第三十二話 祭りのあと
長期間休んでしまい大変申し訳ありませんでした。
出来るだけ無理のないペースで書いていこうと思いますので、気が向いたら読んでやってください。
黒焦げになった龍二さんをみーちゃんに回復してもらったところで、ちょうど二十一時になった。
これにて爆裂花火大会は終了だ。
遠くで聞こえていた破裂音も徐々に止んでいく。
「さて、外に出るとするか」
なんともなかったように立ち上がる爆弾魔の龍二さん。
この人は次回のイベントの時には、何か縛りが必要な気がする。
とりあえずイベントを締めるためも、俺たちも外に出なければならない。
「じゃあ、みーちゃん乗ってくれ」
出発の為にみーちゃんをカートに乗せようとする。
「みーちゃんはこっちに乗るの」
みーちゃんはそう言って肩に乗ってきた。
まだ遊び足りないのだろうか? まあ重くないからいいけど。
俺たち三人は外に向かって歩き出す。
ポータルは使わずに、みんなの様子や若手チームを見ながらゆっくりとフロアを進んでいく。
意外とポータルを使う人は少ないようで、みんな祭りの余韻に浸りながら歩いているようだ。
仲間と合流してどんなバトルをしただとか、何人と戦ったなど笑顔で話している人たちもいる。
「いいイベントだったと思うぞ」
一緒に歩いている龍二さんがそう言った。
「これで山さんも心置きなく引退できるだろうよ」
「寂しいですけどね」
「もちろんそうだが、この稼業で心置きなく引退できる奴がどれだけいるか‥‥それを考えれば山さんは間違いなく幸せに引退できるんだ。笑顔で送り出せるってもんだろ」
確かに挫折で引退ならいい方で、最悪は命さえ落とす仕事だ。それを考えれば山さんは恵まれていると言っていい。
「俺たちも山さんみたいな引退が出来るといいな」
「そうですね」
いつかは俺たちも引退する日が来る。
むしろ家にダンジョンが出来なかったら、すでに引退していたかもしれない。
その日が来たら俺は満足して引退することができるのか?
そうなるためには、頑張り続けるしかないのだろう。
自分に出来ることを精一杯に。
「これにて第一回チキチキ爆裂花火大会を終わります。皆さん気を付けて帰ってください」
参加者全員のダンジョンからの帰還を確認した後、俺はイベントを閉会した。
みんなこれで帰るなり、飲みに行くなりするのだろう。
俺はとりあえず、高倉さんにイベント終了の報告をするために『桜木亭』へと向かう。
ちなみに龍二さんもついてきてる。
「お疲れ様。無事に終わったみたいだね」
高倉さんの部屋に入ると、開口一番ねぎらいの言葉をかけられた。
部屋には高倉さんと一緒に山さんもいて、茶をすすっていたようだ。
「参加者は全員帰還。怪我人も一番大怪我したのがこの人です」
横でぴんぴんしているおっさんを指す。
実際他のケガ人も、せいぜい軽い火傷をしただけだったので問題はない。
冒険者は強いのだ。
「とりあえず三人とも座るといい。お茶を入れるから」
高倉さんはそう言って俺たちの分のお茶を入れてくれる。
ちなみに山さんは冷蔵庫から羊羹を出して俺たちに切ってくれた。
みーちゃんの分が極厚に切られて出されたのは気のせいではないだろう。
「さて龍さん、どうだった?」
「いいイベントだったぜ。次にイベントやる時も期待できそうだ」
「ハードル上げないでくださいよ」
毎度毎度新しい企画を考えるなんて大変だ。
参加者たちは参加するだけでいいかもだが、こっちは大変だっての。
「すべてを一人で考えることはないぞ。ギルマスや龍二、他の冒険者達にも話を聞いて企画の参考にすればいい。後はどこかの地方の祭りなんかを参考にするとかな」
茶をすすりながら山さんはそうアドバイスしてくれた。
確かに一人で考える必要もないか。それに山さんが言ったように、各地の祭りなんかも面白いものが多い。
さすがは年の功だ。長年会長をやってきただけはある。
横で羊羹を食べ終えて、ジッと俺の羊羹を狙っているみーちゃんに皿を差し出してあげながら、再び山さんに向き直る。
「とりあえず最初のイベントで躓かなくてよかったです。ほっとしました」
「俺もお前さんを指名してよかったよ。これで念願のハッピー老後タイムだ」
「山さんそう言いながら、血がうずいてまたダンジョンに潜りだすんじゃないですか?」
龍二さんが、ハッピー老後タイムとやらに思いを馳せている山さんをからかう。
確かに青森にもダンジョンはあるので、もしかしたら行くのかもしれない。
「孫が冒険者になりたいというなら、いつか一緒にダンジョンに潜りたいが、それ以外では行くつもりはないな。ここからは孫の成長を見るために命を大事にしていくさ」
「その通りですよ。せっかく満足な引退が出来るんですから、無茶はしないでください」
高倉さんの言うとおりだ。下手にダンジョンに潜って、万が一・・なんて事はシャレにならない。
これから先、山さんに相談したい案件なんかも出てくるだろう。
冒険者たちも山さんのように活躍して、素敵な老後を送りたいと思う者たちもたくさんいるだろう。
何より山さんの家族も、これ以上危険な場所に行ってほしくないと思う。
「心配するな。前々から興味があった家庭菜園でもしながらのんびり過ごすさ」
「いいですね。じゃあリンゴを栽培して、そのうち送ってくださいよ」
「いや、龍二さんそれは何年かかるんですか・・」
「いいんだよ何年かかっても。元気でいてくれるんならな」
そうだな、時間はある。ゆっくり元気に過ごしてほしい。
そのうち青森に行くことがあれば、互いの近況を肴に飲み明かすのもいい。
きっと俺も、今よりももっと満足した冒険者生活の話ができると思う。
「豊、龍二。後は任せたぞ」
そう言って、一人の偉大な冒険者が引退していった。




