第七十話 居酒屋
結局ダンジョンの名前を決めた後は、三人でゴロゴロして一日を潰した。
みーちゃんとちーちゃんはレンタルで借りてきた『レディース魔法少女 深紅の響子』のDVDをずっと見ていた。
俺は一旦『ガーデン』の入り口でアイテム袋の性能を試していた。
その後は基本的には読書をして、お昼ごはんやおやつを作り、また読書をしてまったりと過ごした。
ちなみにおやつにはプリンを作ってみた。普通に美味しく出来たが、やはり買ってきた方が楽で早い。
二人は美味しいし俺が作った方が嬉しいと言ってくれたが、お菓子作りはやはり難しく手間もかかる。たまに作るぐらいで勘弁してください。
せっかくなので昼食とプリンは大精霊様にお供えしてきた。
床に置いた料理が消えると同時に一枚の紙が現れた。どうやら大精霊様からの手紙らしい。
『いつも食事をありがとう。二階以降も楽しいダンジョンだから早く来てね』
だそうだ。
一階はみーちゃんではないがお肉ダンジョンだった。
次は魚でも捕れるのだろうか? ブリが食べたいなあ。
「ゆーちゃん、そろそろでかけるの」
「そうだな。お腹もすいてきたしさっさと行こうか」
時刻は夕方六時。
夕飯は居酒屋でとることにしている。どうせ今日はレンのおごりになるだろう。
レンに連絡したところ、向こうは今居酒屋に着いたそうなので頃合いだ。
ポケットにしっかりとアイテム袋をしまい、車では行けないのでのんびり歩いて上野へ向かうことにした。
ちみっこ達はじゃんけんをして勝ったみーちゃんが肩車、ちーちゃんは俺と手をつないで歩くことになった。
住宅街を抜け徐々に繁華街へと入っていく。
上野は夜のお店も多いので一日中賑わった街だ。
夏場なのでまだ外は明るいが、そんなお店の人達が歩道にはたくさん立っている。
客引きは割と鬱陶しいのだか、ちみっこ二人を連れている俺にはさすがに声はかけてこない。
逆におねーさん達の視線が怖い。みーちゃんとちーちゃんに集中しているあの視線は桜木亭のおねーさん達と同じものだ。
俺は二人が拉致られないように足早に歩いていく。
当の二人はそんな街の雰囲気が珍しいのか、きょろきょろと見ている。おのぼりさんと言うか、単に子供らしいと言うか。
やがてお目当ての店に到着した。
「ここでごはんをたべるの?」
「ああ、居酒屋だけど食べ物もいろいろあるから、好きな物を頼むといいよ」
「・・甘い物もあるのかしら?」
「種類は多くないがあるぞ。食後にいっぱい食べときな」
この店はメニューが豊富で、女性向けな物も多い。二人も気に入ると思う。
とりあえずみーちゃんを降ろして、暖簾をくぐった。
「っらっしゃっせぇー!」
癖の強い挨拶を受けながら店に入りレンの姿を探してると、奥の座敷席からレンが顔を出した。
「みなさーん、こっちです」
手を振って俺たちを呼ぶレン。
座敷席を確保するとは気が利く。ちみっこである二人にはテーブルよりも座敷のほうがいいだろう。
座敷前まで行くと、そこにはレンとパーティメンバーが揃っていた。
「今日はフルメンバーか」
「はい、全員集まれました。ダンジョン以外では久しぶりです」
『豊さん、こんばんは』
「こんばんは。俺たちも混ぜてもらうな」
レンのパーティは全部で五人。男三人、女二人だ。
みんなレンと同世代で俺は面識がある。
フラワージュエル捜索の時も力を貸してくれたし、男性メンバーはこの前の爆裂花火大会にも参加している。
「そういえば、みんなはちーちゃんは始めてだったかな?」
「・・地の精霊のちーちゃんよ。よろしくお願いするわ」
「みーちゃんはみーちゃんなの! まめだいふくがすきなの!」
『か、かわいい・・』
女性陣が二人にメロメロになった。男性陣でさえほっこりしている。
とりあえず靴を脱いで座敷に上がり、レンの横を空けてくれたので三人で座った。
「ゆーさん、あと何人精霊を仲間にするんですか? そのうち男性冒険者に刺されて、女性冒険者にみーちゃん達を連れて行かれますよ?」
「割と笑えない冗談だ」
向かいに座る女性陣にさえ恐怖を感じる。
隙あらばこっちから二人を奪おうとしてる感がある。
「とりあえず注文だな。二人共好きな物をえらびな」
俺は二人の前にメニューを広げ、それを三人で覗き込む。
「ゆーちゃん、『ちぢみ』ってなあに?」
「韓国版のお好み焼きだ。ってか、お好み焼きを食べたことがないか。まあ美味しいものだよ」
「こんど『おこのみやき』もつくってなの」
「ああ、お好み焼きパーティでもやろう」
お好み焼きや餃子は無限に具材を変えられる。二人の好きに具材を入れた物を作ってあげよう。
ある程度決まったので、店員さんを呼び出す。
「みーちゃんは『ちぢみ』と『ジャガバター』と『シメのTKG』なの」
みーちゃんは炭水化物祭りだ。野菜がないぞ?
「・・私は『やみつきメンチカツ』と『ジューシー唐揚げ』と『天ぷら盛合せ』で」
こっちは揚げ物祭りになった。何で偏るんだ?
「俺は『ライス』と『土手煮』と『串焼き盛合せ』、あと『チョレギサラダ』を全部三人前のサイズでください」
普通は引くような注文だが、ここは冒険者がよく使う店なので、お姉さんは普通に注文を取ってくれる。
「あと生をピッチャーで。二人は飲み物は?」
「おれんじじゅーす!」
「・・りんごジュース」
お姉さんは俺たちの注文を取り終わり、厨房に向かった。
レン達は俺らの飲み物が来るまで待って乾杯してくれるようだ。
その間、皆しばし雑談を始めた。




