第七十九話 ひと休み
線路の先に駅の明かりが見えてきた時には、トロッコの体力ゲージは半分ぐらいまでに落ちていた。
もう暗いところは嫌です。
「早く地上に出て陽の光を浴びたい。まぁどのみちダンジョン内だけど」
「・・気分の問題よね。私も外の方がいいわ」
未だに散発的に襲いかかってくるゾンビたちを倒しながら、二人で愚痴を言い合う。
「みーちゃんはみんなでたたかえてたのしいの!」
一人だけポジティブな子がいる。もちろん楽しいは楽しいのだ。
まず死ぬ危険性のないゲームみたいなものだが、それはそれだ。
「さて、駅に到着だ」
「・・レールはホームに上がって階段へ続いてるわね」
「よかった。外に出れそうだな」
ちーちゃんの言った通り、線路上に降りた時と同様にトロッコのレールは線路から無理矢理ホームに上がり、さらに階段を上っていく造りになってる。
謎動力で動いているトロッコなので、上り坂でも問題なく走っていくだろう。
「ゆーちゃん、なにかかいてあるの」
「ん? 立て看板か」
ホームのベンチのあたりに立て看板があり何か文字が書いてあるようだが、目がまだ慣れなくて読めない。
老眼ではない。
「・・休憩所って書いてあるわ」
「マジか! 助かるな」
空気を察したちーちゃんが代わりに読んでくれた。
老眼じゃないよ?
なにはともあれ、このタイミングで休めるのは嬉しい。
「みーちゃん、おれんじじゅーすがのみたいの」
「・・私も喉が渇いたわ」
「ああ、しっかりと休んでいこう」
トロッコは減速しつつ、ホームのベンチの横で停止した。
先に俺が降りてから、一人ずつ抱えてトロッコから降ろしてあげる。
三人でベンチに座り、アイテムボックスからオレンジジュースを三本取り出す。俺も甘いのが飲みたかったんだ。
「くあー! のどにしみるぜなの」
「どこの飲み屋で覚えたんだそれ?」
みーちゃんはよく人の台詞を言う事がある。
居酒屋に連れて行くのは悪影響があるかな?
健やかに成長して欲しいものだ。
「・・後どれくらいあるのかしら?」
「休憩所があるって事は、後半分かこの後ボスがいるかじゃないか?」
どちらにしてもトロッコの体力ゲージが心配だ。
ゲームオーバーになってもやり直せばいいが、せっかくだしクリアしたい。
三階にも行けるようにしたいしな。
「ただ、この階はあっという間に終わりそうだな」
「・・そうね。まだ二十分くらいかしら? 後半分だとしても、一時間かからない計算になるわね」
しかもずっとトロッコに乗ってるだけ。
俺たちは移動せずに攻撃だけしてれば、勝手に進んでくれる。
なんて素敵なフロアだろうか。
ジリリリリリ!
十分程休んでいると、懐かしい発車ベルが鳴り響いた。
どうやら休憩は終わりのようだ。
「二人共、準備はいいか?」
「ばっちりなの!」
「・・充分休めたわ」
俺は再び二人をトロッコに乗せて、俺も乗り込んだ。
・・これ、無視して乗らなかったらどうなるんだろう?
さすがに怖いので実験する気は無いが。
トロッコはゆっくり動き出し、ホームの階段を登っていく。
改札を通る時、駅員室の中に何かいるのが見えた。
「敵か!・・敵か?」
部屋の中にははぐれマッチョがいた。
ゾンビ状態でもなく、ただコチラに向かってポージングを決めている。
「えっと・・ナイスバルク!」
俺がそう掛け声を飛ばすと、表情は無い筈なのに『ニカッ』とした気がした。
そしてトロッコは通り過ぎた。
「たおさなくてよかったの?」
「むしろ倒してよかったのかな?」
マッチョ共の生態はよく分からん。
他の魔物と違い、あいつらには意思が有るようにも思える。
気のせいだろうけど。
再びトロッコが街中を疾走する。
襲い来るゾンビたちを各々倒していると、急に空中に文字が浮かんだ。
『ルート選択・サッカー場or野球場』
「選択肢を出されても、違いが分からん!」
「・・みーちゃん、決めちゃいなさい」
「じゃあさっかーじょうなの!」
みーちゃんがそう言うとサッカー場が選択され、しばらくすると分岐点が現れた。
トロッコはその分岐点を右にカーブする。サッカー場に向かうのであろう。
「みーちゃん、どうしてサッカー場を選んだんだ?」
「ぼーるをけるほうがすきだからなの」
そうですか。深い意味は無いんだね。
二回程カーブを切ったあと、目的のサッカー場が見えてきた。
屋根が無いタイプのスタジアムなのか、歓声が聞こえてきた。
歓声?
「・・魔物がたくさん居るのかしら?」
「気合いを入れてかないとな」
「がんばるの!」
トロッコは客席の入り口ではなく、側面のフィールドの入り口に向かっている。
たくさんのゾンビと戦うのか、またはボスがいるのか。
いずれにせよ、そろそろクライマックスなのだろう。
スタジアム側面のゲートが開き、トロッコを迎え入れる。
ちょうどゴールネットの裏側に出たようだ。
そしてフィールドで俺たちが見たものは、おそらくサッカーだった。
おそらくと言うのは、選手がみんなシロタイツ・マッチョだったからだ。
しかもボールはボウリングの玉を使っている。
もはや嫌な予感しかしない。




