第二十九話 イベント
遅くなりました。
昨日、不健康診断に行ってきました。
そう、どうせ不健康ですって言われるだけだもの・・
ギルド会長を引き受ける決心をした後、俺は山さんから引き継ぎを受けた。
そんな難しいことはなく、冒険者からのご意見箱の管理や、イベントをやる際の申請についてくらいだ。
無茶なことでなければ高倉さんは大体OKしてくれるそうので、逆にあまり負担をかけないようにした方がいいとも言われた。
ついでに新会長就任を広く告知するために、何かイベントをしたらどうだとも言われた。
確かにその方が分かりやすいかもしれない。
引継ぎはそんなもので終わった。
ちなみに山さんは終始みーちゃんを膝の上にのせてお菓子をあげながら頭を撫でていた。
それは引退後の予行練習ですか?
そして今日に至る。
俺は拡声器を持ち、冒険者達の方を向いて宣言をする。
「第一回チキチキ爆裂花火大会、開催だぁ!」
うおぉぉぉ!
冒険者達が一斉に歓声を上げた。みんな殺る気満々だ。
これが今回考えたイベント。夏らしく花火大会にしてみた。
・・もちろんただの花火大会ではない。
そして良い子の皆には先に言っておこう。
花火は人に向けてはいけません。
彼らは冒険者という特殊な人たちなので大丈夫なだけです。
「ルール説明です。まずはこれから各々地下4階に行って好きな場所で待機してください。二時間後の二十時になった瞬間にバトル開始です。基本的には個人戦です。パーティーの仲間さえ今日は敵です」
俺の言葉にみんながニヤリとする。
パーティーの仲間とはいえ、不満のある奴もいるだろう。
今日はここで解消してほしい。
「武器、魔法の使用は禁止。ただし魔物もいる場所です。地下4階なのでほとんどの皆さんは問題ないでしょうが、今日はレベル一桁の人が八人いますので、魔物に遭遇した場合は武力を用いて即座に殲滅してください。八人には判別の為に赤い鉢巻を着けてもらっています。彼らが魔物と戦っていた場合は手助けをお願いします。一応この八人には二人ずつペアになってもらい、中堅冒険者を一人付けた三人組で行動してもらいます」
安全措置は大事だ。
地下5階を突破している冒険者なら、この階の魔物にてこずったりはしない。
主に新人たちの為に、そして彼らにも楽しんでもらうためのルールになってる。
もちろんそれでも危険が全くないわけではない。
今回のイベントにあたって参加資格には『命の危険はあります。それを理解していれば誰でもOK』と書いた。
それでもなおこれだけの人数が集まった。イベントに飢えているのだろうか?
確か前回のイベントは正月の餅つき大会だったか?
桜木亭の前で行われ、道行く人たちにも搗き立てのお餅を配っていた。
あの時参加者は大体三十人位だったか。年齢高めのベテランばかりだった気がする。
山さんと高倉さんに今回のイベント案を出した時、二人は目を丸くしていた。
高倉さんは『安全対策さえ取れてれば、お金もほとんどかからないしOK』といい、山さんは『こういう案が出ないんじゃ俺も歳を取ったわけだ』と笑っていた。
前回に比べ、今回は年齢層関係なしに集まっている。そして一様に目がギラついている。
「安全のためにゴーグルは必ず付けてください。また誰か一人を集中して攻撃するのもなしです。二十一時になったら終了です。ノーサイドの精神でダンジョンから出てください」
はっちゃけるのはダンジョン内のみ。外に出て祭りの余韻に浸りたければ、飲みにでも行けばいい。
今回のイベントはダンジョン内だからこそ成立するものだ。外でやってはいけません。
「それとダンジョンに入る際と出る際に本人確認を取ります。これは参加者が全員帰還したか確認するためのものなのでご協力ください」
ところどころから『はーい』とか『わかったー』などの声が聞こえてきた。
ではそろそろ出発にしよう。
「まずは若手八人と同行の冒険者から入場してください」
開戦まで二時間とったのは彼らのためだ。
他の人達はポータルを使って6階から4階に上がればすぐだが、若手たちはポータルが使えないので先に入ってもらい、四階まで下りてもらう。
中堅冒険者はそのための道案内と護衛にもなる。
俺はダンジョンのゲートの前に立ち、名前を聞いてリストにチェックしていく。
最初の十二人が入ったところで、順次他の冒険者たちも受付して中に通していく。
そこそこ時間がかかるが、ポータルが使える彼らなら遅くとも三十分あればつくだろう。
何よりみんな目が据わっている。普段のダンジョンアタックよりもやる気に満ちている。
時間に遅れることなどないだろう。
「最後は僕ですね。せっかくなんで一緒に行きましょう」
そう言われた通り最後はレンだった。
こいつも大量の得物をカートに積んでいる。
「仲間たちと一緒に行かなくてよかったのか?」
「せっかくのイベントなんですし今日は敵です。リーダーの威厳って奴を、あいつらに見せてやりますよ」
こいつもアブナイ。
みんなパーティー仲大丈夫なの?
「俺ともやりあうんじゃないのか?」
「それも楽しそうですが、みーちゃんがいる以上ゆーさんは無敵ですよ。誰も攻撃できない」
それはあるかもしれない。だがみーちゃんを仲間はずれにも出来ない。
ここは他の冒険者たちに涙をのんでもらおう。主催者権限だ。
冒険者たち以上にみーちゃんが楽しんでくれることが大事だ。




