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第十三話 作戦大成功

■ヴォルフ視点■


「お帰りなさいませ、ヴォルフ様」


 入浴を済ませて自室に戻ってくると、エリカの挨拶に出迎えられた。彼女の近くにあるテーブルには、紅茶を淹れるセットが置いてある。


「紅茶、飲まれますか?」

「うん、ありがとう。いただくよ」

「かしこまりました。少々お待ちください」


 部屋の中に入って椅子に腰を降ろすと、一気に体が重くなった。


 これは、僕が思っていた以上に疲れているようだ。慣れない事はあまりするものじゃないな。


「……あんなに人が来たのは、想定外と言わざるを得ないな」

「確かにその通りですが、ヴォルフ様にとっても、実りがあったのではありませんか?」

「そうだね。僕の実力も伸びた気がするよ」


 忙しいと、それに応じて最適化をしないと間に合わない。だから、この何日かで仕事の効率が自然と上がったような気がする。これは思わぬ収穫だ。


「ヴォルフ様の腕は確かではありませんか。元々は、幼い頃から趣味でやっていた事を、今も続けられているのが、何よりの証拠です」

「そんな褒めてもなにも出ないよ?」

「事実ですから。それと、演技は壊滅的なのも事実ですわね」

「それわざわざ言う必要あるかな!?」

「事実ですから」


 珍しく素直に褒めてくれたと思った矢先にこれだ。本当にエリカは油断が出来ない相手だ。


「それで、セーラ様の様子はいかがでしたか?」

「さすがに疲れていたから、早めに切り上げて戻ってきたよ。ただ、頑張ってもらった甲斐があって、資金はかなり貯まったようだ」

「そうでしたか。上手くいってなによりですわ。はい、どうぞ」

「ありがとう。ふぅ……エリカが淹れてくれた紅茶は、疲れた体によく沁みる」


 長年エリカが淹れてくれた紅茶を飲んで生きてきたからか、これを飲むと安心して眠くなってしまう。このまま座ったままでも寝れそうだ。


「それにしても、良かったのですか?」

「何がだい?」

「セーラ様にバレないように資金を提供するためとはいえ、今までの運営の方針を変えてよかったのかと」

「結果的に客に喜んでもらえたし、問題無いさ。客が増えるの自体も、悪いことじゃない」

「それはそうですが……」

「それに、僕にとって今までの方針を崩してでも、セーラを助けたかったんだ」


 エリカが心配する気持ちもわかる。何かを変えようとすると、必ずリスクというのはあるからね。


 しかし、そのリスクを生み出してしまう可能性があったとしても、僕は一日でも早く、セーラの力になる道を選んだんだ。


「まあそれは置いておこう。近々セーラの貯金が目標額に届きそうなんだ。それで、彼がお父上に会いに行く時に、僕も一緒に行こうと思ってね」

「そう仰られると思ってました。止めても無駄なのでしょう?」

「まあね。日程が決まった時は、それに合わせてスケジュールの調整を頼むよ」

「かしこまりました。心配なので、私もご一緒しますわ。それと、予定を詰めないといけなくなるので、恐らく数日はほとんど寝られないと予測されますが」

「数日? 大した事ないな。セーラの為なら一カ月は余裕さ」


 これでも、忙しい時は何度も徹夜をした経験があるから、徹夜には慣れている。そこにセーラへの愛が加われば、徹夜如きで僕は一切止まらない。


「自分の歳を考えてください。もう徹夜が出来る程お若くないのですから」

「いやいや、僕はまだ二十歳だよ?」

「そうですね。しかし、過去に徹夜を何度もしていたのは、十五歳ぐらいの事でしょう? 五年の歳月は怖いですわよ」


 そういうものなのだろうか。たかが五年程度と思うのだが……いや、僕よりも年上のエリカが言うのだから、素直にその忠告は受けておいた方が良さそうだ。


「ああ、わかった。なるべくはちゃんと休んで、普段のセーラとの時間を増やすよ」

「……こういう時だけは前向きなのに、どうして偽物の婚約者なんて愚策をしたのか、理解に苦しみます」

「ほ、放っておいてくれ」


 それは言わないでくれ……僕も今頃になって、なんであんな事を言ってしまったのかと後悔しているんだから。


 ……しかし、本当は君の事が好きだったから、ちゃんとした婚約を結んでくれなんて、恥ずかしすぎて言える気がしない。


 それに、もし本物の婚約を結ぼうとして、セーラに拒絶されて出ていかれてしまったら……僕はショックで死んでしまうだろう。


「こほん。そういえば、ホールでのセーラの様子はどうだった? いつもは暇な時に確認をしてるんだが、ここ何日かは忙しくて見れなくてね」

「とてもお忙しそうでしたが、常連客に励まされながら頑張っておられました。新規の客も、あまり態度が宜しくない方が少なかったのも幸いでした」


 そうか、それならよかった。うちの常連さん達はセーラの事を気に入ってくれているし、セーラの性格をよく理解してくれているから、安心して彼らに任せられる。


「たまに変な客もいるからね……以前、セーラに変な対応を求めた客もいたね」

「おりましたね。あの日以降来ないのが幸いですわ」

「そうだね。まあ僕とエリカが近くにいる以上、何があっても危険は無いと思うけど、心配な事には変わりない」

「全くですわ。それと、時折自分を鼓舞してる姿も見られました」

「ああ、僕もたまに見た事があるよ。とても愛らしくて、なんど見惚れた事か!」


 あの小さな体で、握り拳を作ってフンッとしてる姿は、セーラに想いを寄せている僕じゃなくても、可愛いと思えるほど愛らしい。全世界の人に、この可愛さを布教したいくらいだ!


「さあ、そろそろおやすみになった方がよろしいかと」

「え、これからセーラの良さや可愛さについて語ろうかと思っていたのに……」

「家長の仕事に支障をきたすのでお断りいたします」

「……残念だ」


 セーラの話なら、朝まで余裕なのだが……仕事の事を考えたら、少しでも寝ておかないとさすがに厳しい。


 そう自分に言い聞かせつつも、溜息を漏らしながら、僕は床についた。

ここまで読んでいただきありがとうございました。


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