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カンカケの駅

作者: 江菓

 俺の使う駅はよく人身事故が起きる。1週間で一人、多いと1週間で2人ほど。理由は様々で、自殺、他殺、足の踏み外し、ベビーカーの落下…赤ちゃんからおじいちゃんまで老若男女問わず、この駅で命を落としている。そのせいで怖い噂は絶えず「昔ここで巨大な恨みを抱えて死んだ罪人のせい」だとか「強い妖怪の住処」だとか根も葉もない噂ばかりだ。1番有力なのが昔ここで祀られていた神様の祟りだという噂だ。実際ここは昔神社だった。しっかり敬われて他の場所に移されたが実は2つの神がいる神社で片方しか移されておらず、もう1人の神様はまだここにおり怒って祟を起こしている、というのがこの噂だ。だが、別の場所に移された神社がどこかは分からないし、本当に2人の神様が祀られていたのかは謎だ。

 今日もまた一人男性が落ちた。朝から酒に酔っており誰も彼を止めなかった。よれたスーツに身を包み、酒の匂いと共に電車の前にそのまま…即死だそうだ。俺は「またか」と思っただけでほかは何も思わなかった。この駅ではそれが当たり前だ。このままでは部活の朝練に遅れてしまうため、母に電話し車を出してもらった。

 朝練が終わり、教室へ行くと駅の人身事故が話題に上がっていた。クラスの女子達は「まただねぇ〜やっぱりあの噂ホントなんだよ〜」「えぇ〜こわーい笑」と話している。隣の席の立花さんはそんな女子たちに混ざらずにひとり黙々と勉強に勤しんでいた。透明感のある白い肌、墨汁のように黒く艶のある長い髪、化粧はしていないのかほかの女子よりも大人しいその顔色に見とれてしまう。

「どうしました?」

見ていたのがバレたのか立花さんは急にこちらを見る。立花さんの黒い瞳に動揺するブサイク男の顔が反射する。

「えっいやっ、そ、その方程式…お、俺よくわかんなくて…チャチャッと解いてるから…み、見てごめん…」

「そうですか。」

それだけ言って立花さんは教材に目を戻す。動揺してどもってしまった…最悪だ…初めて話したのがこれじゃあダメだ…第一印象終わった…そう心の中で泣きながら1人反省会をする。

「分からないなら…お教えしましょうか?」

「えっ」

立花さんが教科書で顔を下半分隠しながらこちらを見る。右目元にあるホクロが可愛い。

「あっえっあっそっ、お、教えて…ください…」

「ふふふ、いいですよ。あ、もう先生が来ますね…今日放課後は暇ですか?」

立花さんが時計をちらりと見たあとそう聞いてくる。今日はちょうど顧問が出張で部活は珍しく休みだ。

「えっあっは、はい!ものすんごい暇です!!」

「良かった、なら放課後に。」

そう言ってニコッと笑うと立花さんはまた勉強に戻った。高嶺の花である立花さんに勉強を教えて貰えるなんて嬉しい。心の中でガッツポーズしながら隣の席になった少し前の自分の運を褒め殺した。それからの授業はうわの空で、弁当もいつもより美味しく感じた。友達のユウタには「勉強教えて貰えるだけで喜ぶなよ!!!でも羨ましい!!!!」と弁当の唐揚げを1個奪われた。まぁ今の俺は立花さんの放課後授業が控えているので唐揚げ1個くらい可哀想なユウタにやってやろう。放課後に思いを馳せながら時間が過ぎるのを待った。

 放課後、2人だけの教室で机を繋げて苦手な数学を教えてもらった。立花さんは丁寧に1つずつ分からないところを解説してくれて数学を教えてくれてる鈴木先生には申し訳ないが立花さんの方が分かりやすかった。

「私ね、将来学校の先生になりたくて…」

「そうなんだ!!教え方上手いし絶対なれるよ!!立花さんのおかげで今度の数学のテストめっちゃ点取れそう!!!」

「ふふふ、良かった。」

そう笑う立花さん。いつも勉強をしていて、誰か友達と話しているところはあまりみない。ましてや笑顔なんてほとんど見ない。それを今俺の前でやっている。俺幸せだ…死ぬのかな俺…

「中原くん?大丈夫?」

「えっあっはい!!大丈夫!!!」

立花さんの笑顔に見とれていると立花さんの授業を聴き逃していたようだ。危ない危ない…

「そういえば今日関家駅(カンケエキ)で人身事故があったんだけど知ってる?」

「あぁ…私が学校に行く時ちょうどだったからよく覚えてます。ほんとに最寄り駅がよく止まられちゃうと困っちゃいますね。」

「あっ、立花さんも関家駅が最寄りなの!?」

「はい、もしかして中原くんも?」

「う、うん!俺も関家駅!」

「そうなんだぁ!えー全然見たこと無かったです!」

「ほんとだね笑」

「あっじゃあ、あれ見た事ある?」

「あれ?」

立花さんは急に真剣な表情になる。周りをキョロキョロ見て人がいないのを確認すると声を潜めた。

「ホームの端っこにいるシーツを被った人…」

「?」

ホームの端にいるシーツを被った人…??学校に行く時に毎日使うがそんな人1度も見た事はない。少し前に1度遅刻した時に人が少ないホームを通ったことがあるがそんな人いなかった。うーんと首を傾げると立花さんはしまったという顔をする。

「あー…見たことない?」

「見たことない…かな…」

「そ、そっか…あ〜…忘れて!うん、見たことないなら…気にしないで!」

立花さんは焦ったように言うと「さ、次はどこ?」と言ってさっさと切り替えた。その後立花さんは授業を30分すると暗くなってきたので帰ることになった。立花さんにシーツの人の話を聞いても苦笑いしながら「忘れてって笑」とはぐらかされてしまった。一緒に電車に乗って関家駅で別れた。シーツの人の話が気になり悶々とした気持ちのまま布団に入った。

 それから駅で立花さんによく会うようになった。立花さんは学校の時と変わらないがしきりにキョロキョロしており、ホームの端っこをじーっと見たりしていた。どうしたのか聞くと「大丈夫!」とはぐらかされ、電車に乗るとそんなことはしなくなる。やはり立花さんには『ホームの端っこにいるシーツを被った人』が見えており、それに怯えているのかもしれない。立花さんにはその話題を出さず個人的にTwitterなどで調べてみた。『関家駅 シーツ 被った人』と検索すると3つのツイートが引っかかった。

『ちゃんぺー @tyanpei

関家駅って駅よく使うんだが、最近ホームの端っこに白いシーツ被った海外のお化けみたいな格好した人いるんだけどwwwハロウィンまだ先だぞ!wwwwwwwww』

『白メロン @siroiruka

引っ越してから関家駅をたまに使うんだけどなんか最近ホームの端に白いシーツ被った人いるんだけどあれはなに??関家駅のキャラ?怖いんだけど見たことある人いない??』

『ルーが好き @kare-hasikou

前話した駅にいる謎の白いシーツ被った人最近グラデかかって下の方からどんどん赤くなってる…なんなのあれ…駅行くの怖い…』

その人たちのプロフィールに進むとこのツイートから数日後、全員たまに見る『訃報:〇〇の母(or兄、姉)です、娘(or息子)と仲良くして下さりありがとうございました。少し前に娘(or息子)は亡くなりました。今やっと落ち着いてネットの友達などにこうしてあのこと仲良くしてくださった感謝とあの子の代わりにサヨナラを言っています。ありがとうございました。』というようなツイートを最後に途絶えている。時期もバラバラでツイートの日付等から関家駅の人身事故のニュースを調べると3人と思われる人達が死んでいるのがわかった。自殺したサラリーマン、客に突き落とされたキャバ嬢、落ちそうになった人を助けた反動で落ちて亡くなった学生…

「う、嘘…もしかして立花さんの言ってたシーツの人は…死神?い、いやまさか…でもこのままじゃ立花さんが…死ぬ…?」

立花さんが死ぬ。そんな考えで頭がいっぱいになる。それだけは絶対に止めなければ…でも、どうすれば…?

「あっそ、そうだ…最近一緒に行ってるし、俺が守ればいいじゃん!落ちそうになったら助ければいい!!」

それから俺は立花さんと調べたことを話した。立花さんは始めこそ、それに恐怖を覚えていたが俺が守ると言うと安心したのか「ごめんね、ありがとう…」と泣きながら抱きついてきた。石鹸の香りがした。

 立花さんを守り始めて3週間、やはり週一のペースでここは人の命を吸い取っている。少し前は最近歩き始めたばかりの男の子が線路に落ち、そのまま帰らぬ人となったらしい。立花さんはホームの端っこに目を向け、怯えながら「もう…真っ赤になってる…」と教えてくれた。

 そしてついにその日がやってきた。立花さんといつも通りホームで電車を待っていた。立花さんは怯えつつも線路から遠い場所の椅子に座っていた。

「電車…あと10分か…ごめん、ちょっとトイレ!」

「う、うん。荷物もっとくよ!」

「ありがと!」

俺は立花さんに荷物を預け、トイレに行った。その間2分ほど。トイレをさっさと済ませ立花さんの元に帰ると荷物しか無かった。

「えっ!?た、立花さん!!!どこ!!!」

驚きつつも嫌な予感がした。名前を呼びながら立花さんを探し、ホームに行くと何やら騒がしかった。人をかき分け騒がしさの元凶の元へ行くと立花さんを人質に朝からナイフを持った覆面の男が暴れていた。

「おら!!近付くんじゃねぇ!!この女殺すぞ!!!」

震えた声でナイフを振り回している男に駅員は刺股で何とか対処しようとしている。立花さんは男の腕の中で泣いている。

俺はおもむろにバッグからいつも使っているラケットとピンポン玉を取り出す。ピンポン玉を上に投げ、力いっぱいラケットで男の顔めがけサーブする。ピンポン玉は男の顔に当たり、怯んだ男の腕から立花さんは倒れるようにへたりこんだ。立花さんに駆け寄り、男から離す。男はピンポン玉が当たった場所を擦りながら座り込んでいる。男に駅員が駆け寄り取り押さえた。

「良かった…立花さんもう大丈夫だよ。」

「あ、ありがとう…中原くん…」

立花さんの震える肩をおさて、背中をさする。うわっと駅員の声が聞こえ、そちらを見る。先程まで取り押さえられていた覆面の男がなにかに操られるようにすくっと立ち上がると線路の方へ歩き出した。男は真っ直ぐと線路の方を見ながら1歩1歩歩いている。駅員が3人がかりで取り押さえるがそれを跳ね除けながら線路へ歩く。男は真顔で歩いているのにずっと口はもごもご動き、しきりに「助けて!」「体が勝手に!!」「誰か止めてくれ!!!」「まだ死にたくない!!!」「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」と叫んでいる。その異様な光景に周りは恐怖を覚え、駅員やその場にいた男の人たちが覆面男を抑えようと抱きついたり首を締めようとするが覆面男は全て跳ね除けた。

「助けてぇ!!!!!」

プー!と音を鳴らす電車の前に覆面男は走って飛び出した。ゴンッと生々しい大きな音がホームに響く。キャーと悲鳴がし、その場にいた人たちはざわざわと先程の異様な光景を話す。

「やばい…やばいよ…」

「見たか今の…」

「ありえないくらい力が強かった…」

「何、なんなの…一体何が…??」

ザワつくホームで取り抑えようとしていた駅員が動揺しつつも声を上げた。

「みなさん落ち着いてください!駅に戻って!ホームから出てください!!」

立花さんと俺、覆面男を取り抑えようとした人達は別の駅員に連れられ駅員室へ、他の傍観者だった人達はホームから駅に戻された。呼んでいた警察は応援を呼んだらしく、パトカーのサイレンが大量に聞こえた。駅員さんやほかの人たちの証言で俺と立花さんは咎められることはなく、監視カメラの映像もあり、先程見たことを警察に話して解放された。「2人とも今日は家に帰りなさい。こんなことに巻き込まれてしまって…学校にはこちらから連絡しておくから、ゆっくり休んで…」と駅員さんが優しくしてくれて家へ帰った。

 立花さんを自宅まで送り、自宅に帰る。母はニュース速報を見ていたらしくすごく心配していた。学校から電話があり、明日から3日ほど休むよう言われた。立花さんにLINEすると立花さんも学校から3日ほど休むように言われたらしい。あんなことがあったけどまた学校で会おうと言って終わった。ニュースではいち早くTwitterに上がっていた動画が放送され、ここだけではなく全国、世界にまであの不気味な映像は流れていった。ユウタから心配のLINEが届いたが「大丈夫!」と言っておいた。クラスの人とLINEは交換していないのでそこだけが安心できた。今は、そこまで仲良くない人とLINEできるほど心に余裕はない。TwitterやLINEを見るのをやめてYouTubeを開き、ゲーム実況動画を見ながら先程のことを忘れようとした。

 鮮明に残る覆面男の叫び声と電車が人を殺す音。電車の前に覆面男がへばりつきそのまま数メートル運ばれる光景、立花さんの震える肩、周りのざわざわしている声…全てを目が、耳が、脳が、体が覚えている。もう終わって数時間経っているのに今だ手が震えている。恐怖が今頃追いついてきた。眠れず、ずっと好きなゲームのことを考え時間が過ぎるのを待った。


 あれから3日後、久々に着る制服は少し窮屈に感じた。あの光景はやっと昔の記憶になり、手の震えや背中越しに感じる恐怖も止まった。母には車で送ろうかと言われたが立花さんと一緒に登校しようと前日LINEで約束したので断った。立花さんを迎えに立花さんの家へ向かうと門の前で立花さんが立っていた。

「立花さん!」

「中原くん!良かった…来なかったらどうしようかと思った…」

「大丈夫、心配しないで。どうする?電車じゃなくてバスで行く?」

「ううん、大丈夫!電車で行ける!」

「そっか、わかった。じゃあ、行こうか!」

「うん!」

立花さんと駅に向かう。いつもの駅への道が3日ぶりだと少し新鮮に思える。

 駅に着くと、覚悟を決めホームに向かう。ホームに入ると前と変わらず、人が多かった。あんな事件があったからか駅員が配備されている。立花さんは少し怯えながらちらりといつも確認しているホームの端っこを見る。すると笑顔でこちらを向いた。

「いなくなってる!!」

「えっ!ほんと!?」

「うん!!」

「良かったね!」

「中原くんのおかげ!ありがとう!」

立花さんの嬉しそうな笑顔越しに俺は見た。真っ白のシーツを被り、ポツンとホームの端に突っ立っているアイツを。

最後、中原くんがどうなるかは一応作者の中で2択ありまして…

①見え始めて、人が死ぬ度にアイツが赤くなることに気付いてきっとこれカウントダウンなんだなって気がついてもう駅を使わない選択

②見え始めて、人が死ぬ度にアイツが赤くなることに気付いてきっとこれカウントダウンなんだなって気がついてそれでも立花さんが心配だからって駅を使い続け、結果操られた立花さんに突き落とされる。(立花さんは「体が勝手に…」「ごめんなさいごめんなさい…」「中原くん…ごめんなさい…」って言いながら顔は笑ってる(アイツが立花さんを殺そうとして中原くんに妨害されて殺せなくて悔しかったけどやっと中原くんを殺せて嬉しい)。)

皆さんのお好きな最後をお選びください。

あぁ、あと駅ではお気をつけて…

アイツがいるかもしれませんよ…

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