第0話 毒舌聖女
「これから貴方には、私のお手伝いをしてもらおうと思いま
す。」
ーいや、急に異世界召喚されて即勤務とかブラックすぎだろ、この世界。
「まあ、貴方の能力値は皆無なのであまり期待はしていませんが。」
ーいや、普通にじゃあなんで俺を呼んだんだよ。
「じゃあ、付いてきてください。あ、因みに私はこの帝国1の大聖女なので拒否権は無しですから。」
ーいや、マジで勘弁してくれって、聖女様よ。
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という感じで、木更津瑛太はこの無愛嬌な聖女様のもとに召喚された。
理由は本人にも分からない。
ただ自室で勉強をしてたら世界が一変し、正座をしているような形でいかにも神殿っぽい神聖な空間に召喚されていた。
まあ、召喚された過程などはどうでもよく、このあまりにも理不尽な状況でどう乗り切るかが今は重要だ。
前に立つ、聖なるオーラが溢れ出す美少女に反論を申し立ててみる。
「いやー、、、。流石に召喚されてから約15秒で即勤務はレベチじゃありませんか?聖女さん。」
「聖女"様"です。様を付けなさい。野蛮人が。あと、先程も伝えた通り貴方に拒否権はありませんけど?」
「いや、相当あなたのほうが野蛮なんだけど?!」
正論を申し立てただけで野蛮とは、納得できない。
どうやらこの世界では瑛太の人権は存在していないらしい。
すると、聖女の後ろを取り巻く彼女の手下らしき男たちが、瑛太に対して鋭い視線を向けているのに気づいた。
それもそのはずだ。
聖女の服装や振る舞いは、言動を抜いて、まさに「高貴」そのものである。もう一度言う。「言動」を抜いて、だ。そして彼らの聖女に対する態度は一般人に向けている物ではない。
故に、聖女に対し無礼に振る舞っている瑛太の態度はよろしくないものなのだろう。
すると、その鋭い視線を送る者たちの一人が
「聖女殿下!お言葉ですが、この者はあまりにも無礼であり、その聖女殿下に対する振る舞いは万死に値します!私どもが処分を致し」
「ーご静粛に。」
「っ!」
聖女がその7文字を放った途端、空気が変わった。男達は皆、その場で跪く。
先程とはあまりに違う聖女の威厳に、瑛太も驚愕する。
自分だけが、この雰囲気に合ってなくて何だか恥ずかしくなってくる。
「ー彼に謝罪を。」
聖女が厳かにそう言うと、跪き、顔を大理石の床に向けている彼が悔しそうに眉をひそめる。そしてゆっくりと立ち、体を瑛太の方に向ける。
瑛太が彼女に対していた態度は自分でも無礼だと自覚していたので別に謝罪はいらなかったが、
「この世界の聖女殿下に仕えるものとして、また、大聖協会の第一聖白軍の者として、あなたに無礼な態度を取ったことを心からお詫びしよう。」
「あ、えと、別に大丈夫です。あ、て言うことは聖女様も俺に対する謝罪を、、、。」
「するわけ無いでしょう。私が貴方のような野蛮で無礼で不埒な方に謝罪をすると、私の威厳が消えます。」
「あ、はい。ごめんなさい。分かってます。知ってました。
.....ちょい待てよ。不埒?無礼と野蛮は自覚するが、俺は浮気みたいな道理に外れた事は、、、。いや、俺交際経験0だったーーー!!」
ー自爆した。
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「先程は見事な無様さでしたね。」
「もうやめてくれって、、、。」
毒舌聖女に心を抉られる。辛い。痛い。
この聖女は冷血すぎる。こんなに美少女なのに勿体無い。
そんなこんな考えながら、二人で歩いているのは、大聖堂らしき建物の通路だ。
通路と言っても、その幅と長さは尋常じゃない。
かつての日本の軽自動車が、5台以上優に入る幅だ。
そこで瑛太はある事に気付く。
「てか、名前を教えてくれませんかね?聖女様。」
「私の名を呼ぶことは許可しませんが、一応伝えときます。
テレシア・ド・ヴァン・ノイヴァシュタインです。」
「いかにも、高貴さが溢れる名前だな、、、。
俺は瑛太だ。木更津瑛太。聖女様に劣らず上品な名前だろ?」
「いいえ。劣ってます。上品のじの字もありませんね。」
相変わらずの毒舌ぶりで、そう言い放つ。
こんなにボロクソ言われるのも、段々慣れてきた。
いったん、この状況を整理すると瑛太はこの聖女によって、意図的に召喚された。意図は分からないが今向かっている部屋で話してくれるらしい。急にこの世界に飛ばされて多少困惑しつつも、聖女の話している言葉の鮮明さや、彼女の悪言で心が抉られているので夢では無いのだろう。
そんなこんな考えていると、美麗に装飾された巨大の両開き扉の前へと着いた。扉の両端に衛兵らしき人物たちが立っている。そしてその者たちが、扉を開け
「聖女殿下。この世界に神聖なる輝きがあらんことを。」
聖女は軽く会釈をし、中に入っていく。やはり、この建物の人たちの聖女に対する反応を見ていると、彼女は只者ではないのだろう。
瑛太も聖女についていく。
「すげぇ、、、」
中に広がっているのは、想像を絶する広さの応接間だった。
主に白を貴重とした部屋だ。派手では無いが、その彫刻の細かさや、掃除の手入れが行き届いている事から、いかにこの部屋が貴重にされているのかが分かる。
"神聖"まさにその一言で表せる部屋だ。
すると聖女が少しドヤ顔で、
「大分驚いている様ですね。まあ、貴方の住んでいたあの部屋と比較すれば当然でしょうけど。そちらにお座り下さい。」
「今さらっと、俺のテリトリーを侮辱されたような、、、」
そう言いつつ、指定された席へと座る。座った途端、尻が嬉しい悲鳴を上げる。座面の柔らかさや、匂いからして自室の椅子と桁が低くても4つは違うだろう。
「聖女様すげぇ、、、。」
「ふふん。でしょう?この大聖堂の権利は全て私にあるのですよ。」
「そこ、肯定しちゃうんだ、、、、」
少しこの毒舌聖女の可愛らしさが垣間見えた。
今の内容からすると、この聖女はこの建物において一番トップの座に座っているのだろう。召喚されてから度々あった者たちの態度にも納得できる。
彼女は見た感じ14、15だ。瑛太は高校2年の17様なので、それ程歳は変わらない。
推測だが14,15くらいの少女が、大の大人に頭を下げさせているというのは末恐ろしい。
「えと、俺が何でここに呼ばれたとか色々知りたいんだが、、」
「勿論です。勝手に召喚しておいて経緯を説明しない程、私は愚者ではありません。」
「いや、さっきからの君の態度だと全然それあり得るんだけど、、、、。」
そう聖女は言い、ゆっくりと話し始めた。
「まず、私の紹介からです。先程も申し上げましたが、私はテレシア・ド・ヴァン・ノイヴァシュタインです。名前がテレシア、家名がノイヴァシュタインで、歳は今年で15。ご存知かと思いますが、身分はこのゲルニクル帝国の大聖女、すなわち帝国のNo.2です。」
冷や汗が溢れ出る。
瑛太も薄々身分は高い方だと気づいていたが、まさか帝国二番目だったとは。
聖女は、可愛らしく誇らしげに語っているが、その内容はスケールが大きすぎる。
今までの瑛太の非礼な態度を振り返ると、よろしくないなどと言うレベルでは無く、彼が言っていた通り万死に値するのだろう。
「俺ってもしかしてこのまま牢獄行き、、、?勘弁してくれって、、、。」
「大丈夫ですよ。まあ、聖女に対する無礼は通常でしたら牢獄行き超えて死刑でしょうけど。私は寛大な心を持っているので。」
どうやら牢獄行きは免れたらしい。
「えと、聖女様って魔法とか使えるんですか?」
「はい。勿論。一定以上の魔法が使えないと聖女になる事など不可能です。私は神聖系魔法を主に使っていますが、回復魔法も使えるんです。」
「ファンタジー世界すげぇ、、、!」
異世界に来たらやはり魔法というのはお約束だ。
日本にいた時は魔法などは到底信じていなかった。
やはり"魔法"というのは男のロマンなのだろうか。テンションが上がってくる。
「魔法を見せてもらうという事は、、、?」
「この空間で私が魔力を使うと神聖濃度が高すぎて、多分瑛太さん気絶するので、精霊を出しましょう。
ーしーちゃん。おいで。」
テレシアがそう短く唱えると彼女の首元にある、透明の宝石らしき結晶から淡い光か溢れ出る。
その光は、人工的では決して表せない神秘的さがあった。
見るもの全てを魅了する景色。
このような光景は今までで一度も見た事がない。
目の前の景色が自然的で美し過ぎて、息を忘れてしまうほどだ。
そして彼女の周りを淡い光が薄くなり、やがて消えると瑛太とテレシアのちょうど真ん中に、先程の淡い光と類似した光が現れた。先程の淡さとは全く異なり、はっきり鮮明とした印象がある。
「いや、やばい、今人生の中で一番興奮してるかも。
この光ってるやつが"しーちゃん"ってやつか?」
「はい。御名答です。正式名称はシアネクト。十本の指に数えられる大精霊なんです。
今は私と無期限契約してますが、とっても強いんです。残念ながら私以外の方とお話はできないんですが、光の濃淡とか、照り方で感情が分かるんです。ねっ、しーちゃん。」
テレシアがそう光に向かって笑い、語りかけると、まるで嬉しさを表すかのように点滅を繰り返している。
あの毒舌少女がこんなにも慕っているのだから、おそらく付き合いは長いのだろう。何だか、微笑ましくてほほが緩む。
しかし、そんなことをのうのうと考えていると体に激しくほとばしる衝撃が瑛太を襲った。
「うぉわ!痛ぇ!!何だよ、コレ!まて、痛い!」
「あ、これしーちゃんの魔法です。怒っちゃいましたね、、、。
えっと、翻訳しますね"喋り方と座り方に気品がない。あと鼻毛出てるし、足短いし、鼻低い"らしいです。」
「自分で言うのもああだけどさ!俺ってホントこの世界歓迎されてないよな、、、。
あと後半らへんどうにも出来ない部分入ってるんだが!」
「あ、しーちゃん結晶の中に戻ってしまいました、、、。
しーちゃんは下品な方を凄く嫌うんです。」
「いや、無視?!家にゴーホムするほど俺下品だった?!」
「はい。」
「即答かよ?!辛い!!」
心に深い亀裂が入った。しかし、悶る瑛太を苦笑しながら見つめていたテレシアが急に真剣な顔つきになる。
あまりに変わりように心配になってくる。
「どうしたんだ、急に、、、?真顔になって、、、。」
「今から大切な事を話さなければいけません。
ーそれは、あなたを召喚した理由です。」
テレシアの口から出てきたのは、最も重要な事。
瑛太が忘れかけてた事だ。
テレシアはほんの少しの悔悟と、決意の黄金の瞳で瑛太をまっすぐと見据えていた。