第三十三話 アレン
まずい・・設定を忘れかけてる。
ツケが回ってきてるな・・
冒険者には外国の人もいる。
基本的には日本在住の人か、海外の冒険者資格を持った人が日本のダンジョンに挑戦しに来たかの二つだ。
後者の場合で少し毛色の違う冒険者がいる。
冒険者留学制度。
各国のギルドの結びつきの強化のために始まったこの制度。
三年の間他国に渡り、その国のダンジョンについて学んだり、冒険者同士で交流をしたりする。
日本はそのダンジョンの多さや治安の良さなどから、人気の留学先になっている。
ちなみに渡航費用や生活費などはギルド持ちになるので人気の制度だが、日本からの留学だと年間十人程度の狭き門となっている。
『ファースト』にも何人か留学生がいるのだが、その中の一人にかなり濃ゆい奴がいる。
「ユタカさん、みーちゃん、おはようございます」
朝食後みーちゃんと家を出て、桜木亭に来たところで後ろから挨拶されたので振り返れば奴がいた。
「・・おはようアレン」
「おはようなのあれん」
俺たちも挨拶を返す。
目の前にいたのは金髪イケメンのアメリカ人、アレン・サンダースだ。
気さくな性格で日本の事が大好きな奴なので、冒険者達と仲良くやっている。
実力もありこっちで参加させてもらっているパーティーと共に、十階以降で主な活動をしている。
好青年なのだ。ナイスガイとでも言うべきか。
「・・今日もその装備が決まってるな」
「さすがユタカさん! 私も朝から鏡を見て、バッチリだと思ってました!」
アレンはそう言って、その場で片足でくるりと回って見せた。
ふわりと浮くスカート。
一応言っておくが、アレンは男だ。
今日も目に痛いピンクの魔法少女のコスプレをしている。
「あれんきょうもかわいいの」
「みーちゃんありがとう! みーちゃんもいつも通りプリティーだね」
「えへへなの」
みーちゃんはきっと心から可愛いと思ってる。精霊だから。
タッパのある金髪イケメンアメリカ人の魔法少女のコスプレ(先端にハートが付いたステッキ込み)・・
ご丁寧にムダ毛の処理も済んでる。
ちなみにオネエでもない。純粋に魔法少女のコスプレが好きなだけだ。
というか、アレンはアニオタなのだ。
留学先は日本の好きなダンジョンを選べるのだが、秋葉原が近いというだけで『ファースト』に来たそうだ。
日本語の勉強の教材が魔法少女のアニメだったそうで・・
「アレンも潜るのか?」
「はい、ここで待ち合わせしてます。もうそろそろ来ると思いますが・・」
アレンは準備万端のようだ・・そう準備万端なのだ。
このコスプレは立派な装備品だ。
俺のチョッキのようにしっかりとした素材で作られているそうで、冒険者補正の身体能力と合わせて充分な防御力になるんだとか。
また魔法メインのスタイルなので、手にしてるステッキも見た目にはハマってる。
一応腰に短剣を差しているが、『魔法少女っぽくない』という理由でめったに使わないそうだ。
「そうだ、この前はイベントに参加できなくてすいません」
「別に強制じゃないんだし、気にするなよ」
アレンはイベントを楽しみにしてたらしいが、急遽予定が出来たとかで不参加になった。
アレンがここに来てから一年くらいだが、イベントには毎回参加してたそうだ。
「ありがとうございます。あの日は急に『レディース魔法少女 深紅の響子』の主役の声優さんの握手会が決まって、千葉に行ってしまったので」
「・・そうか。まあ、次を楽しみにしててくれ」
人の趣味は自由だ。むしろ打ち込めることがあるのはいいと思う。
これもまた文化の交流なのだろう。
「次はロボットに乗って戦うなんてどうでしょう? それか魔法少女でチームを作って戦ったり」
俺たちにもその恰好をしろと!?
女性冒険者はまだしも、基本的に男性が多いこの業界でみんなが魔法少女の衣装・・
地獄絵図。
「ありがとう参考にするよ」
「はい。そういえばユタカさんは、十階のボスにはまだ挑まないんですか?」
「なんだかんだ用事が出来てな。もうしばらく後になりそうだ」
「そうですか。もしソロをやめる時はいつでも声をかけてください。力になりますよ」
いい奴なんだ・・ホントいい奴なんだよ。
いろいろと目をつぶればな・・
「まあ、みーちゃんは精霊なんで今だソロになるらしいが、周りはもうソロとは思ってないかもな」
俺がそう言うと、アレンは『うーん』と唸って腕を組んだ。
「アメリカで拠点にしていたニューヨークのギルドの冒険者には『テイマー』のスキルを持つ人がいます。彼は仲間にしたモンスターだけを連れて潜っています。私たちはみんな彼がソロだと思ってますよ?」
そんなスキルがあったのか・・
ソロかそうでないかの線引きは、人間であるかどうかなのかな?
みーちゃんの言葉を思い出してみれば、ダンジョンは人の願いから生まれたものだと。
ダンジョンを攻略するのが人間である前提ならば、俺もその人も確かにソロではあるだろう。
「いつかその人に会ってみたいものだ」
「そうですねチャンスがあれば紹介しますよ」
ソロでがんばってるのは俺だけじゃないんだな。
親近感なのか、そう思うとちょっとうれしくなった。
「あ、仲間がきましたね。じゃあ僕はこれで」
「ああ。気を付けて行ってこい」
桜木亭に姿を見せた仲間たちの方に駆けていくアレン。
スカートから覗く立派な太ももというバックショットを見せつけて、彼は今日もダンジョンに向かう。




