば喜んで、喜んでもらえそう!


「あの、まだ他の所を回るのって出来ますか?」

「ええ、大丈夫かと~」

「でしたら、その人気の本を探しに行きたいんです。きっとそれなら、ヴォルフ様も喜んでくれると思って」

「喜んでくれると思いますが……凄まじい人気の本ですから、どこも売り切れかもしれませんよ~?」

「うっ……そ、それでも探したいんです!」


 確かに見つからないかもしれない。それでも、探す前から諦めたくない。そう思って彼女を見つめると、観念するように笑った。


「わかりました~。でも、あんまり遅くなるようなら、屋敷に帰りますからね~」

「あ、ありがとうございます! では、本屋さんの前に玩具屋さんに行ってからでもいいでしょうか?」

「かしこまりました~」


 お礼を伝えてから、本屋さんを後にして玩具屋さんに向かった私は、そこでとても可愛らしいウサギさんのぬいぐるみを購入した。


 さて、これでエリカさんへのお礼の品は用意できた。この調子で、ヴォルフ様の本を見つけてしまおう。


 そう思っていたのだが……一軒、二軒、三軒と、近くにある場所から片っ端に案内してもらったが、どの本屋さんでも売り切れだった。


 その後、城下町を後にして別の街に連れていってもらい、そこでも本屋さんを巡ってみたが……結局見つからず、気が付いたら日が暮れていた。


「……見つからない……本当に人気の本なんですね……」

「ですねぇ……」

「そろそろ……帰らないとですね。ごめんなさい、ずっと付き合ってもらっちゃって……」

「いえいえ~。こちらこそ、お力になれなくて申し訳ないです」


 ……彼女は何も悪くないのに、私が余計な事を考えたせいで、嫌な気持ちにさせてしまった。本当に……私は駄目な人間だ……。


「残念ですが、そろそろ帰りましょう~」

「はい……」


 意気消沈したまま、私を乗せた馬車は屋敷に向かって進んでいく。その道中、私は馬車の窓の外から、小規模な街があるのを発見した。


「あんな所にも、街があるんですね」

「とても小さな街ですけどね~。街というよりも、村と表現した方が正しいかと~」

「あそこに本屋さんは無いんでしょうか?」

「……どうでしょう? あそこに行った事自体が無いのでなんとも~……最後に行ってみますか?」

「もしよければ……行ってみたいです」


 これで無かったら、今日は諦めてまた別の日に、別の本を探しに行こう。そう決めた私は、小さな街の中で馬車から降りた。


 この街はあまり人がいないのか、人通りが少ないけど、城下町と比べて自然がとても豊かで、住みやすそうな雰囲気だった。


「静かで良い所ですね……本屋さんはどこだろう?」

「ん~……あちらにありますね~」

「え、どうしてわかるんですか?」

「本特有の、紙の匂いがプンプンしますからね~」


 ふ、普通はそんなものはわからないと思うんだけど……ワンちゃん並みの嗅覚を持っているんだろうか?


 なんにせよ、私にはその謎の嗅覚に頼るしか道はない。時間が無いから、闇雲に探す余裕もないからね。


「わ、本当にあった……」


 彼女の指示通りの方向に行くと、ボロボロではあったけど、確かにそこには本屋さんがあった。


 ここまで来ても、本の匂いは私にはわからないけど、見つかったんだから別にいいよね?


「うふふ、私の鼻も中々の物でしょう~?」

「本当に凄いです! 時間もあまり無いので、急いで見て来ますね!」


 駆け足で本屋さんの中に飛び込んだ私は、中の隅っこにあった恋愛小説の棚を確認する。


 慌てないで、私。こういう時に慌てるから、いつもドジをするんだ……慌てるな、でも急ぐ……マスターに教わったんだから、ちゃんとその教えを活かさなきゃ。


「……っ!! あった!! これください!!」

「あらまあ、元気なお嬢さんだ事。ありがとねぇ」


 目的の本を見つけた私は、他にお客さんがいないのにも関わらず、横取りされてしまわないように、急いで目的の本を持って、店主のお婆さんの元へと向かった。


「ああ、よかった……無駄にならなくて済んだ……」


 ホクホク顔で馬車に戻ると、彼女が私の事を笑顔で出迎えてくれた。


「おかえりなさ~い。その様子だと、手に入ったみたいですね~」

「はいっ。あ、あの……付き合ってくれてありがとうございました! それで、その……これはお礼といいますか……」

「まあ、そんなわざわざご丁寧に、ありがとうございます~。あら、これは……」


 ここまで付き合ってくれた彼女の手に、先程私が購入した恋愛小説を手渡した。


 実は、探していた恋愛小説が、あの本屋さんには三冊売られていた。だから、三冊全部を購入して、その一冊を今日のお礼として購入したの。


「すみません、よければ受け取ってもらえませんか……?」

「おや、私にもですか? ありがとうございます。休日の楽しみが増えました」


 彼女に渡した後、ここまで馬車を動かしてくれた御者にも、買った本を手渡した。本が好きかどうかも知らなかったけど、喜んでもらえてよかった……。


 さあ、後は屋敷に帰ってこの本をヴォルフ様にプレゼントするだけだ。喜んでくれるといいなぁ……。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


少しでも面白い!と思っていただけましたら、モチベーションに繋がりますので、ぜひ評価、ブクマ、レビューよろしくお願いします。


ブックマークは下側の【ブックマークに追加】から、評価はこのページの下側にある【★★★★★】から出来ますのでよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ