第六十五話 革製の袋
みーちゃんに洗浄魔法で汗を流してもらってると、龍二さんやアレン、リユニオンの面々が入ってきた。
「ユタカさんお疲れ様でした」
「お疲れ豊。これで十階も攻略だな」
「しんどい戦いでしたけどね」
アイテムボックスにロープが入ってなかったらやばかったと思う。
何でも入れておくものだな。
「撮影の方もバッチリですよ。見事なプロレス動画が撮れました」
「趣旨が変わってるよね?」
確かに手が疲れたからとプロレス技に走ったが、実際効果的だったんだから良かったと思う。
ただこんな動画でいいのだろうかとも思うが・・
「本城さんが回復したら次はみーちゃんとちーちゃんの撮影に移りましょう」
「分かった。じゃあちょっとだけ休ませてもらうよ」
俺の装備品を外し一旦アイテムボックスにしまい、代わりにペットボトルのお茶を取り出す。
それを一気に飲み干して一息つく。
「次は二人の撮影だから頑張ってな」
「みーちゃんもかわいいところを、いっぱいとってもらうの!」
「・・ちゃんと見ててね」
フリフリの魔法少女衣装を着た二人は、ステッキを片手にやる気を見せてくれている。
もちろん実際はステッキは関係なく魔法で戦うのだが、魔法を放つ時にそれらしく振るえば魔法少女のように見えるだろう。
「そういえばこれは何なんだ?」
メイジ・ウィーズルのドロップアイテムだった革製の袋。大きさとしては拳大ぐらいの容量しかない。
中に何か入ってるんだろうか?
口を閉じている紐を解いて中を見てみると、何も入っていない・・というか何も見えない。
「これってもしかして・・」
俺はちょうど手に持っていたペットボトルを中に入れてみる。
容量的に入るはずないペットボトルがすっぽり中に入っていった。
これってつまり・・
「・・被った」
まさかのアイテム袋ゲット。
本来ものすごく貴重な物なのに、俺には全く無用なものである。
ただこのドロップはソロ攻略者のための物であって、俺じゃなくても出るわけだから、もしソロ攻略が出来た人には大変喜ばしいことだろう。
一応アイテムボックスの方が上位互換な気がするので損はしてないが、これはいらないな。
約束通りレンにあげよう。
しかし俺以外にソロ攻略できる奴はいるのだろうか?
これは自惚れでもなんでもなく、レベルを上げるのが大変すぎる。
十階までの魔物でレベルを上げなければならないのだ。
レベルを無視するのであれば、よほどスキルに恵まれてるか、それこそ銃火器でも持ち込まなければまともに勝てないだろう。
今回の俺の戦法と同じように戦ったとしても、少なくともタイマンでメイジ・ウィーズルを倒す必要がある。
非常に厳しい・・もちろんそれに見合ったリターンではあるが。
「そろそろいいかな」
あれこれ考えているうちに体も休まった。
二人の撮影に向かってもいいだろう。
俺はとりあえずアイテム袋をポケットにしまい、立ち上がって全員に声をかける。
「休憩はこれで充分ですよ」
「わかりました。では打ち合わせ通りこの階層で魔物を探しましょう」
甲斐さんがそう言って全員で移動開始する。
打ち合わせの内容は割とシンプルで、ダンジョンを回って魔物を見つけたらみーちゃんとちーちゃん、撮影スタッフが魔物に突っ込んでいき、二人が戦ってる様子を撮影する。
スタッフも冒険者なので、もし魔物が自分たちに向かってきても対処はできる。
一応狙いの魔物も決まっている。
普通にそこらへんにいる魔物なのですぐに出会えるだろう。
龍二さんが先頭で魔物を探し、俺たちは後をついていく。
「そういえばユタカさん、さっきドロップアイテムがあったみたいですけどあれは何だったんですか?」
アレンがそんなことを聞いてきた。
まあ別に隠す必要もないので答える。
「アイテム袋だよ。俺のアイテムボックスの袋バージョンだな」
「なんだって⁉」
俺の答えに反応したのはアレンではなく龍二さんだった。
先頭を歩いていたのに、わざわざ俺のところまで来てから両肩を掴んだ。
「もしかしてそれもメイジ・ウィーズルをソロで倒せば手に入るのか?」
「え、ええ。たぶんそうだと思います」
俺はガクガク揺さぶられながら龍二さんの問いかけに答えた。
龍二さんはそこで手を離して何やら考え始めた。
「どうしたんですか?」
「いやな、この話をギルマスにするべきかどうかを考えてる」
「別にしてもいいのでは?」
何か不都合のあることだろうか?
実際疾風の靴の事も報告はしてある。メイジ・ウィーズルが何かドロップすることも十分考えてるだろう。
「確かにそのブーツも魅力なんだが、アイテム袋はさらに魅力的だ。誰だって喉から手が出るほど欲しい」
龍二さんの言うとおりだ。
入手方法が判明したとはいえ、このアイテム袋をオークションにでも出せばとんでもない値段になるだろう。
上等な武器や防具よりも下手すればこっちの方が大事だ。
「俺が懸念しているのは、無謀なソロ攻略をしようとする連中が増えるかもしれないことだ」
「あーなるほど。十分ありえますね」
アイテム袋欲しさに単身特攻していく冒険者たち。容易に目に浮かんでくる。
「僕らだって十階攻略前にその情報を聞いたら、なんとしてでもアイテム袋をゲットしようとしますよ」
甲斐さんもそんなこと言ってくる。
彼らもアイテム袋があれば、撮影機材の運搬が格段に楽になるだろう。
だからといって、入手するために命を落としてしまっては話にならない。
龍二さんが悩むのも仕方のないことだろう。




