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夕立と猫

作者: にお

*この作品は習作のために書いたものです。深い意味はないので軽い気持ちでお読みください。 

 夕立に見舞われ慌てて軒下に退避する。


 周囲の人々も突然の鉄砲水に不満を募らせつつもすぐに晴れるよう灰色の空に祈る。


 どうせにわか雨だとタカをくくりつつも、汗と雨水で酷く濡れた服を気にする。


 あの独特の生臭い匂いが体中から立ち込めており、思わず袖を嗅いでしまう。


 この後の予定は特に無いがそれでも年頃の女の子には辛いものがある。


 カバンを漁り制汗剤を探すも昼休みに使った後、自分のロッカーに投げたままにしていることを思い出す。


 少しため息を吐き、常に持ち歩いているキャラクターもののフェイスタオルで濡れた髪を丁寧に拭きながら、ショートメッセージに入っていた母親からの内容を確認する。


「今日はカレーにしますが、肉を買い忘れたので帰りに牛肉を買ってきてください」


 あり得ない具材の買い物忘れに思わず心の中でツッコミを入れそうになる。


 しかしカレーに肉無しというのはあまりにも悲しい。


「りょ、う、か、い」


 考えていることが口に出てしまう癖は今更なので私は気にしなかったが、少し離れて同じ軒下にいる別の高校生が鼻で笑った気がした。


 それが少し癪に触り、気づかれ無いよう素早く横目で相手を見た。


 淡い紺色を基調とした制服で鳩尾部分には目立つ赤いリボンをしており、左胸には校章が刺繍してある。


 私はそれがどこの高校のものなのかすぐに分からなかったが、彼女が持つカバンですぐに察しがついた。


 彼女が通う高校――私の第一志望だったところであった。


 僅かに合格ラインに達せずに落ちてしまった記憶が頭を過る。


 苦い思い出に気分を害され、私は居ても立っても居られずに軒下から飛び出した。


 そうしてそのまま頭にカバンを被せ、夕立の中を走った。

 



 気づけば私は公園の藤棚で雨宿りをしていた。


 ここにはベンチが備わっているので立ちっぱなしの足を休めることができる。


 しばし厄介になろうと座る場所にハンカチを敷き、テーブルには頭や体をふいてやや湿ったタオルを置く。


 さらにそこに膝をのせてやり、雨音を聞きながら携帯をいじる。


 ファンである男性グループの関連ニュースや友達からの返信待ちに返事を送ったりと事欠かない。


 夕立も勢いを失いつつあり、雨が上がったらスーパーに寄って牛肉を買おう、高いものを買ってあとで請求してやろう、と画策していると隣に何か軽い音がした。


 携帯に集中していた私はそれが何かを確かめようとはせず、気に留めずにいると不意に肘に何かが触れた。


 携帯を置いて振り向くと、猫がいた。


 白と黒が入り混じった模様をしており、あまり食べていないのか華奢な格好をしている。


 瞳は大きく見開いており、毛も整えられて清潔感がある。


 一見すると野良には見えないその猫は私の前で心許してくれているのか手を舐め始めるとその場で毛づくろいを始めた。


 何の警戒心も無い無邪気なその仕草に違和感を覚えつつも、間近で見ることができた猫の可愛い仕草に手を止めてしばし見とれてしまう。


 私の送る視線に一切気にする様子は見せず、ただ己がやりたい事を続ける猫。


「なんで君は逃げないの?」


 私は少し声色を甘くして猫に訪ねてみた。


 すると、手を止め今度はテーブルに飛び乗ると私のタオルの上で寛ぎ始めた。


 どうも猫には愚問のようで、逃げる必要がどうしてあるの、とばかりに尻尾をゆらゆら揺らしながらそう答えているように見えた。


 その尻尾のゆらめきを見て、何か玩具になるようなものは無いかとカバンを漁る。


 こんな機会、滅多としてないだろうと考えつつも中に入ってるのは女子高校生の必需品ばかりで猫相手には通じないものばかりであった。


「ごめんね、何も持ってないの」


 私が申し訳無さそうに言うと、猫は踵を返して公園内のブランコがある場所へと走っていた。


 待って、と思わず言いかけた時、雨が止んでいることに気づく。


 空を覆っていた灰色の雲達はどこかへと流れ去り、夏の太陽が顔をのぞかせる。


 今しがたの雨のせいで湿気は最高潮に達しており、蒸し暑さの再来に私は一瞬で嫌な顔をした。


「行っちゃっ……た。まあいいか」


 私は立ち上がりスカートを払うとスーパーを目指して水たまりの出来た箇所を避けながら公園を後にした。

お読みいただき、ありがとうございました。

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