第二十八話 託されたバトン
おはようございます。
二十七話までの感想をたくさんいただきました。ありがとうございます。
賛否いろいろありましたが、これからも手探りで書いていこうと思います。
八月に入り夏真っ盛りだ。
そんな暑い日の熱帯夜に、むさくるしい冒険者たちがダンジョン入り口に集結していた。
その数およそ200人。
むさくるしいとは言ったが、キレイどころの女性冒険者だってぼちぼちいる。
うちのみーちゃんだってかわいい。
皆大量の獲物を持って、今か今かとその時を待っている。
かくいう俺も、いつものカートに大量の獲物を積んで時間になるのを待っている。
何が始まるのかといえば・・
時間はさかのぼり、あの一件のすぐ後。
「豊。お前次のギルド会長な」
「は?」
食堂でみーちゃんと昼食をとっていたところ、龍二さんがいきなり現れた。
背後から俺の両肩を掴みそんなことを言ってきた。
「だからお前が次のギルド会長なんだよ」
「話が進まない!?」
龍二さんは脳筋系だと思っていたが、ここまでだったか。
同じ事しか言わないんじゃそれはもうボケて――
「お前今失礼なこと考えなかったか?」
「いえ、全く考えておりません」
危なく殴られるところだった。
ほっとしてる最中に龍二さんはみーちゃんに挨拶して、頭を撫でている。
ギルド会長というのは学校における生徒会長みたいなものだ。
冒険者の意見をまとめて高倉さんに提出したり、イベントを考えたり、何か雑用をやらされたり・・そんな感じだ。
「会長なら山さんがやってるじゃないですか」
「山さんは近々冒険者を引退するんだよ」
「あの人なら百歳になっても冒険者続けられそうですが・・」
山さんというのは現ギルド会長の山口 敏也さんだ。
御年五十九歳。
さすがに最前線組ではないが、地下15階より下で活躍するナイスガイだ。
別に定年がある仕事でもないし、続けたっていいだろうに。
「山さんは六十になったら青森の息子夫婦と一緒に住むそうだ。三歳の孫娘と遊びまわるんだとさ」
現役最年長で『ファースト』が一般開放された最初期からの生き字引。
多くの冒険者にとってのレジェンドなのだ。
テレビにも何度か出たことがある。プロフェッショナルがどうのとか、別の空がどうのとか・・
しかし生涯現役で行くと思ってたのに、素敵な老後計画じゃねぇか。青森が別の空か?
だがそれならそれで・・
「なんで後任が俺なんですか?」
今まで会長は山さんしか務めてなかったので初の世代交代だが、立候補とか推薦とか選挙とか買収工作とかしなくていいの?
俺のセールスポイントなんてみーちゃんがいるくらいだよ?
「もちろん理由はあるぞ。昨日、山さんとギルマスと俺とカトヤンで話し合ったんだよ」
昨日かよ。
ちなみにカトヤンというのは、加藤さんという龍二さんと同年代のベテランの冒険者だ。
「でだ。消去法で考えてな、俺ら世代は年齢が高すぎて却下だ。後が長くねぇ」
自虐すぎる。笑えねぇって。
あなたもきっと百歳くらいまでは現役で戦えるでしょ? 俺の方が引退早そうだもの。
「次に若すぎるのもだめだ。舐められる。さらには知名度がない奴も人を引っ張っていけない」
結構考えてるようだ。確かにまだ俺はその選択肢に残っている気はする。
さらに消去する項目があるのかな?
「知名度に似てくるが、男女問わずの人気や人望も必要だ。つまり纏めると、年齢は三十前後・多くの冒険者に知られている・人気や人望もある。その結果四人で思いついたのはお前かレンだ」
人気や人望があるかは疑問だが、そう評価してもらえるのは嬉しい。
では最後はどう決めたのか?
「その二人で暇そうなのがお前だから決まった」
「ケンカだコノヤロウ」
さすがに頭にきたが、みーちゃんに服を引っ張られてチョット冷静になった。
暇だからって・・
「いや言い方が悪かったがレンは最前線組の、さらにはパーティーリーダーだ。お前に懐いてよくつるんだりしてるが、ああ見えて忙しいんだ。それはわかるだろ?」
もちろんわかる。チームを纏めるのもそうだし、持っていく物資や仲間の体調管理、手に入れた素材の売却から配当の分配。もちろんパーティー内で担当者はいるだろうが、任せきりにしてそれらの動きを知っておかないと後で問題になる場合がある。
さらに最前線組は他のパーティーとの連携も必要で、飲みながらとはいえ他のパーティーリーダー達と作戦会議を行うものだ。
そんな忙しい中で俺のどうでもいい用事に付き合ってくれるのだ。
「それに比べりゃお前はな・・」
「言い方! わかるけど言い方!」
理解はしたさ。納得はしがたいが・・
俺だってこれからは地下10階のボス『メイジ・ウィーズル』討伐に向けて動いていくのに。
「もちろん基本的には冒険者稼業を優先でいいんだ。それが本来の仕事なんだからな。ただ余裕のある時だけでいいからギルドと冒険者の仲介になってやったり、相談に乗ってやったり、イベントを企画したりしてくれればいい」
俺だって断る気はないんだ。むしろ冒険者達に恩返しができるチャンスだと思うし。
ただ、もうちょい乗り気にさせてくれてもいいんじゃない?
「それとな。実は真っ先にお前の名前を出したのは山さんなんだよ」
「山さんが?」
「そうだ。山さんは冒険者たちを引っ張るのは、最前線組に限らないと思ってる。もちろん強さも必要だが、それ以上に精神的支柱になれる人間でないとダメだと言っていた」
「俺がそんな存在だと?」
「ああ。お前ならみんなを支えても折れない柱になれるってよ」
山さん・・買い被りすぎじゃない?
しかし俺も男だ。チョロいとも言われるかもしれないが、断る理由はなくなった。
「わかりました。やってみましょう」
元木さんとの会話で浩人のくだりを『最悪な事態が起きた』と表現したことが大げさだというご意見がいくつかありましたが、世界で年間一万人死んでいる中の一人だとしても、人の死というのは十分『最悪な事態』だと私は思います。
偉そうな意見で申し訳ありません。




