第六十八話 講師
「お前はバカだから高校をやり直せと?」
「何でそうなるんだい?」
高倉さんが白い目で見てきた。
おや、どうやらディスられたわけではないようだ。
「夏休み明けに行われる進路説明会で、冒険者代表としていろいろ話をしてきてほしいんだ」
「あー、あれか。確かにそんなのもありましたね」
今高倉さんが言ったように、学校によって時期は違うが進路説明会の時に冒険者という仕事についてのあれこれを話す役割がある。
もちろん俺の高校時代にも冒険者が来たので、周りの連中は退屈そうにしていたが俺はしっかりと話を聞いていた。
高校二年生を対象としており、冒険者以外にもいくつかの職業の人が呼ばれて話をする。
なので全ての高校に呼ばれるわけではないが、お呼びがかかれば可能な限り冒険者を派遣して冒険者人口を増やす努力をしている。
「本城君にも三つくらいの学校で講師をしてきてほしい」
「わかりました。上手くいくかどうかは分かりませんけど、やってみましょう」
「詳しい日程が決まったら連絡するよ。一応九月上旬だと思っといてくれ」
なら連泊でダンジョンにこもるのはやめておこう。長くても一泊ぐらいにしておいて、連絡がつくようにしておかなければならない。
学生の頃憧れの目で壇上に立つ冒険者を見ていたが、今度は俺が壇上に立つとは感慨深いものがある。
「みーちゃんもはなすの!」
「・・私もお話ししてみたいわ」
不意にちみっこ達がそんなことを言い出した。
この二人は何を話すつもりだろう?
「別にいいと思うよ。精霊の話が聞けるなんて貴重なことだろうし」
「ぎるます、はなしがわかるの!」
「・・ありがとう」
高倉さんの一声で二人の出演も決まったようだ。
「話す内容は何でもいいんですよね?」
「内容については任せるよ。ただもちろん冒険者の事についてにしてね」
話を脱線させて趣味の話とかしないように気をつけよう。
逆に間違っても家のダンジョンの話はしないようにしなければ・・
「わかりました。じゃあ今日はこれで」
「お疲れ様。ゆっくり休んでね」
そして俺達は高倉さんの部屋を辞した。
部屋の外では先に退出したみんなが待っていてくれた。
「何かあったのか?」
歩きながら龍二さんがそう聞いてきた。
他のメンバーも気になっているようだ。
「いえ、進路説明会での講師の話です。やってくれないかと」
「懐かしいな。学生の頃を思い出します」
甲斐さんやリユニオンのメンバーが懐かしがる。
若い彼らにはまだちょっと前ぐらいのことなのだろう。
「日本にはそんなイベントがあるんですね。私たちの学校にありませんでした」
「こう言っちゃなんだけど、日本は狭い国の中に多くのダンジョンがあるからダンジョン先進国とも言える。いろいろとやってるのさ」
やはりアメリカと日本ではいろいろ違うのだろう。
割と日本全土で冒険者というものが一般的になっているが、広いアメリカではダンジョンのある都市でしか冒険者はいないのだろう。
「それで講師はやるのか?」
「ええ、引き受けました」
「みーちゃんたちもはなすの!」
ちみっこ達が家のダンジョン関連について話さないように注意しておかなきゃだな。
ダンジョンの成り立ちなども俺だけにしか話さないとは言っていたが、念のため釘を刺しておこう。
「ちなみに龍二さんは講師をやったことあるんですか?」
「何度かあるぞ。俺は基本的に冒険者にならないようにと遠回しに説明することにしてる」
「何故に?」
冒険者になってほしいから講師に行くのに、それでは本末転倒だ。
人選を間違えてるだろこれ・・
「原因の一部はお前だよ」
「え?」
「夢を持って冒険者になって14年間燻り続けたお前を見てきたんだ。どうして前途ある若者に勧めることができるよ?」
・・ぐうの音も出ない。
確かに俺もこれから新しく冒険者になる若者たちに対して、俺のようになれなんて口が裂けても言えない。
夢と意地を張った代償が、この14年間だったんだ。
現状はもちろん文句のつけようのない状態だが、家にダンジョンが出来なかったら、後悔と無念の中冒険者を辞めていただろう。
「もちろん今ではそんなこと思っていないがな。お前は自分を貫き通して、今や新たなるリーダーだ」
「紙一重でしたけどね」
「だがお前のことを抜きにしても、安定した生活ではないし命の危険だって十分にある。体力的に考えても一般的な定年まで働ける奴なんてごく一部だろうよ」
龍二さんの言うとおりだ。
冒険者になる奴は多いかもしれないが、辞める奴だってかなり多い。
理想と現実の違い、戦うことへの恐怖、大怪我した時のトラウマなど。
離職率は他のどの職業よりも多いだろう。
なればこそ龍二さんは学生たちに堅実な道を歩いて欲しかったのかもしれない。
「・・現実は確かに厳しいかもしれない。崎守浩人君の事もあるし、気軽に冒険者になれだなんて言えないですね」
思い出すのはあの日記。
親父さんやお姉さんの泣き顔を忘れることはできない。
「けど現実しか見ない、夢や希望を持たないそんな大人にはなって欲しくはないです。だから俺は現実をしっかりと伝え、その上で冒険者が楽しいという事を話したいと思います」
「いいんじゃないかそれで。お前の言葉にはしっかりとした重みがある」
龍二さんが俺の肩を叩いてそう言ってくれた。
正解などないのだろう。龍二さんの言葉にだって十分な重みがある。長年冒険者をやってきてたくさんの現実を見てきたはずだ。
だから学生たちに語るのはあくまで俺の言葉。
俺の想いを伝えて、その先を決めるのは学生だ。
もし冒険者を選ぶのであれば、願わくば楽しい冒険者ライフを送れるようにと。
・・そもそもこっちも初めての経験だ。まともな講演が出来るかどうか、まずはその心配をするべきかもしれない。




