第四十話 朝食はフレンチトースト
翌日。
六時ごろに起きた俺たち三人は、朝食前にまた散歩をすることにした。
早朝の湖畔は少し霧がかかっていて視界が悪いが、とても空気がよく気持ちいい。
「・・清々しい朝ね」
「とてもきもちいいの」
「そうだな。都心じゃ味わえない空気だ。元気が出てくる」
非日常の中で美味い空気を吸って、美味い飯を食って、のんびりする。
これだからキャンプはやめられない。
それにここでは二人に杏ちゃんという友達も出来たことだし、そのうちまた来よう。
俺たちは三十分ほどぶらぶら歩いて、テントに戻ってきた。
とりあえず朝食にしよう。
「あさごはんはなーに?」
「今日はフレンチトーストだよ」
「・・フレンチトーストってなに?」
「パンを卵と砂糖を混ぜた牛乳に漬け込んだものを焼いたやつだ」
家庭によって割とフレンチトーストの作り方は違っていたりする。
薄切りの食パンを使ったりフランスパンで作ったり、焼いた後にアイスをのせたりジャムやメイプルシロップをかけたり・・
それぞれ違って美味しいと思うが、俺はガツンと食べたいので厚切り派だ。
仕込みは昨夜のうちに。厚さ十センチほどに切って耳を落とした食パンを漬け込んでおいた。
ラップをしてクーラーボックスでしっかり一晩冷やしておく。特に夏は菌が怖いので、ここは重要だ。
一晩漬けこむとパンの厚みもあり、とてもジューシーなフレンチトーストになる。
俺は卓上コンロに炭を熾し、網の代わりに鉄板をのせる。
クーラーボックスからパンを漬け込んであるタッパーを取り出し、温まった鉄板の上に二枚のせる。卓上コンロと鉄板はそんなに大きくないので、二枚のせるのが限界だ。
「焼けるまでの間オレンジジュースでも飲んでるといい」
暇だろうし二人にはオレンジジュースを出してやり、俺の分もコップに入れる。
朝に飲むオレンジジュースっておいしいよな。
「このいっぱいのためにいきてるの!」
「どこでそんなおっさん臭いセリフを・・俺じゃないよね?」
「・・ゆーちゃん、そんなこと言うの?」
いやいや、まだ三十前半ですよ? お兄さんて呼ばれてもいいくらいだぞ?
まさか知らずに晩酌の時なんかに言ってるなんてことは・・
「びーるのしーえむでいってたの」
・・みーちゃんにはあまりテレビは見せない方がいいのかな? 変な事を覚えそうだ。
けど教育に悪いからと言ってあれこれ禁止するのもよくないか。
悪い事でなければ、むしろもっと見聞を広めてほしい。いろいろ経験させてあげたい。
今回のキャンプだってみーちゃんの為に来たのだし。
「・・みーちゃん、あんまり変な言葉遣いをするとゆーちゃんに嫌われるわよ」
「もういいませんなの」
いや、別にそんなことで嫌いになったりしないけどな。
まあ言わないならそれに越したことはないか。
そうこうしてる間にフレンチトーストが片面いい感じに焼けてきた。
二枚ともひっくり返しさらに焼いていく。強火では中まで火が通らないので、弱火でじっくり焼く。
二人はワクワクしながらフレンチトーストが焼けていく様を見守っている。
数分後、裏面を見てみるといい感じの焼き色がついていたので、お皿に一枚ずつのせて二人に渡してあげる。
「そのままでも美味しいと思うが、好みでハチミツをかけてくれ」
俺は何もかけないのが好きだが、一応ハチミツは用意しておいた。
ちみっ子二人にはあった方がいいかもしれない。
「いただきますなの」
「・・いただきます」
二人はあらかじめ用意しておいたナイフとフォークでフレンチトーストを切っていく。まずは何もかけずに食べるらしい。
そして一口。口に入れた瞬間驚く二人。
「すごいとろとろなの! ぱんじゃないみたいなの!」
「・・ほんとね。噛まなくても無くなってしまうわ」
一晩漬けこんだパンはみーちゃんが言った通りにトロトロなのだ。
食感はプリンに近いかもしれない。
俺は次の二枚を焼きながら二人が食べる姿を見ている。
二人とも次はハチミツをかけてみるらしい。
順番にボトルを持ってハチミツをかけていく。二人とも適量をかけて再び食べ始める。
「はちみつをつかってもおいしいの」
「・・一気にデザート感が出たわ。どちらの食べ方もいいわね」
お気に召してくれたようだ。今度家で他のタイプのフレンチトーストも作ってあげよう。
「さて、朝食が終わったら帰り支度を始めないとな」
「むー、もっときゃんぷしたかったの」
「・・私もまだ来たばかりよ」
「キャンプはたまにやるからいいんだよ。それにまた来ればいいんだし」
キャンプ三昧も悪くないが、それは冒険者を引退してからでもいい。
ダンジョンから離れるとダンジョンが恋しくなる俺は、やはり根っからの冒険者なのだろう。
今は『ファースト』に潜ったり、冒険者仲間に会いたいと思っている。
また休みになったら、二人をいろんなところに連れて行ってあげよう。
いつかは二人とお別れの時が来るのかもしれない。
そんな時に、俺といた時間が少しでも楽しい思い出として残ってくれると嬉しい。
そう考えていたら、フレンチトーストが焦げてしまった。




