第三十四話 キャンプ
久々に羽を伸ばそう。
そう思って前々から考えてたキャンプにみーちゃんと来た。
山梨県の湖畔キャンプ場だ。
オートキャンプ場ではないので、今回はハイエースの出番はない。
俺は車を駐車場に入れて表に出る。
助手席にいたみーちゃんもピョンと下りてきた。
「しぜんがいっぱいできもちいいの!」
上野公園や不忍池もある程度緑があるが、やはりこういう場所にはかなわない。
みーちゃんが楽しそうなのは何よりだ。
「まずは管理棟に行って手続きをするぞ」
「りょうかいなの!」
俺はみーちゃんと手をつないで管理棟に向かった。
ログハウス風の管理棟には売店が併設されていて、持ってくるのを忘れた消耗品や食材なども買う事が出来るようだ。
「ゆーちゃん、わすれものはだいじょうぶ?」
「・・たぶん」
キャンプにはよく行くので抜かりはないと思うが、改めてそう聞かれると自信が揺らぐ。
まあ消耗品以外はもともと車に積んであったし、食材などは途中で買ってきた。
飲み物が足らなくなったらここに買いに来ればいいだろう。
「こんにちはー」
「いらっしゃいませ」
管理棟に入ると俺と同い年くらいの男性と、みーちゃんくらいの女の子がいた。
男性がオーナーなのか受付に入り、こちらに名前を聞いてきた。
「二名で予約した本城です」
「本城様ですね。一泊の予定で間違いないですか?」
「大丈夫です」
俺が手続きを始めると、みーちゃんが女の子の方に寄って行った。
仕事柄なかなかみーちゃんくらいの歳の子に会う機会がないので、興味があるのかもしれない。
「こんにちは。わたしみーちゃんです」
「こ、こんにちは。杏です」
物怖じしないみーちゃんに対し、それでもしっかりと自己紹介した杏ちゃん。
「娘さんですか? しっかりした子ですね」
「ありがとうございます。今年で五歳なんですが、お客さんによく挨拶するのであまり人見知りはしないみたいです」
将来は・・いや今でも看板娘だな。
二人は仲良く話し始めたので、こっちも手続きを進める。
「場所はこの地図の五番サイトを使用してください。直火での焚火も可能です。炭や薪の灰は水場に処分スペースがあるのでそこに入れてください」
「今日はやっぱりお客さんは多いですか?」
「そうですね。シーズンなんで結構多いです。ただうちは各サイトを大きめにとってますので、窮屈には感じないと思います」
やはり夏はキャンパーが多いようだ。
ただ宿泊せずに、デイキャンプだけで帰る人もいるだろうから、夜はもう少し人数が減る気がする。
何よりオーナーが言った通りここはサイトが広く、10m×5mと広く使えるので多少割高な料金だったが満足できるだろう。
「チェックアウトは特に受付は必要ありませんので、ゴミが残らないようにお帰りください」
「わかりました」
俺は料金を支払い、サイトの場所が描かれた地図をもらう。
さて、車から荷物を運ばないとな。
「みーちゃん、そろそろいいかな?」
「いまいくの。あんずちゃんまたね」
「またねみーちゃん」
この短時間でずいぶん打ち解けたようだ。
旅先とはいえ、友達が出来るのはいいことだ。
「それじゃ、荷物をサイトに運ぶぞ」
「あいあいさーなの!」
元気いっぱいなみーちゃんを連れて、管理棟を出る。
みーちゃんと杏ちゃんは、最後まで手を振り合っていた。
「ずいぶん仲良くなったんだな」
「うん。あとであそぶやくそくしたの。いい?」
「いいよ。せっかく仲良くなったんだし、たくさん遊ぶといい」
「ありがとうなの!」
みーちゃんにとっては初めての友達だ。
せっかくだしお昼ご飯にも誘ってみるかな?
管理棟横に自由に使っていい台車があるそうなので、それを押しながら俺たちは車まで戻り、キャンプ道具を運び出す。
テント類や食材なんかを台車に乗せ、みーちゃんを肩車してサイトに向かう。
管理棟からサイトまでは防風林のような林を抜けた先、5分くらいで着くらしい。
のんびりと台車を押しながら歩いていく。
「ぽかぽかできもちいいの」
「そうだな。夏だけど湖が近いからか、そんなに暑くないもんな」
天気は薄曇りの晴れで、直射日光がないのもまた助かる。
さらに進むと道は林に差し掛かった。
ひやっと涼しい風が林から吹いてくる。これは気持ちいい。
「林の中にテントを立てたいくらいだな。まるで冷房がついてるようだ」
「でもみずうみのそばのほうがいいの。みーちゃんはみずのせいれいだから」
そういうものなのか?
まあ湖畔キャンプ場だし、サイトも決まってるからどの道だが。
100mほど林は続いており、出口近くまで行くと湖が見えてきた。
日の光を受けてキラキラ輝いており、林の中から見ると絵画のようにも見える。
涼しかった林を抜け、地図を頼りに五番サイトに向かう。
他のキャンパーもすでにたくさん来ているが、サイトが広いのもあって、そんなに混んでるようには見えない。
「ここだな。みーちゃん荷物を下ろすぞ」
「ここにてんとをたてるの? いいばしょなの」
湖から20mほどの場所。サイトと湖の間には他のサイトがないために景色がいい。
「ゆーちゃん、はやくみずうみにいこうなの!」
「まずはテントを建ててからだ。湖は逃げないから」
俺の服を引っ張って湖に行こうとするみーちゃんを窘めて、二人でテントを建てていく。
さあキャンプのスタートだ。




