第八十一話 マッチョ狂乱
「ということで二人とも玉を狙って行くぞ。防衛に徹するしかなさそうだ」
「わかったの!」
「・・仕方ないわね」
癪なことだが仕方ない。だが問題がある。
まずは的となる玉が小さいこと。
そしてそれがマッチョのキックによって高速で飛んでくることだ。
「できるだけ蹴られる前に玉に攻撃を当てて遠くへ弾き飛ばすんだ」
コートの外へ、出来れば観客席ぐらいまで飛ばしたい。
可能な限り時間を稼いで攻撃される回数を減らす。
基本的にはこれしかないだろう。
ピッ!
ホイッスルの音と共に再びトロッコが動き出した。
それと同時に、俺達は目につくボウリング玉に攻撃を当てていく。
攻撃はうまいことボウリング玉に当たってくれるが、重さがあるせいであまり飛んで行ってはくれない。
と言うかこのボウリング玉、マッチョが蹴っても、トロッコに当たっても、攻撃を当てても全然壊れない。
不壊属性にでもなっているのだろうか?
「だいぶルール無用になってきたな」
マッチョ共はパスに見せかけて、スローインに見せかけて、シュートに見せかけて俺たちを狙ってくる。
もはやサッカーではなく俺達を狙うゲームになっている。
誰一人ゴールに向かって蹴っていない。
そのせいで徐々にトロッコの体力が削られていく。
ゲージは残り1/3くらいしかない。
レールのほうを見てみるとコート内をぐねぐねと蛇行しているので分かりにくいが、こちらも残り1/3ぐらいだろうか。
持ちこたえられるか心配だが、それ以上にこのスタジアムが終わった後もコースが続くのであればかなりマズい。
「あーもう、ガンガン蹴ってくるんじゃねえ! そもそもボウリング玉は投げるもんだ!」
俺がイラついてそう叫ぶと、ピタッとマッチョたちの動きが止まる。
そして一斉に『なるほど』といったリアクションを取ると・・ボウリング玉を手に持ち始めた。
「え、何?」
そして一斉にボウリング玉を投げてきた・・オーバーハンドで。
「投げ方が違げぇぇよ!」
「ゆーちゃん、なんでよけいなことをいったの!」
俺のせいか⁉
審判も何を言わないし、もはやサッカーのていでもない。
さらに蹴るよりも投げる方が命中率が上がっているおかげで厄介な事この上ない。
ただ必死に迎撃を続けていると、観客席の方で異変が起き始めた。
観客のはぐれマッチョ達が喧嘩を始めたり、コート内に物を投げつけたりしている。
サッカーでなくなったことに対する怒りか、サポーター同士の対立か分からないが、このフーリガン共のおかげで場はさらにカオスになってきた。
コート内に投げ込まれる物もその数を増していく。
問題はその投げ込まれた物でさえ、トロッコに当たるとダメージになることだ。
「・・何なのかしらこの状況は」
「マッチョにサッカーをやらせるのが間違ってるんだ。プロレスでもやらせた方がまだ様になる」
ボウリング玉に限らず様々なものが飛び交う中、トロッコはようやくコートを抜け出した。
ピッピッピッピピー!
同時に試合終了のホイッスルも鳴る。
選手のマッチョ共は玉を投げるのをやめ、敵味方同士で抱き合ったりして健闘を称えあっている。
そしてゆっくりとスタジアムを後にしようとするこちらに向かって、ニカッと全員でポージングをしてきた。
うん。誰かロケランをくれ。
スタジアムを抜けるとトロッコは直進して行く。
三人共もはや疲労困憊だ。
ゲームだと思ってさすがに舐めていた。
「さすがにそろそろゴールにたどり着きそうだな」
「もうつかれたの」
「・・お腹いっぱいね」
身の安全が保障されているとはいえ、最後のスタジアムではかなり緊迫した。
高速で飛んでくるボウリング玉とか恐怖でしかない。
その上、右を向いても左を向いてもマッチョしかいねえ。スタンドさえマッチョだ。
これもし野球場の方を選んでたらどうなったんだろう?
向こうもマッチョなのだろうか?
「ゆーちゃん、どうくつなの!」
「どうやらゴールで間違いなさそうだな」
直進していたレールはそのまま洞窟に向かって伸びている。
トロッコの残りの体力ゲージは一割ぐらいしかなかった。かなりギリギリだ。
ダンジョンなのだし簡単にクリアできるのはどうかと思うが、これはこれでハードだった。
トロッコは洞窟に突入し十秒ほど暗闇を進むと、最初にトロッコに乗った広場に似たような場所に出た。
そしてゆっくりとトロッコは停車する。
「無事に到着できたな」
俺は先に降りて、みーちゃんとちーちゃんを抱えて降ろしてあげる。
トロッコの正面には地下三階への階段があり、その脇には光を放つ石碑があった。
俺たちは三人で石碑を覗き込む。
『クリアおめでとうございます。
今回のクリアランクは『E』となります。
景品はポーションです。』
あの残体力ではそんなものなんだろう。
ポーションとはいえ一応五万円はするものだ。
料理をお供えしてのリターンとしては充分すぎる。
『なお初回特典として、スキルブックをプレゼントします。
お疲れ様でした。』
なぬ⁉
読み終わると同時に目の前に宝箱が出現する。
箱を開けるとそこには確かにポーションとスキルブックが入っていた。
「初回特典が豪華すぎるな」
アイテムボックスは破格だとしても、基本どんなスキルでもハズレということはない。
持ってることでデメリットがあることなどまず無いからだ。
そして今回のスキルは・・
『貫通ダメージの書』
と書かれていた。攻撃スキルなのだろうか?
とりあえず覚えるべき本を開く。
前回同様、数秒でルーン文字と魔法陣が頭の中に入ってきた。
「・・どんなスキルなの?」
ちーちゃんの言葉に俺は頭に入ってきたこのスキルの説明をする。
「相手に物理攻撃と魔法攻撃両方で防御無視したダメージを与えられるそうだ」
「なんかじみなの」
確かに地味だ。
欲を言えば攻撃スキルが欲しかったが、だがこのスキルはおそらくいいものだ。




