第六十九話 コンペ
翌日。
朝起きてとりあえずレンにアイテム袋を渡すために連絡をとることにした。
『はい、蓮です』
「ということで今日会えるか?」
『ゆーさん、いろいろ端折りすぎです。とりあえずせっかくなんで夜飲みに行きませんか? うちのメンバーも一緒に飲むんで』
「いいぞ」
ということで上野の居酒屋で飲むことになった。
今日は夜まで何をしようか?
とりあえず日課のトレーニングを済ませてから、朝飯を作ることにした。
「ゆーちゃん、きょうはなにをするの?」
朝食後みーちゃんは俺にそう尋ねてきた。
結局未だに何も決まってはいない。
「何にしようかね? 夜になったら出かけるけどそれまでがなぁ」
「・・食料の補充とか大丈夫?」
そう言われてアイテムボックスの中を確認するために地下のダンジョンの入り口まで来た。
しかし確認したところ、まだまだ食料には余裕がある。
所詮はちみっこ二人と大人一人だ。俺がよく食べるとはいえ、かなりたくさん仕込んであるからまだ問題はない。
スイーツなんかを作ってみてもいいかもしれないが、やはりこれに関しては手間もかかるし凝ったものは作れないので、店で買ってきた方がいいだろう。
リビングに戻り、この後の行動についての相談を続ける。
「ここのだんじょんでおにくをかるの」
「肉狩りか・・」
それでもいいのだが、前に狩ったお肉がまだまだ残っている。
まあここのダンジョンは一階が草原なので、ピクニックに行ってもいいが。
「・・ねえゆーちゃん。ここのダンジョンの名前を決めない?」
「名前?」
「・・『ここのダンジョン』とか『家のダンジョン』とかだとかわいそうじゃない」
かわいそうかどうかはともかく、名前を付けるのはいいかもしれない。
上野のダンジョンが『ファースト』と呼ばれるように、他のダンジョンにも名前や愛称があったりする。
ならばうちのダンジョンにも名前を付けるべきか。
「じゃあみんなでダンジョンの名前を考えようか」
ということで急遽『ダンジョンの名前を考えよう会議』が始まった。
すると早速みーちゃんが手を挙げた。
「おにくだんじょん」
「非常に生臭そうだ」
「・・かわいくないわ」
みーちゃんにとって、ここのダンジョンは肉屋と同等なのかな?
しかもお肉ダンジョンでは壁や床などが肉で出来てそうで気持ち悪い。
「じゃあちーちゃんはなにがいいの」
「・・そうね。ウサちゃんダンジョンとか?」
「ウサちゃんどっから出てきた?」
確かに可愛い名前かもしれないが、全くイメージがない。
ダンジョンの入り口にウサちゃんのシールでも貼るか?
「ちなみにわざわざ『ダンジョン』と付けなくてもいいんだぞ。上野のダンジョンだって『ファースト』なんだし」
「じゃあ、し○っかーひみつきち」
「このダンジョンてショ○カーがいるの⁉」
やだよ、家の中にショッ○ーの基地があるなんて。
真っ先に俺が改造されそうじゃん。
「・・クマさんのおうち」
「だからクマさんはどこから出てきたんだ?」
ちーちゃんは動物が好きなのかな?
でもさすがに名前がメルヘン過ぎる。
「ゆーちゃんはなにかないの?」
「そうだな・・虎の○」
「・・昨日のゆーちゃんを見てるから、レスラーになりそうで怖いわ」
確かに、そっち側に引っ張られてる気はする。
自分では筋肉キャラのつもりは無かったんだが・・
「なかなか難しいな。他の人に相談もできないし」
「やっぱりおにくだんじょ――」
「・・それだけは無いわよ」
さて、どうしたものか?
他のダンジョンを参考にしてみると・・
「『ファースト』『ベース』『ファクトリー』『桃源郷』・・横文字が多めか?」
「みーとだんじょんなの」
「そろそろ肉から離れようか。ちーちゃんに怒られるぞ」
肉推しするみーちゃんをちーちゃんが睨んでいる。
流石に不穏な空気を察したか、みーちゃんが両手で口を塞いでだんまり状態になった。
「・・エデンとか?」
「それはもう使われてるな。海外のダンジョンはともかく、国内のダンジョンと被りたくない」
どうせならうちらしい名前にしたいし・・
『ホーム』辺でいいかな?
そう思って提案しようとしたら、みーちゃんが黙ったまま手を挙げていた。
「お肉系以外なら発言をどうぞ」
「・・またお肉だったら今日の豆大福抜きよ」
「こんどはちがうの」
本当に別の名前が閃いたのだろうか?
とりあえず聞いてみることにした。
「がーでんがいいの。ゆーちゃんのいえにあるし、いっかいもそうげんだから、おにわみたいなの」
なるほど、悪くないな。
他のダンジョンとも被ってないし、ここのダンジョンに合った名前だ。
「いいんじゃないか。ちーちゃんはどうだ?」
「・・みーちゃんにしては悪くないわ。それでいいと思う」
「やったの!」
名称コンペはみーちゃんのが採用される事になった。
レベルの低いコンペだったが・・
「じゃあこれからは『ガーデン』と言う事で」
「・・わかったわ」
「りょうかいなの!」
食後のまったりタイムは三人での楽しいお喋りタイムになったのだった。
「・・ほんとうはおにくだんじょんがよかったの」
みーちゃんの最後のつぶやきは聞かなかったことにした。




