第七話 掛け替えのない思い出
あれだけ寝たのにもう眠い・・
本日の最終投稿です。
なんか『最終』って言葉を付けるとかっこよくなる言葉多い気がするw
とはいえ、入らないという選択肢はない。
あるのかどうか知らないがナイトメアモードでもない限り、地下一階で凶悪なモンスターが出てくるとも思えない。STOP初見殺し。
扉を開けて中に入ってみる。
するとさっそくとんでもない事に気付く。
通路の壁一面、天井までが青白いのだ。
「これ全部・・ミスリル鉱石か!?」
ミスリル鉱石の特徴である青白さ。その色に通路の壁、天井が塗り潰されている。
神秘的な美しさではあるが、その価値を考えるとドン引きだ。
この壁を採掘して売り払い続けるだけで億万長者だ。
こんなのが公になれば、下手すれば世界のパワーバランスが崩れる。
他国が戦争を仕掛けてくるかもしれないレベルだ。
この時点でここの事を誰にも言えなくなってしまった。墓まで持っていくしかない。
とりあえず、げんなりしながら先に進む。
マッピングしながら、5分ほど歩いたところで魔物を見つけた。
はぐれマッチョ。レアモンスターだ。
見た目はボスのシロタイツに対して黒。ボスの亜種みたいなものだ。
『ファースト』地下5階以降もレアモンスターにはボスに似た外見をした魔物が出てくる。
こいつは魔法と飛び道具ではダメージを与えられない。
冒険者に気付くと、様々なポージングをして気分を悪くさせてくる。
そして逃げる。逃げ足は小学生が走るくらいの速さ。
冒険者は追いかけて倒そうとするが、途中魔物などに邪魔されてなかなか追いつけない。
討伐成功率は一割程度だが、倒せれば膨大な経験値が手に入る。
ただし、その討伐成功率と出現頻度の低さから年間数体しか討伐されたと聞かない。
「ここで会ったが3年目だ。あの時は倒せなかったが今回は!」
しつこくポージングしてくるマッチョに対して相棒の刀を抜き、一気に肉薄する。
逃げ出すマッチョ。
二百mほど走ったところで追いつきそうになる。
普段ならほかの魔物に遭遇して邪魔されるのだが、今回は行けそうだ・・と思った瞬間、脇道から別の魔物が----
「あ?」
はぐれマッチョが現れた。
どんな確率だ!?
そして運がいいのか悪いのか、そいつは俺の隙をついて――
ポージングして逃げ出した。
「こいつらぁぁぁぁ!」
二体目のマッチョは現れた脇道を引き返すように逃げたので、とりあえず追いかけていたマッチョを倒すべく、奴に追いすがる。
さらに五十mほど走ったところで追いつき、逃げ続けるマッチョの背面を袈裟斬りにした。
ダメージを喰らいひるんだマッチョだったが、再び逃げようとしたので、すかさず縦真っ二つに切り裂いた。
ボスのシロタイツもこいつも声を発しない。そのまま絶命して消滅していく。
同時に経験値が流れ込んでくるのを感じた。
ステータスウインドを開いてみる。レベル16・・久しぶりのレベルアップだ。
こんな高揚感もしばらくぶりだ。俺は今冒険者をしていた。この気持ちは冒険者でしか味わえない。
お金を稼ぐことが冒険者でないわけではないが、それは他の職業でもできる。
やはり敵と戦って強くなる。これこそ冒険者の醍醐味ではないだろうか。
「俺は根っからの冒険者なのかもな」
思わず呟いた独り言に、自嘲してしまう。
さっきまで引退を考えていたのにこれだ。レンに笑われても仕方ない。
だが、懐かしい思い出もよみがえった。
冒険者になりたての頃、実技講習ではなく初めて一人で魔物を倒した時の気持ち。
冒険者であることを実感できるあの気持ち。
刀の柄を握った右手を見る。最初は支給品のショートソードだった。
我武者羅に魔物を狩り続けて、ショートソードがダメになり始めたころ、蒲田にある武器工場の直売所に行き、冒険者らしくロングソードを買った。
ハズレだった。使えないわけではないが、日本人にはあまり向いていない武器だった。
店のおじいさんには刀を勧められていたが、まあラノベに影響された若気の至りだ。
それでも何とかロングソードを使いこなし魔物を倒してきたが、ある日のシロタイツとの戦いの最中に折れてしまった。
何とか折れた刃を回収して逃げ出し事なきを得たが、数年使ってきた相棒だ。その日はショックでヤケ酒を飲んだ
今の相棒の刀はそれ以来の相棒だ。ちなみに折れて回収したロングソードも家に飾ってある。
たくさんの敵と戦って素材を回収したり、ボスに何度も挑んでは逃げ続けたり、たまにレアな素材が手に入れば友人たちと祝杯をあげに行ったりと・・
どの思い出も冒険者だからこその思い出だ。
今がつらいからと逃げては、この十四年の冒険者生活を、いや子供の頃からの思いさえも裏切ることになる。
そんなのは死んでもごめんだ。右手の刀の柄を強く握りしめる。
「――っつ」
頬を伝う涙。いつの間にか泣いていたらしい。
懐かしい思い出にか、自分の不甲斐なさにか。
いろんな感情が渦巻いている。
ただ、それでもわかったことがある。
『俺は冒険者であり続けたい』
これだけはもはや揺るがない思いだ。
誰かが俺の肩を叩く。
いつの間にかそばにははぐれマッチョが3体来ていた。
そのうち俺の肩を叩いたマッチョがこっちを向いてくる。
『ようやく気付いたんだな』
のっぺらぼうな顔だが、そう言っている気がした。
そしてサムズアップをしてきた。
俺は袖で涙を拭いて、ニカッと笑い、
はぐれマッチョ狩りを始めた。