第三十八話 みーちゃんが壊れる
ある程度バーベキューを食べたところで焚火がいい感じになったので、灰を崩して火を消す。
そこに銀色の物体を放り込み、灰の奥に埋め込む。
食後のデザート用の焼き芋だ。
「ゆーちゃん、それはたべものなの?」
「そうだよ。バーベキューが終わるころに出来上がるデザートだ」
「・・楽しみ」
結構バーベキューを食べてるのに、楽しみなくらい余裕があるのか。健啖家な子だ。
前にみーちゃんも『宇宙だ』的な事を言ってたので、もしかすると精霊は無限に食えるのか?
さすがにエンゲル係数が・・
「・・みーちゃんはいつもこんなおいしいものを食べてたんだね」
「あー! それはみーちゃんがやいてたおにく!」
「・・焦げそうだったから食べてあげたのよ」
「みーちゃん怒らないで。私のあげるから」
「あんずちゃんありがとうなの。かわりのおにくやいておくの」
・・しかし、ここは保育所か?
ちみっ子でも三人集まれば姦しいようだ。
さて、俺はここからはビール片手に参戦させてもらおう。
バーベキューをやるのに飲まないわけにはいかない。
「・・ゆーちゃんそれは?」
「これはお酒だ。さすがにあげられないぞ」
「・・精霊なんだから大丈夫よ?」
「絵面的にアウトだ。周りからお叱りが来る」
見た目幼女に酒なぞ飲ませるわけにはいかん。
ちみっ子たちはジュースを飲んでなさい。
「お酒なんておいしくないよ。お父さんのお酒舐めたことあるけど、苦いだけだったもん」
「・・そうなの? 苦いならいらないわ」
「おれんじじゅーすがいちばんなの。もちろん100%がいいの」
・・オーナーさん、杏ちゃんに酒の味を知られてますよ。何してんだ。
みーちゃんは徐々にオレンジジュースキチになりつつある気が・・
「・・ところでみーちゃん。最近ゆーちゃんとダンジョンに来てないようね」
「そんなことないの。よくだんじょんにいってるの」
「・・おうちのダンジョンよ。全然来てくれないから大精霊様が怒ってるよ」
「・・・・え``」
みーちゃんの箸が止まる。
その隙にちーちゃんがみーちゃんの焼いた肉を食べるが、みーちゃんは気づいていない。
ちーちゃんが口の中のものを飲み込んでから再度話し出す。
「・・『みーちゃん楽しそうね。一人だけ楽しんでずるいわ』だって。まあ、私も同意見だけど」
「あうあう」
「・・もしかしたら連れ戻されちゃうかもね」
「ぴゃー!」
みーちゃんが壊れだした。
もはやバーベキューどころではないようだ。立ち上がり、あわあわ走り回っている。
杏ちゃんはそんなみーちゃんを見ておろおろするが、ちーちゃんは何食わぬ顔で肉を食う。
しかしさすがに今の発言は俺にもダメージがある。
まだ短い間だが、みーちゃんとダンジョンに行ったり遊んだり、四六時中一緒にいるのだ。
連れ戻されると聞いては放っておけない。
「えっと、ちーちゃん。本当に・・」
「・・冗談よ。みーちゃんの反応を見たかっただけだから」
なかなかいい性格をしている。
みーちゃんには聞こえていないらしく、まだあたふたしている。
「・・でもダンジョンに来てくれないのは問題だわ。せっかく大精霊様が造ってくれたのに、どうして来ないの?」
「確かにすごいダンジョンなんだが、あのダンジョンを秘密にする事を前提にすると、うかつに利用出来ないんだ」
「・・どうして?」
「あのダンジョンなら短期間で急激に強くなって、他のダンジョンの攻略も楽に出来るようになるだろうけど、さすがに不自然だ。壁のミスリルを採掘して売りに行っても、どこで採ってきたか答えられない」
「・・そんな事を気にするのね」
「こう言っては何だが、あのダンジョンは規格外すぎるんだ。もちろん造ってくれたのは嬉しいが、ミスリルが採り放題ってだけでもバレたら命を狙われそうだ」
腐っていた俺を救ってくれたあのダンジョンや大精霊様には感謝してるが、ホイホイ利用することは出来ない。
最近マッチョを倒したばかりの俺が、すぐにメイジウィーズルを倒したら不自然だ。
しかしメイジウィーズルを倒さないとうちのダンジョンも先には進めない。
その先についてもそうだ。先に進むためにはレンたちに追いつき、追い越す必要が出てくる。
いきなり最前線の冒険者たちを追い越すなんてオカシイと思われる。
ちーちゃんにそう聞かせてやる。
「・・わかったわ。じゃあ大精霊様にそう報告しておくわね」
「勝手な事ばかり言って済まないと言っといてくれ」
「・・本当はさっさと十階まで来て、私を連れて行ってほしかったんだけどね。これじゃあいつまでたっても来てくれなそうだし」
ちーちゃんは十階で仲間になったのか。悪い事をしたか?
二人を連れてギルドに行ったら・・女性陣に二人を拉致され、男どもには体育館裏に呼び出されそうだ。
「・・大精霊様ならきっといいようにしてくれるわ。ゆーちゃんの事を気に入ってるみたいだから」
「大精霊様が俺を? 何で?」
「・・そこまでは知らないわ。でもあなたの事を話す時の顔が、いつも笑顔だもの」
俺、大精霊様と知り合いだっけ? 別人と勘違いしてる?
いずれ聞く機会があれば聞いてみるか。
今はとりあえずパニックみーちゃんを宥めて、バーベキューを続けよう。




