第五十九話 映える装備
俺は今キッチンに椅子を置いて座って本を読んでいる。
今日は予定通り全休日だ。
みーちゃんとちーちゃんは朝食を食べた後に大精霊様に会いに行くと言ってダンジョンに潜って行った。
夕方には戻ると言ってたので、大精霊様の分と合わせて色々昼食を持たせた。
なので久しぶりに一人の時間だ。
しかしなぜキッチンにいるかというと、今俺の目の前には圧力鍋がある。
早い話が料理中だ。
「いい匂いがしてきたな」
今作ってるのはオーク肉を使った角煮だ。
今日の夕食やアイテムボックスにストックする分として、たくさん作っている。
煮込んでいる間にラノベを読んでいたが、いい匂いがしてなかなか集中できない状況だ。
角煮の味を思い出すだけで口の中が唾液でいっぱいになる。
朝飯もしっかり食べたというのに腹も鳴り出す始末だ。
とりあえず冷蔵庫に入れといたアーモンドチョコをつまんでいる。
「ふわぁーあ・・まったりだな」
ゆるい空気にあくびをしながら再び本に目を落とす。
聞こえてくるのは圧力鍋の蒸気の音だけ。
外はよく晴れて今日も暑いが、冷房が効いてるのでとても気持ちいい。
素敵な休日だ。
ちゃんちゃーんちゃかちゃか・・
俺の携帯の着信音『レディース魔法少女 深紅の響子』の主題歌が流れる。
ポケットから取り出して画面を見ると、龍二さんからの電話のようだ。
明日の事での話だろうか?
「もしもし?」
『おう、俺だ』
「どうしました?」
『明日の事でちょっと見てもらいたいものがあるんだが、アレンと一緒に今からお前の家に行ってもいいか?』
「いいですよ」
という事らしい。
龍二さんは何度か家に来たことはあるがアレンは初めてだ。
二人が来る頃には角煮も出来上がってるはずなので、味見もかねて振る舞ってみよう。
それから三十分ほどして、インターホンが鳴った。
玄関を開けると普段着の龍二さんと、こちらも普段着ででかいトランクを持ったアレンがいた。
・・アレンが私服なのは助かる。
あの格好で家に来たのをご近所さんに見られたら、即井戸端会議に持ち込まれる。
「急に悪いな」
「ユタカさん、こんにちは」
「のんびり料理してただけなんで大丈夫ですよ。とりあえず中にどうぞ」
俺は二人を居間に通しお茶を出した。
先に昼食にしようかと思ったが、用件の方が気になるので話を先に聞くことにする。
「それでどうしました?」
「それなんだかな、お前の装備は結構地味だから、カメラ映えするようにこっちでいくつか用意してみたんだ」
地味とか言うな。実用性重視なんだよ。
そもそもファッショナブルな冒険者などそうそういるわけがない。
そんなものよりも自分の身を守ることの方が大事だ。
例外中の例外はアレンだが・・
「とりあえず見てもらえますか?」
そう言ってアレンがでかいトランクを開いた。
「まずはこれです」
そう言ってアレンが取り出したものを見て、俺は血でも吐きそうになった。
「私とお揃いの魔法少女装備です。もちろんハートのステッキもありますよ」
「アレンの一押しだな」
この二人はバカなのだろうか?
こんなのを着てPVに出たら誰も桜木亭に来なくなるぞ。
プロモーションどころか悪評が流れておしまいだ。
「真面目な話じゃないんですか?」
「もちろん真面目だぞ」
「当然大真面目ですよ」
この二人大丈夫か?
まあとりあえず他にも持ってきてるみたいなので、見せてもらおう。
さすがにこれはジョークだろ。
「では、続きましてはこちらです」
アレンが次に取り出したものを見て、俺は血の涙を流しそうになった。
「防御力バッチリ! これを着てれば人気者間違いなし。黒猫さんの着ぐるみです」
「これはファミリー層に受けがいいと思うぞ」
ファミリー層向けのPVを作るのではなく、冒険者向けの物を作るのだろ?
そういうのは桜木亭の中で職員に着てもらって、風船でも配ればいい。
観光客のお子さん達に人気は出るだろうよ。
「次」
感想の一つも言わずに、次の装備を要求する。
いや、果たして装備と言っていいのだろうか?
「確かに着ぐるみでは機動性が悪いですよね。格闘戦メインのユタカさんにはこっちの方がいいですね」
さらにアレンが取り出したものを見て、俺はこの二人を殺そうと思った。
「機動性最強、魅惑のバニースーツです」
「これを着てれば、スケベ親父どもの心をグッと――」
「掴んでどうするんですか?」
俺はドスの効いた声で二人にそう言い放つ。
魔法少女でも大概なのに、こんなの着てたらただの変態だろ。
アレンを超えるなんて俺にはできない。
シュシュシュシュ・・
「わがままだな。せっかくアレンが徹夜で用意してくれたのに」
「気に入ってもらえないなんて残念です」
なら龍二さん、あんたが着てみろよ。
きっとオタクと子供と変態に大人気になるだろうよ。
シュシュシュシュ・・
「まあまずは一度着てみろよ。色々と目覚めるかもしれんだろ?」
「目覚めたら困るんだよ!」
「ユタカさん、私と契約して魔法少女になってよ」
シュシュシュシュ・・
「あー! もうウルセー!」
バカとアホとシュシュシュシュと、いい加減にしやがれ!
シュシュシュシュ・・
「あー! もうウルセー!」
俺はそう叫んだと同時に手に持っていた本を取り落とした。
「・・ん?」
居間で話してたはずだがなぜキッチンに?
周りを見渡すと圧力鍋がシュシュと蒸気を出している。
居間の方を見ても誰もいない。
「夢かよ・・」
どうやら気持ちよくて寝てしまったらしい。
夢の内容は気持ち悪いものだったが・・
せっかくの休日になんてひどい夢を見させられてんだ。
「・・昼飯にするか」
とりあえず角煮がいい感じみたいなので、角煮丼でも作って食べよう。
美味い物でも食って気分を変えなきゃダメだ・・




