第七十八話 荒廃した街
洞窟の長いトンネルを抜けると雪国であった――んな事はない。
真っ暗な通路を走ること十秒ほど。
抜けた先で見たものは荒廃した街並みだった。
半壊した建物。それに絡みつく植物。ボロボロのアスファルト。電気が来てないのか信号も全てついていない。
平和を取り戻そうとか書いてあったけど、もう終わってねぇかこれ?
「すごいくおりてぃーなの!」
「・・ハリウッドも真っ青ね」
そりゃCGでもなくこんなもの実物で作られたら、真っ青になるだろうよ。
何しろ街一つだ。恐ろしいほどの金がかかるだろう。
そんな街中をトロッコは時速20キロほどで走行している。
すると物陰から魔物たちが現れる。
「こいつらは『ファースト』に出てくる魔物だな・・いや何かおかしい?」
『ファースト』で今まで戦ってきた魔物たち。
飽きるほど狩り続けたランニングバードや、ちみっこ達が戦ったレッサーデーモンなども混じっている。
だがちょっと違和感がある。
「あれはまさかゾンビになってるのか?」
よく目を凝らして見るとどの魔物も体が所々腐っているようだ。
目玉がなかったり腕がなかったり、頭がないものまでいる。
「しかも速い⁉」
そんなゾンビ状態のくせに、このトロッコに追いついてくるほどのスピードで襲いかかってくる。
機敏な動きのゾンビって気持ち悪すぎる・・
「二人共、じゃんじゃん倒しちゃえ!」
「わかったの! おぶつはしょうどくなの!」
「・・ゾンビなんて土に還してやるわ」
そう言って二人とも魔法をバンバン放っていく。
だがみーちゃん、消毒しようとしたモヒカンは火を使ってたはずだが?
「スラッシュショット!」
二人に負けず俺も手刀を放ち、迫り来る魔物たちをなぎ倒していく。
トロッコに攻撃をさせないため、距離が近い奴から順に攻撃する。
ガンッ!
不意にトロッコに衝撃が走った。
そばに魔物はいなかった。ということは遠距離からの攻撃が当たったのだろうか?
魔物たちを攻撃しながら周囲を見回すと、離れた場所でスローイングモンキーが振りかぶってる姿が見えた。
「あいつか!」
このタイミングでは投げ終わる前に倒すのは無理だ。
あいつが投げた物を迎撃するしかない。
ゾンビ化しているのに綺麗なフォームでスローイングモンキーはこちらに投げつけてきた。
福助人形を。
「なんでそのチョイス⁉」
それでもトロッコに当たったらダメージを喰らうのだろう。
人形を撃ち落とし、そのままスローイングモンキーもスラッシュで打ち倒した。
「遠距離攻撃してくる奴がいたから気を付けて!」
「あじなまねをするの!」
「・・接近してくる奴以外も注意しなきゃいけないわね」
二人に注意を促しながら、再び接近してくる魔物を倒していく。
トロッコは広い道路からレールに従って大きな公園に入っていく。
木々が多く魔物がどこに潜んでいるか分かりにくい。
「どこから・・そこかっ!」
バサバサっと、枝葉の中からダーツバードがくちばしをこちらに向けて突撃してきたので迎撃する。
さらにそれを機に、他の木々からもダーツバード達が一斉に飛び出してくる。
「とりならおとなしく、やきとりにでもなってるの!」
「・・私は卵も使って親子丼の方がいいわ」
みーちゃんは水を散弾のようにして広範囲に攻撃している。
さらにちーちゃんは、みーちゃんの撃ち漏らしを石弾で叩き落として行く。いいコンビネーションだ。
その時、キラッと木々の奥で一瞬何かが光った気がした。
ギンッ!
反射的にそちらに向かってスラッシュショットを撃つと、飛んできた何かにぶつかって叩き落とした。
「三又の槍――デーモンか!」
それはレッサーデーモンの持つ三又の槍だった。
目を凝らすと木々の奥に全身真っ黒なデーモンがいるのが見える。
そこまで距離はないようだが、薄暗い木々の奥のせいで姿が見えにくい。
とはいえ槍を投げてしまえばレッサーデーモンに遠距離攻撃はない。こいつはほっといて他のレッサーデーモンがいないか注意しよう。
「ゆーちゃん、こうえんがおわりそうなの!」
みーちゃんの言葉に前方を見ると、レールが公園の外へ向かって伸びていた。
とりあえず視界の悪い公園は終わりのようだ。
しかしこの後、さらに視界の悪い場所に向かうことになる。
「やっと公園は終わりか。また街の方に――いや待てコラ」
公園から出たレールはまた街中へ向かうかと思いきや、近くにあった下り階段に続いている。
階段の屋根の上には『M』のマーク。
「・・また面倒くさそうな場所ね」
地下鉄の入り口だ。
ホームだけ走って地上に出てくれるならいいかもしれないが、線路上を走られたら厄介極まりない。
ホームへ向かう間にも魔物が襲ってくる。
祈りながらもその魔物たちを倒していくが、ホームに着くと無情にもトロッコのレールは線路の方に合流していた。
「こういう時こそ明かりの魔法とかが使えれば便利なんだがな」
「みーちゃんはつかえないの」
「・・私も無理ね」
一応俺の火魔法ならある程度照らせるかもしれないが、あくまで攻撃用の魔法なので空間に留めておくことは出来ない。
線路内の壁には蛍光灯が設置されていて、外の信号などと違いこちらは光っているので真っ暗ではない。
一応無いよりましかなと思い、アイテムボックスから懐中電灯を取り出す。とはいえ一本しかないのでとりあえずちーちゃんに渡す。
「ちーちゃんが周りを照らして、俺とみーちゃんでとりあえず攻撃しよう。みーちゃんが疲れたらちーちゃんと交代ね」
そう言うや否や、暗がりからゾンビ達が湧いてきた。
目を凝らしながら近づいてくる奴を、たまにちーちゃんに照らされたゾンビどもを次々と倒していく。




