第三十七話 ちみっ子とちみっ子とちみっ子
サイトに戻った俺は火を熾すまで二人を遊ばせておく。
まずは焚火を始める。夏だから暑いのだが後で必要になる。
持ってきた薪を山型に並べ、バーナーで炙って火をつける。
新聞紙などを入れると燃えカスが飛んでくるので、俺はいつも力技で着火する。
しっかりと薪が燃えだしたら、今度は卓上コンロを設置して炭を並べる。
こちらも焚火同様にバーナーで脳筋着火だ。
後は炭がしっかり燃焼を始めるまでに、野菜、肉、たれ、飲み物なども用意しておく。
「二人とも、そろそろだぞ」
「わかったのー」
近くで遊んでた二人を呼び寄せる。
どうやらみーちゃんが杏ちゃんに魔法を見せてあげてたようだ。
みーちゃんが精霊だと知らなかった杏ちゃんはとても驚きながらも、魔法を見て喜んでいた。
「私も魔法を使ってみたい」
「みーちゃんはせいれいだからつかえるの」
「後は冒険者になってダンジョンの中で使うかだな」
やはり魔法への憧れは誰にでもあるのだろう。
ましてやこんな小さな子が目の前で魔法を見たら、余計に憧れは強まるだろう。
・・冒険者になるだなんて言い出さないことを願おう。
「もう焼けるから、好きに焼いて食べていいぞ。お肉はしっかり焼くようにな」
「おにく! おにくなの! ししのごとくくらってやるの!」
「じゃあ私は恐竜のごとくむさぼるの!」
ちみっ子二人は肉食獣にジョブチェンジしたようだ。
野菜も食べろよー。
かくいう俺もまずは牛肉から焼き始める。
本当はレアで食べたいのだが二人によく焼けと言った手前、ちゃんと焼くことにする。
「いただきますなの!」
「いただきます」
ちみっ子たちのお肉が焼けたようで、二人ともお行儀よく挨拶して、獣のように喰らいついた。
でも、もぐもぐしている姿は小動物だ。
「おいしいの! じゅーしーなの」
「うん、おいしいね」
喜んでくれたようで何よりだ。
俺もいい感じに焼けた肉を食べる。うまい!
やっぱ開放感のある場所で食べる飯は最高だ。
ダンジョン内で食べる飯とは大違いだ。嫌なわけではないが、野外型のダンジョンだったら気持ちいいんだろうな。
今度は玉ねぎやとうもろこしを焼く。
野菜類は表面にオリーブオイルを塗ってある。こうすると焼いた後にパサパサにならない。
ちみっ子たちはお肉と野菜を両方乗せる。ちゃんと野菜も食べるようで安心した。
「ばーべきゅーってたのしいの」
「私もバーベキュー好きだよ」
「杏ちゃんの家でもよくやるの?」
「うん、たまにやるよ。普通のご飯も外のテーブルで食べたりするの」
いいなそれ。こういう所に住んでる人の特権だな。
俺も老後はこういう所でのんびり暮らしたいものだ。
まあ、今から老後の事を考えても仕方ない。今はどんどん食べよう。
「つぎはみーちゃんはこれ!」
「じゃあ私はこれ」
「・・私はこれがいい」
「じゃあ俺はこれで・・ん?」
何か人数が増えなかったか?
周りを見るとみーちゃん、杏ちゃん、茶髪のちみっ子。
誰?
「あー! ちーちゃんなの!」
そしてみーちゃんのその言葉で誰なのか八割ほど理解してしまった。
「えっと、みーちゃんのお友達? 初めまして杏です」
「・・ちーちゃんです」
お行儀のいい杏ちゃん。適応力高いな。
杏ちゃんと挨拶したちーちゃんは再びお肉の方を見る。
「・・私はこれがいい」
「お、おう、わかった」
先ほどと同じ言葉を繰り返すちーちゃん。
とりあえずお肉を網に乗せてあげる。
「みーちゃん一応確認だが、この子は?」
「ちーちゃんなの。ちのせいれいなの」
地の精霊だよな。血の精霊じゃないよな?
まあやはりというか、さっき林で感じた気配とやらもこの子だったのだろう。
茶髪のショートカットの女の子。二人と同じくらいのちみっ子。
「ちーちゃん、なんでここにいるの? かってにだんじょんをでたら、だいせいれいさまにおこられるの」
「・・大精霊様に許可はもらった。でも今はこっちのほうが大事」
ちーちゃんはジッと俺を見上げてくる。
エサを食べてもいい? と見てくるペットのようだ。
「じゃあ、一緒に食べよう・・とイスが・・」
杏ちゃんとみーちゃんは最初に用意したイス。俺はクーラーボックスに座っている。
あと座れそうなのは・・
「・・私はここでいいの」
そう言ってちーちゃんは俺の膝にちょこんと座ってくる。
「あぁー! ちーちゃんずるいの! だったらちーちゃんがこのいすをつかえばいいの。みーちゃんがそっちにいくの!」
「・・このままでいい」
「だーめーなーのー!」
ちみっ子二人が言い争う。杏ちゃんは苦笑いして様子を見ている。
とはいえどっちの案も却下だ。
「さすがにこれじゃ食べにくいから、ちーちゃんはクーラーボックスに座るように。俺は焚火も見なきゃいけないから立ってる」
「むー、まあそれならいいの」
「・・残念」
俺はちーちゃんにタレを入れたお皿と箸を渡し、バーベキューを再開する。
ちょっとクールな感じのするちーちゃんだが、焼けたそばから新しい肉や野菜を網に乗せていく。
みーちゃんもそれに触発されてペースを上げていく。
「いっぱいあるから、ゆっくり食べろって」
「ちーちゃんにはまけられないの!」
「・・私の胃は宇宙よ」
あ、この子言いやがった。




