第二話 本城 豊
あれから14年。
ん? き〇まろ風になったな・・
本城 豊32歳。独身。
『ファースト』を地下5階まで到達。レベルは15。これは階層とレベル的には釣り合いが取れない。地下5階なら平均9くらいで突破できる。
なら俺が強いのか? 答えはもちろんNoだ。
単純に地下5階で足踏みしているだけだ。
地下5階にはボスがいる。通常ならパーティーを組んで倒し、先に進む。
俺はつまらないこだわりと意地で、ソロ攻略をしたいだけだ。
そしてそんな事に14年費やしてしまった。
この14年で冒険者の友人や仲のいい後輩もたくさんできた。
みんないい奴らで、俺のことを心配してくれて一緒に行こうと誘ってくれるが、俺は苦笑いをしつつ固辞している。
そんな俺は『ファースト』の冒険者たちには有名で一部では、
『地下5階の主はボスじゃなく本城だ』
とまで言われている。
これにだって苦笑いをするしかない。
なにも否定できないし、さりとて悔しくないわけもない。
ボス部屋には出入り自由だ。俺は何度もボスであるシロタイツ・マッチョに戦いを挑んでいる。
その名の通り全身白タイツで覆われたムキムキマッチョな人型の魔物だ。
隙あらばポージングしたり、のっぺらぼうなので声が出るわけではないが、高らかに『HA HA HA!』と笑っているような感じがする、リアルにいたら石でも投げてやりたい相手だ。
・・いや、まあリアルにいるんだけどね。
見た目通りの物理バカで、パーティー戦であれば盾役が引き付けている間に倒せるが、タイマンだときつい。
そもそもボスな為HPが高い。装備やレベルがあってもこっちは人間だ。素手の人間がタイマンでヒグマと戦うようなものだ。
誰かがボスと戦っている時は、部屋の扉は解放されている。加勢・逃走は自由だが、人数の変動があった場合はボスのHPが全快してしまう。
なので他の人が戦っている際は入室は禁止になっている。
そして俺が戦っているときは、ほとんど見世物状態だ。まあ、悪い意味ではないんだ。
みんな部屋のギリギリから俺の応援をしてくれてる。
昔からの友人たちや顔見知りは、俺が戦いを挑むときは可能な限り応援に来てくれる。
いよいよ無理となったら、ボス部屋を出て逃げる。ここのボスは去る者を追いはしないらしい。
場合によっては敗走時にケガを負っていたりもするが、そんな時友人たちは惜しげもなくポーションを飲めと差し出してくる。
そのおかげで今まで生きてこれた。
おそらくもう少し装備がいいかレベルが上がれば、討伐できるとは思う。
しかし地下5階ではもうほとんどレベルは上がらないし、この階で手に入る素材ではいい装備を揃えることができない。
鍛えているとはいえ、肉体的にも下り坂だろう。
俺の夢は冒険者になることが終着点ではない。
いまだ世界中どのダンジョンでも、完全踏破したものはいないのだ。
そしてそれこそが俺の究極の夢だが・・
もはやあきらめざるを得ないだろう。
あとは肉体の限界まで冒険者を続けるか・・見切りをつけて何とか就職先を探すかだろう。
そんなやるせない思いをしながら今日も地下5階で魔物を狩り、素材を集めていく。
俺は後輩たちには必ず、
『俺みたいにはなるなよ』
と、言ってやっている。
無理をせず、けれど無駄な足踏みなんかしないで、先に進んでほしい。
時間は取り戻せない。
『時は金なり』なんて言葉があるが、時間にはお金なんかと比べられないほどの価値がる。
若いうちには気付きにくいが、いずれわかる。どうかその時に後悔しないでくれ。
時計を見ると16時を少し回ったくらい。
帰りの移動時間を考えれば、今日の狩りはこんなものだろう。
俺は頭の中で念じ、ステータスウインドウを開く。
目の前には液晶の画面のようなものが開き、そこには俺のステータスがすべて表示される。
ここ一年くらい変わらない内容。思わずため息が出る。帰ろう。
地下6階までたどり着けば、地上へのワープポータルが使えるようになる。
だが俺にはまだ使えないので、徒歩で地上を目指す。
いつも荷物を載せて引っ張っている、自作のキャリーカート(オフロード仕様)を手に地上へ向かって歩き出した。
外に出る頃には18時になっていた。
俺はその足でギルドハウス『桜木亭』に向かい、素材の換金をしに行った。
「ゆーさん」
と、ハウス内に入ったところで誰かに声をかけられた。
親しい人間は俺のことを『ゆー』とか『ゆーさん』と呼んでくる。
声のほうに振り向くと、そこには二つ年下の友人がいた。




