第五十一話 新装開店
アイテムボックスの準備が整ったので、昨日は狩りのついでにダンジョンで一泊してみた。
初日の午前中は移動と狩り、お昼はシチューを食べた。
午後もみーちゃんとだらだら話しながら魔物を殴り飛ばしていく。
そして夜。セーフエリアに大きめのテントを建てて、中にベッドや椅子テーブルを設置する。
テントを建てるかどうかはパーティーによって変わる。
テントが荷物になるから嫌う人間は、セーフエリアに寝袋だけで寝る。
女性がいるパーティーの場合はまず必ずテントを使う。
なので俺たちがテントを張っても別に気にはされない。
中さえ見られなければ・・
「あいてむぼっくすはべんりなの」
「実際にこうして使ってみるとよく分かるな」
今までのダンジョンライフに比べると雲泥の差がある。
地べたではなく椅子とテーブルで食事を取れて、その食事もあったかいものが一瞬で出てきて、食器はみーちゃんの洗浄魔法で綺麗にして、ついでに俺たちも洗浄魔法で綺麗になる。
そしてベッドで寝れる。俺は王様なのだろうか?
他の冒険者にテント内は見せられないな。
朝起きたら朝食をとって、再び狩りに行く。
もちろん移動中は装備品以外はダイフクに乗ったみーちゃんを引いてるだけだ。
手に入れた素材も全てアイテムボックスにしまうので、どんだけ回収したって荷物にならない。
お昼をはさみ、夕方まで狩りを続けて切り上げる。
ダンジョンの一階で戦利品をダイフクにギッチギチに詰め込むが、それでも入りきらない。
そのぶんの買い取りは次回に回すことにして、とりあえず桜木亭に向かった。
ダイフクに載ってる分だけ買い取ってもらったが、それでも今回アイテムボックスのための準備に使ったお金の大半が回収できた。
「こんなにストレスなく狩りができたのは初めてだ」
「きゃんぷにいったみたいなの」
確かにそんな感じだ。キャンプに行って狩りというアトラクションがあったみたいな。
やはりアイテムボックスをしっかり準備しておいてよかった。
そんな感じで狩りを楽しんだあと今日家に帰ってきた。
「・・おかえりなさい」
「・・ただいま」
「・・ただいまなの」
家に着いたら居間にちーちゃんがいた。
おやつに置いといた豆大福とお茶をすすっている。
「ちーちゃん! それはみーちゃんまめだいふくなの!」
「いや別にみーちゃんの物ってわけじゃないが・・」
ていうか、まず言うことはそれかよ?
「もしかしてちーちゃんがいるって事は」
「・・お察しの通り、ダンジョンが新装開店したわ」
いやだから新装開店て・・
とはいえ新しいダンジョンにこっちもワクワクだ。
「・・とりあえずいくつか説明があるわ」
「ダンジョンを使用するにあたって何か制約があるとか?」
「・・そんなものはないわ。むしろプラスな事ばかりじゃないかしら」
これ以上まだプラスなことがあるのか。相変わらずの激甘設定な気がする。
「・・まず私が正式にゆーちゃんと契約を結ぶわ」
「みーちゃんだけでじゅうぶんなの・・」
みーちゃんはそう言うが、仲間?家族?が増えるのは嬉しいことだ。
これからも楽しくなりそうだ。
「・・それとダンジョンについて。まず各階層入り口にワープポータルが設置されたから、行き帰りが楽になると思うわ」
「それはすごい便利だ」
目的の階層までの移動時間が大幅に短縮される。
『ファースト』では、現在確認されているポータルはボスを倒した後、つまり六階・十一階・十六階となる。
レンたちが最近到達した二十階はボスを倒さなければ、ポータルから最も離れた階層になる。
それを考えると各階層にポータルが置かれるのはとても助かる。
「・・ダンジョン内部の構造も洞窟タイプは飽きてるみたいだから、色々なフィールドが用意されてるわ」
「草原とか森みたいな?」
「・・そう。他にもあるから楽しみにして」
現状『ファースト』は完全な洞窟タイプだ。ぶっちゃけ飽きている。
なんせ外のフィールドだったら、擬似的に空が再現されている。
洞窟タイプだと薄暗い天井が続いているので、ダンジョン感はあるけど気は滅入る。
「・・モンスターに関しても変更はあるわ。他のダンジョンに出るモンスターが色々出てくるわ。ただ比率として、食材が取れるモンスターや経験値の多いレアモンスターが多めに出てくるの」
その話を聞いて俺はピンと来た。
ミノ肉、オーク肉・・さらには他のダンジョンのモンスターも出るならコカトリスの肉やブラックシープのお肉なども手に入るかもしれない。
前にも言ったがモンスターの肉はなかなか出回らない。
俺だって手に入れたら買い取りに出さずに身内で食べるだろう。
それなのに対象のモンスターが比較的出やすくなるとは、もはや天国じゃないか。
本来ならレアモンスターの方を喜ぶべきだが、俺的には美味しい肉の方が大事だ。
無論それこそ大量に手に入るんであれば、おすそわけや買取に出したっていいが。
「・・あと、ボスは特に設定されてないわ。ここはほとんどあなた専用のダンジョンだから、出来れば攻略して欲しいって大精霊様が言ってたわ」
「・・まあ、未だに完全攻略されたダンジョンがないわけだから、クリアさせるにはそうするしかないよな」
年齢的に考えても普通のダンジョンだったらそんなに奥深くまで攻略はできない。
ボス戦をしたいのであれば他のダンジョンでやればいい。
「・・あと珍しいお宝なんかも色々用意したそうよ。今のゆーちゃんなら『若返りの薬』とかいいんじゃないかしら?」
・・また随分危険なものを用意したものだ。
世が世なら、それを巡って簡単に戦争が起きてしまうぞ。




