第十二話 一緒に会いに?
「やっと……終わった……」
数日間に渡る激務を終えた私は、自室のベッドの上で真っ白な灰になっていた。
お店やマスターの為に頑張ると決めてはいたものの、さすがに大変だった……ずっと声を出しっぱなしで喉が痛いし、常に動いていたから、体中が痛い。
でも、頑張ったおかげで沢山のお客さんに満足してもらえた。きっとこれからも、マスターのお店に来てくれるに違いない。
それに、何日かの勤務で沢山のお給料がもらえたおかげで、貯金が一気に潤った。生活もライル家の方々に支えてもらってるおかげで、出費も相当抑えられている。
これなら……近いうちに、お父さんに会いに行く為の旅費が貯まる。ようやくお父さんに会いに行ける……!
「これも、ライル家の方々が支えてくれたのと、マスターが私に愛想を尽かさずに雇ってくれたおかげだなぁ……ちゃんとお礼を言わなきゃ……ん?」
中身が増えた麻袋を見つめながら独り言を言っていると、部屋のドアがノックされた。
こんな時間に誰だろう……もう夜中の二時を回っているというのに……そう思いながらドアを開けると、そこにはヴォルフ様が立っていた。
「ヴォルフ様? こんな夜中に、どうかしたんですか? あ、立ち話もあれなので、中にどうぞ」
「ありがとう。いや、最近互いに忙しくて、全然話せていなかったから、ちょっと話をしたくてね」
「私もお話したかったんです。でも、こんな夜中まで待っててくれたんですか?」
「実は、僕も先程帰ってきたばかりでね。もしかしたら起きてるかと思って来たんだ」
ヴォルフ様もこんな時間まで仕事をしていたなんて、本当に多忙な方だ。早く寝た方がいいはずなのに、私とお話をする時間を取ってくれるなんて……なんか嬉しくて顔がニヤけちゃう。
「あ、もしかしてセーラはそろそろ休むところだった? それなら無理しないで寝て大丈夫だよ」
「いえ、大丈夫です」
「それならよかった」
ふう、と小さく息を漏らしながら、ヴォルフ様は椅子に腰を降ろす。ランプでぼんやりと照らされたその整った顔は、僅かに疲れが見え隠れしていた。
……やっぱり何か理由をつけて、休んでもらった方が良かったかとしれない……今からでも遅くないかな……?
「ところで、セーラは何をしていたんだ?」
「えっと、以前お話しした貯金を確認していたんです」
「そうだったんだね。その後はどうだい?」
「実は、最近凄く忙しくて……大変だったんですけど、お店のマスターがいつもより多くお給料をくれたので、一気に増えたんです!」
私はお金が入った麻袋を開けて見せると、ヴォルフ様は麻袋を受け取ってから、満足げな表情を浮かべた。
……あれ? ヴォルフ様……指を怪我してる……どうしたんだろう?
「その指、どうしたんですか?」
「えっ!? あ、あー……ちょっと紙で切ってしまったね……あはは」
「紙で切ると痛いですよね……大丈夫ですか?」
「大丈夫だよ。放っておけば、そのうち治るよ」
「駄目ですよ。ちゃんと手当はしませんと」
……なんか、こんなような会話を最近したような気がする。そうだ、マスターが割れた皿で指を切った時だ。
よく見てみると、ヴォルフ様とマスターが怪我した指が同じだ。こんな偶然ってあるだね。
「それで、もうすぐ会いに行けそうなのかい?」
「はい。今回のお給料もありますが、ライル家の方々が生活を支えてくれているので、出費が殆ど抑えられています。なので、より多くお金が貯まって……目標の額まで、もう少しです。本当にありがとうございます」
「僕は何もしてないよ。全ては、君が今までこつこつ頑張ってきた結果だよ」
「そんな事はないです。周りの方々が親切にしてくれたおかげです」
私が何を言っても、ヴォルフ様の口から出る言葉は、私が頑張ったからの一点張りだった。
褒めてくれるのは凄く嬉しいけど、自己肯定力の低い私には、素直に受け取って喜ぶのは難しいよ……。
「そうだ、もし旅費が貯まって行けるようになったら、僕に日程の相談をしてほしい」
「それは構いませんが……どうしてですか?」
「僕も一緒に行く。大切な婚約者を、一人旅なんてさせるわけにはいかないだろう。心配で夜も眠れないよ」
「えっ……?」
ヴォルフ様の言葉に、私の胸が跳ね上がったのかと錯覚するくらい、大きく高鳴った。
私の事をこんなに心配してもらえた事なんてないから、そんな事を言われたら……嬉しさと申し訳なさで死んじゃいそう!
「で、でもヴォルフ様だって仕事が……」
「予定を前倒しすれば、なんとかなるさ。というわけで、なるべく早く教えておくれよ」
「わ……わかりました」
まさかヴォルフ様と一緒にお父さんに会いに行く事になるなんて、考えもしていなかった。
嬉しいような、申し訳ないような複雑な気持ちだけど、せっかくの好意を無駄にするのもあれだし、お父さんにヴォルフ様を紹介する良い機会だ。
って……私ったら、何変な事を考えているの? ヴォルフ様はあくまで偽物の婚約者だ。それなのに変な勘違いをしたら、迷惑をかけてしまう。
「どうしたんだい、ジッと見つめて。そんなに見られたら照れてしまうよ」
「あ、ごめんなさい……」
「さて、そろそろ僕は部屋に戻るよ」
「わかりました。その……本当に色々とありがとうございました。おやすみなさい」
「ああ、おやすみ」
こんな言葉一つで感謝を全て伝え切れるとは思ってないけど、それでも伝えたくて、心の底から気持ちを乗せて言葉にすると、ヴォルフ様は笑って応えてくれた。
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