第四十二話 帰ります
午後四時。
キャンプも終わり自宅に戻った俺たちは、リビングでお茶をすることにした。
お茶請けはいつもの豆大福。
「明日からはまた『ファースト』に潜ることになるから、今日は早めに休もう」
「みーちゃんはきゃんぷにいったから、げんきいっぱいなの」
「・・私も。むしろゆーちゃんの方が疲れてるんじゃないの?」
ちーちゃんは俺を心配してくれてるが、俺もキャンプに行ってリフレッシュしたからとても元気だ。
「明日は何階に向かうかな」
そう明日の計画を考えてると、不意にちーちゃんが口を開いた。
「・・じゃあ私はしばらくダンジョンに帰るから」
「・・え?」
ダンジョンに帰る? あれ、これから3人でやってくんじゃなかったの?
みーちゃんの方を向くと、当然とばかりに気にせず豆大福を頬張っていた。
「帰るってどういうこと?」
なぜだろう、嫁に実家に帰りますと言われたような気分だ。
「・・今回ゆーちゃんに会いに来たのは、ここのダンジョンについて話を聞くためよ。だから戻って大精霊様に報告をしないと」
そうか、別に契約をした訳じゃなかった。
ちーちゃんは様子見で俺のところに来ただけなんだな。
「・・報告によってどう変わるかわからないけど、できるだけ早くゆーちゃんと契約できることを祈ってるわ」
「そうだね俺もちーちゃんが戻ってくるの待ってるよ」
戦力云々ではなく、娘が減ってしまうようでちょっと寂しい。
と、豆大福を食べ終わったみーちゃんが、ふよふよと飛んできて俺の後頭部にしがみつく。
「ゆーちゃんにはみーちゃんがいるから、ちーちゃんははやくいけばいいの」
みーちゃん、それはあんまりじゃ・・
「・・みーちゃんの事も、ちゃんと大精霊様に報告しとくからね」
「みーちゃんはちゃんとゆーちゃんのちからになってるの! おさらあらったり、おふろのおゆをいれたりしてるの!」
「・・家事じゃなく、ダンジョンでのお手伝いを頑張りなさい」
「それもちゃんとやってるの」
「・・豆大福食べたいって言ってゆーちゃんを困らせてるんじゃないの?」
「そ・・んなことないの・・」
別に困ってはいないけど、確かに豆大福大好きだよね。
はっきり否定できないみーちゃんは、ちーちゃんから視線を逸らした。
「・・みーちゃんが迷惑かけそうだけどよろしくね」
「ちみっ子はいくらでも迷惑かけていいんだよ。ちーちゃんももっとわがまま言ったっていいんだから」
「・・そうなの? それじゃあ・・」
おや? なんかお願いしたいことがあったのかな。
大抵のことだったら聞いてあげるぞ。
「・・お土産に豆大福もらって行っていいかしら? 本当は焼き芋の方がいいけど、今から焼くの大変だろうし」
「なんだそんなことか。ちょっと待ってな」
現場豆大福は八個残っている。
みーちゃん分に一個残して、残りをビニール袋に入れる。
「じゃあこれ持って行くといいよ」
「あー! そんなにたくさん!」
豆大福の入ったビニール袋をちーちゃんに渡すと、みーちゃんが泣きそうな顔で叫んだ。
「明日また買いに行くから、あと一個あればいいだろ?」
「むー・・またいっぱいかってほしいの」
「大丈夫だよ・・売り切れてなければね」
いつのまにこんな豆大福ジャンキーになってしまったんだろうか?
まあ、下手に高いものよりはいいけど。
「・・みーちゃん、さっき言ったよね? 豆大福食べたいって言ってゆーちゃんを困らせてないって?」
「あう・・じゃ、じゃあがまんするの・・」
今にも血の涙を流しそうなみーちゃん。
『うさぎや』の売上にもつながるから別に気にしなくていいんだよ。
「ちーちゃん、みーちゃんイジリはその辺で」
「・・そうね、そうするわ。ところでこんなにいっぱいもらっちゃっていいの?」
「ちーちゃんは次いつ会えるかわからないんだろう? こっちは買いに行けばすぐに手に入るから」
「・・ありがとう。大事に食べるわ」
ちーちゃんはそう言って袋を手に提げた。
「もう出発するのか?」
「・・ええ、行動は早い方がいいわ」
そう言って地下室に向かうので、俺とみーちゃんも一緒に地下室に降りることにした。
「・・見送りはここまででいいわ。ゆーちゃんありがとうね」
地下室まで来るとちーちゃんはそう言って、俺の顔の所まで浮かんでくる。
「・・また会いましょう」
ちゅっ・・
「ちーちゃーん! だめなのー! そういうのはみーちゃんがするのー!」
別れ際にほっぺにキスなんてませたことをするちーちゃん。
てか、みーちゃん。いつのまに君がキス係になったんだ?
ちーちゃんはそのままお冠のみーちゃんをかわして、ダンジョンの中に消えていった。
「ゆーちゃん! みーちゃんがうわがきのちゅーをしてあげるの!」
上書きのチューって何だよ。初めて聞いたぞ。
荒ぶるみーちゃんの首根っこを掴んで、俺たちは再びリビングに戻った。
中断してしまった明日の計画でも練り直そう。
俺はとりあえず、チューしようとするみーちゃんの口に、豆大福を突っ込んでおいた。




