第ハ十五話 現実感という違和感
あれから一時間程歩き、何度かの戦闘を行った。
ワイルドディアーの他にもコカトリスやシルバーボアなどもおり、中には俺の知らない魔物もいた。
そしてどの魔物もやはり倒しても消えない。
とりあえず全てアイテムボックスに詰め込んで、先へ先へと進んでいる。
魔物が出ることを除けば、やはり空気がおいしく鳥の囀りも心地よい森でしかないが・・
「・・いやいや、おかしいじゃん!」
「ゆーちゃんどうしたの?」
急に叫んだ俺にびっくりしたみーちゃんが、頭の上からそう尋ねてきた。
俺は地面を見てみる。相変わらず轍のようなものがある。
他にはたまにアリが歩いてるのを見かけるぐらいだが・・
「なんで鳥やアリがいるんだ? ダンジョンには決まった魔物しか出ないはずだ。鳥どころか虫の一匹も見たことはないぞ」
そう、魔物以外の生き物がいるのがおかしいんだ。
もちろん大精霊様かそういう場所を準備したというのならそれまでだが、一階の草原エリアにだっていなかったのに何故ここだけ用意したのかわからない。
もしこれで魔物がいなかったら、ダンジョン外の森を歩いてるのと変わらない。
このフロアは何と言うか『現実感』がありすぎるんだ。
「・・その疑問にはあそこに着いた後で説明してあげるわ」
「あそこ?」
ダイフクに乗ったちーちゃんの指差す先を見てみる。
今歩いてる道、そのはるか前方に木の柵のようなものが見えた。
さらに柵の側には人らしきものが・・
「人型の魔物か⁉」
「あれはまものじゃないの」
魔物じゃない? じゃあ何なんだ?
疑問は深まるばかりでさっさと事実を知りたいが、二人共あそこに着くまで話す気はないようだ。
とりあえず魔物ではないと言うので、足早に道を進んでいく。
柵のような所までおよそ二十mぐらいの場所まで来ると、その人影もはっきり見えた。
茶色い髪の髭面のおっさんだ。
腰には剣を下げてレザーアーマーのようなものを装着している。冒険者だろうか?
「えーと、こんにちは?」
俺はその人物に近づきながら片手を挙げて挨拶をする。
「おう、よく来たな」
髭面のおっさんはこちらは注意深く見ながら、挨拶に答えてくれた。
近づいてみると柵はやはり柵で、左右は森の奥の方まで囲っているように見える。
道になってる部分だけ木製の門になっており、内部に入ることができるようだ。
「え⁉ そちらのお嬢ちゃん達はまさか聖霊様か?」
俺達がおっさんのそばまで行くと、おっさんは目を見開いてみーちゃんとちーちゃんを見る。
例のPVを見た人だろうか?
「みずのせいれいのみーちゃんなの」
「・・地の精霊のちーちゃんよ」
ちみっこ二人がそう自己紹介をすると、おっさんはいきなり頭を深々と下げた。
「ようこそいらっしゃいました精霊様。つまらない村ですが、どうかゆっくりしていってください」
村? なんでそんなものがある?
「兄ちゃんは聖霊様を二人も連れてるなんて何者だい?」
「いやただの冒険者ですよ?」
「ただの冒険者が聖霊様連れているなんて初めて聞いたぞ。とりあえず身分証は見せてくれ」
身分証? ギルドカードでいいのだろうか?
俺はアイテムボックスから財布を取り出し、ギルドカードを抜いておっさんに渡した。
「これでいいのか?」
「うん? 何だこれ?」
何だも何も、あんたも冒険者なら分かるだろう?
だがおっさんはギルドカードをじーっと見たり、日に透かしてみたりと、わけのわからない行動する。
「兄ちゃんは冒険者なんだろう? ギルドカード持ってないのか?」
「いや、だからそれがギルドカードじゃねえか」
「何言ってるんだ、こんなもの見た事ないぞ」
そんな馬鹿な話はあるか。
記載されてる文字は国ごとの文字になるが、それ以外は全て各国共通だ。
「ゆーちゃん、そのかーどはここじゃつかえないの」
「・・ゆーちゃんはこっちのギルドカードは持ってないから身分証は無いわ」
え、何こっちのって? どこでもカードは同じだろう。
おっさんを見るとだいぶ困った顔をしている。
「うーむ・・身分証が無いのはなぁ。だが聖霊様がいるし・・」
「そもそもここはどこなんだ? なんでこんなところに村があるんだ?」
「は? 兄ちゃん道に迷ってここにでも来たのか?」
いや一本道だったから特に迷ってはいないのだが・・
「まあ聖霊様もいるし、兄ちゃんは悪い人間じゃないんだろう。村に入れてやるから、中にある冒険者ギルドでちゃんとしたカード作ってもらえよ」
「こんなところにギルドがあるのか?」
「まあ小さいギルドだがな。最低限の業務はやってるよ」
小さいギルドなんてあるのか?
どこのダンジョンだって貴重なんだから、ギルドハウスはそれなりにデカいものばかりのはずだが?
なんだろうか。会話ができてるのに話が全く噛み合ってない気がする。
そしておっさんは門を開けながら、衝撃的な一言を言った。
「ようこそエルフの村へ!」
俺の頭は事態に付いて行けずに真っ白になった。




