第三十九話 焼き芋
焼き芋が上手に焼けました。
アルミホイルと新聞紙を剥がすと、きれいな紅色のサツマイモが現れる。
それを割ってみれば、黄金色のほっくほくのお姿を見せた。
「いいね。上出来だ」
俺は他の焼き芋も灰の中から出して、包装を剥がす。
ちみっ子たちもいい感じにバーベキューを堪能したようで、デザートの焼き芋を待っていた。
「熱いから気をつけて食べるんだぞ」
そう言って、三人に焼き芋を一本ずつ渡していく。
やはりみんな熱いのか、左右の手で焼き芋をパスしながら冷ましている。
「ゆーちゃんあついの。おみずかけてさましてもいい?」
「そこまですると冷めすぎて美味しくなくなるぞ?」
「むー、それはやなの。でもあついの」
「一旦テーブルに置いたらどうだ?」
そこでちみっ子たちはハッとなって、みんなテーブルに置いた。
食べたい気持ちが逸って手に持ち続けていたようだ。
成長期のお子様たちめ。食いしん坊すぎるだろ。
その間に俺は自分の焼き芋の皮を剥いて、一口食べてみる。
「うん、美味い」
濡れ新聞に包んでおいたサツマイモは、しっとりほくほくに焼きあがっていた。
アルミに包むだけだと皮がこんがりに焼けるが、実が若干パサつく。
俺はこのしっとりタイプの方が好きだ。
夏で暑い中の焼き芋だが、自然な甘さに思わず表情も緩む。
「・・私ももう食べるわ」
俺を見ていたちーちゃんは我慢できなくなったのか、置いておいた焼き芋に手を伸ばして、三分の一くらいに割った。
ふーふーしながら皮を剥いて、可愛く嚙り付いた。
「・・甘くておいしい! とても大地の力を感じるわ!」
ちーちゃんは今日一番のリアクションで焼き芋を食べていく。
地の精霊だから焼き芋が気に入ったのだろうか? いや、肉だってガンガン食べていたよな。
さて、その姿を見たみーちゃんと杏ちゃんも、もう待てないとばかりに焼き芋に手を伸ばした。
「すごく美味しいです!」
「うん、ほくほくあまあまなの!」
二人も気に入ってくれたようだ。
さて、俺はここで秘密兵器を出す。
クーラーボックスからあるものを出した。
三人が見てる中、俺はそれを専用のナイフで少し切って焼き芋にのせる。
焼き芋の熱で溶けていくそれはバターだ。いい感じに溶けたところでかぶりつく。
バターの塩気とコクが焼き芋にマッチして、パワフルな甘みを俺に感じさせる。
ジャガバターとは違う、サツマイモも甘さがあってこその味だ。
「ゆーちゃん、それはなんなの!? じぶんだけずるいの!」
「・・私も食べてみたいわ。独り占めはダメよ」
「あの、私も使ってみたいです」
やはり三人も食いついてきた。予想通りだ。
もちろん意地悪しないで、バターを渡してやる。
「あんまりつけすぎると後で気持ち悪くなるから、少しずつな」
聞いてるのか聞いてないのか、我先にとバターを自分の焼き芋にのせる三人。
三人ともある程度バターが溶けるのを待って、再び食べ始める。
そして目を真ん丸に見開くちみっ子ども。
「すごいの! もっとおいしくなったの!」
「・・つけないのもいいけど、これも美味しいわ」
「最後まで飽きずに食べれそうです」
バター以外にも餡子やバニラアイスを載せてもいいが、あまり甘すぎてもつらい。
バター、もしくは塩あたりが素材の甘みを立ててくれると思う。
「さて、食べ終わったら杏ちゃんが帰る時間まで遊ぼうか」
「そうなの! たくさんあそぶの」
「・・せっかくここに来たのだから、楽しまないとね」
「はい、いっぱい遊びましょう」
と、焼き芋を持ったまま立ち上がり、ぴたりと止まる三人。
そのまま巻き戻しのように椅子に座った。
「どうした?」
「すこしやすんでからにするの」
「・・すぐには動けそうにないわね」
「お腹がパンパンです・・」
あれだけ食べたのだから、まあそうだろうよ。
それでも焼き芋を食べ続けるちみっ子たちは、女の子らしいっちゃらしいのかもしれない。
食休みの後に俺たちは広いところに行って、フリスビーやシャボン玉をしたり、林の中でかくれんぼをした。休憩時にはオーナーからもらったお菓子やジュースをみんなで頂いた。
精霊の二人はともかく、五歳の杏ちゃんはずっと動き回っていた。子供の体力はすごい。
そしてちみっ子三人と遊んでる俺は、いよいよ保育士のような気分だ。
さて、楽しい時間はあっという間に過ぎて、良い子は帰宅する時間になった。
俺たちは四人で管理棟に向かった。
「今日はとっても楽しかったです。ありがとうございました」
「こっちも楽しかったよ。来てくれてありがとうな」
しっかりとお礼の言える素晴らしい子だ。
そう遠くもない管理棟はすぐに着いてしまう。
中に入るとオーナーが出迎えてくれた。
「お帰り杏。楽しかったかい?」
「うん、とっても楽しかった。みんなとも仲良くなったよ」
「そうか、それはよかった・・おや、その子は?」
オーナーがちーちゃんを見る。
そういえばちーちゃんが来たのは、ここを出た後だった。
ついでなので二人が精霊で俺は冒険者だと説明する。
俺の事はともかく精霊に関してはさすがに半信半疑だったが、二人が目の前で魔法を使って見せたり、宙に浮いて見せると目を丸くしていたが信じてくれた。
ちーちゃんもこの後一泊する予定なので、追加料金を払おうとしたが断られた。次に来る時からでいいとのことだ。
「じゃあ杏ちゃん、また明日ね」
「またねなの」
「・・今日はゆっくり休むのよ」
「はい、また明日」
明日帰る時に見送りに来てくれるそうだ。
今日はいっぱい食べていっぱい遊んだ。ちーちゃんの言うとおり、早めに寝てゆっくり休んでほしい。
そうして俺たちはテントに戻った。




